恋のいばら(2023 日本)
監督:城定秀夫
脚本:澤井香織、城定秀夫
製作:村田亮、柳井望
撮影:渡邊雅紀
編集:淺田茉祐花、早野亮
音楽:ゲイリー芦屋
主題歌:chilldspot「get high」
出演:松本穂香、玉城ティナ、渡邊圭祐、中島歩、北向珠夕、吉田ウーロン太、吉岡睦雄、不破万作、阪田マサノブ、片岡礼子、白川和子
①城定秀夫監督、早くも新作!
図書館に勤める桃(松本穂香)は、カメラマンの健太朗(渡邊圭佑)と別れたばかり。その新しい彼女であるダンサーの莉子(玉城ティナ)に会いに行き、ある相談を持ちかけます。それは、健太朗が撮った彼女のプライベートな写真を消去したいというもの。最初は相手にしない莉子でしたが、自分も撮影されたかもしれないことに気づき、桃に協力して健太朗の部屋への潜入を計画します…。
城定秀夫監督、ついこの間の「夜、鳥たちが啼く」で2022年の多作を話題にしたばかりだけど、早くも2023年の新作が登場。
この後も、2月には「銀平町シネマブルース」が公開予定。月刊だ。すごいペースですね。
こうなると質が心配になるところだけど、それぞれ違ったタイプの面白い映画になってるのはさすがです。
今回は香港映画のリメイク。
原作は「ビヨンド・アワ・ケン」(2004)という作品です。
元の映画は観てないので比較はできませんが。
ストーリーの運びにやや中国や韓国っぽい独特さは感じつつも、置き換えの不自然は感じない、自然なアレンジだったと思います。
ドロドロしそうな三角関係を描きつつも、カラッと乾いていてジメジメしない。
ユーモアがあって、ある種の優しさを感じるのは、城定監督らしいところだと思います。
②奥行きを感じる複雑な2人の主人公
本作は松本穂香、玉城ティナのW主演。
「君が世界のはじまり」「ミュジコフィリア」「“それ”がいる森」と個人的にはよく出演作を観ている松本穂香。
つい最近の今泉力哉監督作「窓辺にて」で、見事な存在感を見せていた玉城ティナ。
二人とも、実に魅力的でした。
図書館員で、地味で。ゆるく生きてるように見えて、でも思い込みは強そうで、自分の世界があちこちにゴツゴツとぶつかる桃。
ダンサーで、派手で、余裕があるように見えるけど、若干緊張感を持って生きているように見えて。意外と素直で幼い一面もあったりする莉子。
そして二人とも、すべてを正直に話してはいなくて、秘密を抱えている。
結局のところ、ドラマに引き込まれるかどうかの違いは、人物に奥行きがあるかどうか…ではないかな、と思います。
人物が平板だと、いくら分かりやすくても、やはり薄っぺらに感じます。現実の人間は、そうではないですからね。
地味なだけの人も、派手なだけの人もいない。皆が、それぞれの複雑さを抱えて生きている。
そんな複雑さをごちゃごちゃさせずに、分かりやすさもキープして、軽妙なユーモアを込めた会話の面白さで見せていくのが城定秀夫監督の得意技だと言えます。
③「クズ男」も見捨てない優しい眼差し
城定監督のインタビューによると、オリジナルの香港版とのいちばん大きな違いは「男の描き方」であるようです。
オリジナルでは、焦点となる男(「ビヨンド・アワ・ケン」ではケン)はストレートにクズに描かれていて、女の子二人による復讐劇がより爽快に感じられるようになっているようですね。
日本版の健太朗は単純な敵役のクズではなく、より複雑さを持った人物になっています。
浮気っぽく、付き合った女性のヌード写真をトロフィーみたいにコレクションするのは変態的で、実際こっぴどくやり込められるのですが。
でも一方で、仕事での真摯な姿勢とか、認知症のおばあさんとの暮らしぶりなど、好感の持てる人物としても描かれています。
そこはやっぱり、ここも人は一面だけじゃない、という描き方が一貫されていて。
特に近頃、一度失敗した人は死ぬまで弾劾されがちな風潮ですからね。(特に性的なところで責められた人は)
クズ男でも救いを用意する、基本的な優しい眼差しは、これも城定監督の諸作に共通するところだと思います。
浮気性であったり、女性を傷つける男を物語の中でどう扱うか…というのは、今日では難しい問題になってきています。
でもやっぱり、「100%クズな男」と「クズでない男」がいるわけではなくて。
誰でも、いくらかはクズな部分を持っているものだし、善人と悪人に単純に断罪できるわけではない。
そんな世界の複雑さは、常に忘れないでいたいものです。
④「いばら姫」のファンタジーが彩る優しい世界
そんなふうに多面性を表現しているので、本作は少しふわっとした曖昧な着地になっています。
単純な勧善懲悪の、スカッとする爽快感はやや薄い。
でもその分、一筋縄ではいかない人間の面白さはじっくりと伝わってきます。
桃と莉子の関係も、友情なのか、恋愛感情なのか。どっちとも取れるような、どっちでもないような、曖昧な着地点。
でもそこが、リアルなんですよね。人と人との関係って、一概に断定できるものではないですからね。
また、全体を通して繰り返される「いばら姫」のモチーフが、物語にファンタジックなイメージをもたらしていて。
女の嫉妬や浮気男への復讐という、生々しいテーマを扱っていながら、どこか浮世離れした優しい世界になっている。
復讐が舞い散る羽毛と共になされるのが象徴的です。
認知症のおばあさんが作るお城への、優しい視線もいいですね。
映画の「恋人同士では観ないでください」というコピーは、元カノと今カノが共謀して男に復讐するという扇情的な筋立てからつけたものだろうけど。
そんなギスギスした世界でもない。恋人同士で観ても、結構ためになるんじゃないかな…という気がします。
12月公開の城定秀夫監督作。これもクズ男の話…だけど、優しさは甘さと紙一重ではあるんですよね。
松本穂香、ここでは歌も歌ってます。
松本穂香が先生役のホラー。
玉城ティナ好演の今泉力哉作品。