Lo chiamavano Jeeg Robot(2016 イタリア)
監督:ガブリエーレ・マイネッティ
脚本:ニコラ・グアッリャノーネ、メノッティ
製作:ガブリエーレ・マイネッティ
製作総指揮:ヤコポ・サラチェーニ
撮影:ミケーレ・ダッタナージオ
編集:アンドレア・マグオーロ、フェデリコ・コンフォルティ
音楽:ミケーレ・ブラガ、ガブリエーレ・マイネッティ
出演:クラウディオ・サンタマリア、イレニア・パストレッリ、ルカ・マリネッリ
①出オチじゃないよ!
2016年のイタリア映画、日本公開は2017年。
いかにも、出オチか!ってタイトルですが、なかなか本格的な、面白い映画でしたよ。
むさ苦しいボンクラ童貞男エンツォが、警察に追われて川に飛び込んで不法投棄された放射性廃棄物に触れ、スーパーパワーを身につける物語。
彼が愛するのは、虐待を受けて心を病んだアレッシア。彼女は日本のアニメ「鋼鉄ジーグ」に夢中で、彼をジーグの主人公シバ・ヒロシに重ね合わせます。
しかし、凶暴なジンガロがスーパーパワーの秘密を狙って、エンツォに迫ってきます…。
ボンクラ男が超人的能力を得てヒーローになる、要は「キックアス」系映画です。
主人公がむさ苦しいオッサンであるところが特徴で、どこか田舎くさい、いなたい暗さがあるのがイタリア映画らしさでしょうか。
ハリウッドのアメコミ映画のような洗練された派手さはないけれど、望まずしてパワーを得てしまったはぐれ者の苦悩は、ヒーローもの本来のテーマとも言えます。まさに、仮面ライダーの旧1号シリーズのような。
ハリウッドではむしろ描けない、原典の魅力に満ちたヒーロー映画とも言えるんじゃないでしょうか。
②「鋼鉄ジーグ」について
「鋼鉄ジーグ」は1975年から76年にかけて放送された、永井豪原作によるロボットアニメです。
ハニワ幻人の侵略から地球を守るため、サイボーグに改造された司馬宙が磁石で合体するロボット鋼鉄ジーグとなって戦います。宙と書いてヒロシと呼ぶの、当時としては結構キラキラ的ネーミングかも。
宙がサイボーグに変身して、クルクルっと回転したら頭部になって、体の各パーツが飛んできて磁石でくっついてロボットになります。
バラバラのパーツが磁石で合体してロボットになるのが、おもちゃでも人気だった鋼鉄ジーグ。
この路線は「マグネロボ ガ・キーン」へと引き継がれていきます。
「グレンダイザー」がフランスで人気だったり、「ボルテスV」がフィリピンで人気だったり。
そのパターンで、イタリアでは「鋼鉄ジーグ」なんですね。
どこも「視聴率50%超」とかの熱狂的な人気なんですが、国ごとに番組が違うのが面白いですね。
微妙に国民性と合致したりしなかったりがあるのかも。
あるいは、当時の日本のアニメの水準が高すぎて、たまたまその国でやってた作品がどハマりするのか。たぶん、当時は日本以外にはこの手のアニメないですからね。
考えてみれば、僕らの世代はそんな作品群を毎日浴びるように観られたわけで。贅沢なことだったのかもしれない。
本作では「鋼鉄ジーグ」への愛情が至るところに詰め込まれていて、アレッシアが熱心に観ているし、ポスターとかも随所に登場します。
エンドクレジットは、テーマソングのイタリア語版。主人公を演じた俳優が歌ってます。
タイトルも、なんか不自然な日本語タイトルで「ん?」となるんですけど、これ劇中にそのまま日本語で登場するんですよね。一生懸命に日本語にこだわった感。とにかく闇雲なリスペクトと「ジーグ愛」に満ちていて、微笑ましい気分にさせられます。
③キャラ立ちの良さと適度な泥臭さ
お話はベタだと思うし、決して予算も潤沢ではないと思いますが、キャラがきちんと立っているのが良いですね。
プリンとエロDVDを愛するむさ苦しい童貞男に、ついつい感情移入してしまう。
後半になるにつれ、どんどん応援したくなってきます。
ちょっとおかしくて、美人とも言えないヒロインも観ていくうちに魅力が増していくし、チンピラのイカれた頭目から狂気のヴィランへと劇中でジョブチェンジする悪役も実に楽しいです。
主人公とヒロインと宿敵の三者が常に明瞭で、最後までブレないのも清々しい。
シリアスで格好良くて燃えるんだけど、悪役の野望が基本的にはYouTubeで有名になることだったり、満を持して登場するジーグが「手編みのニット」だったり。
突き抜け過ぎない微妙なダサさが、逆に荒唐無稽なストーリーを地に足付けさせていると言えます。
絵空事の世界を存分に楽しむマーベルやDCのヒーロー映画も楽しいけれど、地に足のついた、泥くさい等身大のヒーローものも魅力があります。
「鋼鉄ジーグ」は永井豪だけど、期せずして石ノ森章太郎的ダークヒーローの世界にもなってる本作。一風変わったヒーロー映画として、おすすめです。