Freaks Out(2021 イタリア、ベルギー)
監督:ガブリエーレ・マイネッティ
脚本:ガブリエーレ・マイネッティ、二コラ・グアリャノーネ
製作:ガブリエーレ・マイネッティ、アンドレア・オキピンティ
撮影:ミケーレ・ダッタナジオ
編集:フランチェスコ・ディ・ステファノ
音楽:ミケーレ・ブラガ、ガブリエーレ・マイネッティ
出演:アウロラ・ジョヴィナッツォ、クラウディオ・サンタマリア、ピエトロ・カステッリット、ジャンカルロ・マルティーニ、ジョルジョ・ティラバッシ、マックス・マッツォッタ、フランツ・ロゴフスキ
①「ジーグ」に続く「はぐれ者の苦悩」
1943年のローマ。ユダヤ人の老人イスラエル(ジョルジョ・ティラバッシ)に率いられるサーカス団は激化するナチスの横暴から逃れ、アメリカに行くことを決意します。しかし、イスラエルがユダヤ人狩りにあい行方不明に。残された4人のうち”怪力男”フルヴィオ(クラウディオ・サンタマリア)、”虫使い”チェンチオ(ピエトロ・カステリット)、”磁石男”マリオ(ジャンカルロ・マルティーニ)はナチスの軍人一家に育ったフランツ(フランツ・ロゴフスキ)が支配するベルリン・サーカスに向かい、”電気少女”マティルデ(アウロラ・ジョヴィナッツォ)はパルチザンに助けられます…。
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」(2015)のガブリエーレ・マイネッティ監督によるイタリア映画。
サーカスの「フリークス」とナチスドイツが対決する、その筋の映画好きにはたまらないシチュエーションのダーク・ファンタジーです。
「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」は、日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」への偏愛を込めた、異色のダーク・ヒーロー映画でした。
エロDVDだけが友達のボンクラ童貞男が不法投棄された放射性廃棄物に触れ、スーパーパワーを身につけます。
ヒロインは虐待を受けて心を病み、アニメ「鋼鉄ジーグ」を偏愛する女性。
彼女を守るため、ボンクラ主人公がヒーローとなり、凶悪なマフィアに立ち向かいます…。
以前に書いたレビューで、「望まずしてパワーを得てしまったはぐれ者の苦悩は、ヒーローもの本来のテーマとして仮面ライダー旧1号に通じる」なんてことを書いてました。
期せずして「シン・仮面ライダー」にも通じる映画だったりもします。面白いので、未見の方はぜひどうぞ。
今回は、その「ジーグ」で主人公を演じたクラウディオ・サンタマリアが続けて出演しています。
…ほとんど顔わからないけど。毛むくじゃらでほぼ顔が見えない、怪力男フルヴィオの役です。
②「人と違う者」が差別される世界
異能を持って生まれたために社会につまはじきにされ、差別され、サーカスという場所に生きる場所を見出す。
そんな「はぐれ者たち」への共感と愛情は、ティム・バートンやデヴィッド・リンチ、ギレルモ・デル・トロなどに通じるものがあります。
「人と違う特徴を持って生まれた人が差別される」ということは、これはもう昔から変わらず連綿と続いてきたことですね。
差別され、蔑まれ、まるで人として価値がないもののように扱われる。
でも、そんな人たちの中にこそ美しい人間性があるし、それを無視して差別するものがいかに醜いかがあぶり出されていく。
近年は、差別は良くない!という観念が普遍的になったのはいいのだけれど、過去に普通にあった差別さえもが覆い隠され、見えなくされているような気もします。
ディズニー作品などを観ていると、なんだか黒人などへの差別という過去の事実さえもがなかったかのような、理想のパラレルワールドになってることがしばしばあるのは、差別を考える上ではマイナスなのではないのかな…なんてことも思ったりします。
本作では、びっくり人間として生まれついた4人の主人公たちの世間からの疎外感、それゆえに生じてくる僻みや孤独感といったものが、じっくり描写されています。
それでも、一般の人々の彼らへの差別描写はほぼなくて、観やすくされてはいるのだけど。
差別は悪役であるナチス兵士に集約されていて。それでも、ナチス兵士がフルヴィオの風貌を馬鹿にするシーンなどで結構ドキッとさせられるのは、そういう描写がいかに最近少ないか…ということかもしれませんね。
③ヴィランの側もフリークである世界
異能を持った4人のキャラが立っていて、すぐに好きにさせられる。キャラ立ちの良さは「鋼鉄ジーグ」から続くところです。
差別に関してと同様に、彼らの性格設定に関しても、安易に現在の価値観で書き換えるようなことをしていない。
生きるためにはナチスにもおもねろうとするし、ユダヤ人差別に関しても、自分のことで精一杯で、それどころじゃない。連行された人々がどうなるかは一般庶民にはよくわからない。
同時代を生きた人たちの感覚は、そうだっただろうから。後からの歴史評価みたいなことを安易に持ち込んでいないので、とてもリアリティがありました。
電気、怪力、磁力、昆虫操作…というのが4人の特殊能力なんだけど、あんまり戦争に役立ちそうにはない。
実際バトルにもそんなに向いていなくて。なんでこいつらを「ナチスが挽回するため」に使おうと思ったのか…という。
…という、彼らを利用しようとするヴィランの側も歪んでいて、差別される側の人間である…というのが、本作のオリジナリティになっています。
フランツはナチスのエリート軍人の家系だけれど、生まれつき指が6本あって、軍から不適格とされ、サーカスの団長であることに甘んじている男です。
予知能力を使って知った未来の楽曲をピアノで弾くという見世物を見せながら、いつか兄たちを見返して自分も役に立つことを知らしめることを、彼は熱望しています。
ここで彼が弾くのが、この時代にはまだないはずのレディオヘッドの弱者のアンセム「クリープ」で、これによってヴィランと主人公たちが同じ立場に立つという。
同時期に日本公開となった「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーvol.3」とも共通する楽曲演出で、互いに世の中に弾き出されたはぐれ者同士の悲しい戦いの様相を呈していきます。
④マティルデが導く暴走のクライマックス
フランツは自身のピアノという立派な能力を持っていて、それで大人気を得ることができているのだから、何も僻むことなんてないはずなんですけどね、本来なら。
でももはや、そんなことは見えていない。
招いた上官や兄の前で、嬉々として「超人部隊」を披露しようとして、大失敗に終わるシーンの痛々しさは強烈です。
ここ、たとえ成功していても(マティルデが虎を電気で殺せていたとしても)、フランツが思うほどの反応は得られなかったんじゃないかな。戦争で必要になるのはそういうことじゃなくて…という。
それも含めて、痛々しいんですよね、フランツ。
はぐれ者の悲哀は、主人公たちと同様なフランツなのだけど。
しかし、自身の憤りを更に弱いものに向けてしまう。そこが、彼をヴィランとして、マティルデたちと区別するところなんですよね。
マティルデたちは、他者の痛みを想像することができる。フランツはそれができない。それが、ヒーローとヴィランを分けるポイントになっていく。
最初は全然バトル向きじゃない感じの4人のフリークスたちだけど、しっかりカッコよく立ち回って、ナチスとのバトルも見せていきます。
パルチザンも加わって、なかなかハードな銃撃戦へ。
中でも、マティルデは覚醒して、非常に派手なスペクタクルのクライマックスを導いていきます。
「炎の少女チャーリー」で見たかったのは(過去版でも、リメイク版でも)コレだったな!とちょっと思いましたよ。
そこはやっぱり、日本のアニメをお手本とするマイネッティ監督ならではでしょうか。
抑制できない超能力が暴走し、すべてを破壊し焼き尽くす…という、ド派手なクライマックスをちゃんと見せてくれます。
というわけで、非常に満足度の高い作品でした。楽しかった!
いろいろと盛り込み過ぎで、消化しきれてない…ところは、ないではないけれど。
特にフランツの未来を見る能力は、本作の主要なモチーフである割には、いまいち生かされずに終わった感がありますね。もうちょっとどうにかできたような…。
でもそれも、「クリープ」が良かったので全然OKだと思います!
Discover usの、本作と「ガーディアンズ3」を絡めた記事はこちら。
マイネッティ監督の前作。妙に硬いタイトルは本編中に出てくる日本語です。
「ジーグ」出演のイレニア・パストレッリ主演のダリオ・アルジェント監督ホラー。