すてきな15才 / YUKI | A Flood of Music

すてきな15才 / YUKI

 YUKIのシングルコレクション『すてきな15才』のレビュー・感想です。ソロデビュー15周年の記念盤となります。


 シングルコレクションとしては、『five-star』(2007)と『POWERS OF TEN』(2012)を経ての第3弾です。「five」→「TEN」と来たので次も英語かと思いきや、「すてきな15才」という日本語題で意表を突かれました。笑

 本作には2012年以降の楽曲、ナンバリングで言えば24th~32ndシングル曲に加え、未発表曲と歌詞提供曲(デモ)が収録されており、15周年を意識してか全15曲という構成になっています。

 当ブログに於けるYUKIの記事は、8thアルバム『まばたき』(2017)のものが通常レビュー形式では最新です。スタイルにこだわらなければ「今日の一曲!」で「ブレーキはノー」(2005)を取り上げたものが最新となるので、参考までにリンクしておきます。

 前置きはこのくらいとし、早速収録曲を見ていきましょう。本作には「YUKIによる全曲ライナーノーツ掲載ブックレット」(兼歌詞カード)が付属しているので、以降で「LN」と表記したらここからの引用とご理解ください。ただし、濫りに引用すべきではないのでなるべく最小限に留めます。


01. プレイボール



 24thシングル(両A面・2012)のうちの一曲。7thアルバム『FLY』(2014)には収録されなかったため、本作にて初収録のナンバーとなります。

 タイトル通り野球がテーマの楽曲で、歌詞には多くの野球用語が登場。"ベンチのサインは 敬遠だ"や、"物語はツーアウト 期待のルーキー/彼のチェンジアップだって 逃さないで"など、恋の駆け引きを野球にたとえるという、ある意味王道の内容ですね。

 LNでもふれられていますし、上に引用した"ベンチ"のくだりはまんまですが、ピンク・レディーの「サウスポー」(1978)を彷彿させるという意味で「王道」と表現しました。LNでぼかされているのを解説するのは野暮ですが、参考までに。

 この曲のように「一つの大きなテーマを軸として、関連する専門用語が鏤められた歌詞」は、YUKIの作詞スタイルの中では最も僕好みです。キュイジーヌにフォーカスした「just life!all right!」(2008)や、登山用語に彩られた「クライマー・クライマー」(2011)なども好例。

 せっかくなのでレビューにも野球の概念を持ち込みますが、投手のギアチェンジのように、段階的に熱量を増していくメロディが素敵な曲だと思います。


02. 坂道のメロディ

 24thシングル(両A面・2012)のうちの一曲で、TVアニメ『坂道のアポロン』OP曲。『FLY』に収録されたのはVer.違いであるため、シングルVer.のアルバム収録は本作が初となります。

 YUKI×菅野よう子という俺得過ぎるコラボですが、この曲の完成度はその上がりまくったハードルを余裕で超えてくるレベルだったので当時は驚きました。要するにめちゃくちゃ大好きなナンバーだということです。

 当時はアニメから離れていましたが、アニヲタ復帰してから再放送で『坂道のアポロン』を観たので、今では歌詞の内容が一層刺さるようになっています。「ジャズ」をテーマとしてこの曲も関連用語鏤め系ゆえ大好物なのですが、"♪ララバイ オブ バードランド♪"に"♪いつか、 王子様が♪"と、曲名ごと引用しているのは大胆だなと思います。"♪"で挟むのも斬新。笑

 "スウィングしてる ハイなスピード サラウンド"という歌詞がまさに体現していますが、ジェットコースターのように目まぐるしいメロが最大の魅力ではないでしょうか。特にサビについての言っていますが、散々振り回してからのラスト、"メロディは 恋みたいだ"のパートがとんでもなく美メロなもんだから、このギャップにくらっときちゃいますね。期待通りにトランペットがインしてくるのも鳥肌モノ。

 ここと同じパートが2番では全く異なる色を見せてくるのも技巧的で好きです。メロの隙間を埋めるのが"(Don't let me down)"のコーラスに変わったことで、疾走感を維持したままラスサビまで駆け抜ける構成になっているのが本当に格好良い。


03. わたしの願い事



 25thシングル曲(2012)で、映画『ひみつのアッコちゃん』の主題歌。オリジナルアルバムとしては『FLY』に収録。

 LNではストレートに「良い曲!!(笑)」と表現されていますが、まったくもってその通りだと思います。自然体志向の清らかな歌詞に、風に膨らむロングスカート(i.e. 揺蕩う布)のような滑らかなメロディで、すっと耳に馴染んでいくのが心地好い。ここで「スカート」という具体例を出したのには理由があって、これはこの曲のノリに起因する表現です。

 共感を得られるかわかりませんが、サビの旋律には左右に優しく揺さぶられるような感覚が宿っていると思いませんか?そのイメージを拡充させ、"I wish"がコーラスとして繰り返されることも加味すると、女性のコーラスグループが身体を揺らして歌っている映像が脳内に浮かぶんですよね。プロのというよりは、大学生や市民サークルが地域の野外音楽イベントで歌っている感じ。

 生き物と自然に対する直喩で「わたしの願い事」が描かれた歌詞も含めて、「ナチュラルでありたい」という思いが素直に響いてくる存在というのが、僕の中では「音楽好きの大人の女性」に帰結するので、このような感覚に陥ったのだと自己分析します。


04. STARMANN

 26thシングル曲(2013)で、TVドラマ『スターマン・この星の恋』主題歌。収録アルバムは『FLY』。

 メロ自体はキャッチーでありながらも、アレンジやYUKIの歌い方にややヒリヒリしたものを感じるので、微熱を帯びているような印象を受ける曲です。

 サビの歌詞は英語と日本語が大体半々という配分になっていますが、全編英語詞だったとしても違和感がないと思うくらい、英語向けのメロだという気がします。"STARMANN 24/7"の部分や、"踊ろう/Stay by my side"あたりの英語を含む部分が特に流麗で素敵なので。

 LNの裏話が面白いので紹介したいところですが、そうすると大部分を引用することになってしまうのでぼかして書くと、「YUKIにとっての"スターマン"が誰なのか?=この曲の元となった存在」が明かされていることで、この曲の持つ儚さにも得心がいくようになりました。そして、サビ終わりのギターリフは面白フレーズという認識に置き換わる。笑


05. 誰でもロンリー



 27thシングル(2014)として『FLY』に先駆けて発売となったナンバー。アルバムでは1曲目に据えられており、それがダンスチューンであることに深い意味があるというのが僕の持論です。

 『まばたき』の記事で、同じgive me walletsによるトラックである「トワイライト」をレビューしましたが、そこに長々と書いた「現代人の精神性とダンスミュージック考」こそが、まさに「誰でもロンリー」ひいては『FLY』に対する僕の解釈なので、詳しくはそちらをご覧くださいと丸投げします。

 ここでは補足として歌詞に言及しますが、"奈落から這い上がれ 誰かのアイドル"が個人的に最も共感出来たフレーズです。"あなたもアイドル"という一節があることも考慮して、ここでは「アイドル=自分」という立場で自惚れたことを書きますが、勝手に担ごうとしてくる他人に嫌気がさす瞬間はよく理解出来るので、いずれ引き摺り降ろされるのだろうという意味で"奈落"は言い得て妙だなと思います。ファン或いはフォロワーというのは、有難くはあるけど距離感を間違えると底無し沼のようだとね。


06. 好きってなんだろう…涙

 28thシングル(両A面・2015)のうちの一曲。『まばたき』には収録されなかったため、本作にてアルバム初収録のナンバーとなります。

 LNにもある通り「声」が特徴的な曲です。タイトルにもなっている"好きってなんだろう…涙"のリピートを軸にして、楽器的なボーカルトラックが多重録音されたつくり。実質的には1番(1コーラス)だけで完結しているという構成も含めて、シングル曲にしてはなかなか実験的だという印象。

 björkの『Medúlla』(2004)ほど振り切ってはいませんが、ヒューマンビートボックス風の楽曲ということで、全体的にはヒップホップのような趣です。また、サビのソウルフルな感じにはゴスペル/アカペラっぽさが宿っているとも思えたので、スタイルこそ違えどやはりどちらも「声」を大切にした結果の産物だという気がします。


07. となりのメトロ

 28thシングル(両A面・2015)のうちの一曲。06.と同じく『まばたき』には収録されなかったため、本作にてアルバム初収録となります。有名アニメをもじったと思しきユニークなタイトルから察せる通り、東京メトロのCMソングでした。

 古い記事、しかも音楽レビューではないものを引っ張り出してきて恐縮ですが、僕の「東京メトロ愛」についてはかつてこの記事に書いたことがあるので、参考までにリンクしておきます。LNにもお名前が出てきますが、箭内道彦さんによる東京の切り取り方のファンなのです。

 キャッチコピー?は変わりつつも同じようなスタイルで長年放送されているCMで、タイアップソングも多く存在するため全てを一言にまとめてしまうのは乱暴ですが、メロウなタイプのナンバーが起用される傾向にあるという印象を持っていて、この「となりのメトロ」もゆったりと暖かな光を思わせる点でメロウだと感じます。補足ですが、僕の思う「メロウ感」はこの記事に詳しいです。

 以前「今日の一曲!」で「笑い飛ばせ」(2011)を取り上げましたが、東京を描いた曲という意味では共通点があると思います。この二曲を関連付けて、歌詞の"美味しい匂い"は"カレー"のことなんじゃないかなぁと、妄想が捗る。笑


08. tonight
09. ポストに声を投げ入れて
10. さよならバイスタンダー

 これら3曲については、『まばたき』の記事で一度レビューしているので、お手数ですがリンク先を参照してください。


11. フラッグを立てろ



 32ndシングル(2017)曲で、現在放送中のTVアニメ『3月のライオン(第2シリーズ)』の1stOP曲。10.が同作品1期の2ndOP曲であったため、クールを跨いでいるとはいえ連続タイアップですね。

 僕が漫画原作者の羽海野チカさんのファンであることや、監督や制作会社も含めてアニメ自体も気に入っていることは、10.の項(リンク先)でも匂わせてありますが、今回は歌詞解釈のためにもう少し具体的に内容に踏み込んでいきます。

 2期は1期と比べるとストーリーがヘビーですよね。1期が軽いという意味ではありませんが、重い要素はどちらかと言えば過去に仕組まれていた気がします。しかし、2期は「いじめ」という現在進行形の事態に向き合うのが最初の大きな山場であるため、ワンクッションを置かずにエピソードが真に迫って来る。ゆえに、この曲の歌詞にはどうしてもひなたが直面した諸々をダブらせてしまいます。


 特に2番の歌詞ですが、"スカートの砂"、"貼り直した絆創膏"、"オフビートで髪を結わえて"、"破れたら縫い直して"、"泥だらけのシューズ"、"絡まったリボン"など、被暴力のメタファー的な言葉の連なりに胸が痛くなる。

 しかしここで悲劇のヒロインに甘んじないのが、ひなたのひいてはこの曲の持つ強さで、"陽の当たるフロアを探して"や、"夢から目覚めて 戦うのは自分よ"あたりの歌詞にそれがよく表れていますよね。

 "さしあたりこの行く末は どうやら喜劇になりそうだ"というオプティミズムも、自己防衛の感はあれど素敵に思いますし、"独りきりの 自由のフラッグを立てるんだ"という表題のフレーズも前向きで、偏に未来志向であるのがこの曲の魅力ではないでしょうか。

 中でも特にお気に入りの箇所は、1番Aの"僕は僕の世界の王様だ"~"宇宙飛行士にだってなれんだ"の部分です。歌詞のスケール感もメロディの美しさも完璧だと思います。


 以降の4曲は、本作が初出の未発表曲です。15.のみ毛色が異なりますが、都度説明します。

12. ダーリン待って

 LNによると、ツアー中の即興から生まれた楽曲のようです。ということで、作詞のみならず作曲もYUKI自らが手掛けたナンバーとなります。

 スタジオ録音の際にどれだけブラッシュアップしたのかはわかりませんが、サビ以外の半台詞的なメロディは確かに即興ならではという感じがします。フォークっぽいというか。

 ギターを軸に作られているだけあって、ギターが格好良い曲だと思います。…と同時に切ない。"友達" or "ダーリン"の狭間で揺れる乙女心が反映された歌詞の力こそが大きい気はしますが、ギターサウンド自体がセンチメンタルな感情を引き寄せている面もありますよね。


13. I love you

 この曲が出来上がった経緯については、LNにも具体的なことは書いていないので推測でしかありませんが、ブックレットのラストに書いてあるYUKIからのメッセージに、手書きでこの曲の歌詞(の一部)が記されていることを考えると、本作(ソロデビュー15周年)のために書き下ろされたナンバーということになりますかね。

 「I love you」というド直球のタイトルですが、歌詞も含めたこのストレートさについては、LNに15年を経ての心境の変化が匂わされています。"you"を単数に捉えて普通のラブソングとしても解釈出来ますが、複数とすればファンへと向けた内容にも思え、どちらに於いても素直な感情がそのままのせられているのが素敵です。

 メロディもアレンジも主張し過ぎない優しいものなので、ほぼ言葉と歌声の力のみでここまで包み込むような質感を演出出来るというのは、改めてYUKIの凄いところだよなと思いました。
 

14. 穴

 『まばたき』への収録を見送られたレアトラック。LNには他にも有益な情報が記載されており、ある曲へのアンサーソングとなっているというのが特に興味深い点でした。歌詞を基に調べればわかりますが、本人名義の曲ではありませんよ。「歌詞を歌った」「自分の歌で」となっているのはそのためです。

 メロディアスな1番と、語りのような2番との対比が面白いと思いました。サビメロはとてもYUKIっぽいというか、アレンジ如何によっては『まばたき』に限らずどのアルバムにも居場所があると思える安定の出来なのに、こうしてひねくれたセクションを挿入するというイタズラっぽさは、まさに「思春期」(この表現もLNに依存)だなぁと感じます。

 お気に入りの歌詞は、"「見えない」って 見えるものを/「見えない」って 嘘をついて"という部分です。逆(見えないものを「見える」と言う)ならば、見栄や同調或いはそのまま虚偽の趣が強くなる気がしますが、この歌詞の場合は勿論逃避的な側面はあれども、それだけではない複雑な感情が上乗せされていると受け取れるので、"私は幻なんかじゃない"がより強く心に刺さります。


15. 手紙 (デモ)

 「デモ」というのはそのまま「デモ音源」(録り直しなし)という意味です。では何のデモか?と言うと、TOKIOの47thシングル曲「手紙」(2013)に対するもので、同曲はYUKIが作詞を担当していたため、形としてはセルフカバーになるかと思います。

 本作唯一の蔦谷好位置楽曲なので、こうして収録されたことがファンとしては嬉しいです。デモということで編曲のクレジット自体がそもそも存在しませんが、楽器は蔦谷さんのピアノ一本なので、曲の魅力が最低限の構成でダイレクトに伝わる仕様となっています。

 TOKIOの「手紙」は映画『だいじょうぶ3組』の主題歌で、この作品は観たことがないので内容を語ることは出来ませんが、タイトル通り手紙の形式で"君"へと向けた色々の思いが認められた歌詞は、作品を知っていれば一層感動的に響くのでしょうね。



 以上、シングル11曲に未発表曲3+歌詞提供曲1の全15曲でした。シングルコレクションなだけあって、モンスター級のナンバーが揃い踏みという感じです。本作が初出の楽曲は全体的に地味な印象(悪い意味ではなく)ですが、シングル曲とのバランスを考えると正解な気がします。

 ベスト的なディスクで個人的なヒットチャートを晒す意味はあまりない気がしますが、シングル曲では02.「坂道のメロディ」が最も好みで、次いで03.「わたしの願い事」、11.「フラッグを立てろ」、05.「誰でもロンリー」、10.「さよならバイスタンダー」あたりも大のお気に入りです。未発表曲では12.「ダーリン待って」がいちばん好みでした。