今日の一曲!APOGEE「ゴースト・ソング」【平成18年の楽曲】 | A Flood of Music

今日の一曲!APOGEE「ゴースト・ソング」【平成18年の楽曲】

 【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:平成の楽曲を振り返る】の第十八弾です。【追記ここまで】

 平成18年分の「今日の一曲!」はAPOGEEの「ゴースト・ソング」(2006)*です。2ndシングル曲で、1stアルバム『Fantastic』(2006)にも収録されています。

 * 本記事執筆時点での公式サイトのディスコグラフィーでは、同シングルから『アヒル』(2007)までのリリース年の表示が、なぜか1年ずれているので注意してください。現状ではWikipediaのほうが正確です。



 当ブログでアポジーの音楽を取り上げるのは、去年の10月にアップした「今日の一曲!」以来となります。そこにも記してある通り、今年の3月に行われたライブを最後に、ベースの内垣さんがバンドから脱退してしまいました。従って、それ以降では初の更新分となる今回は、うっちーのプレイが光るナンバーにフォーカスしようと思い立った次第です。上掲記事の冒頭に詳しく書いてありますが、同曲は僕が音源として初めてふれたアポジーの音楽であったため、思い入れも深いと言えます。

 この動機に対する打って付けが「ゴースト・ソング」であることに、異論を唱える方は少ないでしょう。最初の一音だけでも、本曲のベースの格好良さを理解するのには充分であると、強気の主張を展開します。幕開けから要所要所に登場する、このベースリフに痺れなきゃ嘘だぜ、と。


 多くを語るのは不要、もはやこれだけでレビューを終えてもいいくらいの心持ちですが、さすがにボリューム不足なのでもう少し掘り下げます。アポジーは全員がハイスキルの持ち主であるため、動静のメリハリが完璧な間野さんのドラムスも、的確にリズムを刻んでいる永野さんのギターも勿論素敵です。…が、楽曲のコンセプトに寄り添ったサウンドという意味では、大城さん(或いはサポメンの森さん)のシンセが最も論功行賞ものであると考えています。

 2回目のAメロ裏と、2番後の間奏部がわかりやすいですが、物凄く幽霊っぽい音が奏でられていますよね。その類の映画なりゲームなりに使われているBGMもしくはSEといった感じの、慣用句ではなく文字通り地に足が着いていないフローティングな趣が素敵です。

 幽霊に関する擬態語では「ヒュードロドロ」が有名かと思いますが、調べたところこれは笛と太鼓の音を基にしているそうで、本曲でも2番後間奏の特に3:16~3:24では、笛の役割を浮遊感のあるシンセが、太鼓の役割を雷鳴のようなリズム隊がそれぞれ担っていると解釈出来るので、聴かせ方によっては随分とお洒落になるんだなと感心しました。


 曲名は横文字ですし、日本語のオノマトペを例にとったとはいえ、サウンド自体に和の要素があるわけではなく、先述の映画ないしゲームもどちらかと言えば海外のものを想定していたのですが、それでも「ヒュードロドロ」が似合うと受け取れるのは、ひとえに歌詞の文学性の高さのおかげだと踏んでいます。

 中でもサビの歌詞が素晴らしく、1番の"雨に紅花 爪を立てて 赤に濡れた/闇に夕顔 頬を撫でて 白く浮かんだ"も、2番の"過去は押し花 舌を打って 黒に燃えた/現在は切り花 息をのんで 青に沈んだ"も、対句の冴え渡りと色彩感覚の鮮やかさに目を見張る、出色の出来栄えであると大絶賛です。ラスサビでテンスが変わるところも技巧的で(e.g. "爪を立てて 赤に濡れた" → "爪を立てる 赤に濡れる")、先の"過去"と"現在"に対応している点が凝っています。

 旋律の変化にもはっとさせられるものがあり、2番Aの"あなたがオレを忘れる"での情動的な変貌と、ラスサビ後半での変則的なメロディ展開には、どちらも「ふれられない」という悲哀が滲んでいる風に聴こえ、この切なさはまさに「ゴースト」だなと感じました。永野さんの歌声(とコーラス隊)から来る質感の使い分けもまた、この向きを一層強めていると分析します。


 最後に今回レビューするにあたって新たに気が付いたことを載せますと、おそらくジャケット写真に対するものだと推測しますが、'thanks to'に「社団法人日本トランポリン協会」の名前がクレジットされていて、へぇ~と思いました。笑


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