少女は卒業しない(2023 日本)

監督/脚本:中川駿

原作:朝井リョウ

製作:宇田川寧、藤本款

撮影:伊藤弘典

編集:相良直一郎

音楽:佐藤望

主題歌:みゆな「夢でも」

出演者:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真、藤原季節

①静かで、グッとくる青春映画

卒業式前日。山城まなみ(河合優実)は卒業式で答辞を読むことになっています。彼女は駿(窪塚愛流)に弁当を作るのが習慣です。女子バスケ部長の後藤(小野莉奈)は東京への進学が決まっていて、地元に残る寺田(宇佐卓真)との仲は気まずくなっています。軽音楽部の神田(小宮山莉渚)は卒業式後のライブの準備をしていますが、森崎(佐藤緋美)のエアバンドがネタでトリに選ばれたのが悩みの種です。作田(中井友望)はクラスに馴染めず、図書室の管理をする坂口先生(藤原季節)に淡い恋心を抱いています。皆がそれぞれ心に想いを抱えた中で、卒業式の日がやって来ます…。

 

「桐島、部活やめるってよ」「何者」朝井リョウの連作短編集を映画化。

「サマーフィルムにのって」「愛なのに」河合優実が初主演。

「アルプススタンドのはしの方」「銀平町シネマブルース」小野莉奈「ヤクザと家族」小宮山莉渚「かそけきサンカヨウ」中井友望が共演。

監督は、これが長編初監督となる中川駿

 

非常に静かな映画

淡々と、日常を切り取った自然な会話の積み重ねで進行していきます。

登場人物が多い群像劇で、高校生の日常、飾らない日常の会話の中に、大事なこと…ストーリーが埋め込まれている構成です。

説明は最小限に、やり取りの中で自然に関係性を分からせていく。

だから、最初のうちは特に、物語の骨格を掴むのに苦労するかもしれません。

 

でも、時間と共に関係性が飲み込めてくると、すごく没入していきます。

感情移入して、心が揺さぶられる。

卒業式へ向かう二日間に凝縮していることで、一回きりの青春の切なさ、かけがえのなさが心に強く刻まれる。

そんな、グッとくる青春映画になっていました。

 

②恋愛と同じウェイトで描かれる友達関係の良さ

まなみ(と駿)の話。

後藤(と寺田)の話。

神田(と森崎)の話。

作田(と坂口先生)の話。

それぞれ等身大の高校生を描きつつも、違ったタイプのストーリーになっているので。

どのお話が好きか…は、観た人によって別れるかもしれませんね。

 

それぞれの主人公にはそれぞれの友達がいて、それぞれの小さな(だけど親密な)世界を形作っている。

そこも、魅力的なんですよね。友達と過ごす高校生活の心地良さが、ついつい懐かしいものとして響いてしまいます。

(これによって、更に登場人物は増えてしまうのだけれど)

 

後藤は特にずーっと親友の子(坂口千晴)と一緒にいて、しんどい時に笑わせてくれる。この二人の空気感が全体に続くことで、重いところもある本作の空気を軽く明るいものにしています。

でも、この関係にしても、卒業と共に変わっていくんですよね。

 

神田は後輩の女の子とのやりとりがあって、その中で隠していた自分の気持ちに気づいていく。

まなみはしっかりした強い女の子というイメージだけど、それだけに、いちばん辛い時に側にいてくれる友達の存在が大きいものになっています。彼女も一人じゃなくて良かった。

作田はぼっちなので友達がいないのだけど、坂口先生のアドバイスで、最後の最後に一歩踏み出すことができる。

 

恋愛がすべてではなくて、恋愛と同じくらいのウェイトで、友達関係の良さが描かれているんですよね。

それも画一的じゃなく、それぞれの個性に合った形で。とてもリアルだし、本作の魅力になっていると思います。

③意外性と切なさをもたらす2つのミステリ要素

基本的には時系列通りに、卒業式前の二日間を描いていく本作。

でも一箇所だけ、時系列通りではない場所があるんですね。

そこが、本作におけるミステリ要素になっている。

驚きと意外性、そして悲痛な切ない思いをもたらすものになっている。その構成も巧みでした。

 

ミステリ要素といえばもう一つあって、それが軽音楽部の森崎に関するもの。

中二病全開の奇妙なエアバンドをやってる森崎の、本当の姿を神田だけが知っていて。

森崎のことを自慢したいという思い、でも隠しておきたいという思い。神田の複雑な思いが最後の「ミステリ的な種明かし」と共に伝わって。

意外性が気持ちいいと共に、やっぱり切なさを感じるものになっています。

 

焦点となる森崎が、動じないのがいいですね。

彼はたぶん、それでもなお本当はエアバンドの方がやりたかったりするんだろうなあ…と思える。

媚びてなくて個性的なのと、単純にアホなのは紙一重…ですけどね。こういう男子もいますよね。

 

でも、「ダニーボーイ」良かったなあ。

これも、あえて美声とか技巧が凄いとかではなくてね。

生徒たちにとっては「あの森崎が」で感動する歌だし、観客にとっても。

しっかりとここまでの物語を追ってきて、森崎と作田を知って感情移入して、その上で初めて感動する歌ですからね。

これ見よがしでない演出が、素敵だったと思います。

④別れと旅立ちというテーマ

彼氏との別れ。好きだった先生との別れ。高校生活との別れ。

校舎は壊されることになっていて、学校そのものとの別れでもある。

別れは、本作の大きなテーマです。

というか、卒業をテーマにする以上、当然そうなるわけだけど。

 

進路に伴う別れだったり、淡い恋心への別れだったり。

それぞれの別れは、その重さも様々です。

もっとも重いのは、死別ということになるわけで。そこはどうしても、重苦しいトーンになってくるのですが。

 

それでも、ただ暗いだけにならないのは、卒業に伴う別れには旅立ちという側面もあるから…ですね。

皆それぞれに、少女だった自分に別れを告げて、大人として新しい世界へ踏み出していく。

「少女は卒業しない」というのはそこなのかな。

⑤説明しないことの魅力

初監督作品ということもあってか、ぎこちないところも目につく映画ではあります。

序盤のわかりにくさはやはり欠点だし、ラストにはやや歯切れの悪さを感じた。

でも、その上でなお情熱を感じるいい映画だと思ったし、ノスタルジーを感じる我々世代ではなく、より当事者に近い若い世代に観てほしいと感じました。

 

本作は、説明しない映画なんですよね。ある意味、不親切。

説明してくれないから、じっくり集中して、行間を読み取らなくちゃならない。

心情を想像して、解釈して。ただ受け身でいるだけじゃなく、自分で考えなくちゃならない。

 

そこが、良いなあと思ったんですよね。

何かと説明過剰だったり、親切すぎるものに溢れているから。

若い人にこそ、読み取る楽しさを感じてほしいなあ…などと思ったのでした。

 

 

 

群像劇ですが、河合優実はやはり群を抜いた存在感でしたね。以下、彼女の出演作品たち。