第5話 出産
父の手術から1週間後、次男の出産日。
産後のお手伝いには夫の両親が自営業のお店を休んで
自宅まできてくれた。
夫と長男、そして夫の両親に見守られながら
私は2回目の帝王切開に臨んだ。
2回目そして出産とはいえ手術は手術。
誕生の喜びよりも手術への恐怖心が強くとても不安だった。
そんな気持ちになりながらも父のことを考えると
弱音ばかり言っていられないと思った。
お父さんはわたしなんかよりもっと大変な手術を乗り切ったんだ。
頑張らないと・・・・
手術室に運ばれながら自分にそう言い聞かせていた。
手術前、背中に麻酔を打たれて下半身の感覚は無くなったが
変に意識ははっきりしていて、麻酔のせいなのか恐怖心のせいなのか
わたしはガタガタと震えていて、看護師さんに大丈夫ですよと慰められても
その震えは止まらなかった。
カチャカチャと聞こえるメスなどの音、先生達の話し声
やたらにはっきり聞こえてきて
早く終わって欲しい・・・そんなことばかり考えていた。
しばらくしてお腹を強く引っ張られるような感覚・・・
苦しい・・・なにこれ!! もうやめて!!
その瞬間
「生まれましたよ!!おめでとうございます!」
先生が言ったと同時に、オギャーオギャーと産声が聞こえてきた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
そう言って赤ちゃんを見せてくれた。
「・・・ありがとうございます・・・」
振り絞るような声でそう言った後、なぜだか涙が止まらなかった。
次男が誕生して嬉しかったのはもちろんだけれど
その涙は嬉し涙だけではなかった。
父のこと、これからのこと・・・・
たくさんの感情が入り混じった涙だった。
第4話 手術
父と電話で話をして次の日に手術は行われた。
その間私は家で父の無事を祈るしかなかった。
「手術時間は大体12~3時間位だって」
付き添っている妹に電話でそう聞いた。
朝の9時頃に開始すると聞いたので、夜になったら連絡が来るだろうと思っていた。
何をするにでも落ち着かず、意識はずっと電話へいっていた。
夜になり子供を寝かしつけて、電話が鳴るのをひたすら待っていた。
でもその日は結局連絡は来なかった。
次の日の朝早く起きて、電話の着信履歴を調べても
どこからも電話が来てはいなかった。
だんだん不安になってきた。
どうして何も連絡無いのだろうか・・・?何かあったのかな・・・?
待って待って待ちくたびれたお昼ごろにやっと連絡が来た。
「もしもし?おねえちゃん?」
「もしもし!どうしたの?連絡来ないから何かあったのかと・・・・」
「ごめんね連絡おくれて。お父さんの手術結局終わったのが明け方で20時間近くかかったんだ」
「20時間??そんなに大変な手術だったの?」
「大変だったみたい・・・・詳しいことはまだわからないんだけど、残せるかもって言ってた
声帯もやっぱり残せなくて・・・癌もかなり広がっていたみたいで、たくさんとったんだって」
「・・・・・」
手術の前に先生からの説明では
もしかしたら声帯は残せる可能性があるかも、と言われていて
私たち家族はその望みに賭けていました。
でも、結局はその望みさえも叶うことなく
父は声帯を失い、言葉を失いました。
妹との電話を切り、私はただただ呆然とするばかり・・・
その日一日はなにもする気になれなく
子供の相手もせずに沈み込んでいました。
あと何日か後には出産も控えているのに
新しい家族が増える喜ばしい日がやってくるのに
楽しい気持ちにはどうしてもなれませんでした。
第3話 千羽鶴
母の電話で父のがん告知を聞いて
手術まで約2週間。
家事育児をしながら
2週間で折り鶴を1000羽折るのは
思っていた以上に大変なことだった。
家事の合間や
長男が寝た後に
出来るだけたくさんの鶴を折っていたけれど
結局できたのは700羽・・・・
それをつないでいくのも
かなり大変だった。
千羽鶴って結構大変なんだ・・・と、実感する。
父の手術5日前には
やっと実家に送ることが出来た。
そして手術前日
父と電話で話をした。
「お父さん・・・・手術頑張ってね・・・・」
そんな在り来りな言葉しか出てこない私。
「お父さんも何とか頑張るよ・・・・お前も出産が控えているんだから
余り心配せずに・・・・頑張れよ」
最後には涙声になっていた
お父さんの声・・・・・・
この時に聞いた
お父さんの声が
最後の声になってしまった。
第2話 衝撃
「のどがね・・少し前から腫れてきて・・・大学病院で調べたの。
その結果が今日出て・・・癌だってわかったの」
母からの電話、衝撃の父の癌宣告。
母の話によると
手術をしてのどの癌を取り除くということ
癌の程度によっては
声を失うかも知れないということを聞いた。
声を失う?
話が出来なくなるの?
お父さんが?
どうしてお父さんが??
電話を切ったあと
その疑問ばかりが
私の頭の中を駆け巡っていた・・・
今すぐにでも実家に帰って
父に会いたい。
そう思っても
私は2週間後に出産を控えていて
どうすることもできなかった。
悔しくて悲しくてもどかしくて・・・
何もしてあげられない自分に
腹が立つばかりだった。
ただ家でなにもせず父のことばかり考えていても
もどかしいばかり・・・
何か出来ないかと思い
父の手術までに
千羽鶴を折ろうと
折り紙を買ってきて
その日のうちから
折り始めた。
第1話 1本の電話
その日はとてもとても暑い日でした。
その頃私は次男を妊娠中。
臨月を迎え 後は出産を待つばかりの日々。
長男を出産した時には帝王切開だったので
今回も予定帝王切開で出産予定でした。
出産日は9月3日。
産後の手伝いに実家の母に来てもらう予定でした。
私の住んでいるところは関西、実家は関東。
母には1ヶ月来てもらう予定で
私もそのつもりで準備をしていました。
その電話が来たのはちょうど私が携帯で友達と電話している時。
自宅の電話に実家の番号が表示されたので
母からだと思い後で掛けなおそうと
友達と話し続けていました。
そのうち留守電が作動して母の声が聞こえてきました。
今にも消え入りそうな声で・・・・
「もしもし・・・おかあさんです・・・・・
そっちに行けなくなっちゃった・・・・ごめんね」
涙声の母、今まで聞いたこともないような声。
友達との電話も早々に
すぐに折り返し実家へ電話しました。
「もしもし!おかあさん?留守電聞いたけどどうしたの?」
「・・・・お父さんがね・・・お父さんが・・・癌なの・・・」
お父さんが癌??
お父さんが?
何がなんだか分からなくて母に聞き返しました。
「お父さんが癌ってどういうこと?」
「のどがね・・少し前から腫れてきて・・・大学病院で調べたの。
その結果が今日出て・・・癌だってわかったの」