今日の一曲!ねごと「シグナル」
【追記:2021.1.5】 本記事は「今日の一曲!」【テーマ:雨】の第十二弾です。【追記ここまで】
「今日の一曲!」はねごとの「シグナル」(2017)です。4thフルアルバム『ETERNALBEAT』収録曲。
ねごとの記事はテーマ「春」で「今日の一曲!」を書いていた際に、トップバッターとして「DANCER IN THE HANABIRA」(2017)を紹介して以来です。詳しくはリンク先をご覧になっていただきたいのですが、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんを共同制作者に迎えてから一層好きになったバンドで、今回紹介する楽曲も中野さんが編曲に携わったものとなっています。
中野さんが参加しているというだけあって、BBSっぽいアレンジの曲だなと感じたというのが初聴時の印象です。BBSのアルバムで言えば、『ON』(2006)もしくは『EXPOSED』(2007)あたりで顕著だったサウンド。
とはいえ、そう思ったのは主にイントロからBメロにかけてで、サビに突入すると一気にねごとっぽさが出てくるというか、ガールズバンドらしい様式美が顔を出す点を評価しています。和風あるいは童謡風の旋律とでも言いましょうか、"ぽつりぽつり降り出した/雨は世界の音を消して"のメロには何処か懐かしさを覚えましたし、ここのコード感は女性が得意とする類のものだと個人的には得心のいく展開です。
楽想もプログレッシブで、1番サビの後は次々とメロディが変わっていき(最も細分化すればEメロまで進む?)、短いBを挟んで再びサビに戻って終わるという流れであるため、楽曲全体として見ればむしろ中野さんらしさは一部に過ぎないと言えます。即ち、ねごとのオリジナリティを評価せずに好きになったわけではないというフォローです。BBSのファンではありますが、ねごと単体でも好きなので、誤解がないように表明しておきたかった。
以降は全て歌詞解釈パートとなります。我ながら非常にややこしいと反省するほどに込み入った内容となってしまったので、論理的な整合性が取れていない箇所もあるかもしれませんが、どうか生暖かい目でご覧になっていただけると幸いです。深読みのし過ぎで、シンプルなことを敢えてややこしく考えているだけかもという自虐も込めて。
ちなみに昨日で連日更新が途切れたのも、これの執筆に時間が掛かってしまったせいです。午前0時を回ってしまったためアップは控えましたが、寝る前には書き切ったので平日朝の更新と相成りました。
「シグナル」という曲名からは連想しにくいですが、歌詞に於いては"雨"が重要なモチーフというか、メタファーの役割を果たしていると言えます。「何の?」と問われると明確な答えを提示しづらいのですが、ともかくこの点を中心とした読解から話を進めていきましょう。
まずは"雨"に纏わるフレーズを目通し。"予報外れの雨が降って/あなたの熱を冷ます"や、"雨は世界の音を消して/きらりきらり煌めいた/景色もそっと鎮めてしまう"などの表現を考慮すると、この"雨"は「クールダウンの役割を果たすもの」であるとわかります。ポジティブに捉えれば冷静さを取り戻すといったような解釈も出来ますが、本曲に於いてはそれを良しとしないネガティブな意味合いのほうが正解に思え、そのことは"耳鳴りのように/やまない雨音/心は流れて/形を失くしてゆく"という歌詞からも裏付けられるのではないでしょうか。
ただ、この理解はまだ表層レベルのものであるため、最終的な結論を書いたわけではないことに留意してください。この点は記事の最後に改めて言及します。
次に肝心の"シグナル"ですが、これの解釈が難しいです。多義語的な性質を持った語なので、そもそも「この"シグナル"とは何か?」という問題もありますが、ここではひとまず「信号機」のことだと理解し、以降はこの前提に基いて解釈を続けていきます。"先へ進めなくなるの"や、"シグナルは変わってゆく"などのフレーズもありますし、ポピュラーな解釈だと思いたい。ただし、他の語義を連想させる用法がある場合には、その都度言及します。
個人的に難しいと思うのは、「"雨"と"シグナル"を結びつけて考えるべきか」という点です。冒頭の"雨"と"熱"の対比を含んだ一節がわかりやすいですが、これを色彩感覚に照らすと「青と赤の対比」になっているとも言えますよね。僕は最初、この状態変化を青と赤の両面を持つ信号機に喩えることで、両者を関連付けて納得していました。
しかしどうにもややこしいのが、"いつのときも始まりは/青く青く美しいもの/先へ進めなくなるの/シグナルが滲んでゆく"という歌詞です。内容が意味深というか不思議じゃありませんか?"始まりは/青く青く美しい"と評価しておきながら、"先へ進めなくなる"という結論になることがちょっとひっかかりました。「初心」或いは「リスタート」的な意味合いで"始まり"を祝福しているのかと思いきや、それだけではない含みを感じさせます。このことに合理的な説明を求めるならば、「始まりの青さ=美しさに囚われているから」といった理由付けが必要になるのではないでしょうか。
実際、本曲の主人公は先に進むことを躊躇っている節があります。それは"知らず知らず進んでゆくの/いつか終わってしまうことも"、"背伸びしたって今以上なんて望まないんです"、"続けてゆくことだけが/ひとつひとつ傷を増やすの"などの歌詞から読み取ることが出来ます。そのくせ、"どこか遠くへ行きたいのに"や、"あなたに届いて/どうか遠くまで"と、自分の存在を知ってほしい願望(この場合の"シグナル"は「電波信号」?)はあるようです。
このちぐはぐさは別に矛盾というわけではなく、有り体に言えば「理想と現実の狭間で揺れ動いているから」こその産物だと思います。更に言うと、「理想にも本音と建前がある」せいで余計にこじれているのだと解釈しました。なるべくシンプルに整理すると次の通りです。
理想(本音):先に進みたい
理想(建前):始まりに止まっていたい
現実 :先に進むしかない
もしかしたら本音と建前が逆かもしれませんが、そうであったら単に理想と現実に差があるというだけのよくある話になってしまうので、敢えて捻くれた見方をしてみました。要するに「本音と現実が実は一致を見せているのに、建前の存在のせいでそれに気付けていない状態」ではないかということです。
ここまで解釈したところで、いよいよ「"雨"と"シグナル"の関連付け」が問題になってきます。「青と赤の対比」という概念を持ち出してまで両者を結び付けていたわけですが、ここまでの記述の大半は仮に"シグナル"だけだったとしても成立する内容であるため、"雨"の意味合いが薄い考察となっているのも事実です。
そこでもう一度先述のクールダウンのくだりに戻ってほしいのですが、ここまでの話を踏まえた上で再度"雨"を含むフレーズの意味を考えていきたいと思います。それでようやく「理解はまだ表層レベル」から脱却出来るとの認識です。
といっても訂正したい点はひとつだけで、「本曲に於いてはそれを良しとしないネガティブな意味合いのほうが正解」という文言を、より正確にしていくことを目的とします。この場合の「それ」とは"雨"がクールダウンの役割を果たしていることを指していたわけですが、これを良しとしないのは上掲の三区分に従えば「理想(本音)」の解釈です。"あなたの熱"や"きらりきらり煌めいた/景色"というのを、言わば「進もうとする原動力」(この場合の"シグナル"は「動機」?)と捉え、これらを奪おうとする"雨"は難儀なものであると位置付けるスタイル。
しかし同時に「始まりに止まっていたい」という「理想(建前)」も存在するため、必ずしも"雨"がネガティブな要因になっているとは言い切れず、むしろ先述のように「冷静さを取り戻す」といった類のポジティブなものだとして消化することも出来るのではないでしょうか。"どこか遠くへ行きたいのに 今は/新しいシャツが濡れて重い"は、この二面性を巧く表現しているのだと思います。「"濡れて重い"がポジティブ要素なの?」と疑問に思った方もおられるでしょうが、この場合は「先に進まないことの尤もらしい理由付け」だと考え、自身の正当性を主張しているとの解釈です。こう認識出来るのも、冷静になっているがゆえかなと。
…と、このように"雨"に纏わる表現と"シグナル"という語が持つ多義語的側面を重ね合わせて読み解くことが出来るため、結論としては「"雨"と"シグナル"を関連付けるだけの根拠がある」と主張します。メタファーの話に帰結させるのであれば、本曲の"雨"は「"シグナル"を変えるもの」であり、実際に信号を切り替えるのはプログラムであるとはいえ、本質的には「時間の経過が"シグナル"を変えている」とも表せるため、即ち"雨"は"過行く時間"の暗示だということになるでしょう。ご存知の通り時間は不可逆ですから、これはどうしようもない「現実」の話だとまとめることが出来ます。
「先に進むしかない」ことの残酷さは、"到底 意味のないこと/きっと知っているのに"から続く歌詞と、継続こそが傷を増やす原因であることに対して、"誰より知っていたって/シグナルは変わってゆく"と達観したようなフレーズでもって返すことで、過不足なく描き出せているのではないでしょうか。
あれこれ内容を深堀りしたところで、所詮「理想」は心の内の話です。その場に止まりたくとも前に進むしかない場合も多々ありますし、その逆も然りというのが「現実」であるため、結局のところそれに抗う術はないというのが、本曲の無常観の根幹を支えているのだと結びます。
「今日の一曲!」はねごとの「シグナル」(2017)です。4thフルアルバム『ETERNALBEAT』収録曲。
ねごとの記事はテーマ「春」で「今日の一曲!」を書いていた際に、トップバッターとして「DANCER IN THE HANABIRA」(2017)を紹介して以来です。詳しくはリンク先をご覧になっていただきたいのですが、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之さんを共同制作者に迎えてから一層好きになったバンドで、今回紹介する楽曲も中野さんが編曲に携わったものとなっています。
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中野さんが参加しているというだけあって、BBSっぽいアレンジの曲だなと感じたというのが初聴時の印象です。BBSのアルバムで言えば、『ON』(2006)もしくは『EXPOSED』(2007)あたりで顕著だったサウンド。
とはいえ、そう思ったのは主にイントロからBメロにかけてで、サビに突入すると一気にねごとっぽさが出てくるというか、ガールズバンドらしい様式美が顔を出す点を評価しています。和風あるいは童謡風の旋律とでも言いましょうか、"ぽつりぽつり降り出した/雨は世界の音を消して"のメロには何処か懐かしさを覚えましたし、ここのコード感は女性が得意とする類のものだと個人的には得心のいく展開です。
楽想もプログレッシブで、1番サビの後は次々とメロディが変わっていき(最も細分化すればEメロまで進む?)、短いBを挟んで再びサビに戻って終わるという流れであるため、楽曲全体として見ればむしろ中野さんらしさは一部に過ぎないと言えます。即ち、ねごとのオリジナリティを評価せずに好きになったわけではないというフォローです。BBSのファンではありますが、ねごと単体でも好きなので、誤解がないように表明しておきたかった。
以降は全て歌詞解釈パートとなります。我ながら非常にややこしいと反省するほどに込み入った内容となってしまったので、論理的な整合性が取れていない箇所もあるかもしれませんが、どうか生暖かい目でご覧になっていただけると幸いです。深読みのし過ぎで、シンプルなことを敢えてややこしく考えているだけかもという自虐も込めて。
ちなみに昨日で連日更新が途切れたのも、これの執筆に時間が掛かってしまったせいです。午前0時を回ってしまったためアップは控えましたが、寝る前には書き切ったので平日朝の更新と相成りました。
「シグナル」という曲名からは連想しにくいですが、歌詞に於いては"雨"が重要なモチーフというか、メタファーの役割を果たしていると言えます。「何の?」と問われると明確な答えを提示しづらいのですが、ともかくこの点を中心とした読解から話を進めていきましょう。
まずは"雨"に纏わるフレーズを目通し。"予報外れの雨が降って/あなたの熱を冷ます"や、"雨は世界の音を消して/きらりきらり煌めいた/景色もそっと鎮めてしまう"などの表現を考慮すると、この"雨"は「クールダウンの役割を果たすもの」であるとわかります。ポジティブに捉えれば冷静さを取り戻すといったような解釈も出来ますが、本曲に於いてはそれを良しとしないネガティブな意味合いのほうが正解に思え、そのことは"耳鳴りのように/やまない雨音/心は流れて/形を失くしてゆく"という歌詞からも裏付けられるのではないでしょうか。
ただ、この理解はまだ表層レベルのものであるため、最終的な結論を書いたわけではないことに留意してください。この点は記事の最後に改めて言及します。
次に肝心の"シグナル"ですが、これの解釈が難しいです。多義語的な性質を持った語なので、そもそも「この"シグナル"とは何か?」という問題もありますが、ここではひとまず「信号機」のことだと理解し、以降はこの前提に基いて解釈を続けていきます。"先へ進めなくなるの"や、"シグナルは変わってゆく"などのフレーズもありますし、ポピュラーな解釈だと思いたい。ただし、他の語義を連想させる用法がある場合には、その都度言及します。
個人的に難しいと思うのは、「"雨"と"シグナル"を結びつけて考えるべきか」という点です。冒頭の"雨"と"熱"の対比を含んだ一節がわかりやすいですが、これを色彩感覚に照らすと「青と赤の対比」になっているとも言えますよね。僕は最初、この状態変化を青と赤の両面を持つ信号機に喩えることで、両者を関連付けて納得していました。
しかしどうにもややこしいのが、"いつのときも始まりは/青く青く美しいもの/先へ進めなくなるの/シグナルが滲んでゆく"という歌詞です。内容が意味深というか不思議じゃありませんか?"始まりは/青く青く美しい"と評価しておきながら、"先へ進めなくなる"という結論になることがちょっとひっかかりました。「初心」或いは「リスタート」的な意味合いで"始まり"を祝福しているのかと思いきや、それだけではない含みを感じさせます。このことに合理的な説明を求めるならば、「始まりの青さ=美しさに囚われているから」といった理由付けが必要になるのではないでしょうか。
実際、本曲の主人公は先に進むことを躊躇っている節があります。それは"知らず知らず進んでゆくの/いつか終わってしまうことも"、"背伸びしたって今以上なんて望まないんです"、"続けてゆくことだけが/ひとつひとつ傷を増やすの"などの歌詞から読み取ることが出来ます。そのくせ、"どこか遠くへ行きたいのに"や、"あなたに届いて/どうか遠くまで"と、自分の存在を知ってほしい願望(この場合の"シグナル"は「電波信号」?)はあるようです。
このちぐはぐさは別に矛盾というわけではなく、有り体に言えば「理想と現実の狭間で揺れ動いているから」こその産物だと思います。更に言うと、「理想にも本音と建前がある」せいで余計にこじれているのだと解釈しました。なるべくシンプルに整理すると次の通りです。
理想(本音):先に進みたい
理想(建前):始まりに止まっていたい
現実 :先に進むしかない
もしかしたら本音と建前が逆かもしれませんが、そうであったら単に理想と現実に差があるというだけのよくある話になってしまうので、敢えて捻くれた見方をしてみました。要するに「本音と現実が実は一致を見せているのに、建前の存在のせいでそれに気付けていない状態」ではないかということです。
ここまで解釈したところで、いよいよ「"雨"と"シグナル"の関連付け」が問題になってきます。「青と赤の対比」という概念を持ち出してまで両者を結び付けていたわけですが、ここまでの記述の大半は仮に"シグナル"だけだったとしても成立する内容であるため、"雨"の意味合いが薄い考察となっているのも事実です。
そこでもう一度先述のクールダウンのくだりに戻ってほしいのですが、ここまでの話を踏まえた上で再度"雨"を含むフレーズの意味を考えていきたいと思います。それでようやく「理解はまだ表層レベル」から脱却出来るとの認識です。
といっても訂正したい点はひとつだけで、「本曲に於いてはそれを良しとしないネガティブな意味合いのほうが正解」という文言を、より正確にしていくことを目的とします。この場合の「それ」とは"雨"がクールダウンの役割を果たしていることを指していたわけですが、これを良しとしないのは上掲の三区分に従えば「理想(本音)」の解釈です。"あなたの熱"や"きらりきらり煌めいた/景色"というのを、言わば「進もうとする原動力」(この場合の"シグナル"は「動機」?)と捉え、これらを奪おうとする"雨"は難儀なものであると位置付けるスタイル。
しかし同時に「始まりに止まっていたい」という「理想(建前)」も存在するため、必ずしも"雨"がネガティブな要因になっているとは言い切れず、むしろ先述のように「冷静さを取り戻す」といった類のポジティブなものだとして消化することも出来るのではないでしょうか。"どこか遠くへ行きたいのに 今は/新しいシャツが濡れて重い"は、この二面性を巧く表現しているのだと思います。「"濡れて重い"がポジティブ要素なの?」と疑問に思った方もおられるでしょうが、この場合は「先に進まないことの尤もらしい理由付け」だと考え、自身の正当性を主張しているとの解釈です。こう認識出来るのも、冷静になっているがゆえかなと。
…と、このように"雨"に纏わる表現と"シグナル"という語が持つ多義語的側面を重ね合わせて読み解くことが出来るため、結論としては「"雨"と"シグナル"を関連付けるだけの根拠がある」と主張します。メタファーの話に帰結させるのであれば、本曲の"雨"は「"シグナル"を変えるもの」であり、実際に信号を切り替えるのはプログラムであるとはいえ、本質的には「時間の経過が"シグナル"を変えている」とも表せるため、即ち"雨"は"過行く時間"の暗示だということになるでしょう。ご存知の通り時間は不可逆ですから、これはどうしようもない「現実」の話だとまとめることが出来ます。
「先に進むしかない」ことの残酷さは、"到底 意味のないこと/きっと知っているのに"から続く歌詞と、継続こそが傷を増やす原因であることに対して、"誰より知っていたって/シグナルは変わってゆく"と達観したようなフレーズでもって返すことで、過不足なく描き出せているのではないでしょうか。
あれこれ内容を深堀りしたところで、所詮「理想」は心の内の話です。その場に止まりたくとも前に進むしかない場合も多々ありますし、その逆も然りというのが「現実」であるため、結局のところそれに抗う術はないというのが、本曲の無常観の根幹を支えているのだと結びます。