こんにちは。幸せを運ぶ語りびと 中村美幸です。ご訪問下さり、ありがとうございます。

このブログでは、小児がんを患った長男(渓太郎)との闘病、別れを通して知った「幸せ」や「愛」、「命」「生きること」について綴らせていただいています。

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【コロナウイルスが蔓延していても、いなかったとしても天使の声は変わらないから…】

 

小さな幸せ……数えられますか? ――闘病生活④

 

 さらに六日後。ひたすら待ち続けた――右腎摘出手術の日が、やっと来た。

 ストレッチャーに乗って手術室に向かう渓太郎に、私がかけた言葉は「渓ちゃん、がんばってね‼」のひと言。

 その時の私の頭は「がん細胞の転移・増殖」という懸念で占領されていた。

(この瞬間でさえ、増殖しているかもしれない)と考えると、わずか二秒足らずの励ましも惜しむほど、焦燥感に駆られていた。

(お願い、早く!一刻も早く、病巣を引くずり出して‼)

 苛立つ私をよそに、ストレッチャーはゆっくり手術室へと消えた。

 まるで生中継でも見ているかのように、まさに今、行われている手術の様子が頭に浮かんだ。

 丸々とした渓太郎のお腹にメスが入る・・・…スッとひかれた跡をなぞるように、真っ赤な血の線が浮き上がる――。

(やめてっ‼)

「一刻も早く」と「やめて」――手術を巡る真逆の母性は、体を硬直させながら、肩や腕を小刻みに震えさせた。

――五時間後。

「えっ、えぇ……渓ちゃん!」 

 私は、驚きと信じられなさで、拍子抜けするような叫び声を上げた。なんと、渓太郎はまるでお散歩から帰って来たかのように、なに食わぬ顔をして病室に現れた。

 小林先生の腕の中で目をパッチリと開け、びっくりしている私に(お母さんどうしたの?)とでも言うように見ている。

 私が抱いていた術後の先入観――酸素マスク、包帯、意識朦朧、消毒臭等々、いずれのイメージも当てはまらない〝普通〟の姿に、手術の成功を確認するより先に、思わず尋ねた。

「もう、普通に抱っこしていいんですか?」
「はい。もう普通に抱っこしてもらって大丈夫です。たぶん痛みもほとんどないと思います」と、にこやかに答えた後、小林先生は少しかしこまった口調で、もっとも大事な手術の成功を告げた。

「手術は無事成功しました。渓太郎くん、がんばりましたよ!」と。

 右腎のほか転移が認められたリンパ節も、きれいに摘出したという。そして、私の胸に詰まったすべての「負の感情」も取り除かれた。

 久し振りだった。肺いっぱいに空気を吸えたのは――。

 真に「心が晴れる」ということを、初めて体感できた瞬間だった。

 渓太郎の体に潜み、私が妄想の中で闘った「がん細胞」は、目の前にあるトレーに、その姿をさらしている。間もなく、病理検査によってその正体も明かされるだろう。

(どんな病気でもいい。ただ命だけ助かれば、それでいい……)

 私たち夫婦が再び面談室に呼ばれたのは、手術から四日後のことだった。

 

そして、告げられた……

「渓太郎くんの余命は、三か月です」

 

(どうせ、いなくなるのに、どうしてこんな所に……)

 いきなり、どん底に突き落とされた境遇を受け入れられない私は、悲しみの矛先を選りによって、温かい手を差し伸べてくれている唯一の拠り所――ここ「こども病院」 に向けていた。 

 つい先ほども、渓太郎と一緒に病院から逃げ出した幻想に陥っていた。

 

次回は【小さな幸せ……数えられますか?――アニメにはじけるステキな少年】をお届けしたいと思います。

 
これまでの公開頁は、以下よりご覧いただけます。

【選ばれて生きた500日もの「いのちの時間」】

【小さな幸せ……数えられますか?】

【小さな幸せ……数えられますか?――闘病生活】

【小さな幸せ……数えられますか?――闘病生活②】

【小さな幸せ……数えられますか?――闘病生活③

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