I Was Born To Dance With You /avengers in sci-fi | A Flood of Music

I Was Born To Dance With You /avengers in sci-fi

 avengers in sci-fiのニューシングル『I Was Born To Dance With You / Indigo』のレビュー・感想です。記事タイトルでは文字数制限のため作品名が全て入りきりませんでした(/の後に半角スペースが無いのもそのため)。


 今回のシングルリリースは不意打ちだったので驚きです。公式サイトやTwitterに発売決定のお知らせが載ったのが先月の28日なのに発売日は今月の2日というスピード感。他作品のレビューのためにYouTubeを開いていたら「あなたへのおすすめ」に知らないアヴェンズのナンバーがあったので気付けました。笑

 普段新譜の情報はローチケHMVのメルマガ(アーティスト毎にお気に入り登録するやつ)に頼っているのですが、本作は所謂一般流通に乗っていないのでこの便利機能も役には立ちませんでした。公式によると「ライブ会場、オフィシャルウェブショップ、一部店舗にて販売」だそうなので当然ですね。告知から発売までの異様な短さにも納得です。

 僕はウェブで購入しましたが、最近のアヴェンズのリリースは実験的になってきていますね。ライブ会場のみの販売だった『Light Years Apart』(2017)を後にSpotify限定で配信したこともそうですが、今回のリリースもクリエイティヴ・ベース「SCIENCE ACTION」の設立記念的な側面が窺えるので、今後はよりマルチにしかしターゲットを絞ったスタイルで活動していくのかなと予想します。このあたりの詳細は木幡さんのTwitterにある「おいおいどこかで話したい」という言葉をファンとしては待つのみです。


 事前情報はこのくらいでよしとしてレビューに入ります。当ブログにあるアヴェンズのブログテーマを遡っていただければわかりますが、2011年のライブレポアーティスト紹介を兼ねた複数アルバムの紹介記事もあるので、併せてご覧いただくとより理解が深まると思います。


01. I Was Born To Dance With You



 アヴェンズの新たなアンセムの誕生だと思いました。聴けば一発で良さがわかるハッピーなダンスチューン。音楽、ダンス、快活な女性、母なる海、陽射しと空、スマホと飛行機(=文明)と、このMVの中に幸せの全てが詰まっていると言っても個人的には過言でないと絶賛します。色々と言葉を尽くすと逆に嘘臭くなるような気がするほどなのですが、具体的に見ていきましょう。


 サンプリングなのか読み上げソフト的なものなのかは分かりませんが、ダンディな男性ボイスによる"I Was Born To Dance With You"の宣言にて幕開け。ダンサブルなキックにのせて"Dance With You"のリピートが響く中、シンセ(パッド)が徐々に存在感を増して曲は一気に最高潮へと到達します。

 ということでボーカルはサビ始まり。"だからグルーヴに出会った"の歌詞通り、グルーヴィーなピアノに思わず身体が動いてしまう。個人的に作詞の高等テクだと思っている「接続詞始まり」なのも高評価。これだけで"君をダンスに誘って"までのストーリーが想像出来るから。

 最初は「"踊ったんだ"のところ"踊"までしか歌ってなくね?」と思ったのですが、よく聴くとバックでボイスチェンジャー通したみたいな変な声で"踊ったんだ"と歌われていると気付きました。笑 MV(イヤホンで聴かない)の方がわかりやすい気もしますが、厳密には"ゆっくり"の"くり"の部分からインしてきているように聴こえる。


 "僕は/とっくに/I Was Born to Love You"とロマンチックなフレーズでサビは閉じられAメロへ。…と言っても便宜上Aメロと表現しただけで、正直このパートもサビの一部でいいだろうと思っています。そうすると全部サビということになってしまいますが、メロディの全体でひとつの大きな盛り上がりを演出しているという意味ではそう遠くない表現だという認識です。そもそもこういうダンスチューンはJ-POP的なメロディ構成に縛られにくいものですからね。

 2番の歌詞も併せて紹介してしまいますが、Aメロは只管に切ないのが実にアヴェンズらしいと思います。このメロディの儚さは、歌詞に潜む死の匂いに優しく寄り添っているからこそだなと。死の匂いといっても別に悲観的なイメージではなく、自然の摂理としてただニュートラルに存在しているという印象を受けます。

 "誰も風になってしまうんだってね/いつかは"は確かにその通りですが、それが"思い出"と共に蘇るということが歌われている1番。この一方通行であれば表現としてはまだありふれていると思うのですが、2番ではその"独りになってしま"った"風"に対して"だから歌を歌ってあげるんだってね/誰かが"と、双方向のコミュニケーションの上に生じる循環についてまで言及されているところに流石の木幡節を見ました。


 2回目のサビでは"君はサイケにかすんで/僕はそいつに見とれたんだ"という一節がお気に入り。安直にクラブカルチャーやライブ会場での場面を連想したのですが、照明やスモークによってシルエットが曖昧になるあの瞬間の多幸感はこの上ない非日常を覚えるので、ダンスチューンの歌詞としてこれ以上に相応しいものは無いと思います。

 以降は一度"Dance With You"のリピートでクールダウンするパートがあるものの、最後まで心地好いグルーヴのまま突き進む展開なので忘我の境地で踊り狂えると太鼓判を捺せます。"君をダンスに誘って/いっそ遠くに"とあるように逃避行的なワクワク感があるのも素敵ですね。



02. Indigo

 ある意味とてもシンプルだったと言える01.とは異なり、こちらは深い物語性が感じられる凝ったナンバーです。こういう映画のような或いは史実のようなトラックもアヴェンズの得意とするところですね。


 「Indigo」というタイトルですが曲の始まりはまるで正反対のイメージで、"砂照りひりついた頬/夜更けにタンブリングウィードも泣いてる"と乾いた歌詞でスタートします。西部劇の世界観。だからこその"絵に描いたようなインディゴ"だと思うので自然なんですけどね。

 "タンブリングウィード"→西部劇という安直な連想からなのですが、西部開拓時代にフォーカスしているのでしょうか。いや、"イージーライダー"が出てくるから違うか。時代が移っていると考えれば何でもアリですが、ともかくアメリカ史には詳しくないどころか下手したら一般常識レベルの知識すら無いかもしれないので、正しい理解が出来ているかは甚だ疑問であると言い訳しておきます。

 他にヒントになりそうなのは、"パライソじゃいつも みんなビーチの/夢を見るんだよ遠いメキシコのね"や、"サンチャゴの木が揺れているのは"のように地名が出てくるフレーズですね。アメリカも含めどこもスペイン人による支配の歴史がある場所ですが、これらの歌詞も含めて考えると、曲の舞台はチリで冒頭の描写はアタカマ砂漠のことかなと思います。"パライソ"というのもバルパライソのことだとするとしっくりくる。


 アタカマ砂漠にタンブルウィードが生えているのか?という疑問もありますし全然見当違いのことを書いていたら恥ずかしいので、舞台や時代を読み解くのはこのくらいにしてここからは他の歌詞と曲自体に注目していきます。

 イントロは無くいきなり歌唱から始まるのですがサウンドとしては静かです。クワイアのようなパッドが冷たい質感を思わせる。上掲の解釈に従えば砂漠のパートになるわけですが、"夜更け"とあるようにこれは夜の間に氷点下にまで冷え切った砂漠の表現だと思います。

 シンセベースが入るところは日の出の最初の光が射し込んできた瞬間、エコーするクラップの後のビート感が出てくるパートではもう太陽が顔を出し切っているなと想像出来ます。それにしてもこのパートはめちゃくちゃ格好良い。音数の少なさに反して冒険心が肥大していくかのようなワクワク感がある。


 続く"パライソ"の部分はBメロとするかサビ前半とするか悩みますが、ここまでくるとトロピカルな歌詞と相俟って曲が俄に明るい印象に変わります。切なさを伴う明るさなので手放しでは喜べない感じですが、心地良い癒しと優しさには満ちていると思う。

 タイトルである"インディゴ"が連呼されるサビ(後半)の美しさにも心震えます。ここで歌われている"インディゴ"は海や水のことだと思いますが、とにかくそれを"君に見せたいんだ"というプレゼン心理が犇々と伝わってきて、それが純粋な子供のようなのであたたかい気持ちになります。

 しかし2度出てくる"最後に別れ話はしよう"というフレーズはとても大人ですね。「別れ話をしよう」ではなく"別れ話はしよう"なのが味噌。この"は"は日本語学の用語で言えば「取り立て(助詞)の"は"」…つまり対比の意味合いがあると言いたいのですが、「"最後に"(他のことは差し置いても)"別れ話"(だけ)"はしよう"」というニュアンスが加わるというのは達観しているなと思います。別れ際のけじめや作法に則っていると換言してもいい。


 この曲で最も好きなのはラスサビ後のCメロです("サンチャゴ"の行から)。エンディングを担うパートなわけですが、初めて聴いた時はここで鳥肌が立ちました。なぜならここまでの曲の流れからは想定していなかったような日本人的な旋律が急に出てきたと思ったから。というか最初にリリックカードを見た時は、"インディゴ"と同じ音節を持つ"サンチャゴ"が冒頭に来ていたのでてっきりサビと同じメロで歌われるものだと油断していました。笑

 歌詞もここがいちばん素晴らしい。その理由は01.との関連性を思わせるものになっているから。"サンチャゴの木が揺れているのは/懐かしいのが悲しいんだね"からは、01.の項で書いた"風"と"思い出"の話を連想出来ますよね。これを思うと、悲しい…というか無常の結末を想像せずにはいられません。

 しかしサウンド自体はとてもキラキラしているんですよね。これが何の表現なのかについては色々と解釈が思いつきました。"パライソ"を文字通り「パラダイス(楽園/天国)」の意味で解釈するならお迎えのようにも思えるし("インディゴまで召されて行くんだよ"という歌詞もそれ絡み?)、砂漠での話とするなら再び夜が訪れた表現にも思える。

 もっと絞ってアタカマ砂漠説をとるなら、満天の星の煌き(世界一乾燥しているだけあって晴天率が高いらしい)や、特定の条件下でのみ咲き乱れる野生の花々の光景のような自然の神秘のことを示しているような気もする。まあこの辺は付焼刃なのであまり突っ込まないでください。



 以上全2曲でした。どちらも流石avengers in sci-fiだと思えるトラックで大満足です。1曲あたりの情報量が多いからシングルですがアルバム並に深く聴き込めますね。次のアルバムに収録されるかどうかは不明ですが、次作も大いに期待出来ると確信を持てました。

 余談ですが本記事はAmebaの新機能:公式ジャンルのひとつである「音楽レビュー」に参加してから初の記事となるので、ふれこみ通りならば以降の更新分には編集部のチェック(テーマに合致しているかどうか)が入るはずなのですが、その記念すべき第一本目にアヴェンズのレビューを載せられるというのは大変喜ばしいことです。

 「いちばん好きな」というとまた話が違ってくるのですが、歌詞の世界観やメロディの好み、取り入れているサウンドなどの全てが自分の精神性に合致しているというか、自分という存在から音楽を抽出したらこういう音楽を奏でていて欲しいなと思えるのはまさにアヴェンズの音楽だと思っているので、代弁といったら烏滸がましいですがある意味イントロダクション的な側面もあるのかなという気がしています。それが一本目に相応しいと思う理由です。


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