藤原歌劇団 ファウスト | 翡翠のブログ

翡翠のブログ

日々の徒然をつづっています。コメントは承認後公開させていただきます。

昨日は、藤原歌劇団のオペラ、グノー「ファウスト」を観に金山へ行きました。

 

グノー作曲「ファウスト」オペラ全5幕 字幕付き原語(フランス語)上演

総監督 折江 忠道

指揮 阿部 加奈子

演出 ダヴィデ ガラッティーニ ライモンディ

ファウスト(T) 笛田博昭 → 村上敏明 → 澤﨑一了

メフィストフェレス(B) アレッシオ カッチャマーニ

マルグリート(S) 砂川 涼子

ヴァランタン(Br) 岡 昭宏

シーベル(MS) 向野 由美子

合唱 藤原歌劇団合唱部
バレエ NNIバレエアンサンブル
 ソリスト:浅田 良和
 ソリスト:山口 緋奈子
管弦楽 セントラル愛知交響楽団

 

開演前には今回も折江忠道さんによる解説があり、原作のゲーテの戯曲『ファウスト』のあらすじについてや、グノーについて、今回の演出について等お話されました。私たちを惑わす闇をあらわすように舞台は多くが闇に覆われ、登場人物は闇から現れる、光に照らされるものは少しの希望だけと。

 

今回の舞台も、あまり舞台装置、大道具はなく、リアルな道具はテーブルとイスくらいで、舞台上は3枚の壁を組み合わせ、プロジェクションマッピングで照らす形でした。その照らす投影も、先日観た「トスカ」のように背景を映すのではなく、一昨日の能舞台のように抽象的な背景、花や髑髏、人の顔を映すような使い方でしたが、心象風景として場面や歌に合っていて、なかなか良かったです。

 

ファウストが歌手交代になっていましたが、第3幕の「清らかな住まいよ」は、とても良かったですし、マルグリートの喜びを歌う「宝石の歌」も美しい声(と姿)でした。二人の二重唱も、とっても良かったです。この場面だけ観ると、高まる恋心を歌うロマンチックな恋愛もののようなのですよね、その後の展開が急転直下なのに。

第4幕のメフィストフェレスの「ハハハ」と笑い声の入る人を馬鹿にする歌も悪魔らしくて良かったし、ヴァランタンの第2幕の出征前に妹を想って歌う「聖なるメダル」も良かった。私が低音のメロディが好きなこともあり、ヴァランタン役のバリトンの声は、とても好みでした。ただ、たまに少し高い音の部分で声がゆらぐ場面はありましたけれど。

 

今回の演出では、第4幕の教会の場でマルグリートが神の許しを請い、神を騙るメフィストフェレスと悪魔たちに責められ、苦しむ場面の演出が印象的でした。パタッと周りの人が倒れる場面はドキッとしました。ただ舞台の演出だけだと、教会(人が作った教会のシステム、信仰上の掟や信者)に責められているようにも観えてしまいました。以前に観たビデオのロイヤルオペラハウスの演出では、もっと悪魔らしい、おどろおどろしいヘビメタみたいなものにまとわりつかれていたので、一目で悪魔とわかったのですけれど。

 

また、ワルプルギスのバレエも、すごく良かった。以前にファウストは動画で2本ほど観たことがあるのですが、そのロイヤルオペラハウスの演出では、マルグリットの幻影が妊婦でお腹が大きく、他の幻影にバカにされ、押されたり苦しめられる場面がリアルでグロくて気持ち悪かった。妊娠、出産、婚前交渉などを描いていると思われたのですが、エロティックというより、より直接的に性的で、リアルかつグロイのが観ていて拒否感があって。

 

それに対して、今回の演出は、同様にマルグリットが妊娠しているらしいそぶりや、とがめられ苦しめられる様子ではあっても、バレエらしい抽象的な演出で。バレエって、喜びも悲しみも苦しみも、踊りで抽象的に伝えるものだと思うので、今回の演出の方がバレエの美しさを損なわず、バレエ自体の素晴らしさも味わえるものでした。

 

一番、他の演出と異なっていると思ったのはラストです。

これは過去に観た2本のビデオも、それぞれ異なっていました。ロイヤルオペラハウスの演出は一番華々しく直接的。大天使ミカエルが現れ、マルグリットの魂は昇天し、メフィストはミカエルに倒され、ファウストは若さを失うという結末でした。ザルツブルク音楽祭のウィーン・フィルの演出では、第5幕のワルプルギスの夜の場面もなく、マルグリートの死の場面もキリストを讃える歌は歌われますが、天使のような直接的な救いの表現はありませんでした。

今回の演出でも、天使が登場するといった直接的な表現はありませんでしたが、マルグリットが光の中で人々(天使?)に囲まれ息を引き取る様子は許された終わりの時を表していましたし、一方ファウストは暗闇の中、メフィストフェレスのマントに包まれ取り込まれたように見えました。光と闇の演出がシンプルながら、よく表現されていたように思います。とても面白く、心に残るファウストでした。3本のファウストの中では、一番、手元に置いてもう一度観たいファウストです。