“こんな大掛かりなことして一体何やってんだ”

やはり、巨大グループ企業ともなるとやることのスケールが全く違う。




僕はやれやれと思いながら、例のスタッフルームまで足を運んだ。


スタッフに今のこの状況の予想を話すと、にっこり微笑んだ。




“なんだ、やっぱりそうだったのか”


彼女の説明によると、残り時間はあとわずかだそうだ。




僕は自分の席に着くまで、他の正解者同様、少し得意気な気分になった。




まだ、正解していない人たちは半分くらいいるだろうか。




残りの時間、後の半分くらいのまだ正解していない人たちのうち、何人かはようやくわかったらしく慌てて、スタッフルームに駆け込んでいった。




このテストが蓋を開けてみたら、まさかこんなクイズみたいなものだったなんて誰が思っただろうか。




“しかし、ここまで来てまだ気付いてない人がいるぞ。さすがにおかしいって気付くはずなのになぁ”




中でもそのうちの一人は考える気すらないといった様子であった。

というより、あたかも考えたくない。仮に彼が答えをわかったとしても答えそうもないような顔をしていた。年齢は40代後半くらいに見えた。




そのうちに制限時間がきた。結局、3名を残し、全員が正解できた。




スタッフはやさしい口調でその3名に対し、事の真相を伝えたみたいだ。彼らはその例の男を除いて、安堵の表情を浮かべていた。




無事に今日の心理テストのアルバイトを終えた。




僕を含めた参加者たちはこの後、簡単な説明のため、別棟の一室まで移動した。



一通りこのテストに関する説明が終わり、僕らは解散することになった。



























僕はどうしても気になることがあった。それは“あの男だ”




各自がその部屋を出て行くのを確認し、僕はその男が出るタイミングを見計らって彼に声をかけてみた。




「お疲れ様です。」




彼も静かに頷き、僕に軽く会釈をし、「お疲れ様です。」と言った。




「今日のテストは手の込んだゲームでしたね。」と僕は言った。




「はい、私は結局、最後までわかりませんでしたよ。」と彼は笑いを浮かべてみせた。




しばらく、歩きながら彼と世間話をした。




彼は僕が帰る方向と同じ方向であることがわかり、同じバスに乗り込んだ。




このバスには今日の参加者が僕と彼しかいないみたいだった。




彼と何気ない会話をしている間も僕はどうしても“あのこと”が訊きたくて仕方がなかった。


話の流れを気にしつつ、僕はそのことを切り出すタイミングを待っていた。




そして、ついにそのタイミングがやってきた。




彼はあのときを思い出しながらしゃべっているかのようだったが、語り口調はあくまで冷静だった。




「実は私もあの実験の“タネ”は初めのほうで気が付きましたよ。ただ・・」




「ただ?」私はせかすように繰り返した。




「あのとき、急に怖くなってきたんですよ。でも、何が怖いっていうのは具体的にはわからないんです。」





























彼は続けて話した。




「本能、直感とでもいいましょうか。いえ、別に私が霊感を持っているとかそんなんではないんです。あのとき、私はこの場で“いい結果”を出すべきではないとただそう思っただけなんです。それも強烈に・・。」




彼とはまだほんの少しの間しか話していないが、僕が見る限りではどちらかというと知的な感じの大人に見える。そのことがまた、この話を意味深なものにさせていた。




僕があれこれ考える間もなく、バス内では僕が降りるバス停の名前がアナウンスされた。




僕は慌ててボタンを押した。すぐにバスはそのバス停に着いた。


バスの扉が無造作に開き、僕は彼に別れの挨拶をし、せかされるようにそのバスから降りた。




しばらく、僕はそのバス停で立ち尽くしていた。



なぜだか、このわずかな時間が僕にはとても長いものに感じた。




僕の目の前で出発すべきバスがいつまで経っても動かない。まるで止まり続けているかのようだった。少なくとも僕にはそう感じた。




一瞬であるがとても長い時間の中、ようやくバスが音を立て、走り出した。



遠ざかっていく彼を乗せたバスの後ろを僕はただ眺めていることしかできなかった。




















相手の片方の靴を無理矢理脱がし、とにかく遠くへ投げる。相手がその靴を拾ってきて履いたら、また脱がし遠くへ投げる。ただそれをひたすら繰り返す。

音楽を聴いているとセミがその鳴き声をビートに合わせてきた


“セミめ、このビートがわかるか”


セミもビートを刻む夏であった

誕生パーティーの最中、突然の火事。台所から火が出ている様子。周囲の“早く火を消せ!”という言葉に反応し、ケーキのろうそくの火を勇んで消す(今日の)主役。

いつものように朝目覚めた。時計は8時を過ぎていた。会社は自転車で15分足らずの場所にあるので時間的に問題はなかった。僕は何の疑いもなく朝の支度をし、昨日の夕飯で残った野菜をレンジで温め直し、取り出した後、バーニャカウダソースを付けて食べた。それと、ブルーベリージャムを塗ったトーストに生ハムをのっけて食べてみた。初の試みにしてはそんなに悪くはない味だった。




僕は朝テレビを見ない。というよりも、ほとんどテレビは見ない。なぜだかわからないが見なくなっていたのだ。ただ、NHKの毎晩やっているニュースなんかは学生時代からの習慣で副音声(英語)で見ている。自分の好きなお笑い番組は週末まとめてネットで見ているから結局、ほとんどテレビは見ていないのだ。




自宅のマンションから一歩外へ出て自転車に乗り、職場へと向かった。異変にはすぐに気が付いた。“誰もいない”外には僕以外、人がいなかったのだ。





誰かに電話しても誰も出ない。




気になって自宅に戻り、テレビを付けても何も映らない。



それから、何日か過ぎ、今日も人は見当たらなかった。そして、また、普段より早く眠りについた。




食料などはお店にある。初め、僕はきちんとお金を置いて、その都度、食べ物などの商品をもらっていた。しかし、この生活が予想以上に長引き、2週間以上経ってから、僕はいちいちお金を払うのを止めた。




3週間が経過した。そして、やっと人がいる気配を感じた。というより、完全に僕以外にいると確信できることが起こった。




いつも、僕が食料をもらっているスーパーの中がきれいになっていたのだ。僕はすぐに悪くなる生ものなんかをおおざっぱに片付けていた程度だったのだが、見事にそれより店内がきれいになっていたのである。“一体、誰がこんなことを”僕は不思議で仕方なかった。




誰がいるのか突き止めようと僕はこっそりそのスーパーに忍び寄り、隠れて監視していた。監視して何日か経ったとき、誰かがごそごそ動いているのがわかった。




よく目を凝らして見てみると若い女の子だった。





















僕はすぐにでも声をかけたい気持ちになったが、もう少し様子を見てからすることにした。やはり、彼女はせっせと店内をきれいにしているようであった。




僕は車で他の場所を散策し、街の様子を定期的に観察していたのだが、食料を扱うお店がどれも思っている程、汚くなっていないのだ。というより、近所のスーパーのように明らかに人が清掃している痕跡があるのだ。




街は生きている・・。


存在感はまるでないがかなりの人間がまだ残っているんじゃないかという気がしてきた。




そもそもなぜ、僕らだけがこの街にいるんだ?というよりも、取り残されたと言ったほうが直感的に正しい言い方かもしれない。“置き去りにされた・・”“でも、一体誰に?”




僕はどうしても気になり、地元のスーパーに時々現れる女の子に話しかけてみることにした。




初め、女の子は驚いていたがすぐに落ち着き払って今までのいきさつを話してくれた。彼女が言うには都内の大学に通う学生であるとのことだった。




彼女が言うには僕ら以外にも同じような“仲間”がいるらしい。


近いうち彼らにも会うことになった。





“それにしても、やっぱり人はいたんだなぁ。”


僕は奇妙な気分になった。本来であれば一生会うこともないような人たちであることには間違いない。




しばらく経って、再び例の“女の子”と会った。彼女を車に乗せ、僕らはその“仲間”たちのところへ向かった。




車を運転しながら僕は“彼女”からいろいろな話を聞かせてもらった。大学生ではあるがほとんど大学には行ってないらしい。受験勉強を頑張ったはいいがそれからというものはやる気を失せてしまったらしい。学校へ行く代わりに色々なアルバイトをして好きなことをして暮らことにすっかり慣れてしまったと彼女は話してくれた。実質的には、フリーターってやつか。