九月も中旬を過ぎると、

各地から初雁の飛来が報告されます。

その年に初めてやって来る雁は、

秋の深まりを告げる鳥として、

古来より多くの和歌や俳句に詠まれてきました。

中でも、

戦国時代の武将・上杉謙信の次の和歌は有名です。

之は魚津城を攻める軍営の中で詠まれたものです。

もののもふの 

鎧の袖を片しきて 

枕に近き 

初雁の声

「武士の鎧の袖を片方だけ敷いて寝ていると、

枕もとに初雁の声が間近に聞こえることだ」

という意味です。

明日の命も知れぬ陣中で、

鎧を着たままで体を横たえながら、

謙信は初雁の声を聞いているのです。

大切な仕事に臨む時ほど、

周囲の声に耳を澄ませる心のゆとりが必要です。

職場における周囲の声とは、

同僚、

業者、

そしてお客様の声にほかなりません。

周囲の動静に耳を済ませることで、

そこから生まれる

「緊張感」

「責任感」

「連帯感」といったものが、

適度に自分を高揚させてくれるのです。

耳を澄ませる習慣によって、

思わぬ心持ちが得られることでしょう。
自分がどのような声でお客様と話しているのか、

皆さんは気にかけたことがあるでしょうか。

電話応対を業務にしているコールセンターなどでは、

相手に自分の笑顔が見えるような

「笑声」

で話すことを心がけているそうです。

本来の読みである笑声と読むと、

笑い声そのものを示す別の意味となります。

笑声は造語で、

正しい日本語とはいえませんが、

味わい深い言葉です。

身につければ相手に好印象を与える魅力の一つとなるでしょう。

声に一番影響を与えるのは、

その時の気持ちです。

声にはその時の心の状態が映し出されるからです。

イライラしていたり不満が溜まっていると、

どうしても声に悪影響が及び、

相手に不快感を与えかねません。

澄み切った明朗な心であれば、

顔の表情も明るくなり、

自然と声も明るくなります。

自分も相手も、

気持ちよく会話を進めることができるでしょう。

いつも明るい心を保つのは簡単ではありませんが、

心がけることは可能です。

今日も笑顔と笑声で、

お客様や周囲の人々に向き合いたいものです。

A子さんが長女夫婦のマンションに、

遊びに行った時のことです。

A子さん長女が話に夢中になっていると、

婿がすっと立ち上がりベランダに向かい、

洗濯物を取り込み始めました。

その姿を見て

「素晴らしいご主人ね」と

A子さんは言いました。

翌週、

A子さんは長男夫婦のところへ出かけました。

すると息子がすっと立ち上がり、

ベランダの洗濯物を取り込み始めました。

それを見たA子さんは心の中で呟きました。

何てひどい嫁なんだろう。

息子にこんなことまでさせて!

帰路につきながらA子さんは、

二組の夫婦の光景を思い浮かべました。

冷静になると、

婿も息子も洗濯物を取り込む行為に違いはありません。

「同じ行動をしているのに、

正反対の見方をしてしまった」と

A子さんは反省したのです。

ともすると、

私たちはその時々の感情や状況にとらわれてしまいます。

物事を客観的に見つめ、

よりプラスの方向で受け取れる自分でありたいものです。

新人の頃は、

仕事とは教えてもらうものでした。

しかし、

仕事を覚えてくると、

自分中心でやっているという

錯覚に陥ってしまうものです。

施設の案内を担当するAさんは、

玄関先でお客様を出迎え、

館内を案内しました。

お客様は「とても美しい施設ですね」と

絶賛してくれました。

Aさんは、

自分が褒められたかのように喜びました。

お客様から、

綺麗に揃えられたスリッパ、

建物入口で流れる心地よい音楽、

隅々まで行き届いた手入れなどを

次々と褒められるうちに、

ハッと我に返りました。

Aさんは案内をしているだけであって、

きれいな環境はそれぞれの部署の担当者が、

清掃や準備を懸命に

してくれているお陰だからです。

職場では個々人に、

仕事を与えられています。

仕事の成果は、

自分の働きの結果ではあります。

しかしその背景には、

仕事を教えてくれた先輩、

各部署の連携など、

複合的に絡み合った結果があるのです。

K氏の自宅に心当たりのない商品が届き、

一通の手紙が同封されていました。

「先日、

M様のご依頼で送らせていただきました商品ですが、

いただいた金額とお送りした商品を確認しましたところ、

商品の数が不足していたことが判明いたしました。

心よりお詫び申し上げますとともに、

不足分の商品を送らせていただきます。

誠に申し訳ありませんでした」

とていねいに手書きで記されていました。

K氏は、

友人M氏の名前で送られてきた

品物を思い出すとともに、

商品を発送してきた

会社の誠実さに心を打たれました。

ミスは誰にでも起こりえますが、

その際の事後処理、

対応の仕方次第で信用が高まるか、

不信感が募るかと状況は

大きく変わってしまいます。

米国の自動車会社フォード・モーターの

創業者ヘンリー・フォードは、

「奉仕を主とする事業は栄え、

利得を主とする事業は衰う」

という格言を遺しています。

「お客様第一主義」

といわれますが、

ミスをしてしまった時こそ真価が問われます。

「すぐに対応」、

「誠実な対応」で

自社の信頼を深めていきましょう。