今日の一曲!パスピエ「うちあげ花火」【平成23年の楽曲】
【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第二十三弾です。【追記ここまで】
平成23年分の「今日の一曲!」はパスピエの「うちあげ花火」(2011)です。1stアルバム『わたし開花したわ』収録曲。
同盤の楽曲を取り上げるのは三度目で、過去には「夕焼けは命の海」と「あきの日」にフォーカスした記事をアップしています。前者にはアルバム自体への言及もあるので、前置き的なことはそちらに任せるとして、早速本曲のレビューへと参りましょう。
序盤はジリジリとした音色のギターとクールに響くシンセという、相反する性質のサウンドが絡み合ってスピーディーに展開していきます。歌詞に照らせば「焦燥感」と形容したい音作りです。この立ち上がりは「夏」と「逸る気持ち」の双方を巧く切り取った見事なものであると絶賛します。なぜなら、曲名の「うちあげ花火」を取っ掛かりにはしているものの、音だけでも描写の秀逸さが際立っていると思えたからです。
夏を映す情景的なものとしては、陽が沈んでも未だ残る暑さをギターが、とはいえ幾分は和んで時たま涼しさも感じさせる夜風をシンセが、それぞれ表現していると感じられました。窺える疾走感に関しては、両者共にリフがダンサブルであることも理由のひとつですが、祭囃子を彷彿させる細やかなドラムスの功績も大きいと見ています。これもまた夏らしいサウンドスケープです。
一方で、後述する歌詞の内容も考慮に入れると、心理的な面での調和も浮かび上がってきます。"あたし"が内に秘めし"君"への想いと、それを伝るべく行動に移そうとする決心。これは熱い気持ちを冷静な頭で処理することで、導き出されるひとつの解だと考えられます。つまり、ここまでに「ジリジリ vs クール」或いは「暑さ vs 涼しさ」で対比させた音作りには、告白前の心の機微も反映されているとの理解をしているわけです。各人の経験に委ねるずるさを承知で述べますと、自ら告白をしたことがある方ならば、この火照りと落ち着きの同居に共感をしていただけるのではないでしょうか。
さて、サウンドの解釈からレビューを始めておいてなんですが、実は僕が本曲で最も評価しているのは歌詞の素敵さです。文章量としてはそう多くないため、結果的にほぼ全文を引用することになってしまい恐縮ですが、省けるセンテンスがないので通時的に見ていきますね。
冒頭の一節は、"ねえねえ、教えて 8月3日の天気教えて 知りたいの"。特定の日付の天気を知りたがるという意味深な書き出しは、導入として優秀だと思いました。その答えはすぐに示され、"でたらめだらけ 夏休みだらけてて まとめて書いた日記嘘だらけ"と、夏休みの宿題あるあるだとわかる仕掛けになっています。ここは韻の踏み方が鮮やかであるのも好みのポイントです。
続く"ねえねえ、聞いて 今日の日記を書いたの聞いて 言いたいの/でたらめだけど だけど ひとつぐらいは本当にしておきたいの"は、前述した決心のシークエンスとなります。嘘塗れの中で唯一の真実が"君"であるならば、確かにこれ以上幸せなことはありませんね。
サビで一気に思い出に足るシーンへとジャンプします。"うちあげ花火が上がったら 君の横顔照らして/あたしだけひとり違う向きで/君を見ていた"。ベタですが、キュンとくる描き方で大好物です。最近だとアニメ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の最終話がまさにこんな感じで、作風に一昔前の恋愛ドラマっぽさがあったことも相俟って、当該のシーンでは僕の脳内で本曲が鳴り響いていました(演出上BGMがなかったので余計に)。笑
ここぞという時にかかるラブロマンスの主題歌には、得も言われぬ煌めき感が宿っているとの理解ですが、本曲もサビ後間奏のキーボードがとりわけグリッターなサウンドを奏でているおかげか、花火の華麗さと恋心の尊さが綯い交ぜになって乱反射しているようなビジョンが浮かびます。
この輝きは次第に鈍くなっていき、序盤でクールに響いていたシンセが帰ってくる楽想に。ブリッジにあたるセクションですが、ここは歌詞内容も含めてやや毛色が異なる印象です。"うたた寝している青いTシャツ 真夏の午後の静かなグラデーション/なぜかしら泣きたくなる 意味はないけど"。ここで描かれている時間軸は、おそらく花火の場面より前だと思います。歌詞中から抜き出せば、"夏休みだらけてて"のワンシーンであると捉えたのですが、これを加味するとサビの歌詞は夢での出来事だったのではとも取れますよね。
"ひとつぐらいは本当にしておきたいの"と願って、すぐ"君"の隣を確保出来ているのは、少しご都合主義かなと感じる側面もあったため、寧ろ想像や妄想だと言われたほうが収まりが良い気もするほどです。勿論、元々両想いだったり脈ありだったりして、勇気を出したら意外とすんなり行けたというパターンも、特に否定する必要はないとフォローしておきます。
そしてラスサビへ。"うちあげ花火が終わったら 君の横顔見られない/最後の花火のその前に/君に伝えたいのさ"。告白へのリミットが近付いていることが示されます。歌詞としてはここでおしまいなので、その後どうなったのかは各自で補完するしかありませんが、素直に伝えたのだろうと読み解きたいですね。ここでの細かいツボを挙げると、"君に伝えたい"をかなり引っ張った後に"のさ"がくるところが地味にお気に入りです。
アウトロでは、ベル系の音がなぞっているラインがポップである点と、ベースの主張が強まってメロディアスにプレイされる点に、それぞれ心地好さを見出しています。
最後はエピソードトークによる補強、もとい蛇足の自分語りです。花火大会というか夏祭りに告白するというベタなことは、小学校高学年の頃に一度だけやってしまったことがあります。ちなみにそれは撃沈で終わりました。雰囲気にあてられた蛮勇だったのでしょう。
後の人生ではデートで花火大会に赴いたことも人並みにありますが、既に付き合い始めてからという状況が多かったので、一緒に空を見上げることに重きが置かれているからか、打ち上げ中に横顔に見惚れた経験はなかったように記憶しています。ちらと横目で見て、いいなと思った程度でいいならありますけどね。先の『かぐや様』の例もそうですが、本曲のような没入する状況が美しく映えるのは、やはり思いを告げる前なのだろうと改めて感じました。
平成23年分の「今日の一曲!」はパスピエの「うちあげ花火」(2011)です。1stアルバム『わたし開花したわ』収録曲。
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同盤の楽曲を取り上げるのは三度目で、過去には「夕焼けは命の海」と「あきの日」にフォーカスした記事をアップしています。前者にはアルバム自体への言及もあるので、前置き的なことはそちらに任せるとして、早速本曲のレビューへと参りましょう。
序盤はジリジリとした音色のギターとクールに響くシンセという、相反する性質のサウンドが絡み合ってスピーディーに展開していきます。歌詞に照らせば「焦燥感」と形容したい音作りです。この立ち上がりは「夏」と「逸る気持ち」の双方を巧く切り取った見事なものであると絶賛します。なぜなら、曲名の「うちあげ花火」を取っ掛かりにはしているものの、音だけでも描写の秀逸さが際立っていると思えたからです。
夏を映す情景的なものとしては、陽が沈んでも未だ残る暑さをギターが、とはいえ幾分は和んで時たま涼しさも感じさせる夜風をシンセが、それぞれ表現していると感じられました。窺える疾走感に関しては、両者共にリフがダンサブルであることも理由のひとつですが、祭囃子を彷彿させる細やかなドラムスの功績も大きいと見ています。これもまた夏らしいサウンドスケープです。
一方で、後述する歌詞の内容も考慮に入れると、心理的な面での調和も浮かび上がってきます。"あたし"が内に秘めし"君"への想いと、それを伝るべく行動に移そうとする決心。これは熱い気持ちを冷静な頭で処理することで、導き出されるひとつの解だと考えられます。つまり、ここまでに「ジリジリ vs クール」或いは「暑さ vs 涼しさ」で対比させた音作りには、告白前の心の機微も反映されているとの理解をしているわけです。各人の経験に委ねるずるさを承知で述べますと、自ら告白をしたことがある方ならば、この火照りと落ち着きの同居に共感をしていただけるのではないでしょうか。
さて、サウンドの解釈からレビューを始めておいてなんですが、実は僕が本曲で最も評価しているのは歌詞の素敵さです。文章量としてはそう多くないため、結果的にほぼ全文を引用することになってしまい恐縮ですが、省けるセンテンスがないので通時的に見ていきますね。
冒頭の一節は、"ねえねえ、教えて 8月3日の天気教えて 知りたいの"。特定の日付の天気を知りたがるという意味深な書き出しは、導入として優秀だと思いました。その答えはすぐに示され、"でたらめだらけ 夏休みだらけてて まとめて書いた日記嘘だらけ"と、夏休みの宿題あるあるだとわかる仕掛けになっています。ここは韻の踏み方が鮮やかであるのも好みのポイントです。
続く"ねえねえ、聞いて 今日の日記を書いたの聞いて 言いたいの/でたらめだけど だけど ひとつぐらいは本当にしておきたいの"は、前述した決心のシークエンスとなります。嘘塗れの中で唯一の真実が"君"であるならば、確かにこれ以上幸せなことはありませんね。
サビで一気に思い出に足るシーンへとジャンプします。"うちあげ花火が上がったら 君の横顔照らして/あたしだけひとり違う向きで/君を見ていた"。ベタですが、キュンとくる描き方で大好物です。最近だとアニメ『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』の最終話がまさにこんな感じで、作風に一昔前の恋愛ドラマっぽさがあったことも相俟って、当該のシーンでは僕の脳内で本曲が鳴り響いていました(演出上BGMがなかったので余計に)。笑
ここぞという時にかかるラブロマンスの主題歌には、得も言われぬ煌めき感が宿っているとの理解ですが、本曲もサビ後間奏のキーボードがとりわけグリッターなサウンドを奏でているおかげか、花火の華麗さと恋心の尊さが綯い交ぜになって乱反射しているようなビジョンが浮かびます。
この輝きは次第に鈍くなっていき、序盤でクールに響いていたシンセが帰ってくる楽想に。ブリッジにあたるセクションですが、ここは歌詞内容も含めてやや毛色が異なる印象です。"うたた寝している青いTシャツ 真夏の午後の静かなグラデーション/なぜかしら泣きたくなる 意味はないけど"。ここで描かれている時間軸は、おそらく花火の場面より前だと思います。歌詞中から抜き出せば、"夏休みだらけてて"のワンシーンであると捉えたのですが、これを加味するとサビの歌詞は夢での出来事だったのではとも取れますよね。
"ひとつぐらいは本当にしておきたいの"と願って、すぐ"君"の隣を確保出来ているのは、少しご都合主義かなと感じる側面もあったため、寧ろ想像や妄想だと言われたほうが収まりが良い気もするほどです。勿論、元々両想いだったり脈ありだったりして、勇気を出したら意外とすんなり行けたというパターンも、特に否定する必要はないとフォローしておきます。
そしてラスサビへ。"うちあげ花火が終わったら 君の横顔見られない/最後の花火のその前に/君に伝えたいのさ"。告白へのリミットが近付いていることが示されます。歌詞としてはここでおしまいなので、その後どうなったのかは各自で補完するしかありませんが、素直に伝えたのだろうと読み解きたいですね。ここでの細かいツボを挙げると、"君に伝えたい"をかなり引っ張った後に"のさ"がくるところが地味にお気に入りです。
アウトロでは、ベル系の音がなぞっているラインがポップである点と、ベースの主張が強まってメロディアスにプレイされる点に、それぞれ心地好さを見出しています。
最後はエピソードトークによる補強、もとい蛇足の自分語りです。花火大会というか夏祭りに告白するというベタなことは、小学校高学年の頃に一度だけやってしまったことがあります。ちなみにそれは撃沈で終わりました。雰囲気にあてられた蛮勇だったのでしょう。
後の人生ではデートで花火大会に赴いたことも人並みにありますが、既に付き合い始めてからという状況が多かったので、一緒に空を見上げることに重きが置かれているからか、打ち上げ中に横顔に見惚れた経験はなかったように記憶しています。ちらと横目で見て、いいなと思った程度でいいならありますけどね。先の『かぐや様』の例もそうですが、本曲のような没入する状況が美しく映えるのは、やはり思いを告げる前なのだろうと改めて感じました。