みんなの学び場美術館 館長 日下育子です。
今日は素敵な作家を紹介いたします。
画家の外澤こう(そとざわ こう)さんです。
外澤こう さん
日本画家の岡田 昌平さんからのリレーでご登場頂きます。
第1回の今日は、外澤こうさんが美術を始めたきっかけ、制作テーマについて伺いました。
子どもの頃から、絵を描いていらしたこと、名古屋芸術大学時代には絵を描くためというより、絵画の技術や表現材料について学ぶ意識でいかれたことなど、造形のテーマ、表現内容のテーマについてお伺いしました。
どうぞ お楽しみ下さいませ。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
「ゆめ」
混合技法 F6
2011
「考」
混合技法 S80
2012
「無想」
フレスコ
620×480cm
2013 - 2016
「ことば」
油彩 F4
2017
「使者」
混合技法 F3
2017
日下
美術を始めたきっかけについてお聞かせ頂けますでしょうか。
外澤こうさん
物心ついた頃から手持ちの鉛筆やボールペンで絵を描くのが好きで、父が会社から余ったA3のグラフ用紙をいつも私に与えてくれた事も あり鉛筆画やペン画に夢中になりました。当時は、この画材の特性から必然的に線で表現する有名な絵画やデザイン(藤田嗣治、ミュシャ、パスキン、伊藤若冲、浮世絵全般)に影響を受けました。
日下
お父様はどんなお仕事をされてる方なのでしょうか?
外澤こうさん
父は証券会社で働いていて、グラフのようなデータ用のすごく長い紙をデパートの袋に入れて持って帰ってきてくれていました。
日下
そうですか。図面を引くお仕事なのかと思ったので意外です。紙はグラフのようなものだそうですが、そのマス目に触発されて描く、というようなこともあったのでしょうか。
外澤こうさん
はい、模写をするときは、見本の絵の方に枡目を描いて、グラフ用紙に転写するというようなことをしたこともありました。
日下
影響を受けた作家の名前を挙げて下さっていますが、子ども時代にご覧になるには、大人っぽい作品を描く作家ばかりのように思えるのですが、何歳頃からこれらの作家に興味をもたれるようになったのでしょうか?
外澤こうさん
物心ついた頃から落書きなどをしていて、小学生の頃には絵に興味を持っていました。よくカレンダーなどで画家の絵が載っているものを見て、この絵は誰が描いたのだろうと思うと名前の所を見て、図書館で本で調べたりしていました。
日下
そうですか。小学生の時に図書館で調べるというのはとても勉強熱心ですね。小さい頃から、藤田嗣治やミュシャがお好きだったのですか。
外澤こうさん
そうです。どうやって描いているのかな、と思っていました。何も解決しないのですが、ただただ見て真似ていました。
日下
外澤さんの制作テーマについてお聞かせいただけますでしょうか。
外澤こうさん
まず作品のテーマは2つあります。1つ目は「光の白と色の白」。画面の中で光の白を波及させる為に固有色を白へ収束させるというものです。自然の中で当たり前に起こっている現象を絵の具の白色でうまく表現できるよう試みて日々取り組んでいます。2つ目は、人間の本能、また普遍的な価値観の根幹にある考えや欲、動作をテーマに人物画を描いています。
使用する素材については、僕はテンペラと油彩を併用する古典的な「混合技法」で描画します。大学で組成学や材料学を学ぶ内に古典技法の現代でも通ずる合理的な利点や汎用性の高さと特有の美しさに感銘を受け、自分のアイデンティティにしたいと思い、研究も兼ねて現在に至ります。
日下
今、ふと思ったのですが藤田嗣治は乳白と言われる白が特徴的な作家ですね。外澤さんも白に興味を持って描いていらっしゃるのですね。
外澤こうさん
白い絵って、本当に難しいんです。それだけやりごたえもあって。暗い絵は僕にとっては描きやすいんです。でも白いハイトーンの絵というのは、立体感を求めるのがすごく難しくて、こういう部分はあまり誰もやっていないだけに自分は乗り越えたいという一つの挑戦として、やっています。
日下
光の白を波及させるために、固有色を絵具の白に収束させる、というのは具体的にどんなことでしょうか?
外澤こうさん
どちらかというと水墨画に近いイメージです。紙の白にぼやけさせていくという感じです。
日下
でも実際には紙の白地のままではなく、白で描き込んでいるということなんですね。
外澤こうさん
はい。ゆくゆくは光なのか色の白なのかもどちらか分からないぐらい抽象的な絵にしていきたいと思っているのですが、まだ技術と経験がたりないのか、かたちに頼ってしまう部分があるのですけど。本当はもっと大胆に曖昧にしていきたいんです。今は形と光とものの持つ白というのがはっきり分かれてしまっている状態でまだ途上段階なのですが。
日下
白を活かした絵というのは何か神々しい感じがしますね。外澤さんの描かれているテーマ性と白の感覚からくるものかもしれませんね。
外澤こうさん
西洋絵画でいうと印象派の人たちは、ハイトーンで描きますよね。僕は細密画ですけどあのハイトーンを求めています。だから印象派の人たちから派生したような絵なのかもしれないですね。
日下
内容的なテーマで、外澤さんが思っていらっしゃる人間の本能、普遍的な価値観というのはどんなことでしょうか?
外澤こうさん
それは簡単にいえば、大人でも子供でも持っている感情とか欲求とかいうことです。そいうものには、みんな共感があると思うんです。学習して得た知識とか行動とかそういうことではなく、人間が生物としてもっている必然的な感情とかそういうものをストレートに表現したいと思っています。
日下
私の感覚では外澤さんの作品には自己肯定感、承認されたい欲求が表現されていて、それが鑑賞者の心に訴えかけてくるのではないかと感じます。話は変わって、組成学という科目名を初めて聞きました。どんな勉強なのでしょうか?
外澤こうさん
絵画技法に特化した、画材、表現材料のことを学ぶものです。マックス・デルナー著書の「絵画技術体系」が代表的な文献だと思います。
日下
外澤さんは、古典技法の特長について「現代でも通ずる合理的な利点や汎用性の高さと特有の美しさ」と仰っていますが、合理的な利点について具体的に教えていただけますでしょうか。
外澤こうさん
保存学の視点でも、例えばパネルに布を張る時に膠を使うと、支持体(画面)の耐久性が全然違うんですね。画材屋さんでは、メーカーから誰でも簡単に出来るような樹脂の糊なども売られていますが、ちゃんとした膠で張ると100年以上のレベルで耐久性が変わってくるでしょうし、やはり作家としてやっているのであれば、保存のことにも責任を持ちたいなというのがあります。
あとは、絵具についてもメーカーが製造している絵具と自分のオリジナリティの相性がどうなのか、ということもあります。僕がやっている古典技法では、絵具は、顔料を自分で練って絵具も作れるし、濃度とか自分の作品にあったものに調整出来る点で汎用性が高いと考えています。
日下
すごいこだわりを感じます。
外澤こうさん
そこにこだわっているというよりは、自分に合ったものにしているにしているということで、それで描くと楽というのもありますね。あと自分で作ると添加物とか不純物が入っていないので、保存学の観点でも色みの鮮やかさとか失われないままで描けるというのが利点かもしれません。
日下
素晴らしいですね。外澤さんは初期の頃からこの手法で描かれているのでしょうか。
外澤こうさん
それは大学に入ってからですね。大学にはそういうことを知りたくて入ったので、絵を描きたくて入ったタイプではないのです。在学中も絵は描いていましたが、本格的にこういうことを勉強して、ちゃんと自分の作品として絵を描いていきたいと思い始めたのは卒業してからですね。
日下
そうなんですか。では大学には絵を描く上での技術的なことを学ぶために行かれたんですね。
外澤こうさん
はい。どうやって描いているのか、というのが自分一人で研究するには限界があって、大学だとそういう講義もありますし、実習もありますので、百聞は一見にしかずというか、「ああ、こういうことね」というのがすぐに分かるので。
日下
外澤さんは名古屋芸術大学のご卒業ですが、その意味では実際に行かれてみていかがでしたか。
外澤こうさん
先ほど組成学の話をしましたが、日本でその第一人者が東京芸術大学を退官されて今は金沢美術工芸大学院教授の佐藤一郎さんという方なのですが、その佐藤さんに師事していた方が名古屋芸術大学にいらして、その先生に出会えて学べたというのが僕にとってはすごく大きいです。
日下
そうですか~。今日は素晴らしいお話をありがとうございました。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
編集後記
2017年12月ご登場の岡田昌平さんからのリレーで、初めて画家 外澤こうさんのお話をお伺いしました。
外澤こうさんは、以前にご登場頂いた松原遼さん、岡田昌平さんと愛知県にある共同アトリエで制作されているそうです。
外澤さんの作品は、とても緻密で素晴らしい描写をされていることにとても感動しました。表現している内容と造形表現上の手法それぞれにテーマを持っていらして、とても冷静に真摯に表現していらっしゃる作家さんだと感じました。
白という色にこだわりを持って制作されていますが、白で立体感を表現することも難しさをおうかがいしたうえで作品を 拝見すると、なおのこといつまでも見ていられるような味わい深さを感じました。
次回は、外澤こうさんの個別の作品についての制作の思いや社会との接点で思うこと、「あなたにとってアートとは?」についてお話を伺いします。
どうぞお楽しみに。
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
■外澤こうさん 略歴
1978年 愛知県名古屋市出身
2005年 名古屋芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒
2010年 第45回昭和会展招待出品
2011年 国展一般出品 (2013年まで)
2014年 ~2017年現在に至るまで、個人及び法人の制作依頼を受注し活動中
毎年グループ展多数
本日もご訪問ありがとうございました。
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
★☆ アーカイブス ☆★
学び場美術館登場作家リスト
学び場美術館登場作家リストⅡ
学び場美術館 登場作家リスト Ⅲ ー2014
学び場美術館 登場作家リスト Ⅳ ー2015
学び場美術館 登場作家リスト ⅴ ―2016
↓こちらも
にほんブログ村 ← ポチっとおしてね!