8月9日台風11号が接近する中、名古屋、岐阜、滋賀を通って日本海に抜けた。
名神高速道路を走っている時は、白いキャンパスに墨汁をぶっかけたような絶望的に暗い空から、やばいくらい大粒の雨が大量に降り注いで、ぼくのBMWのフロントウィンドウが粉々に砕け散るのではないかと感じたりもした。
時々、道路の水膜の上にタイヤが乗って、一瞬ステアリングの手応えがなくなるのがわかる。ハイドロプレーニングというやつだ。BMWのステアリングは重く、路面の状況を直接伝えてくる。ぼくは少し速度を落として慎重に運転し、日本海に抜けた。
福井県につくと雨はやんでいたが、空は相変わらず暗かった。外は涼しそうだったが、車から外に出ると、粘りつくような湿気を含んだ空気がぼくの肌に絡んできた。
敦賀のイオンで長袖のシャツと小さなバッグを買い、ケンタッキーでチキンを食べた。そういえば食事をまったくしていなかった。
19時ごろ敦賀港のフェリー乗り場についた。まだまだ出港は23時予定。本当は10日の1時30分予定だったが、台風11号のおかげで早まった。台風で海が荒れる前に北海道に行ってしまおうというのか?
そう、ぼくはこの夏、片道20時間もかかるフェリーで北海道に行くのだ。
いきなり台風で出鼻をくじかれた感じだが、ぼくと愛車のBMWを載せたフェリー・スズランは無事敦賀港を出港した。8月9日23時50分のことだった。

月の色がおかしい――と気づいたのはつい最近のことだ。
ぼくの知っている月はもっと暗くて赤い。
そう――まるでサバイバルナイフでかっ切った喉から、どくどくと、とめどなくあふれ出てくるどす黒い血液のような赤。
そんな色だった――ような気がしていた。
しかし、最近月を見てみるとそんな色はしていない。
普段の月はどちらかというと白く、時には黄色に見える。
ただ月が赤く見える時はあるらしい。
それは「BLOOD MOON(血の月)」と呼ばれている。
月が地球の影に完全に隠れた状態でも、地球の大気の層で屈折したわずかな太陽の光が月に届き赤黒く輝くために起きる――らしい。
しかしぼくの見ていた月はそういう天体ショーではなく、常に赤かった。

サケを飲まなくなってから、世界が変わってしまった。
いや、世界が変わったのではなく、ぼくが変わったのか。
赤い月を見なくなった。









