(一年後、やっと)2018年平昌五輪羽生結弦SP・FS演技のCBC解説 | 覚え書きあれこれ

覚え書きあれこれ

記憶力が低下する今日この頃、覚え書きみたいなものを綴っておかないと...

 

私は幸運にも2018年2月17日に平昌の会場で羽生選手の歴史的な五輪男子競技二連覇を観ることができました。

 

直後(2月19日)に書いたブログ記事を読んで、その時の思い出に浸っています。
 
 
少し、抜粋させていただきますと:
 
******

 

16日のショート・プログラムの日、私は二階の席で、たくさんの日本人ファンの方々に囲まれて観戦していました。最終グループの一番滑走で羽生選手が登場すると、ブワッと皆の祈りの気持ちと悲壮な覚悟で見守る気配が伝わってきました。

 

ショパンのバラードの曲が鳴り響き、羽生選手が動き出す。最初のジャンプが決まると「ああ、大丈夫だ」と確信しました。加えて、彼のあの独特な「竹とんぼ」のようにフワッと浮き上がって、回転軸の細い跳躍を「そうそう、これが見たかったんだ」と懐かしい思いで見ていました。

 

彼の一挙手一投足に会場が波打ち、共に鼓動する。似たような光景に遭遇したことがあるな、と思い、これはまさに昨年9月のオータムクラシックの再現なのだと気が付きました。観客を自分と一緒にどこかに連れて行ってくれるスケーター、魔術師・羽生結弦。

 

そこからはあっという間に最後のステップまで引き込まれ、彼が両手を開いて

 

「はい、これにて」

 

とでも言うかの如く、合図をすると、催眠が解けたように場内は一斉に興奮のるつぼに。

 

どれだけ羽生結弦というアスリートを心配し、心を痛めていた人々がいたのか、どれだけ彼が愛され、カムバックを待たれていたのか、が如実に伝わって来た一瞬でした。

 

我を忘れて嗚咽するファン多数。客席を埋め尽くす日本の国旗とユヅ・バナー、プーさんの雨嵐。リンク中央でゆったりと、観客の愛を一身に受け、飲み込み、堪能する羽生選手。

 

皆の期待に応えるべき時に応えるのが真のスターであるならば、彼はメガ・メガ・スター。

 

まさに唯一無二の存在。

 

****

中略
****
 
 
17日のフリーの日。

 

私の中では羽生選手の勝利を疑う気持ちはなかったのですが、それは彼の足に不安がなかったからではなく、彼の醸し出す気迫に勝てる選手がいないだろう、と確信していたからだと思います。

 

往年のピーク時のタイガー・ウッズが良い例ですが、その試合に出ているだけで他の選手が圧倒される、よっぽどのことがない限り勝てないだろう、と思わせることができるアスリートが稀にいます。

 

今シーズン序盤から全く試合に出ていないにも関わらず、体調が思わしくないことが知られているにも関わらず、いきなりSPで自身の持つ世界記録に肉薄するほどの演技を見せた王者の帰還に、脅威を感じなかったスケーターはいなかったと思います。その意味では、フリーの演技が始まる前から羽生選手にアドバンテージがすでにあった、という気がします。

 

 

そして肝心の演技が始まります。またまた最初のジャンプが決まったとたん、「よっしゃ」と安心して最後まで見ることができました。別の席で観ていたNちゃんが後に発したコメントで「なるほど」と思ったことですが、ピアノのお仕事をしている彼女から見ていても、あのジャンプは「完璧なタイミングで音楽にはまっていた」のだそうです。

 

そこまでの冷静さ、コントロールが羽生選手から感じられたからこそ、観ている側もすんなりと入って行ける演技だったのだと納得しました。

 

もちろん、途中で疲労と痛みからミスが出たことは知っていますが、あの時、あの状況では、気になりませんでした。演技が終わると、羽生選手の雄たけびと共に皆が叫び、歓喜の声を上げた。まだあと二人、フェルナンデス選手と宇野選手の滑走が残っているというのに、そしてスコアの計算上は全く手が届かない状況ではなかったというのに、すでに彼の勝利を感じ取らなかった人がいたでしょうか。

 

その後、何度もテレビでこの試合の模様が再放送されていますが、おそらくリアルタイムで感じたあの「怒涛のような勢い」は再現できないでしょう。あの場の空気は羽生選手に完全に制圧され、抗いがたい気流となって、ただただ必然的な結末へと向かって流れていた。そんな感覚に包まれました。

 

****(抜粋終わり***

 

 

この約ひと月後、3月29日にはこんな記事も書いています:

 

「一時代の終焉」シリーズ:クリケット・クラブの目指したもの(その①)

 

その中でご紹介しているCBC Sports のYouTube動画、これをそういえば聞き取り・翻訳していなかったなあ、と今更ながら思い、もうすでにそこかしこで出回っているでしょうが、記念に残しておきます。

 

まずは男子SP演技のハイライトを集めた動画ですが、羽生選手の部分だけ、カート・ブラウニングさんのコメントを聞き取っています。

 

(8:00辺りから始まります)

 

 

 

 

冒頭、ブレンダ・アービングこのオリンピックに至るまで、ユヅル・ハニュウの道のりは理想的なものではなかった、昨年10月に負傷してから練習ができず、ついひと月前にジャンプができるようになったばかり、と説明します。

 

演技が始まり、カートさんが解説。

 

He's an ethereal skater, personality,

 

この「ethereal」はもともと「エーテルの様に軽い」、あるいは「空高くの空気の様に澄んだ」などという意味ですが、ふわりとしていて、この世のものとは思えないほどの美しさ、儚さ、を表したい時に使います。ユヅル・ハニュウというスケーターを形容するには「ethereal」がぴったり来る、と言いたいのでしょう。そのあとに続く「パーソナリティ=人柄」にもこの形容詞を当てはめているのか、それとも「彼にはパーソナリティ=はっきりとした個性がある」と言いたいのかは解釈次第かな。

 

He handed in his jumps to the competition. He says he's starting with a quad loop. I say it's a salchow, he's been pounding it in the practice, He tried three in the warmup, here goes...SALCHOW! PER-FECT!
どのジャンプを跳ぶのか(プログラム予定構成表)を提出してて、四回転ループで始める、ってことになってるけど、ぼくはサルコウだと思うな。練習でも何度も跳んでたしウオーミングアップでも3回、トライしてたから。さあどうだ。。。(やっぱり)サルコウ!完っ璧!

 

He is so talented, he has options available to him when it comes to quads, choose the one that's working that day.

才能が有り余ってるから、四回転は何を跳ぼうか、に関してはいくらでも選択肢がある。その日、調子の良いものを選んだらいい。


Beautifully designed program, also strategically designed, to make sure that the next two jumping passes are in the second half of the program to pick up a 10 percent bonus on his attempts.
このプログラムはただ美しく構築されているだけではなく、戦略面でも優れている。後半の10パーセント加点がもらえるところに、これからの二つのジャンプをしっかり持ってきているからね。

 

最後の連続ジャンプが決まり、ステップに入るところでカートさんが興奮気味に言う:

 

Last jumping pass, nailing it! and not just nailing it, SELLING it, with a combination,  with a flair, with flow, and now he's gonna fly.

最後のジャンプ、着氷は決まった!決まっただけじゃないね、これはもう「どうだ!」ってアピールしている。しかもコンビネーション。粋で颯爽として、流れもあって、さあここからは羽ばていくのみ。

 

カートさんのこのコメントは Flair", "Flow", "Fly"と、三つ「Fl」から始まる単語が続いているところがミソ。なのにその最後の「FLY」(飛ぶ=飛行機に乗る)にかけてキャロル・レーンさんがダジャレをかまし、ちょっと悲しい。

 

He's getting all of his frequent flyer points back, today.
今日はマイレージのポイントが全部、返って来る日ね。

 

 

An unknown element, coming into these Olympic Games, the former, reigning, for a few more minutes, Olympic Champion, brings it.

オリンピックが始まるまでは全くの未知数だった、元・オリンピックチャンピオン、いや、あと数分は現・オリンピック・チャンピオンかな、とにかく最高のパフォーマンスを引っ提げてきたね。

 

この「brings it」をどう訳すべきか、長男にも相談したんですが、スポーツでも良く使われます。 "He brought his A game" などと似たような意味で、とにかくその人における最上のパフォーマンス、最高の出来、を披露するためにやって来た、みたいな感じです。挑戦的な、というニュアンスも含まれています。「俺はここまでやったぜ、さあ、お前はどうなんだ」とでも言うように。


And that is why he is an Olympic and World Champion.
だからこそ、彼はオリンピックチャンピオン、世界チャンピオンなのよ。

 


*******

 

そして次はFSの解説です。

 

 

 

こちらの方が演技は長いのに、カートさんは途中、ずっと黙っています。

 

演技が始まると:

 

As much as anybody in the sport he has the ability to weave a spell

この競技においては、魔法を紡ぎだすことにかけて、誰にも引けを取らない。


A combination of artistry and athleticism, UNCANNY awareness.

芸術性と身体能力を兼ね備えた選手、恐ろしいほどの意識の高さ。

 

0:48辺り:

 

Wins the Olympic Games, stays top 2 in world for the last four years in a row. This is HIS moment, he WANTS it.

オリンピックで優勝した後も現役を続け、過去四年間ずっと世界(大会)でも1位ないしは2位の座を守り続けた。今のこの「時=チャンス」は自分のものだ、何がなんでも手に入れる、って思ってる。

 

ここからずっと沈黙。

 

3:50辺り、最後のルッツをこらえるシーンのあと:


He had to make some changes technically, he shifted things around,to make adjustments, scratching for every single point, fighting for the landing of this 3 Lutz. He WANTS THIS, He WILL not give it up without a fight.

テクニカルの面では幾つか変更する必要があった。入れ替え、調整し、ポイントの一つ一つを引っ掻き集め、あのトリプル・ルッツの着氷も必死でこらえた。絶対に獲ってやる、戦わずに手離すものか、と。

 

「THIS」は曖昧な表現ですが、この場合は「勝利」だとか、「タイトル」、と思って良いかと思います。カートさんは自分の現役時代に思いを馳せ、こうやって目の前で滑っている選手に感情移入するのが上手です。


All of his jumping passes are done, Now it's up to him to IGNITE the almost all-Japanese crowd here in Korea.

ジャンプは全て終わった。ここからは、この韓国の会場にいるほぼオール日本人の観客に火をつけてくれるか。

 

カートさん、あの場にいた観客は「ほぼオール日本人」じゃなかったですよ。まあたいがいはユヅル・ハニュウ・ファンだった、と言っても良いのかも知れませんが。世界中のファンが歓喜した一瞬でした。

 

 

うう、改めて鳥肌が立つ。

 

ちなみに現在、このチャンネルのトップの動画には平昌五輪のハイライト集が載っていますが、その中にもちろん、我らが羽生選手も登場しています。カナダのテレビ局のチャンネルだけあって、カナダ選手中心の動画、なんですけどね。