毎年アカデミー賞については書いていて、いつもは全体的な印象について何やかや書くのですが、今回は何はさておきゴジラ!に尽きます。
「ゴジラ−1.0」
視覚効果賞
「ゴジラ-1.0」視覚効果賞受賞! すごいすごい。
受賞の瞬間見てから、ずっと頭の中で「♪ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ…」のメロディがぐるぐる回ってる。
だってさ。すごいよ本当に。視覚効果賞だよ?
ある意味で、作品賞よりすごいと思う。
作品賞なら、例えば是枝裕和監督とか、濱口竜介監督とかの新作がとっても、そこまで意外じゃない…というか。
でも、視覚効果賞は違う。こちらは作品賞などの主要賞にノミネートされない、数多の世界の娯楽映画がライバルになる訳だから。
これまでに視覚効果賞を受賞した、今では名作として認知されてる映画たち。
「スター・ウォーズ」にしろ「ジュラシック・パーク」にしろ「マトリックス」にしろ「インターステラー」にしろ、作品賞や監督賞にはノミネートすらされてないんですよね。
シリアスな芸術的ドラマ作品と、エンタメを主目的にした娯楽作品はどうしても評価軸が違っていて。
アカデミー賞の視覚効果賞というのは、その年の娯楽映画の中での一等賞を決めている、というニュアンスが結構あると思うのですよ。
技術に与えられる賞なのだけど、やはり映画としての面白さが認められて初めて、賞の対象になる訳で。
主人公の動機と心情を一貫させて、それが物語の推進力となり、個人的な動機がゴジラという大局面をも動かしていくという、ハリウッド的作劇の巧みさ。それが見事に、本場の映画人たちにも届いたと言えるでしょう。
(だから本当に「ゴジラ-1.0」のシナリオはとても完成度が高いと思うし、いつまでも人間ドラマが…脚本が…とか言ってる人たちはいったい何を見てるんだ?という気持ちになります。)
日本語である、限定公開である、役者の知名度もない……など山ほどある不利を乗り越えて、ここまで辿り着いて見せたのは本当に恐るべき力量です。
「次のゴジラ」はハードルが上がったなんてもんじゃないですね。果たして誰がやるのか…
ここはもう一回山﨑監督にやってもらって、あえてテイスト変えた陽気な怪獣対決モノとかにしてちょいコケして、その次へのハードルを一旦下げる必要があるんじゃないかな…
…なんてことまで、思ったりしました。(山﨑監督そこまで本当に考えてそうでコワイ)
「君たちはどう生きるか」
長編アニメーション賞
これは順当でしたね。それはとるだろう!という。
この映画、僕は結局5回観ました。宮崎アニメの中でも、とても好きな、個人的偏愛映画になりました。
理屈で語りにくい映画なので…かどうかわからないけど、日本では割と評価は割れる感じなんですよね。海外の方が素直に受けるのが面白いなあと思います。
それはそうと、宮崎駿監督が出席しないのはわかるけど、鈴木敏夫!あんたは行けよ!ってちょっと思いました。そういう役目じゃないのか。
というか、せめてジブリか東宝の人が誰か行くとかさ。アホらしいと思うなら辞退すればいいけど、辞退しないのであれば、もうちょっと敬意を払ってもいいんじゃないの?という気はしましたね。
「落下の解剖学」
脚本賞
この映画は本当に面白くて! なんて面白い脚本だろう、どうやったらこんな物語が書けるのだろう…と恐れ慄いたので、脚本賞は心から納得です。
まだレビュー書けてないけど。もうすぐ書きます。(←書きました!)
主演女優賞もサンドラ・ヒュラーで良かったと思ったな。
あと、この映画に出ていた犬が会場にいましたよね。あんまり目立ってなかったけど。もっと映せばいいのに。
「哀れなるものたち」
主演女優賞(エマ・ストーン) 美術賞 衣装デザイン賞 メイクアップ&ヘアスタイリング賞
意外な大健闘で、エマ・ストーンの主演女優賞のほか、4部門受賞。
エマ・ストーンは「ラ・ラ・ランド」に続いて2回目。愛されてるなあ。
エマ・ストーンにしろ誰にしろ、授賞式みたいな場面ではどうしてもお気楽なセレブみたいに見えてしまうけど、いざ映画になるとあの体当たり演技をやってのける訳ですからね。体を張っていいものを作り出そうとする、プロ根性は素晴らしいと思う。
「オッペンハイマー」
作品賞 監督賞(クリストファー・ノーラン) 主演男優賞(キリアン・マーフィ) 助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.) 撮影賞(ホイテ・バン・ホイテマ) 編集賞 作曲賞
終わってみれば圧勝だった「オッペンハイマー」。
日本ではすったもんだのあげくこれから公開(3月29日)なので、これについてなんか言うのは観てからにしようと思います。
とりあえず、監督賞でのスピルバーグの登壇シーンが極めてカッコよかった!ことと、スピルバーグからノーランへオスカーを手渡したのは、なんか痺れました。
「関心領域」
国際長編映画賞 音響賞
日本では5月24日公開。これはめちゃくちゃ面白そうですね。凄まじい感じ。
「アウシュビッツの隣で平和に暮らす家族の様子を通して、壁一つ向こうで行われている残酷行為に無関心であることを問う」本作。
ジョナサン・グレイザー監督はスピーチで、ガザの現状について触れていました。今まさに、この世界で起こっていること。
というか、ガザやウクライナで戦火が続いている今この時に、ハリウッドのセレブがクソ高いドレスで着飾って集まって仲間うちで馬鹿騒ぎをするアカデミー授賞式というのは、まさにそれ自体が「関心領域」であるというか。
なんというか、皮肉の度合いがすごいですね。
アカデミー賞では、例えば長編ドキュメンタリー賞に「実録 マウリポリの20日間」が選ばれていたように、社会問題について描いた作品を広く世に知らしめるという役割もあるし。
一方で、どうにも浮世離れしたセレブの祭典という側面もあって。
(なんか…どうも最近俳優たちに緊張感がないというか、「家でやってんのか?」って思うような内輪のリラックスぶりを見せられることが増えた気がする)
どうもその乖離感が、今回微妙に触れづらいガザの問題があること、そして「関心領域」があることで、浮き彫りになっている感がありました。