彼は続けて話した。




「本能、直感とでもいいましょうか。いえ、別に私が霊感を持っているとかそんなんではないんです。あのとき、私はこの場で“いい結果”を出すべきではないとただそう思っただけなんです。それも強烈に・・。」




彼とはまだほんの少しの間しか話していないが、僕が見る限りではどちらかというと知的な感じの大人に見える。そのことがまた、この話を意味深なものにさせていた。




僕があれこれ考える間もなく、バス内では僕が降りるバス停の名前がアナウンスされた。




僕は慌ててボタンを押した。すぐにバスはそのバス停に着いた。


バスの扉が無造作に開き、僕は彼に別れの挨拶をし、せかされるようにそのバスから降りた。




しばらく、僕はそのバス停で立ち尽くしていた。



なぜだか、このわずかな時間が僕にはとても長いものに感じた。




僕の目の前で出発すべきバスがいつまで経っても動かない。まるで止まり続けているかのようだった。少なくとも僕にはそう感じた。




一瞬であるがとても長い時間の中、ようやくバスが音を立て、走り出した。



遠ざかっていく彼を乗せたバスの後ろを僕はただ眺めていることしかできなかった。