女子高生に殺されたい(2022 日本)

監督/脚本:城定秀夫

原作:古屋兎丸

製作:谷戸豊、柴原祐一

製作総指揮:福家康孝

撮影:相馬大輔

編集:相良直一郎

音楽:世武裕子

出演:田中圭、南沙良、河合優実、莉子、茅島みずき、細田佳央太、大島優子

①とても面白いミステリ!

高校教師・東山春人(田中圭)の秘密の願望は、女子高生に殺されること。その望みを叶えるためだけに、彼は9年かけて綿密な計画を立て、ある高校に赴任してきます。計画を実行する文化祭へ向けて、春人は生徒たちに慕われながら演劇の準備をしていきますが、春人の過去を知る臨床心理士の五月(大島優子)がやって来ます…。

 

「帝一の國」などで知られる古屋兎丸の漫画を、「アルプススタンドのはしの方」「愛なのに」の城定秀夫が映画化。

田中圭主演で、注目の若手俳優たちが女子高生を演じる華やかな作品です。

 

「愛なのに」城定秀夫監督と河合優実のコンビ再び…というところで惹かれた作品です。

なかなかドキッとするタイトルで、ちょっと敷居が高い感もありますが。

とても面白かったですよ! 脚本も城定監督が手がけていて、非常に良くできたストーリー。

「いったいどうやって女子高生に殺されるのか?」という興味でぐいぐい引っ張っていく、非常に見応えのあるミステリ作品になっていました。

②真面目だからこそ滲み出るおかしみ

個人的にすごく良かったのが、ふざけてないところ。

日本映画で時々ある、わざとらしい大仰なコメディ演出とか、騒々しい悪ふざけとかが、個人的にどうにも苦手なのです。

(「大怪獣のあとしまつ」とか、ああいうの)

 

本作では、「女子高生に殺されたい男」という極めて変態的なキャラクターを主人公にしながら、演出は決してふざけてない。

あくまでも真面目に、シリアスに、主人公の奮闘ぶりを描いていきます。

 

そして、だからこそ面白いんですよね。

主人公の願望がそもそも、ぶっ飛んだおかしなものだから。

それを真面目に描けば描くほど、おかしみが滲み出てくる。

シリアスであるほど笑えるし、思わず感情移入もさせられてしまうという。

このストーリーのためにもっともふさわしい、正しい作り方になっていると思います。

 

そして、田中圭がそんな正攻法の演出に見事に応えてる。

「哀愁しんでれら」もそうだったけど、この人、「真面目な好青年に見えて実は変態」という役を演じさせたら、見事にハマると思います。

爽やかでステキなんだけど、目は怖い…という。

 

「女子高生に殺されたい」という、誰からも絶対に理解されない、それどころか一瞬で社会から追放されるだろう願望を、本当に心から実現したいと思っていて、そのために人生の全てを賭けて行動していく。

熱血なんですよね。変態だけど

 

本当に、観ていて見事に嫌悪感を抱かされ、なんじゃこいつと思わされて、それでいてあまりの情熱に思わず当てられてしまって、最後の方では思わず応援するような気にもさせられて…しまわないか。変態だもんな。

このバランスが絶妙で、最後まで共感はしないのだけど、どこか憎めない感じにもなるんですよね。

演出と脚本と、田中圭の演技が実にいいバランスになってました。

 

③女子高生たちの多彩な魅力

そして女子高生たち。肝心の。

みんな素晴らしかったと思います。

 

女子高生たちは群像劇的に描かれていって、最初のうちは誰が春人のターゲットなのか、分からない描き方になっています。

それによって、物語を引っ張る牽引力が増していますね。

 

真帆(南沙良)は前半はむしろ目立たないのだけど、中盤から後半に向けて、どんどん奥行きを増していきます。

明るい普段の様子と、人格が切り替わった豹変と。

真帆の設定は、本作のストーリーのやや無理のある部分を1人で支えてるんですよね。真帆が嘘っぽいとすべてがコケる…という大事なところですが、非常にナチュラルだったと思います。

 

そして、真帆とペアになるあおい(河合優実)

暗く笑わない少女で、なんか動物と話ができたり地震が来るのが分かったりする。

彼女もなかなか設定モリモリですが、それらしく見せるのはさすが信頼の河合優実。

ストーリーの上では、あおいの存在が真帆が表に出るまでのミスリードになってる。これも上手いなあ、と。

 

女子高生はあと、明るいキャラの京子(莉子)と柔道少女の愛佳(茅島みずき)がいて、2人とも魅力的でした。

あと、びっくりしたのは大島優子の上手さ。

いつの間にか、すっかりベテランの風格さえ感じる存在感でした。

④無理あるストーリーを自然に見せる映画のマジック

オートアサシノフィリア…自分が殺されることに性的興奮を覚える性的嗜好…って本当にあるんですね。世界は広いなあ…

 

晴人の願望は、非常に実現するのが難しい。

殺される相手は女子高生でなければいけないけど、ただ無抵抗に殺されるのでは自殺になってしまうから、ちゃんと本気で抵抗した上で殺されたい。となると、大人の男に力で勝てる女子高生でなければならない。

また、殺す女子高生に罪悪感を抱かせたり、殺人罪で告発されるようなことになってはならない。

…って、そんな無理を実現させる設定がそもそも強引なんですけどね。でも、この困難に真面目に立ち向かって乗り越えようとしていくから、ついつい本気で引き込まれてしまうんですよね。

 

非常に無理のある設定を、かなり強引な偶然の一致で乗り越えているストーリーではあります。だから、下手に描くと簡単にしらけてしまうと思うのだけど。

本作では、そのアクロバティックなストーリーを、ちゃんと自然に見えるように、成立させてる。

映像と、脚本と、キャストと、音楽と、それぞれの要素が高め合うという、映画ならではの手法で。

うん。とてもいい映画だと思いました。敷居の高いタイトルに負けず、皆さん観てほしい映画です。

 

 

城定秀夫監督と河合優実の前作。R15なので注意。