銀平町シネマブルース(2022 日本)
監督/編集:城定秀夫
脚本:いまおかしんじ
製作:久保和明、秋山智則
撮影:渡邊雅紀
音楽:黒田卓也
出演:小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、日高七海、中島歩、黒田卓也、木口健太、小野莉奈、さとうほなみ、片岡礼子、藤田朋子、浅田美代子、渡辺裕之
①既視感は拭えない映画
一文無しの青年・近藤(小出恵介)は、映画好きなホームレスの佐藤(宇野祥平)と映画館主の梶原(吹越満)に出会い、古い映画館「銀平スカラ座」で住み込みで働き始めます。映画館に集まって来るちょっと変わっているけど優しい人たちとの交流を通して、近藤は自分自身の過去と向き合っていきます…。
…という映画。なんか、あらすじ書いた時点で既視感満点というか。
正直、相当に使い古されたパーツで構成された映画ではあると思います。
全体を通して、温かく優しい、ゆるい空気が流れていて。
出てくる人は基本善人ばかりで。
古い映画館へのノスタルジックな気分と、映画館で観る映画それ自体の癒し効果が、「なんだかよく分からないけど、いいもの」として描かれていく。
とても心地よかったし、好きな世界だし、出てくる人はみんな好きになったし。面白かったとは思うんだけど。
最後まで既視感は拭えなくて。
そこから更に先に突き抜けるような、この映画ならではの個性はちょっと薄かった…かな。
②大事にならない映画
基本的に、「大事にならない映画」です。
主人公は最初、友人からの借金も断られ、一文無しで泊まるところもない…のだけれど、悩む間もなくどうにかなります。
バッグを盗まれても、「ごめんごめーん」って感じで戻って来る。
ホームレスに生活保護を受給させて騙し取る悪者は出てくるけど、それにしたってそこまでの大事にならない範囲で収まる。
主人公が境遇について誤解されるという展開があるのだけど、それもじきに穏当に解けて問題にもならない。
主人公が人生から逃げてしまったトラウマや、奥さんや娘とのいきさつにせよ、特に誰かが感情を昂らせることもない。
極めて穏やかに、優しく緩やかに解決していきます。
これをどう受け取るか、でしょうね。
ヌルい、と感じるところは否めない。浅いというか、突っ込みが足りない歯痒さは正直、ずっと感じました。
それぞれ、深刻な問題でもあるだけにね。
友人の自殺にせよ、奥さんと子供を放置しての遁走にしても、もっとシリアスに向き合うべき問題だし、それぞれが抱える感情はそれでは済まないんじゃないの?という気はしました。
経済的な問題にしても。金がないとか、借金抱えてるとかいうのは、そう簡単にサラーっと流せる問題ではないんじゃないかな。
映画館が立ち行かない…のもね。一日のイベントでお客が入ったところで、どうにもならないんじゃないのかなあ…とか。
いろいろと、「甘い」のではないかなあ…という思いは、結構映画全体を通してついて回る感じでした。
③でも、優しさは心地良い
…なんだけどね。それはそれとして。
かと言って、深刻ぶって終始怒鳴り合ってるような映画が観たいわけでもないし。
深刻な問題もまあフワーッと受け流して、優しさの中でどうにかしていく本作のスタンスは、確かに心地よいものではありました。
近藤は逃げるのをやめて、映画を完成させ、元奥さんとも話し合い、死んだ友人の家も訪ねてきちんと向き合う。
映画館の苦境には、映画を好きなみんながそれぞれ協力してくれる。
生活保護詐欺にハマった佐藤も、近藤や梶原が親身になって助けてくれる。
みんなが普通に優しくて、疑ったり騙したりせず助けてくれて、結果みんなが笑顔になる。
考えてみれば、当たり前の話なんだけどね。それがなぜこうも、ファンタジーみたいに見えるんでしょうね。
ほぼ本編が終わった後、少し長めのエピローグがあります。
イベントを終えて、戻った日常。
相変わらずお客の来ない映画館。暇そうな従業員たち。
一人に戻った近藤が、冒頭と同じようにバッグ一つだけ持って、川沿いの道を歩く。
ここも、やっぱり何が起こるでもないんですけどね。
ここではむしろ、何も変わっていないことを見せていく。
梶原は借金抱えてるし、近藤は一人のままだし、日常はそれまで通りに続いていく…。
そういう肌触りで、あまりにも安易で楽天的に見えてしまうのを、回避しているのかな…という気がしました。
真意は分からないけど。ただ、このクールな感触のエピローグがあることで、映画の後味は地に足のつくものになっている。そんな印象がありました。
④魅力的な俳優たち
そこに説得力を与えていたのは、やはり達者な役者たちの力だったと思います。
本作が本格的な主演復帰作となる小出恵介ですが。
過去の不祥事で仕事を降りてしまって、ようやく復帰する…という役柄はそりゃもう感情移入できることでしょう。
たぶん、本人の方がずっと重いものがあったんじゃないかと思うけど。
吹越満の飄々とした雰囲気はそれだけで説得力があって。
借金と言いつつ気前良かったり、突然元弁護士だったりする都合の良さも、まあ彼ならしゃあないか…という気にさせられます。
映画館の二人、藤原さくらと日高七海の醸し出す空気感も良くて、スカラ座の心地良さを上手く補完してくれています。
「ビリーバーズ」「夜、鳥たちが啼く」の宇野祥平を始めとして、城定秀夫監督作品の常連俳優がのびのびしてるのもいいですね。現場のリラックス感を感じる。
「愛なのに」「よだかの片想い」「恋のいばら」の中島歩はすっかり城定組に欠かせない顔になった感があります。今回は思いっきり遊んでますね。
「愛なのに」のさとうほなみ、「夜、鳥たちが啼く」の藤田朋子、「恋のいばら」の片岡礼子、「アルプススタンドのはしの方」の小野莉菜と平井亜門なども再びの登場です。
ちょっと意外な起用は渡辺裕之で、彼の出てるシーンはとても印象的なのだけど。
本作のストーリーが、原因不明の自殺とその結果傷を負って残される人を描いてるだけに…本作にちょっと、意図しない別の意味合いを持たせちゃってる感はあります。
⑤「カサブランカ」はどうか?
…と、演出や演技では惹かれるところがあったのだけど、ストーリーには安易さを感じてしまうところが多々あって、それは最後まで気になってしまう。そんな映画でした。
葛藤が少なく、皆が底抜けに優しい…のは意図だとしても、細かいディテールの部分でも、こだわりを感じにくかったんですよね…。
「カサブランカ」とかさ。今の映画で、佐藤の年齢のキャラクターで、「カサブランカ」が思い出の映画ってことはないだろう…と思っちゃいますね。
著作権的に、都合がいいのは分かるけどね。「君の瞳に乾杯」とか「アズ・タイム・ゴーズ・バイ」とか要素も有名で使いやすいし。
でもそれだけにあまりにも使い古されてるし、あまりにもこだわりがないような。
もうちょっと、他にない表現にこだわって欲しかったなあ…と思ってしまったのでした。
月刊ペースで新作が登場する城定秀夫監督の前作。
宇野祥平出演、カルトの恐怖とエロ。
さとうほなみ、中島歩出演のR15作。
映画館の映画。タナダユキ監督のコメディ。
映画館の映画。山田洋次監督、沢田研二主演。