今日の一曲!純情のアフィリア「起・承・転・結・序・破・急」 | A Flood of Music

今日の一曲!純情のアフィリア「起・承・転・結・序・破・急」

 令和の大改訂に加えて、リアルが多忙ゆえに更新頻度が下がっていてすみません。この状況はまだ暫く続きそうではありますが、前回の「今日の一曲!」冒頭でも述べた通り、新たな音楽レビューを投稿していない状態が二週間ほど経過すると顔を覗かせてくる使命感によって、閑話休題*的な更新をします。

 * 大改訂のほうを横道と見做しているので、この「閑話休題」は誤用ではありません。



 この状況下で選んだ一曲は、アイドルグループ・純情のアフィリアの22nd/現名義では3rdシングル曲「起・承・転・結・序・破・急」(2018)です。「I WANT TO GROW」とのダブルA面のうちの一曲。特集と銘打つほどではありませんが、直近の更新分がアイドルソングに傾倒しているのは確かなので、どうせならとこの路線で更新を重ねることにしました。

 同グループはカフェ&レストラン「アフィリアグループ」を出自とするボーカルユニットで、そのプロデューサーには志倉千代丸と桃井はるこの両名が据えられています。ブログテーマを「UNDER17・桃井はるこ」にしているのも、便宜上'は'このためです。桃井さんに関しては同テーマ内にある他の記事を、志倉さんについても過去記事で幾度か言及をしたことがあるので、それぞれブログ内検索を活用するなりして、僕が両名に対して抱いているアーティスト像を把握しておくと、本記事の内容もより理解しやすいかと思います。



 本曲「起・承・転・結・序・破・急」にはタイアップが付いていまして、ある意味ではその名を轟かせたTVアニメ『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』のED曲です。同アニメに対する言及は、【2018年のアニソンを振り返る】企画の第十七弾の中にもあり、そこでは同作のOP曲・ピュアリーモンスター「Secret Story」(2018)をピックアップしました。

 上掲記事内に「残念ながら僕は途中で切ってしまいました」とあるように、アニメは4話かそこらで視聴を止めてしまったため、作品の内容と絡めた詳細なレビューは出来ないことを予め断っておきます。しかし、同時に「主題歌は良さげだった記憶があった」とも記してある通り、音楽の質の面で切るには惜しいと感じていたのも事実なので、こうして単独記事を作ってまで大きく扱うことで、少しでもフォローになればと期する次第です。


 さて、先の桃井さんを紹介するくだりの中で、テーマ分類に関して「便宜上'は'このため」と引用符を付して態々対比を強調したのは、勿論他にも理由が存在するからにほかなりません。これは本曲の作詞を桃井さんが担っていることに起因しており、その内容の素晴らしさに「作詞者・桃井はるこ」としての才を改めて意識させられ、そこにフォーカスしたレビューにしたいと考えたゆえのテーマ設定なのでした。過去記事を例に出すと、奇しくも中黒で一文字ずつ区切られた曲名という共通項のある、UNDER17の「泳・げ・な・い」(2004)の歌詞が、桃井さんの手に成るものでは最も好みであるため、リンク先の内容も参考になるかと思います。

 ということで、以降の文章は殆ど本曲の歌詞の素晴らしさを力説する内容です。前もってキーとなる概念を挙げておきますと、「小説・ライトノベル」に纏わる表現や語彙の選択が非常に巧い点を高く評価しています。これはアニメの内容に由来していて、詳しくは公式サイトのあらすじなりをご覧いただきたいのですが、兄妹でラノベ作家の道を歩むことになるストーリーであるため、アニメ主題歌の歌詞として見ても、実に完成度の高い作品解釈が披露されていると言えるでしょう。


 まず曲名の「起・承・転・結・序・破・急」からして目を引き、文字通りつかみはばっちりの表題です。「起承転結」は説明不要として、元々は雅楽の用語である「序破急」も、転じて文章構成について言うようになったことは、割と認知されている用法だと理解しています。ちなみに僕はこの言葉を、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』のナンバリングを示す「序・破・Q」で知りました。笑

 次に巧いと感じたのは、小説のジャンルやスタイルの名前を取り入れたフレーズ群です。"書きはじめなくっちゃ/初恋の私小説"や、"はじめて綴るジュヴナイル"、"デートはショートショート"に、"嘘つき上手なファンタジー"と、各ジャンルの特性を活かして恋愛模様に落とし込んでいる点は、小説宛らの見事な比喩表現であると絶賛します。他にも、"唯一の読者は、あなた"、"棚に差さる作者の想いは宇宙だね"、"活字が躍りだした ひろがった"など、ライティングに係る形容の使い方が鮮やかです。

 中でもいちばん気に入っているのは、"今の自分にしか書けない綴れない瞬間/密かに 素直に/あなたへのdedication"で、素直に「献身」と解しても意味は通る中で、おそらく「献辞」を念頭に置いたのであろう'dedication'というワードチョイスに、教養が感じられて好みでした。


 このような技法的なことを抜きにしても、特にサビの歌詞は文学性が高く愛おしいです。1番の"起・承・転・結・序・破・急/この恋を紡ぐセオリー/呟くように 日記のように/言葉が、溢れて"も、2番の"起・承・転・結・序・破・急/デートはショートショート/水のような 空気のような/その声、効かせて"も、「活字から伝って来るリアルよりリアルな感覚」が、シンプルな言葉繰りで上手に切り取られていて流石です。

 本記事のような音楽レビューもその一種ですが、聴覚を含む五感で得た情報を文字にするというのは困難を伴う作業で、どうしても比喩に頼る場面が多くなってしまいます。上掲のフレーズにも直喩が見られ、とりわけ実態を掴むのが難しい「恋心」を表すために、言葉が尽くされているとわかるところが、なお一層の愛おしさとなって響いて来ます。


 この流れを受けて、最後に非言語的な要素たる作編曲面を語るとしましょう。本曲の美点は何も歌詞ばかりではなく、メロディラインが抱くどうしようもないほどの切なさも、ポップなアレンジに潜むエモい音遣いも、それぞれが相互補完的な魅力を放っています。作曲者は野村勇輔さん、編曲者は悠木真一さん。

 メロディに対しては、やはり表題の"起・承・転・結・序・破・急"の部分を称賛したいです。言葉と旋律の結び付きが完璧と言いましょうか、或いは譜割りに隙が無いと言い換えてもいいかもしれませんが、前半のラインでは「起承転結」の感が、後半のラインでは「序破急」の感が、しっかりと作曲面にも反映されているように聴こえます。"起・承・転・結"は、"結"だけモーラ数が多く(=[けーつ]と長音が入り)、それが音素的な区切りとなって、きちんと「結び」の感じが出ていますし、反対に"序・破・急"は、"序"と"破"のモーラの持続時間を比較すると、後者のほうが気持ち短く感じられ(=[じょー|はー|きゅう]と等価でもいいところ、実際には[じょー|はきゅう]と二分に聴こえ)、こちらも爽快な読了感につながる点では、まさに「破急」に相当する譜割りであると主張したいです。

 恋愛事情にというかラブコメに絡めた解釈をするのであれば、登場人物が多く風雲急を告げる展開も間々ある複雑な恋模様に於いて、「終わったと思っていたら終わっていなかった」的などんでん返しの意味合いで、"起・承・転・結・序・破・急"と併記されているのではないかと考えます。この感覚が、メロディラインの緩急にも表れていると言いたいのでした。


 アレンジに対しては、ダンサブルなビートメイキングによるあくまでもポップなアウトプットの背後に、切なさを加速させるような;前述した言葉を借りれば「エモい」音遣いが鏤められているところが、アイドルソングもしくはアニソンの枠を超えた素敵さだと評します。

 イントロからセクション毎に異なるメロディアスなフレージングを披露しているピアノは、伴奏に甘んじない「もう一つのメインメロディ」たる情報量の多さを持っていますし、イントロ~1番では補助的な使用に止められていたギターは、1番後の間奏でリフとして表に、2番後の間奏で満を持してソロで前面に出て来て、この段階的に主張が強められていくところも、「切なさの畳み掛け」に寄与していると言えるため、両楽器の感情豊かな面を上手に抽出して甘酸っぱさを演出しているなと、その技巧性に感心するばかりです。