Old(2021 アメリカ)
監督/脚本:M・ナイト・シャマラン
原作:フレデリック・ペータース、ピエール・オスカル・レヴィー
製作:M・ナイト・シャマラン、アシュウィン・ラジャン、マーク・ビエンストック
製作総指揮:スティーヴン・シュナイダー
撮影:マイク・ジオラキス
編集:ブレット・M・リード
音楽:トレヴァー・ガレキス
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ヴィッキー・クリープス、ルーファス・シーウェル、アレックス・ウルフ、エリザ・スカンレン、トーマサイン・マッケンジー、アビー・リー、アーロン・ピエール、キャスリーン・チャルファント
①アイデアとツッコミのシャマラン映画
毎度おなじみ、シャマラン映画。
今回は、冒頭にシャマラン監督からの「映画館におかえり!」という挨拶があります。こういうのはいいですね。
シャマラン映画…どんでん返しや意外な真相を売りにする「トワイライトゾーン」的ひねりのあるスリラーということになるかと思います。
本ブログの読者の方には、ならばお前は好物だろう!と思われそうなんですが。
正直、いつもそんなに…
SF的なアイデア一発、ネタ一発!で映画を組み立てるアイデア重視の姿勢は、決して嫌いじゃないんですが。
なんか実際に観てみると、「浅い」と感じることが多いんですよね。
本当に最後まで一発勝負で、深まるところが何もない…となりがちだったりする。
また、細部の作り込みも甘いから、ツッコミどころが無数にあって、気になりだすと何だかバカバカしくなってしまったりもする。
まあ、裏を返せばそこが魅力でもあって。
今回はこんな一発ネタで勝負すんのか!すげえな!というのは毎回感心します。
ゆるいところも、決して不快な感じにはならないので、楽しくツッコミ入れながら観られるのがむしろ面白みだったりもします。
というわけで、今回も相当にゆるゆるな話なので。
たくさんツッコミ入れていくことになるとは思いますが。
でも、決して酷評したいわけじゃないので!
基本、面白いのは面白かったんだよ!ということは含んだ上で、読んでもらえればと思います。
②アイデアの分かりやすさはさすが
ガイとプリスカ夫婦、11歳のマドックスと6歳のトレントの4人家族は、南国のリゾートに旅行にやって来ます。ホテルの支配人からプライベートビーチを紹介された家族は、高い崖に囲まれた美しいビーチへ。他の数組のゲストと共に楽しい時を過ごしますが、死体が発見されて一転。ビーチを出ようとしても、なぜか出ることができません。やがて、子供たちに異常が起こり始めます…。
今回のネタは、「すごいスピードで老化するビーチ」。
予告編で非常に分かりやすく説明してましたね。もうほとんど映画観た気になる予告編でしたが。
「He was 6 years old this morning!」っていう小学生でも聞き取れるセリフがあまりにもバカっぽくて、恐々としてたんですが、それはさすがに本編にはなかったですね。
予告編用のセリフだったのか…。すごいなこの分かりやすさへの気配りは。
そのビーチにいると、30分で1年のスピードで歳をとる。
1時間で2年。3時間で6年。
大人は変化が見えにくいけど、11歳のマドックスと6歳のトレントはあっという間に17歳と12歳になってしまう。
そして、大人の「老化」も徐々に目に見えてくる。
6時間で12年。24時間で48年。2日もかからずに、一生が終わってしまう…。
これは、確かに怖いですね。
どうしよう…って考えてる間にも、刻々と自分の生命の時間が奪われていくわけだから。
あっという間に、一生が無駄に費やされていく。
実際にこんな状況に置かれたら、わけが分からないだろう…と思いますが、本作の人々はあっという間に状況を把握してしまいます。
子供をパッと見ただけで「だいたい12歳くらいだ」「ということは30分で1年くらいだ」って理解が早い!
ジョジョならスタンド攻撃を疑うレベルの謎状況ですが、原因も周囲の岩にあるとあっという間に見抜いちゃう。
そこから出て行けない理由も、ドンピシャで正解を言い当てる。
えっいったいどうやって分かったの…って思う間もなく、あっという間に既成事実となって、以降その前提で話が進んでいきます。
手っ取り早いけど、なんぼなんでも雑ですね。こういうところが…なんだな。
③愉快なシチュエーションは多彩に
「もしもすごいスピードで歳をとるビーチがあったら」起こり得る、考えられる限りのシチュエーションを、次々と見せてくれる。その楽しさは、シャマラン映画の真骨頂ですね。
女の子の水着はパツパツになる。
男の子は第二次性徴を迎え、ついつい本能のままに行動してしまう。
そしたら当然、妊娠する。出産までの10ヶ月は、30分にも満たない…。
時間の異常は身体機能に影響するので、いろいろと奇妙なことも派生して起こってきます。
傷をつけても一瞬で塞がる。
体内の腫瘍がすごいスピードで成長する。
それを逆に利用して、麻酔もなしに手術して腫瘍を切っても、一瞬で傷口が塞がってくれたりもします。
いや転移してないの?とか、あそこまで進行しても切るだけで全快するならそもそも心配しなくて良かったよね…とか、おかしなところは満載ですが、疑問が浮かぶ前に次へ行くスピード感で乗り切っていきます。それがシャマラン流。
精神に異常をきたす人物も出てきて、殺人事件も。
ナイフで刺し殺しちゃうんだけど、あれ?傷があのスピードで塞がるなら、ナイフで刺し殺すなんて不可能な気がしますが。
髪や爪が伸びないのは死んでいる細胞だから…と言った矢先に、死体がすぐに白骨化するとかね。
設定が粗いのはともかく、同じ流れの中の出来事くらいは整合性を持たせて欲しいなあ…という気はします。
④カメラワークで困難を回避する力技!
前半はそんな感じで、いろいろ突拍子もないことが起こって楽しいんですが。
後半は、大人たちが晒される「老い」の恐怖が主体になるので、少々ウェットで情緒的な展開になります。
この話だからそうなるのは必然ではあるんだけど、前半の方が楽しかったかな。
ところで、この設定を映像で表現するのって、結構ハードル高いじゃないですか。
大人が老けていくのはメイクでなんとかなる…とは言え、あんまりじっくり映すとボロが出るし。
子供の成長は年齢の違う役者を取り替えていくことになるけど、この設定では連続的な成長を見せないわけにはいかないし…さあどうする。
このハードルを超えるためにシャマランが選んだのは、「カメラにそっぽを向かせる」というものでした。
序盤から、カメラアングルが個性的…というか、なんか変。
普通だったら映すべき方向に、カメラが向かない。なんか関係ない方向を向いてる。
ピントが合ってなかったり。異常なアップだったり。
序盤の特に関係ないところから変なアングルを連発して、今回はこういう個性的なカメラワークでやるからね!というのを印象づけてる。
それによって、カメラを肝心なところに向けないことを普通にして、子供たちがカメラに映るのを上手いこと避けてるんですね。すごい力技!
これが上手くいってるのかどうか、よく分からないですけどね。そもそも変なアングルである必然性が特にないので。
他にも、騒ぎで大人がそれどころじゃなくて、子供たちが長いこと大人の目から離れたり、あの手この手で子供たちがあまり映らないよう工夫しています。
まあ、無理やりなんだけど。そうまでしてでも、思いついたアイデアを愚直に映像化していく。そのストレートな努力が、シャマランらしさかもしれないですね。
⑤最後のツイストはネタバレなしで
ラストは例によって、驚きの真相が明かされます。
本作の場合は、異常の原因は岩の作用で、最初に看破した通りなんだけど。
登場人物たちがなぜそこに巻き込まれたのか…の真相が、明かされます。
そこのネタバレは伏せます!そこはぜひ、実際に映画を観て驚いてください。
僕はこの真相は、なかなか好みでした。予想がつかなかったし、ちょっと感心しました。
ちゃんと現代の世相を踏まえた真相になってるのがいいですね。
この奇妙なビーチが存在したら役に立つ唯一の例が答えになってるので、納得度は高かったです。
一方で、物語の畳み方の方は、ちょっと強引なところの方が目立ったかな。
なんで彼が唯一の脱出法を知ってるんだ…とか。
たまたま来てた警官、たった一人で最強すぎやしないか?とか。
まあ、いろいろとガバガバなところは否めなくて、全体の出来としても怪しい感じではあるんですが。
真相が割と良かったので、僕は結構満足した作品でしたよ。
とりあえず飽きずに楽しめる映画ではあるので、みなさん好みに合うかどうか、確かめてみてください。
プリスカを演じたヴィッキー・クリープスがヒロインのPTA映画。
15歳トレントのアレックス・ウルフといえば…
アレックス・ウルフの当たり役はこちらも。
こちらはアレックス・ウルフ主演。売れっ子なんですよね。
16歳〜マドックスのトーマサイン・マッケンジーがユダヤ人少女を演じた作品。