グノー ファウスト | 翡翠のブログ

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この週末は土曜のボランティア的仕事をキャンセルし、今日も予定なく、まだゴロゴロ。

 

加藤浩子 16人16曲でわかる オペラの歴史

 

第11章 グノー 「ファウスト」。

グノーというと、私の中では「アヴェ・マリア」です。音やメロディの傾向に共通するものがあるのか、オペラも曲や歌が好みでした。

 

グノーは、交響曲から歌曲まで幅広い作品を残した方だそうで、オペラでは格式の高い「グランド・オペラ」と気軽な「オペラ・コミック」の間に当たる「オペラ・リリック」というジャンルを開拓した方だそう。オペラでは「ロメオとジュリエット」も作ったそうですが、私の中ではプロコフィエフ作曲のバレエの方がイメージ強いです。

 

「ファウスト」はゲーテの「ファウスト」は知っていますが、オペラは全然知りませんでした。今回、オペラの動画を観るにあたって、以前に名フィルの定演でマーラーの交響曲第8番『千人の交響曲』を聴く際に一度読み、しかしイマイチわからなかったゲーテの「ファウスト」に再トライして読んだのですが、今回も良さがわかりませんでした。一部はまだ比較的物語として追いやすかったのですが(しかし、内容に素晴らしさは感じ取れなかった、おまえ、グレートヒェンを愛していたんじゃなかったのか?と突っ込みたいですし)、二部はますます、よく良さがわからず。オペラの歴史によれば、グノーはゲーテのファウストに夢中になったそうですが、その良さを理解しきれません。

 

原作に比べれば、オペラ「ファウスト」は物語として楽しみやすい。カレの戯曲「ファウストとマルグリート」を下敷きにしているそうですが、ゲーテのファウストで言うと、第一部で完結されている感じで、流れも心情も追いやすい。ゲーテの原作に比べてオペラは「実質的な主人公がヒロインのマルグリート」「若さと青春を求めるファウストの葛藤より、ファウストに恋し、棄てられ、神に赦しを願って昇天するマルグリートのドラマ」(p.183)で、その辺り、戯曲家された脚本が感情移入しやすくなっているように思います。

演奏時間は3時間近くと結構長く5幕もありますが、途中でバレエや踊り、群衆の合唱が入るところも、私は割と好きです。

 

オペラの歴史によれば、イタリアオペラの武器が「歌」、ドイツオペラの武器が「オーケストラ」なら、フランスオペラは「バレエ」と「演劇」で、視覚的要素が大きい。それは、フランスオペラが宮廷の保護を受けていた期間が長く、その宮廷の権威も絶対王政で国王の権力が強く、権威主義的な芸術、大規模で荘重であることが求められたからとしています(p.178)。

 

初演時には台詞の部分に音楽が付かないオペラ・コミックとして作られ、その後、好評を博してパリ・オペラ座で上演される際に台詞を朗唱(レチタティーヴォ)に変更し、さらにグランド・オペラの伝統であるバレエ音楽を追加して現在の形式になったのだそう。

この(旧)オペラ座は、ミュージカル「オペラ座の怪人」の舞台でもあり、訪れてみた憧れの舞台。実際の舞台を観たいのがベストですが、せめて劇場見学ツアーだけでも行ってみたいです。

 

今回観たのはこちら。

グノー: 歌劇《ファウスト》  コヴェントガーデン王立歌劇場(2019)

指揮:ダン・エッティンガー

演出:デヴィッド・マクヴィカー
再演演出:ブルーノ・ラヴェッラ

コヴェントガーデン王立歌劇場管弦楽団・合唱団

ファウスト…マイケル・ファビアーノ(テノール)
メフィストフェレス…アーウィン・シュロット(バス)
マルグリット…イリーナ・ルング(ソプラノ)

ヴァランタン…ステファーヌ・デグー(バリトン)

 

演出は当時のそれらしい衣装、それらしい舞台装置、背景などの大道具で、劇として見やすくわかりやすい。

第1幕、ファウストの前にメフィストフェレスが現れ、契約を迫るところは、原作では少しファウストの求めるものがわかりにくかったのですが、オペラでは「私に快楽を」とファウストに歌わせ、さらに代償をためらうファウストに体を清めるマルグリットの幻影を見せるなど、シンプルでわかりやすくなっています。

 

第2幕は市と祭りで賑わう町の広場で始まり、群衆も多数で合唱し踊りも入り、賑やかで華やかでとてもいい。マルグリットの兄ヴァランタンが出征する前にマルグリットからお守りとしてもらったメダルを手に歌う「出征を前に」もとても良かった。

メフィストが登場し、「金の子牛の歌」(この世は金が第一)を歌い、広場の十字架が倒れる場面では、登場する若者ら(メフィストの使徒?)の踊りが不気味。マルグリットにファウストが愛の告白をし断られます。

 

第3幕では、村の若者ジーベルがマルグリットに花を贈ろうとしますが、メフィストの力で花はすぐ枯れてしまいます。ファウストはメフィストが用意した宝石の装身具入りの小箱を玄関に置き、「この清らかな住まい」を歌います。

マルグリットは宝石を見つけ、驚き、見に付けながら「宝石の歌」を歌います。さらに隣人のマルトが現れ、ファウストとメフィストも登場し四重奏「少しの間でも私の腕を取って」が歌われ、ついにマルグリットはファウストを受け入れます。この幕は、ファウスト、マルグリットのそれぞれのアリアも良いし、四重奏も良いし、とても聴きごたえある幕。

 

しかし第4幕では、第3幕の終わりにあれだけ愛を歌い上げ盛り上がっておきながら、早速、ファウストは妊娠したマルグリットを捨て、マルグリットは彼を想って「紡ぎ車の歌」を歌います。マルグリットが罪を断罪され(自分の良心に?)、その周囲にまとわりつこうとする悪魔の踊りがまた不気味。

悪魔の対極の神を表しているのがオルガンの音色なのか、その音色は申請で美しい。

 

広場では兵士たちが「我らの父祖の不滅の栄誉」を合唱、この曲、フィガロの結婚の「恋とはどんなものかしら?」にとても似ている気がします。軍から戻ってきてマルグリットのことを知ったヴァランタンは怒り、ファウストはマルグリットの家の前で後悔の姿を見せますが、メフィストは「「眠った振りをせずに」を歌い笑います。ヴァランタンはファウストに決闘を申し込み、メフィストの力でファウストは勝ち、ヴァランタンはマルグリットに「呪われろ」と呪詛を吐きながら死にます。

 

第5幕はワルプルギスの夜の場面から。バレエもあって、私は「フレダーマウス こうもり」のように、劇中にバレエや踊りが入る演出が好きなので、ここも良かった。ただ登場するマルグリットの幻影が妊婦でお腹が大きく、その状態でバレエを踊り他の幻影(魔女?)にバカにされ、苦しめられる場面がグロイ。妊娠、出産、婚前交渉などを描いていることもあって、エロティックというより性的で、それもグロイのが、ちょっと観ていてつらい。

ファウストはマルグリットを忘れられず、産まれた子どもを殺した罪で牢獄にいるマルグリットの元へ向かう。再会した二人は二重唱「そう、私だ!愛している!」を歌うが、どう見てもマルグリットは気がくるっていて、ここも観ていてつらいところ。脱獄させようとするファウストをマルグリットは断り、ファウストも登場し三重唱「もう夜が明ける」でドラマチックにフィナーレへ。大天使ミカエルが現れ、マルグリットの魂は昇天し、メフィストは倒され、ファウストは若さを失う。

 

物語としては、マルグリットが(そして子どもが)哀れ、しかし最後には宗教的な救いはあるか。ファウストは若さと愛を失うものの、死後にメフィストに契約通り囚われるのだそうか?それともミカエルがメフィストを倒したことで、契約も消えたのか?

後味はともかく、物語としてはとてもわかりやすく、劇として楽しめたし、音楽も歌もとても良かった。加えて5幕のバレエ部分も良かった。

 

この舞台のDVDは演出の劇らしさ、音楽の良さと、とっても私には高評価なのですが、実は最初、パソコンで再生できなくて。海外の規格が再生できないことはあるので、泣く泣く別のDVDも購入したのですが、到着に時間がかかったため、届くまでの間に試しにテレビに外付けしているハードディスクレコーダーのディスクドライブで試したら再生でき、無事視聴できました。

 

別に購入したディスクはこちら。

グノー : 歌劇 「ファウスト」 ザルツブルク音楽祭 (2016)

指揮:アレホ・ペレス

演出・装置 : ラインハルト・フォン・デア・タンネン

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン・フィルハーモニア合唱団

ザルツブルク音楽祭 (2016)

 

ピョートル・ベチャワ (ファウスト / テノール)
イルダー・アブドラザコフ (メフィストフェレ / バス)
マリア・アグレスタ (マルグリート / ソプラノ)
アレクセイ・マルコフ (ヴァランタン / バリトン)

 

ザルツブルク音楽祭でファウストは初上演、演出家ラインハルト・フォン・デア・タンネンもザルツブルク初登場で、ブエノスアイレス出身の指揮者アレホ・ペレス とウィーン・フィルの初共演でもあったそう。

演出は、上のコヴェントガーデン王立歌劇場のものと比べて、とても現代的でモダンな不思議な世界観の演出です。

主要登場人物以外の人間たちは、皆白いつなぎのような服に、顔はピエロの白い顔。背景も家具も白で、正直なところ、近未来のディストピア感をとても感じます。第5幕のワルプルギスの夜の場面はなく、マルグリートの死の場面も同じキリストを讃える歌は歌われますが、天使のような直接的な救いの表現はありません。

 

ウィーンフィルの演奏する音楽と歌われるアリアは美しい。ただ特殊演出、現代的な演出はイマイチ私は苦手なので、先にコヴェントガーデンのオーソドックスな舞台を観たうえで、こちらを観たことで、別の演出として受け止められた点は良かったです。初めて、かつ、これ1本だけだと、ちょっと内容が、展開がわからないかもと思います。新演出というものをどう楽しむのか、味わうのかは、まだやっぱりよくわかりません。