Halloween(1978 アメリカ)
監督:ジョン・カーペンター
脚本:ジョン・カーペンター、デブラ・ヒル
製作:デブラ・ヒル
製作総指揮:アーウィン・ヤブランス
撮影:ディーン・カンディ
編集:チャールズ・バーンスタイン、トミー・リー・ウォレス
音楽:ジョン・カーペンター
出演:ドナルド・プレザンス、ジェイミー・リー・カーティス、P・J・ソールズ、ナンシー・キーズ、チャールズ・サイファーズ、トニー・モラン、カイル・リチャーズ
①新作と旧作の関係についておさらい!
2021年10月29日公開の「ハロウィン KILLS」は、2018年公開の「ハロウィン」の続編です。
そして、2018年公開の「ハロウィン」は、1978年公開のジョン・カーペンター監督作品「ハロウィン」の続編です。
もうこの時点で既にややこしい!のですが、2018年版の「ハロウィン」は1978年版のリメイクではなく、リブートでもなく、1978年版のストレートな続編です。
1978年版でヒロインのローリー・ストロードを演じたジェイミー・リー・カーティスが、40年後の同役を演じました。40年前に出現した殺人鬼が帰ってきて、老いたローリーが娘と孫と共に立ち向かうお話です。
なんでリメイクじゃないのに同じタイトルにしたのか…いちいち区別するのが煩わしい!
ネットで検索しようとしても、両方の映画の情報が入り混じってしまって非常に鬱陶しい!
「ハロウィン」(2018)はなかなか面白い映画だったのでね。わざわざこんな紛らわしいタイトルにしなくても…とそれだけが不満だったのでした。
というわけで、今回はオリジナルの方。
「もっとも稼いだ低予算映画」といわれるジョン・カーペンター監督の出世作。1978年版「ハロウィン」レビューです。
②多彩なアイデアで見せる導入部
1963年のハロウィンの夜、イリノイ州ハドンフィールドで、マイヤーズ家の娘ジュディスが包丁で殺されます。殺したのは6歳のマイケル・マイヤーズでした。
15年後の1978年10月30日、マイケルは精神病院を脱走。マイケルの主治医ルーミス(ドナルド・プレザンス)はハドンフィールドへ向かいます。
その翌日、ハドンフィールドに住むローリー・ストロード(ジェイミー・リー・カーティス)は、じっと見ている謎の男に気づきます…。
その後に無数のフォロワー…というか模倣作を生んだ「ハロウィン」ですが、見直すとあらためて模倣作にはない面白さに気づきます。
いわゆるスラッシャー映画…マスクの殺人鬼が十代の浮かれた若者たちを次々と殺していく…の多くに付き物の「段取りのつまらなさから来る拭えない退屈さ」が、「ハロウィン」にはない。
そこは映画達人のカーペンターが、非常に多彩なアイデアを投入していて。殺人が起きていない時間も飽きることのない工夫を凝らしています。
例えば冒頭の長回し。緊張感が途切れない、殺人者視点の途切れないワンカット。
「ミッドナイトクロス」でブライアン・デ・パルマがパロディにしてましたね。ついつい映画人が真似したくなる。
昼の間は、「ストーカーモノ」なんですよね。生垣の影とか家の前に、マイケルがのそーっと無言で立ってるのが何だか分からないけど怖い、という。
真意の分からない相手に、一方的にじっと見られる落ち着かなさ。別にまだ何もされていないのに、やたらと不安を掻き立てられてしまいます。
「家の前に誰かが無言で立ってる恐怖」はジョーダン・ピールの「アス」に通じます。
ローリーを視点に、女子高生の日常を描く序盤が単調にならないよう、随所にマイケルの視点、それを追うルーミスの視点を挟んで、メリハリをつけていく。
それにもちろん、カーペンター自ら作曲のスコアの力も大きいですね。
演出する人が同時に音楽も手がけているから、心理的な盛り上げに音楽がぴったりハマるんですね。
③ティーンエイジャーに向けた性のメタファー
軽い女の子(と男)から殺されて、身持ちの固い処女の女の子が生き残る。これも「ハロウィン」が作った王道パターンですね。
だから、スラッシャー映画は割と教訓的だったりもする。まあ多分に、エッチなシーンを入れるための方便なんだけど。
本作のローリーは特に真面目さが強調されていて、マイケルに重ねられているセックスの暴力性は割と露骨です。
ローリーは常日頃から性への憧れと不安の両方を抱いていて、周囲の奔放な友達にも羨望と軽蔑を同時に抱いている(そして、それを割と見抜かれている)女性です。
そんなローリーが、不安の方の極北である、「無言で家に押し入ってきて容赦なく(ナイフを)挿入する男」に直面させられることになります。
ローリーとアニーは共にベビーシッターの役を与えられていて、そこでも不真面目なアニーと真面目なローリーの対比は明瞭です。
ベビーシッターだから家には子供がいて、ブギーマンが狙うにはうってつけのようなんだけど、マイケル・マイヤーズは子供には一切興味を示さないんですね。彼が殺すのはティーンエイジャーのみ。
本作の世界では子供は脇役で、おとなしくテレビで「遊星よりの物体X」を観てるだけです。
わざわざ映し出されるこの映画のタイトルシーンは、後にカーペンターがこだわりまくって再現することになります。
これはもちろん本作がターゲットをティーンエイジャーに絞ってるからですね。子供が襲われて怖がるのは親世代だけ。ティーンエイジャーは別に痛くも痒くもない。
同世代の若者たちが殺される様を見ることによる、死の疑似体験。
若者にとって遥か遠くにある「死」を、ホラーを通して一瞬身近に感じることができる。そのヒヤッとするスリル。
ホラー映画やお化け屋敷に若者が惹かれる、その原初的な機能に忠実な作りであると言えます。
本作に登場する二人の子供のうち一人、リンジーを演じたカイル・リチャーズは、「ハロウィン KILLS」に同じリンジー役でキャスティングされてますね。
当時9歳。今は52歳。こういうびっくりするようなことができるのも息の長い作品ならではですね。
④象徴に満ちたクライマックス
本作でファイナル・ガールとなるジェイミー・リー・カーティスは、ホラー映画のアイコンとなって、スクリーミング・クイーンの称号で呼ばれることになります。
彼女は「サイコ」の元祖スクリーミング・クイーン、ジャネット・リーの娘です。
この辺も、カーペンターがオタク的にこだわったキャスティングっぽいですね。
ローリーとマイケルの対決は、本来なら安全な場所であるはずの「自分の家の中」で行われます。
自分の家の団欒の場であるリビングから、奥へ奥へと追い込まれて、もっとも安全であるはずの自分の寝室へと追い詰められていく。
最後、ローリーが立てこもるのは「クローゼットの中」なんですね。
アメリカの子供たちが共通の幼児体験として持っている、「クローゼットの中のおばけ(ブギーマン)」に怯えた記憶を、反転させて体験する。そういうシーンになっています。
殺人鬼マイケルが「子供からの呼び名」としてブギーマンと呼ばれるのは象徴的です。
ローリーは必死で抵抗するけれど、マイケル/ブギーマンを撃退することはできない。
駆けつけてマイケルを撃退するのはルーミス医師。ローリーの父親のようなイメージを与えられた「大人の男性」です。
これは、女の子を脅かす「男」を、お父さんが撃退するという構図ですね。むしろ保守的、道徳的なのです。
しかし、2階の窓から覗いて見ると、落ちたはずのブギーマンは消えている。
女の子を脅かす「男」はこれで終わりじゃない。これからも何度も繰り返し現れるのだ…という、これは象徴になっています。
つまり、ここでは女性の視点であると同時に、父親視点…良識ある大人の視点になっています。
だから映画を観る若者は、往々にして殺人鬼の側に感情移入して、応援したりもするんですよね。そっちの方が、近いから。
そうして、脅かされる女の子でなく、怪物を倒すヒーローでもなく、マイケルやジェイソンやフレディのような殺人鬼の方が主人公となって、延々とシリーズが作られ続けていくことになるわけですね。
⑤シリーズについて解説!
大ヒットした「ハロウィン」は、例によって続編がいっぱい作られています。
「ハロウィンII(ブギーマン)」(1981)は前作同様ジョン・カーペンターとデブラ・ヒルの脚本。ドナルド・プレザンスのルーミスとジェイミー・リー・カーティスのローリーが続けて出ています。
前作ラストで姿を消したマイケルに、ここで決着がつけられることになります。
「ハロウィン3」(1983)は全然別のストーリーで、マイケル・マイヤーズもローリーもルーミスも出ない番外編。
製作のジョン・カーペンターとデブラ・ヒルはマンネリを嫌い、本シリーズを「ハロウィンに関わる毎回新基軸のホラーストーリー」にすることを意図しました。
しかし本作は興行的に失敗。以降は、不死身の殺人鬼マイケル・マイヤーズが活躍するシリーズに戻ることになります。
「ハロウィン4ブギーマン復活」(1988)では、2で死んだはずのルーミスとマイケルが復活。ローリーの遺児ジェイミーが登場します。ジョン・カーペンターとデブラ・ヒルはここでシリーズから離れています。
「ハロウィン5ブギーマン逆襲」(1989)では、ルーミスとジェイミーが引き続き登場。
「ハロウィン6最後の戦い」(1995)はドナルド・プレザンスの出演最終作で、ルーミスとマイケルの長い因縁に決着がつけられます。…ってそれも何回目だ。
「ハロウィンH20」(1998)は20周年記念作として、ジェイミー・リー・カーティスのローリーが復活。
3から6までのシリーズがなかったことにされ、「ハロウィンII」の続編として作られています。
「ハロウィン レザレクション」(2002)は前作の続編ですが、ローリーはゲスト的な出演で、冒頭でマイケルに殺されて退場してしまいます。
「ハロウィン」(2007)はロブ・ゾンビ監督による1作目のリメイク。
マルコム・マクダウェルがルーミスを、スカウト・テイラー=コンプトンがローリーを演じました。
その続編に「ハロウィンII」(2009)があります。
そして、これまた2以降のすべての作品をなかったことにして、ジェイミー・リー・カーティスが40年後のローリーを演じたのが「ハロウィン」(2018)。
その続編が今度の「ハロウィン KILLS」ということになります。
このシリーズは更に「ハロウィン Ends」に続くことが予告されています。
というわけで、シリーズを整理すると、いくつかのグループに分類出来ることが分かります。
ドナルド・プレザンスのルーミス医師を主役とするのが、「ハロウィン」(1978)→「ハロウィンII」(1981)→「ハロウィン4」(1988)→「ハロウィン5」(1989)→「ハロウィン6」(1995)という流れ。
オリジナルから20年後のローリーに続くのが、「ハロウィン」(1978)→「ハロウィンII」(1981)→「ハロウィンH20」(1998)→「ハロウィン レザレクション」(2002)という流れ。
ロブ・ゾンビ版の2作と、「ハロウィン3」(1983)は独立した作品群と言えます。
そして、オリジナルから40年後のローリーに続くのが、「ハロウィン」(1978)→「ハロウィン」(2018)→「ハロウィン KILLS」(2021)という今回の流れ…ということになります。
というわけで、最新作のためには「1978年版」「2018年版」の2つを観てればOKです。変に途中のを観るとかえって訳が分からなくなりそう。
…って、もちろん全部観るのも自由ですけど!
こちらが1978年版。
こちらが2018年版。難しいよ!
「ハロウィンII」は、日本公開時のタイトルは「ブギーマン」。これまた絶妙にややこしい…。