「パーティー登山?」
「二人以上で登山することをそういうんだって」
「じゃあ一人は?」
「ソロだって」
 天文部の部室になっている天文台、中見が天体観測の準備と写真の整理をしているところにいつものようにわたし、曲伊咲がやってきていた。
「それで?」
「うん中見、わたし天文部の再入部は許されたけど水泳部はやめちゃったでしょう?」
「そうだな」
 中見はいつも真面目だけど優しい。この時もちょっと熱いまなざしを向けてくれた。
「でも羽咋先生が紹介してくれた登山部も練習がきつくて入んなかったんだろう?」
「うんそれでね、倉敷先生が山岳会に入ったらって言ってくれたの」
「サンガク会? 山ってそんな会に入んなきゃ行けなかったんだ?」
「そうじゃないの」
 これを中見に説明するにはちょっと骨が折れる。インターネットで一緒に調べてくれた倉敷先生も山のことは全く分からなかったから、登山部の人に一から教えてもらってようやく理解できた仕組みだった。
「ううん、山は基本一人でも大人数でも誰でも入れるの。でも自然環境でしょう?」
「うん」
「だからハイキング、家族連れで行ける以上のことをやるなら本格的なマナーや知識が必要なの」
「へえ」
「それにわたしはこの身体でしょう? 簡単な山でも付き添いが必要だって」
「それでパーティー登山なんだ」
「そうなの。それで中見、わたし金沢山岳会に入って良い?」
「曲、なんで僕の許可がいるの、ここまでいうならさんざん考えたんだろ?」
「そうだけど」
 やっぱり中身はすごい。とびっきりの笑顔を見せてくれた。
「もちろん心配だよ。そんな心臓でどこまで出来るかって」
 中見がわたしの身体を心配してくれることが限りなく嬉しい。
「でも僕への報告だって相当勇気が必要だったろう?」
「う、うん」
「だから倉敷先生とその山岳会の人と徹底的に相談した」
「なんでそんなことがわかるの中見!」
 びっくりした。わたしの心が見透かされてるみたいでちょっと怖い。
「僕は曲の恋人だよ。そんなことが分からなくてどうするの」
「じゃあ…」
「うん、思う存分やればいい」
「やったー!」

 今回は夕方から。丸太くんは伊咲ちゃんと花火大会の日にその女友だち三人と手分けして、来る流星群観測会のビラ配り。男の子一人で女の子三人でもハーレムものを回避できてるのは、野々さん、カニさん、穴水さんに伊咲ちゅんが誰を思ってるか、バレバレだからかと。実際、一足先に二人して校舎の屋上でビニールシートに座った時、丸太くんと伊咲ちゃんはお互いに相手の自分に対する気持ち、そして自分の相手への気持ちがわかってしまったはず。もちろん二人ともうすうす両想いと感じてたはずだけど、露骨にわかって二人ともドギマギするのが実に微笑ましく。その直後、白丸先輩を加えた五人での屋上花火大会見物でAパートは終え、Bパートは伊咲ちゃんと丸太くんの世界。
 まずは伊咲ちゃんが自分の心臓のことを告白する場面。台に登って天文台の隙間から堂々と夜空を見上げてから一転、伊咲ちゃんは下にいた丸太くんに覆いかぶさる。多分それまでは好きな男の子に元気になってもらうと思ってた伊咲ちゃんが、丸太くんになら弱みを見せられると思えたため。さらに伊咲ちゃんは丸太くんの腕の温もりを背中に感じたかったはずだけど、それは叶わなかった。その代わり一生懸命夜中でも自分の言葉を聞きたいと言ってくれ、その方が中見らしいと思ったはずで。
 この後も少しあるのですが正に初々しい青春アニメ、今回も不穏な予感はありつつ、ビラ配りがうまくいかないところなど、少年少女が正に生きてる実感が感じられる素晴らしい話。

 アバンで白丸先輩がスクーターで走る姿で始まる今回、中見元太と曲伊咲の天文部の活動がいろいろな人に支えられていると復習できた回。手始めは元太くんが一人でいた昼の天文台に白丸先輩、伊咲ちゃん、倉敷先生が続々集まる場面。しかもその短い時間で先輩と中見、元太くんと伊咲ちゃん、曲と先生の関係が的確に描かれてる。
 次は受川くんのバイト先。星空観測会のメイキング映像になっている今回、まずは生徒会役員でもある受川くんにポスター貼りの許可と、当日の人の誘導の相談から。こうして一つずつ準備の場面を描くこと、主催が学校の部活でもそれなりに大人数を巻き込む必要があると描写され、私好み。しかもこの場面名で提示された問題、すぐ行動に移す課題になり、脚本の見本になってる。
 すでに絵がうまいとアニメで示されてた美術部の野々三奈ちゃん、彼女と丸太くんと伊咲ちゅんのやり取りが今回の一番のギャグ。丸太くんも伊咲ちゃんも性格真面目だからコメディはあってもバカバカしいギャグにはなりにくいから、男子の上半身裸に赤面する二人の女子、見れて面白かったです。
 次に丸太くんがお願いしたのは蟹川モトコちゃんだけど、多分内容を言う前に「いーや」。だから後回しにして、友達だと「手伝って」は言いづらいと言った伊咲ちゃんに代わって丸太くんが訪ねた三人目は、ソフトボール部の穴水佳奈美ちゃゅんがいる学校のグラウンド。美術部の野々ちゃんの時とは違う、もう一つの青春の場面で。伊咲ちゃんとは違うけどやはり眩しさを、終わるのを待ってる丸太くんも気づいたと思われ。
 最後の場面はやっぱり当日の案内人を手伝うことになったモトコちゃんの家、お好み焼き屋での打ち合わせ。そこでご両親から語られるモトコちゃんの別の側面が、うちの店でよく手伝ってくれる親孝行の娘。しかもその前段で娘の欠点とその原因を語っているので、単なる親やバカでない所に好感し。「君ソム」はもちろん丸太くんと伊咲ちゃんの物語だけどその背後、二人が見えない所に広大な世界があると、インソムニアの二人が気づいた一話。
 しかし二人に「進展」がなかった訳でないのですね。結局野々ちゃん、モトコちゃん、穴水さんの協力を売ることが出来、伊咲ちゃんの丸太くんへの信頼はより強固に。映像になってる場面に限れば、まずは受川くんのバイト先の能登食祭市場からの帰り道、別れ際で伊咲ちゃんが丸太くんに言った意味深な台詞。

「私のことも撮ってね」
「私を残してね」

 また絵をお願いした野々ちゃんから逆に、モデルは丸太くんと伊咲ちゃんの二人一緒がいいとお願いされたことも、二人にとっては契機と推察。多分芸術家だから人の感情に機微なはずの野々ちゃん、伊咲ちゃんと丸太くんが両想いなことをどこかの時点で気づいたのでは。だからより親密にしてあげたく、二人でダンスしている構図を思いついたのでしょう。
 総じてテンポは淡々の割には情報と場面が豊富で絵的に贅沢な回でした。なので若干止め画が気になりましたが、最後の丸太くんと倉敷先生の会話でチャラになった形。

 マンガの方の評論を今日noteにあげた本作のアニメ版、今日の感想は臨海学校編です。今回の第五話は朝から始まって、早くもハッピーエンドの予感。雲が厚く立ち込めてるけど朝には違いないから、伊咲ちゃんとの交流が描かれると予想は付く。その前段階としてのAパート、丸太くんに絡む灰田くんの印象が強烈。バスの車中で散々いじり倒して、降りるときに寝ている丸太くんにそっと声をかけてあげるなど、単なるいじめっ子でない点が好み。多分いじる/ちょっかいをだすことでしか、ナカミッチへの好意を表現できないのでしょう。となると灰田くんもいじらしい、愛しいキャラに思えてくる。
 丸太くんサイドはカレー作りと千里浜でのジョギング、伊咲ちゃんサイドは伊咲ちゃんの切ったジャガイモが小さすぎ、料理が苦手らしいと視聴者にばれ。二泊三日の合宿は一日、二日と過ぎていき、二日目で思い思いに作っていたサンドアートが突然の雨で合宿所に引き上げ、夜になってまた/まだ眠れない元太くんは、テントを出て星空が出てることに気づき。晴れたら砂浜で会おうと約束してた丸太くん、約束通り伊咲ちゃんは一足先に来てた。それがAパート尾張の場面であり、続くBパートは二人が存分に海岸を走っていちゃついた後、星景写真の撮影場面に。まさにファンタジックでフォトジェニック、二人の未来を祝福するような画の目白押し。
 そして夜が明けて合宿所に帰る道すがら、丸太くんはもう一度、夜通し一緒にいてくれた女の子のきらめきを記録しようとシャッターを。正に青春は一瞬と気づかされる出来過ぎた回。この一瞬が青春だけなのかどうか、第13話の結末を知ってるけど、単行本7巻まで買って読んだけど、一話ずつ噛みしめて楽しんでるところ。

 前回第三話までの、朝から始まり夜に終わるという定型を初めて外した回。始めは夜でOP明けが昼、締めが暗いけど雨降りの校内の望遠鏡。つまり時間的にはまだ学内に学生が沢山いる時分。しかもその間に雲があると夜の星空写真は上手くいかないと示し、天体イベントの成否の伏線にもなってる。だから中見サイドは終盤の灰田に見つかってからの展開を含めて不穏さが出てきたけど、曲サイドは飽くまでハッピーなお話。
 タピオカに舌鼓打ったり中見のバイト先に押しかけたり、傍目には幸せ街道まっしぐら。だから多分担任の羽咋先生に怒られた経緯を中見くんから聞かされた後、自分の幸せを分けたいと考えて臨海学校のとき、「もし夜晴れたら、星の下の砂浜で会うの」と約束させ。まさに青春、アオハルであり、恋人になる前、恋人になるまでの接し方として理想形で。というより曲、中見に「好きだよ」と半分告白してるようなもの。
 中見の方はパソコンで写真を見てる曲の後ろ姿にドギマギし、改めて恋人になりたいと思ってしまったと考えられ。眩しいくらいの初々しさ。