引越しの際、私がうっかり誤ってこの世から消し去ってしまったボリビア盤LPレコードたちへの手向け話の3回目。今回で完結させたい。前回はこちら。
4)Chuma Q'hantati "Sonko Huakay"(1982年)
(音盤情報:Chuma Q'hantati – Sonko Huakay (1982, Vinyl) - Discogs)
【アルバム概要&レビュー】
チチカカ湖畔、チュマ出身のアウトクトナグループ。近隣のイタラケ、チャラサニのシクリアーダ及びチュマのピファノス、ケナケナを得意とする。1981年のファーストから間を置かず、翌1982年に出した二枚目。
一枚目から演奏形態や全体的な雰囲気はほぼ同じ。細かな違いとしては、こちらではCairani カイラニもしくはCamilaca カミラーカのシクリアーダが1曲取り上げられている(A6)。あとは笛物が一曲増えたくらいか。
個人的にはA1「Sara とうもろこし」が大好きだ。イタラケの典型的な曲だが、メロディがドラマチックないい曲。イタラケはそれなりに聴いている方だが、この曲は他グループでは他に収録例を知らない。私の中では、チュマカンタティといえば、まっさきに思い起こすのはこの曲になる。
【探索途中結果】
音自体は、本稿執筆時点で、YOUTUBEにアップロードされており(※)、Apple Musicでも聴ける。よって今では所蔵していなくても、アルバム全体を聴くことはできる。
しかしブツは、DiscogsでもCDandLPでも在庫が見つかっていない。
WANTED
5)Paja Brava ”Herencia Ⅰ”(1977年)
(音盤情報:Paja Brava – “ El Folklore Más Poderoso “ Herencia (1977, Vinyl) - Discogs)
【アルバム概要&レビュー】
先日他の記事にて主要メンバーのAgustin Silvaについて紹介した際、少し触れたが、どこか憎めない「永遠の二流グループ」として一部愛好家から、当人たちからすればあまりありがたくない愛され方をしているグループの初期作である(なおこちらのディスコグラフィでは、2枚目となっているが、私の記憶では本譜と曲のダブりがあって本譜とは別のアルバムがもう一枚あったはずだが、どうしても情報が見つからない)。
この頃のパハ・ブラーバは、当時はまだ音盤化されることが珍しかったアウトクトナ
音楽(特にアルチプラノ農村部の祭礼音楽。先住民文化が社会的に冷遇されていた1980年代くらいまでは、公に演奏されることが少なかったという)を手掛けていた。本譜も、曲の7~8割はアウトクトナだったと記憶している。
ただ、なんだか、妙に音がスカスカで密度が薄かった(それは例えば上のチュマカンタティなどと比べれば一聴瞭然である)。ジャケ裏クレジットではメンバー5人(アウトクトナをやるにはかなり少数)で、5人で出せる音だから…というのもあろう。
しかしそれ以上に「慣れていない」「板についていない」感が漂っている。まるで山村留学中の少年が留学先の村祭りに初めて参加させてもらって祭囃子の笛を吹かせてもらっているような、まだ身についていない感。
これは想像だが、もともとロックなど別のジャンルの音楽をやっていた都市部(おそらくラパス)の若者たちが、何かのきっかけで(たぶん少し先輩にあたるグルーポアイマラやワラ等、同じく都市部の若者たちが先住民の音楽文化を掘り起こして自分たち独自の音楽を構築し始めたことに刺激されて)、俺たちもやってみよう!となり、本譜ができあがったのではないか。
その証拠になるかどうか分からないが、グルーポアイマラのリーダー、クラルケン・オロスコはかつて木下尊惇氏のインタビューに答えてこんな昔話をしている;
「親父の工房のすぐ横の道で、ワラータ村の人達がアウトクトナの楽器を作っていたんんだ(…)聞いているだけでは物足りなくなって、仕事の終わったあと奏法を教えてもらうようになった」(季刊「オーラ!アミーゴス」第7号/1989年夏号より)
そんな先輩の後を追ってできたのが本譜であるように私には感じられる(本譜には確か、グルーポアイマラやワラと被ったアウトクトナ曲も収録されていたはず)。
そんな初々しさや、アウトクトナ音楽への憧れ、そして先住民の伝統文化を継承することから新しい何かを生み出すんだ!という気概といったものが、このアルバムから感じられ、それが、音のスカスカさを超えた本譜の魅力となっている、と思う。
なお、その後のパハ・ブラーバだが、グルーポ・アイマラにもワラにもなれず、ロス・ユラスの楽曲と演奏をパクったかのようなアルバムを出したり、カラ・マルカのサウンドを意識したようなアルバムを出したり、ボリビア・フォルクローレ界のその時々の流行に順応しながら、音楽性や演奏スタイルを変え続け、2008年までアルバムを出し続けていたところまでは追えるが、その後の消息は分からない。
【探索途中結果】
奇跡的にDiscogsで在庫を持っている業者を1つだけ発見できて、即ポチ。
執筆現在、搬送中。
→今朝届いた。本稿を書き上げた後、すぐ聴いてみた。記憶の中にあるものより、良かった!
確かにカントゥとモセニャーダはスカスカだが、特にネオフォルクの曲は清々しくていい。実はオリジナリティもあった!
6)Grupo Folklorico ”Sol del Ande” vol.1 (1983)
【アルバム概要&レビュー】
上のチュマカンタティと以上にコテコテ純度100%のアウトクトナグループだが、チュマカンタティとは異なり、イタラケやチャラサニではない別の地域、例えば同じラパス州でも、ロスアンデス Los Andes、インガビ Ingavi、マンコカパック Manco Kapac等の各県の音楽(ラキータ、スリシクス、タルケアーダ等)を得意としている。
失くしたこの1枚目については、あまりにコテコテのアウトクトナ過ぎて、たまにしか聞いておらず、これを掛けるとよく眠れたことくらいしか覚えていない。
それだけに、いま聴き直したらどのような新発見・感想が得られることだろう。
なお、手元に残った2枚目の方が、キャッチーな曲が多く、聴く頻度も多かった。
ちなみに2枚目のジャケット表面のインパクトが大きく印象に残るので掲げておく。
手鎖を断ち切ったインディヘナの男たちが、朝日昇るチチカカ湖へ向かって、希望の雄叫びを上げている。”偉大なる日”の到来は近い――ものすごく分かりやすい絵解きである。
Sol del Andeはこの2枚のアルバムを残した後の消息も分からない。
リーダーのフアン・リマチ Juan Limachi Tは、Kolla Marka 1枚目ジャケ裏のメンバークレジットにあるJuan Limachiと同一人物かもしれない。Maya AndinaのJuan Inti Limachiという人もいるが、演っている音楽が違いすぎる気がする。
【探索途中結果】
CDandLPで過去に取引実績があるくらいで、情報ほぼナシ。
YOUTUBEチャンネルをもっているSol del Andeとは恐らく同名異グループ。
WANTED
7)Wara "Sojta" (1992年)
(ディスコ情報:Wara - Sojta | Releases | Discogs)
【アルバム概要&レビュー】
ロランド・エンシーナスと菱本浩二さんがメンバーに名を連ねていた時代のワラのアルバム。
初期(Maya, Paya, Quimsa, Pusi)のようなアウトクトナ成分の入ったフシオンを期待してしまう自分にはピンとこず、正直なところ、あまり聴いていなかった。よってどんなアルバムだったか思い出せない。
【探索途中結果】
DiscogsでCD盤を発見して、カートに入れたところ。
他のついで買いのアルバムが確定したら一緒にポチる予定。
8)そのほか
この調子だと終わらなくなってしまうので、以下は駆け足で。
(1)Paucartambo: La Mamacha Carmen(米カセット)
(ディスコ情報:Musicians of Paucartambo – Paucartambo: La Mamacha Carmen (1987, Cassette) - Discogs)
ペルー山岳地帯のケロ Q'ero族の集落パウカルタンボでの祭礼ラ・ママチャ・カルメンの現地録音。同地の現地録音には他にフランスのOcra盤がある(教会のパイプオルガンの演奏が凄く良い!)が、Bob Hadad氏の手によるこの現地録音の収録曲はどれも良かった。特に、B面ラストの歌(合唱)がなぜか物凄く心を打つ。
→Discogsで複数点在庫を見つけ、購入。勢いあまって、CD盤も買ってしまった。
(2)Julio Godoy ”La Estrellita”(スイスCD)
(ディスコ情報:Julio Godoy (delosandes.com))
フリオ・ゴドイは、元ロス・ハイラスのギター奏者。エルネスト・カブールが「このまま海外公演ばかりしていたら自分の中のボリビアの血が薄まってしまう」と、グループを脱退してボリビアへ戻ったのとは対照的に、多くの海外で成功したボリビア人奏者の例にもれず、ヨーロッパ(スイス)へ移住した。
その晩年と思しき時代の、ギター独奏集。伝統曲を静かに奏でている。
リーフレットは手元にあるが、どうしてもCD本体が出てこない。
WANTED
(3)Raul Garcia Zarate "Peru -Guitarra"(仏CD)
(ディスコ情報:Raul Garcia Zarate – Peru - Guitarra (1989, CD) - Discogs)
ペルーが誇る偉大なギター奏者。1931年アヤクーチョ生まれ、2017年没。
もともとはクラシック畑の人なのだろうか、精密機械のように緻密で正確な演奏で、ペルーの伝統曲をギター一本で奏で続けた。
特にこの人の「さらばアヤクーチョの村よ Adios pueblo de Ayacucho」はずっしりと良い。
本譜は、Bolivia Mantaのアルバムの版元(A.S.P.I.C.)が出したもの(同レーベルでは、エクアドルの盲目のアルパ奏者、フアン・カヤンベをフューチャーした「Jatun Cayambe」も名盤だった)
→音源は多数あり、私にはどれもあまり変わらないように聞こえるので(失礼)、同人の別アルバムを新規購入して補完しました。
(4)Bolivia Manta ”Sartanani”(仏CD版)
(ディスコ情報:Bolivia Manta - Sartañani: CD, RE 販売中 | Discogs)
言わずと知れたボリビアマンタである(ボリビアマンタの話を始めてしまうと、もう筆を置くタイミングを逃すので、ばっさり割愛する)。
本譜は、その一枚目と二枚目の再編集盤CD。
だが原盤LPアルバムの方がずっと良い。曲順が練られているし、原盤のライナーノーツが絶品だ(まさにアルバム、と呼ぶにふさわしい。ジャケット・ライナーノーツ・LP本体の三位一体で味わうべき)。
→LP原盤に針を落とすのがもったいなくて、CDはもっぱら視聴用に持っていたもの。上記理由で買い直しは気長に構えてます。
以上、3回にわたった本稿をようやく終えることができた。
通しで読んでくださった方がもしもいらっしゃったら、お疲れ様でしたm(__)m■