彫刻家 片桐 宏典さん 第8回~制作の素材と想い、階段状の作品について~
8みなさま こんにちは。
彫刻工房くさか 日下育子です。
今日は素敵な作家をご紹介いたします。
彫刻家の片桐 宏典さんです。
片桐 宏典さん
ケイト・トムソンさん
お二人とも彫刻家であり、ご夫妻でもいらっしゃいます。
前回の日下育子からのリレーでご登場頂きます。
第1回
第2回
第3回
第4回
第5回
片桐 宏典さん
第5回 ~制作テーマ① ストリームラインのシリーズについて~
第6回 ~制作テーマ② サウンドインスタレーションについて~
第8回の今日は、階段状のモチーフの作品についてお話をおうかがいしました。
片桐さんがレバノンのシンポジウムに参加されて、そこで見たイスラム圏の階段状の文様についてと、
ヨーロッパ圏、アジア圏、イスラム圏の文化の違いについて感じられたことなどをお聴きしました。
また、階段状のモチーフの作品でも特に青森県弘前駅前モール修景彫刻について
制作の意図をお聴かせ頂きました。
どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。
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「浮島の夢~蜃気楼」
岩手町産黒御影石
高さ3m
岩手町国際彫刻シンポジウム
1997
岩手町立浮島小学校
「浮かび上がる悲しみ」
スコットランド産赤御影石
直径45cm
1991
「虚数空間都市」
大島産白御影石
高さ3m
マルタ大島国際彫刻シンポジウム
愛媛県宮窪町石文化公園
「The Towers」
レバノン産ライムストーン
高さ2.5m
ラシャーナ国際彫刻シンポジウム
2002
「向白神(むかいしらがみ)」
岩手産白御影石
本体寸法 700 x 150 x 500 cmH
青森県弘前市駅前通ダイエー向かい
弘前市駅前通りモニュメント計画
1998
メモ
世界遺産「白神山地」のなかの向白神岳をイメージする。
JR弘前駅から商店街に伸びる約2kmの遊歩道に
全7基設置されたうちの2番目のモニュメント。
道路を隔てた向こう側にある3番目の作品「白神の箱」と共に
白神山地をテーマとし、白神岳と向白神岳という対になる地域の
中心的な主峰をシンボリックに表現し、心理的に両側の空間の一体化を意図する。
「恋する因果律」
岩手県姫神産白御影石
35x35x高55cm
1997
個人所蔵
「恋する因果律-Egg & Tower」
遠野産黒御影石
高さ120cm/50cm
1993
鉛筆 ロクタ紙(手漉き紙)
300×150cm
2000
「見知らぬ隣人たち #102 」
鉛筆 ロクタ紙(手漉き紙)
300×150cm
2000
「見知らぬ隣人たち #103 」
鉛筆 ロクタ紙(手漉き紙)
300×150cm
2000
「見知らぬ隣人たち #104 」
鉛筆 ロクタ紙(手漉き紙)
300×150cm
2000
日下
彫刻でも、ロクタ紙を使った大画面のドローイングでも
「見知らぬ隣人たち」という題名の作品群で、
階段状の彫り込みがある作品をたくさん制作されていますね。
彫刻もドローイングも聳え立つような上昇感覚のある
スケール感のある作品で、とっても印象に残っています。
片桐 宏典さん
この階段状の作品というのは、建築的なスペースというか。
単純な階段だから。
日下
これらの高くそびえたっている、下から見上げる感じの彫刻というのも
唐桑の岩場の風景(※第1回
、巨釜半造(おがまはんぞう
)が反映されているのでしょうか。
片桐 宏典さん
あれはヨーロッパの建築のディテールから取ったフォルムです。
弘前駅前モール修景彫刻のモニュメントは、
その階段状のモチーフと石のラフな部分を活かした作品です。
レバノンで制作した「Two Towers」という作品も
同じテーマで、同様のテクスチャーのコンビネーションのある作品です。
レバノンのシンポジウムに行った時、ある程度作品プランは決めていたのですが、
はじめあちこちの遺跡を見て回りまったときに、とても印象に残った遺跡がありました。
小高い山の上に立ち並ぶお城のような建築群、とても彫刻的で興味をそそられました。
それと、この作品を創った頃は、ちょうど2001年の911事件があった直後だったので
ツインタワーのイメージと無意識的にもオーバーラップしていたかもしれません。
シンポジウムは公開制作なので、製作中にいろいろな人が見学に来るのですが、
来る人みんな、これは911か?ツインタワーから煙が出ている彫刻なんじゃないか?と言うので
問題になってました。
日下
ご自身で意識はされていたのでしょうか。
片桐 宏典さん
あの時はあわててちがうよと言ったのですが、でもやっぱり実はそうだったんだろうな、
みたいな感じがあります。
創る時は自分では具体的に意識して制作してはいなかったのですが
出来上がる頃に、自分でも段々これツインタワーっぽいなと感じ始めました。
無意識に何かしら影響を受けていたのかなと感じました。
でもそういうのって必ず出ますよね。
僕らがいたところはレバノンのキリスト教圏の比較的自由な空気のところで、
イスラムとはいっても女性の肌の露出も自由でおおらかだし、他のヨーロッパと変わりありません。
でもちょっと行ったところにはもう典型的なイスラム教の人たちが住んでいる世界が隣同士でありました。
お互いに「違う人間」と言っていたのがとても印象的でした。
いま思えば、レバノンの人たちは、911を僕らがどう捉えているかとても知りたがっていたんでしょうね。
ケイト・トムソンさん
丁度、9.11の1年後でしたね。
片桐 宏典さん
それと、このときレバノンというイスラム圏に初めて行って制作したのですが、
イスラムは、今まで行っていた西洋圏やアジア圏と全然文化が違うから
僕にとって、すごく新鮮で面白いところでしたね。
造形表現されたものがすごく抽象的で幾何学的なんです。
イスラム文様の世界は、とても面白いのですが僕は全くついていけませんでした。
というのは、イスラム文様は構築的で階段的なものが多いんです。
でも自分が作品で制作している階段状のモチーフよりも
イスラムのものはもっとめちゃくちゃ複雑です。
体質的なものかもしれませんね。
ケイト・トムソンさん
イスラムは人間的なモチーフは駄目ですから、
抽象的な、階段のイメージなどをすごくたくさん使います。
片桐 宏典さん
そう、具象は一切駄目なんですよ、禁止されているから。
日下
ああ、偶像崇拝になってしまうということでしょうか。
ケイト・トムソンさん
はい、神様が人間と動物を創りましたから、
人間が神様の真似をして人間を作るのは駄目なんです。
片桐 宏典さん
だからそういう意味で、すごく面白くて、ゾクゾクします。
イスラム圏では、僕の階段だけでは、単純すぎて使えないな~、と思えてしまうくらいです。
イスラムの階段文様は、僕の作品よりももっと複雑で緻密で、すべての空間の装飾なので
作品としては建築空間にピッタリ合うんですよ
合い過ぎて逆に作品にならないという・・・。
面白いですよね。
日下
レバノンのシンポジウムでの制作で、何か日本、ヨーロッパと異なる
印象に残ったこと、エピソードなどはありましたか。
あるいは、イスラム圏ということで制作、及び滞在全般で気をつけたことなどありましたでしょうか。
片桐 宏典さん
イスラム世界に初めていったインパクトはとても大きかったですね。
ヨーロッパやアメリカ、アジアはある程度まわって知っていたので、世界はだいたいこんなものか、
という意識がありましたが、シンポジウムのあとにエジプトにも行ったりして、
イスラム世界の、一部ながら自分の眼で見て回って肌で感じて、
それまで漠然と感じていた世界のグローバルさみたいなものが徹底的に崩れ去ったという気がします。
情報としては知っていたのに。
それはどういうことかというと、違う文化は違う人間が生み出すもの。
世界には芸術のメインストリームというのはあるかもしれないけど、
個別の文化が必要とする芸術はその文化ごとに全く異質なものです、
人間はやはりそれぞれ決定的に違う存在で当然文化も個別なものですよね、
だからそんな違った文化がぶつかる時、お互いに影響しあうものはとてつもなく大きいのかもしれない、
ということです。そんな意識が自分の中で再確認されたというか。
僕が初めてヨーロッパ、オーストリアに行ったときのことを少なからず思い出しました。
僕らが行ったレバノン・シンポジウムは、
バスブスという地元の有名な彫刻家の一家が個人的に運営しているものでした。
父親とその弟たち二人、その息子たち三人が彫刻家、孫や親戚は映画監督、画家など、
まさに芸術一族です。
かれらは内戦で破壊され尽くした自分たちの町を見て、壊すのはもうたくさん、
これからは美しいものを作っていくんだと、国際彫刻シンポジウムを始めたんです。
ベイルート市街にはまだ銃痕が至る所に残っていますし、鉄道網も破壊されたままでした。
多くの素晴らしい古い文明と美しい自然や街並があり、食べ物も西と東の融合で、とてもおいしい!
こんないいところが、また戦渦に巻き込まれたことは悲しみに堪えません。
日下
そうですか。
片桐さんが実際に滞在されて実感されたお話をおうかがいすると、
何かリアリティーをもってイメージされてきます。
さて、階段状の作品でも、弘前駅前モール修景彫刻は特に大作ですね。
階段状のモチーフと石の割れ肌を活かした絶妙なコンビネーションがとても素晴らしいです。
その制作コンセプトや駅前という街中の空間に設置されることで
意識されたことをお聴かせいただけますでしょうか?
片桐 宏典さん
弘前駅から商店街までの数キロメートルを彫刻でつなげるのがこのプロジェクトでした。
その中の一カ所、2番めの場所を担当しました。
このプロジェクトをコーディネートした横沢氏(※)の考えは、
7点の作品が密接に関連してトータルな空間的造形を目指すというものです。
作品のテーマの密接な関連性、共通の素材など突っ込んだデザイン的な処理がされています。
私も道路を挟んだ向かい側の場所を担当する鳴海恒夫君と何度か打ち合わせて、
お互いに白神山地をテーマにすることに決めました。
二つで一個の作品、カタチは違っても、物理的には道路で分断されている空間を
心理的につなぐためです。
作品の大きさも、ビルに囲まれたまわりの空間に対応するために、
ある程度大きさがなければいけませんでした。
でも、大きすぎてもいけません。10m以下、5メートル以上くらいかな。
遊歩道には常に人の流れがあるので、作品も一個ではなく、
三点のセットにしてカタチにバリエーションの変化とムーブメントを持たせました。
素材も、出来るだけ地元のものを使いたかったのですが、
青森に御影石はなかったので、岩手の、東北の石を使ったのです。
※ 横沢英一氏 ⇒Ukishima.Net
国際彫刻シンポジウム誕生の経緯(1959年~1970年代)
私の参加した時代(1978年~2000年まで)参照
日下
とっても興味深いお話をありがとうございます。
階段状のモチーフの彫刻も作品自体のスケールもとっても大いものですし、
上へ上へと伸びあがっていく上昇感覚の強いものですね。
かたちと空間の関係性を最大限に活かした彫刻だと思います。
とっても素晴らしいです。
貴重なお話をありがとうございました。
「日の出を待ちながら」
スコットランド産砂岩
高さ250-70cm
カレッジランズ国際彫刻シンポジウム
1988
ミラー・ホームズ・アーバン所蔵
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編集後記
私が片桐 宏典さん、ケイト トムソンさんに初めてお会いしたのは、
私が大学の副手1年目の冬に、お二人の住む岩手県岩手町にある㈲浮島彫刻スタジオを
訪問した時でした。 大自然の中の広いスタジオに姫神産の巨大な原石が置いてあり
「大学の石彫場とはスケールが違う!」と感動したのを覚えています。
片桐 宏典さんは私が学生の頃から、
「宮城教育大学の在学中から、そのままヨーロッパに渡って彫刻家になっている方」として
有名な存在の方でした。
今現在は、1年の半分ずつをイギリスと日本を行き来しながらの活動をされているそうです。
今回は片桐宏典さんの階段状のモチーフの作品についてお話をおうかがいしました。
特にレバノンで感じられた各文化圏の違いについては、片桐さんが肌で感じてこられた違いを
率直にお話下さいました。
また弘前駅前修景彫刻でも、景観の中で、彫刻で具体的にどう関わるかの意図についても
とても貴重なお話をお聴かせ頂けてありがたいと思いました。
次回は、片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんらが企画運営をされたアートイベント、
岩手アートフェスティバルUK98を題材に、改めてアートと社会との接点についてお話頂きます。
どうぞお楽しみに。
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◆片桐 宏典さん、ケイト・トムソンさんのホームページ
浮島彫刻スタジオ
◆スターリング大学(イギリス)での展示
片桐 宏典さんの紹介ページ
スターリング大学 Corridor of Dreams (「夢の回廊」 インタビュー動画)
(全23分中、お二人と作品が映るのは11:30~15:30頃です。)
スターリング大学 アートコレクション 片桐 宏典さんの紹介ページ
スターリング大学のFacebook ⇒Art Collection at the University of Stirling
◆開催中の展覧会です。
「As Ithers See Us」
【期間】2014年3月11日(金)~9月末日まで
【時間】11:00~21:00
【料金】有料
【場所】Pobert Burns Birthplace Museum, Murdoch's Lone, Alloway, Ayr KA7 4PQ, UK
tel 0844 493 2601 email burns@nts.org.uk
http://www.burnsmuseum.org.uk/
◆日本・石の野外彫刻―ストーンアート写真集
藤田観龍 著(写真) 本の泉社
片桐 宏典さんの作品写真と手記「石彫というジャンル」(318ページ)
ケイト トムソンさんの作品写真が掲載されています。
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★☆ アーカイブス ☆★
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学び場美術館登場作家リストⅡ
学び場美術館 登場作家リスト Ⅲ ー2014
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