僕はどうしても気になることがあった。それは“あの男だ”
各自がその部屋を出て行くのを確認し、僕はその男が出るタイミングを見計らって彼に声をかけてみた。
「お疲れ様です。」
彼も静かに頷き、僕に軽く会釈をし、「お疲れ様です。」と言った。
「今日のテストは手の込んだゲームでしたね。」と僕は言った。
「はい、私は結局、最後までわかりませんでしたよ。」と彼は笑いを浮かべてみせた。
しばらく、歩きながら彼と世間話をした。
彼は僕が帰る方向と同じ方向であることがわかり、同じバスに乗り込んだ。
このバスには今日の参加者が僕と彼しかいないみたいだった。
彼と何気ない会話をしている間も僕はどうしても“あのこと”が訊きたくて仕方がなかった。
話の流れを気にしつつ、僕はそのことを切り出すタイミングを待っていた。
そして、ついにそのタイミングがやってきた。
彼はあのときを思い出しながらしゃべっているかのようだったが、語り口調はあくまで冷静だった。
「実は私もあの実験の“タネ”は初めのほうで気が付きましたよ。ただ・・」
「ただ?」私はせかすように繰り返した。
「あのとき、急に怖くなってきたんですよ。でも、何が怖いっていうのは具体的にはわからないんです。」