Halloween Ends(2022 アメリカ)
監督:デヴィッド・ゴードン・グリーン
脚本:デヴィッド・ゴードン・グリーン、ダニー・マクブライド、ポール・ブラッド・ローガン、クリス・バーニエ
製作:ジェイソン・ブラム、ビル・ブロック、マレック・アッカド
撮影:マイケル・シモンズ
編集:ティム・アルヴァーソン
音楽:ジョン・カーペンター、コーディ・カーペンター、ダニエル・デイヴィス
出演:ジェイミー・リー・カーティス、アンディ・マティチャック、ウィル・パットン、ローハン・キャンベル、カイル・リチャーズ、ニック・キャッスル、ジェームズ・ジュード・コートニー
①「THE END」までの経緯その1
2019年10月31日の夜。ベビーシッターに雇われた青年コーリー・カニンガム(ローハン・キャンベル)は少年のいたずらから、彼の事故死を招いてしまいます。2022年10月、ローリー・ストロード(ジェイミー・リー・カーティス)はマイケル・マイヤーズを恐れるのをやめて、普通の暮らしを営んでいました。ローリーの孫娘アリソン(アンディ・マティチャック)は、無罪になったものの町中から白眼視されるコーリーに出会い、接近していきますが…。
「ハロウィン」(2018)、「ハロウィンKILLS」(2021)に続く、デヴィッド・ゴードン・グリーン監督による現代版ハロウィン3部作の3作目、完結編。
この3部作は、1978年のホラー・クラシック、ジョン・カーペンター監督による「ハロウィン」のストレートな続編になっています。
1978年版でマイケル・マイヤーズに追い回される少女ローリーを演じたジェイミー・リー・カーティス(「エブエブ」でアカデミー賞!)が、40年経って屈強なばあさんになった同役を再演。
「40年後のローリー・ストロードvsマイケル・マイヤーズ」を描く3部作です。
ハロウィン(1978)とハロウィン(2018)の間には、実に9作にも及ぶ続編やリブート作があるのですが、それらはすべて「なかったこと」になってます。
なので、もし「ハロウィンTHE END」のために予習しようと思うのであれば、
「ハロウィン」(1978)
「ハロウィン」(2018)
「ハロウィンKILLS」(2021)
の3作を観ればOKです!
②「THE END」までの経緯その2
と言いつつ、3本も観てられない!という人も多かろうと思うので、とりあえずこれまでの流れをおさらいしておきます。
それぞれのネタバレしてるので注意。
1963年のハロウィンの夜、6歳の少年マイケル・マイヤーズが、姉を包丁で刺し殺し、精神病院に送られます。
1978年のハロウィンの夜、精神病院を脱走したマイケル・マイヤーズは故郷ハドンフィールドの街に帰ってきます。マスクを被ったマイケルは若者たちを次々と殺し、偶然目をつけたローリー・ストロードをしつこく追い回します…。
ローリーを襲ったマイケルは逮捕され、その後40年に渡って精神病院に収容されていましたが、2018年10月に脱走。再びハドンフィールドへ向かいます。
一方、ローリー・ストロードはいつかマイケル・マイヤーズが戻ってくるという強迫観念に取り憑かれ、家を要塞化し、武装して暮らしていました。街の人々はローリーを変わり者扱いして嘲笑しています。
ハロウィンの夜、遂にマイケルがやって来て、ローリーは娘カレン、孫娘アリソンと共に立ち向かいます…。
2018年のハロウィンの夜、マイケル・マイヤーズはローリーの家もろとも炎に包まれ、ローリーは病院に収容されます。しかしマイケルは消防士を皆殺しにして脱出します。
マイケルとの戦いはハドンフィールド全体へと拡大し、人々は集団でマイケルに対抗しますがそれでも倒すことはできません。攻防の中で、カレンが命を落としてしまいます。
というわけで、「ハロウィン」(2018)と「ハロウィンKILLS」(2021)は同じ夜の完全に連続した出来事を描いています。
また「ハロウィンKILLS」は前作をスケールアップした内容になっていて、殺人鬼との戦いは街全体へと拡大。
マイケル・マイヤーズはいよいよ人間離れした不死身の怪物と化していました。
なので、完結編となる3作目は、当然更にエスカレートしていくのだろう…と予想していたんですよね。
ところが…驚くべきことに、全然予想と違ってた!
「ハロウィン THE END」は、かなりの「思ってたのと違う」案件でした。
全然エスカレートしていない。むしろ、よりミニマムな方向へ向かってる。
連続性も断ち切れていて、前回の出来事からも4年経ってる。
特に「ハロウィンKILLS」とはかなり方向性が違ってて。
とりあえず言えるのは、予定調和じゃない。非常に意外性はあったということは確かですね。
それが良かったのかどうかはさておき!ですが。
③じっくり描かれる人間ドラマ
今回の物語は2019年から始まります。
…なんだけど、前回の物語が何年の設定だったか?とか覚えてないのでね。これがどういう時間軸なのか、よくわからなくて戸惑います。
(「KILLS」の1年後ということになります。)
ベビーシッターを任された青年コーリーが、少年と一緒にテレビで「遊星からの物体X」を観てるけど、やがて悲劇的な出来事が起きる。
このシーンは、何重にも1978年版へのオマージュになってますね。
アバンタイトルで、数年前の出来事を描くこと。
ハロウィンの夜に、ベビーシッターの若者がひどい目に遭うこと。
「性悪な少年」が出てくること。
テレビで「遊星からの物体X」を観てること。(1978年版では、「遊星よりの物体X」(1951)でした。それをジョン・カーペンターがリメイクしたのが「遊星からの物体X」(1982)です。)
それから更に3年経って、映画は2022年へ。
子供を死なせてしまったコーリーは過失で無罪になりましたが、町中から「子供殺し」として罵声を浴びています。
ローリーは以前までの過剰な戦闘態勢をやめ、通りに普通の家を構えて、自叙伝を書いて過ごしています。
その孫娘のアリソンは看護士をして働いていますがいろいろと上手くいかず、世間の注目を浴びるコーリーに自分と似た境遇を感じて、接近していきます…。
…という人間ドラマが、じっくり、ゆっくり描かれていきます。
それはいい…のだけどね。マイケル・マイヤーズは一向に出てこない。
やっぱりこちらとしては、それを期待して観てるのでね。だんだん、まだかな…という気分になってきます。
コーリーはいじめっ子に絡まれ、酷い暴力に晒されます。
アリソンとデートしたら、かつて死なせた少年の母親に見つかってしまって、罵倒されたり。
苦悩するうちに、下水道でマイケル・マイヤーズに出会った彼は、次第にその力に魅了されていきます…。
というわけで、ようやく登場したマイケル・マイヤーズですが。
恐怖の殺人鬼というよりは、コーリーに影響を与える象徴的なメンターのような存在になっています。
物語の主体はコーリーで、マイケルはサブ的な存在でしかないんですね。
④大衆の心理に闇を見るテーマ性
デヴィッド・ゴードン・グリーンのハロウィン新シリーズ、これまでも意外とメッセージ性が強い。「言いたいことのある映画」なんですよね。
2018年版では、恐ろしい犯罪がトラウマとなって、数十年にも渡って人生を支配してしまうことが描かれていたし。
前作「KILLS」でも、町の人々が群集心理で暴走して、マイケル以上の脅威になってしまう…なんて展開がありました。
そうしたテーマを受けて本作で描かれるのは、多くの人々の中にある憎しみや差別の心が、更なる邪悪を生み出していくという負の連鎖。
真に怖いのは単なる一人の狂った犯罪者ではなく、そこから影響を受けて闇を育ててしまう人々の心理なのだ…といったところでしょうか。
伝説の殺人鬼のレガシーを受け継いで、新たな後継者が誕生する。…という点では、「新・13日の金曜日」みたいなテイストもあるでしょうか。
40年も経ってて、さすがにマイケル・マイヤーズも老人ですからね。
ハドンフィールドの人々が自分たちの悪意によってコーリーを追い込み、新たなマイケル・マイヤーズを生み出してしまう…という筋立ては、確かに納得のいくところではあります。
…なんだけどね。後から考えればね。
理屈はわかるのだけど、コーリーの話が延々と続いちゃうのは、やっぱり観ていて少々しんどかった…というのが正直なところです。
これやっぱり、前作のミスリードというのが大きくて。
「KILLS」は1作目のそのままの続きで、勢いでエスカレートさせていく映画だったから、マイケル大暴れを期待して待っちゃうんですよね。
そうしたらなかなか出てこないし、やっと出てきたら老人でヨレヨレ。
なんかいろいろ、噛み合わせが悪い感じです。
⑤シリーズを終わらせることに真摯に取り組んだ映画
で、そういうフラストレーションに答えようと思ったのか。
このままコーリーの話で走り切るのかと思いきや、意外とあっさりコーリーは退場。
お約束のように、最後はローリー対マイケルのタイマン勝負になります。
そこは迫力あって、良かったんですけどね。テーマ的には、結局中途半端になってしまった感も。
シリーズものって、難しいですよね。同じことの繰り返しだとマンネリと言われるし。
かと言ってあまりにも違うことをすると、コレジャナイと言われてしまう。
でも、同じであるならそれこそ元の映画を観ればいいのだし、新たな試みを盛り込むのは歓迎すべきことと思います。
だから、本作のチャレンジも、基本的には支持したい…とは思うんですよね。
本作は実際、かなり冒険的な作風で、観客の求めるものをいちいちあえて外してある。
最強の殺人鬼マイケルは弱々しくて、全然ブギーマンじゃないし。
2018年版であんなに強くてパワフルだったローリーも、年相応に落ち着いて自叙伝なんて書いてる。
「KILLS」で超常的なレベルまで上げておいて、いきなりみんなが現実的な地平に着地している。
ホラー・レジェンドとして膨れ上がったマイケル・マイヤーズのファンタジーを、あらためて現実的な「普通に老いて死ぬ人間」に引き戻し、ヒーローのように悪を期待してしまう人々の思いごと、粉砕する。
劇中で行われたそのような取り組みを、外枠の映画の上でも行っているような。
言うならば、ハロウィンというシリーズそのものへの、引導。
「シリーズを終わらせる」ということを真摯に考え抜いたことが伝わる作劇で、誠実な作り方だと思います。まさに「ハロウィンends」ですね。
特に最近は、人気がある限り永久に続くとか、興収が悪いと話が途中でも容赦なく打ち切られて尻切れとんぼになるとか、よくあるのでね。「きちんと話をまとめる」ことに取り組んでるのは、好感が持てるのです。
それだけに…ドラマがもうちょっと面白ければなあ…。
コーリーに魅力がないんですよね。アリソンにもいまいち共感できないし。
結局記憶に残るのは終盤の派手な殺戮シーンなので、思い切った取り組みが成功していたとは言い難い。
でも本当、意欲的な映画だったと思います! 惜しい!って感じ。
上のが1978年版。
で、こちらが2018年版。ぱっと見にはどっちか分からない。タイトルにはやっぱり、問題ありだと思う。
で、こちらが2021年の2作目です。
Discover usという映画マガジンでも映画の記事を書いています。よろしかったらこちらもどうぞ。