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Soylent Green(1973 アメリカ)

監督:リチャード・フライシャー

脚本:スタンリー・R・グリーンバーグ

原作:ハリー・ハリソン

製作:ウォルター・セルツァー、ラッセル・サッチャー

撮影:リチャード・H・クライン

編集:サミュエル・E・ビートリー

音楽:フレッド・マイロー

出演:チャールトン・ヘストン、リー・テイラー=ヤング、チャック・コナーズ、ジョセフ・コットン、ブロック・ピータース、ポーラ・ケリー、エドワード・G・ロビンソン

①ソイレント・グリーンの思い出

70年代SF映画「ソイレント・グリーン」が、デジタル・リマスター版として上映されています。

 

「ソイレント・グリーン」といえば、80年代に深夜テレビの映画枠で観たことを思い出します。

あれは確か、よみうりテレビの「シネマだいすき」。そのSF映画特集

「ウエストワールド」「博士の異常な愛情」と共に放送されたというおぼろげな記憶があります。

番組自体のテーマ曲は、確かフィル・コリンズとフィリップ・ベイリーの「イージーラバー」

覚えておられる方はいますか……?

 

「ソイレント・グリーン」は特に、「ウエストワールド」とペアになってることが多かった気がします。

どっちも1973年で、SF小説を原作とする風刺色の強い本格SF映画なので、まとめて語られやすいのかな。

 

この2作というと、藤子・F・不二雄先生のSF短編を思い出します。同時期に発表された短編が偶然この2作に似たアイデアを扱っていて、「盗作じゃないのに!」とF先生が悔しがっていた、という話。

「ウエストワールド」は、「休日のガンマン」という短編がそれに当たります。西部劇の世界を再現したテーマパークの話ですね。

「ソイレント・グリーン」は「定年退食」という短編。人口爆発で食糧難になった未来社会で、高齢者の食糧が政府によってカットされる…という話です。

 

シンクロニシティというか。SFのアイデアというのは、不思議と同時期に離れた場所で、それぞれに思いつくことがあるようですね。

「さよならジュピター」「2010年」なんてのも、そんな例の一つと言えるかな。

たぶん実際の技術の進化の具合から、思いつく未来予測のアイデアも自然と似たようなところに収斂していく…ということなのかと思います。

これ自体、SFみたいな話ですね。

 

②現代とは一味違う未来予測の面白さ

「ソイレント・グリーン」は2022年が舞台になっています。

人口爆発で、食糧が足りなくなっている世界。自然な肉や野菜は超高級品となって上級国民しか手に入れられず、庶民は「ソイレント・グリーン」などの合成食品を決められた曜日に支給されるだけ。その支給も滞りがちで、暴動が起きている世界です。

この人口爆発社会の描き方が、まず面白い!ですね。

普通に、画面に人が溢れてるという。みんな寝るところがなくて、アパートの階段で寝てる

出かける時には、階段で寝てる人々を踏まないようにまたぎ超えていかなくちゃならない。

すごい直接的な表現。究極のアナログですが、人口爆発社会であることはダイレクトに伝わります。

 

当時は、人口爆発でやがては食糧難になることが、未来予想の定番でした。

F先生の短編では、他に「間引き」なんかもそのネタですね。

現実の世界では、全世界レベルでは人口は増え続けていると言えるものの、一時期のような爆発的な増加はなくなっているようです。

日本を含めた先進国では、むしろ少子高齢化が問題になってる。人口減が問題になっているのだから、面白いものです。

 

とはいえ、劇中で描かれる未来世界の姿は、今の現実とリンクする部分も多くあります。

極端な格差社会になっているという面ですね。庶民が住むところも食糧もなく、折り重なって暮らしている一方で、金持ちは「家具ガール」付きの広い家に住んでいて、肉とか野菜とかジャムとかの高級食品も独占している。

また、一般化した安楽死システムの様子は、現在いよいよそこに近づいている…と感じさせる部分です。

 

描かれる未来社会の姿は、今の目で見ればかなり女性差別的であったり、キッチュでナンセンスなところも多々ありますが。

それだけに、現代とは一味違う視点が面白いものになっています。

上記の「家具ガール」(高級住宅の付属品として女性が売買されている)だったり、知識を暗記した「本」と呼ばれる職業であったり。

いわゆるSF映画的な特撮やスペクタクルシーンは全然ないのだけれど、そういったSFアイデアの面白さで見せる映画になっています。

③オチのある映画

本作は「オチのある映画」で、最後に「衝撃の事実」が判明する構成になっている。

ソイレント・グリーンの原料は何か?という謎。それが明かされる。

今観ると、予想はついちゃうかも。というか、やはりクラシック的な作品なので、SF映画が好きな人は本作を観てなくても、どこかでネタバレに遭遇してる可能性は高いだろうと思います。(僕自身もそうでした。観る前にどこかでネタを知ってた)

なので、知ってる人も多いとは思いますが、ここではオチは書きません! 幸い知らない方は、知らないままで是非どうぞ。

 

なのだけど、今観ると上記のようなディテールが面白いので、大ネタを知ってるかどうかに関わらず、大いに楽しめるんじゃないかな…と思います。

70年代SF映画の、ストイックさと大味さが同居している独特な持ち味。

今の映画に比べるとやっぱりテンポは良くないし、間伸びを感じるところもあるのだけど、一種独特な味わいは現代の映画には出せないところですね。

皮肉に満ちたエンドクレジットなど、ブラックで知的な企みも楽しいです。

こういう渋いリバイバル、今後もじゃんじゃんやってほしい!ですね。

 

 

「休日のガンマン」と「定年退食」収録。