友人と、barにキープしているボトルがあります。

ストラスアイラ(STRATHISLA)12年。
スコットランドのスペイサイド地区のシングルモルトウイスキー。



シロップのようなリッチでなめらかな舌触りと、ベリーのような華やかな香り、そしてリンゴのような甘酸っぱさがパッと広がる、なんとも贅沢な味わいで、女子にもオススメの一品です。


これをいつも、私と彼女はまずはストレートでちびりちびりとやり、途中ロックやソーダ割りにしてみたり、またストレートに戻ってみたりなどなど、長いことカウンターに居座り、楽しみます。

その時の話題はもっぱら、“今後の人生、考えちゃう”的なこと。


「やりたいこと、やっていきたいよね」
「それが出来たらホントいいよね」
「でも、自分のホントにやりたいことって一体何なんだろうね」
「それ謎だよ」
「ほんと謎だよ」
「やりたいことやるのがいいのか、出来ることをやるのがいいのかどっちかね」
「やりたいことやる方がよくね?」
「てか考えてばっかで行動できてなくね?」
「だよね。どうすればいいかちょっと真剣に考えなきゃ。。。」
「うん、ほんと考えなきゃ。。。。」


書いてみると如実にわかる、くだらなさ。
でも本人たちはいつもかなり真剣です。
こんな会話が毎回繰り広げられる時間。
もはや、堂々巡り目眩まし。危うくドグラマグラの世界です。

結局答えの出ぬまま店を出てお互い帰路に向かい、そしてまた確実にあのbarで、ストラスアイラを片手に同じ討論を繰り返すであろう、三十路超えの女2人、、、


彼女とストラスアイラと私。
もはやオリジナルで一曲作ったろうかと思わされます。

なんだかんだ、彼女とストラスアイラとそのbarに、癒されている私がいるのです。


ここのところ暫く人気沸騰で、めっきり予約がとれなくなってしまった池尻のビストロ。
久しぶりに友人が予約をとってくれて、訪れることに。

まず何より、ここのシェフ。とにかく、アグレッシブな方なのです。
店はオープンキッチンのスタイルなので、シェフが料理を作りながらお客サンとも会話出来るようになっています。
料理に会話に常に大忙し。動きの悪いスタッフに可成りの頻度で怒鳴っている様も、もはやお客からは丸見えです。
ただここの料理、自家製ロースハムや田舎風パテから始まり、グラタンやムール貝、魚、肉料理などなど、ちゃんと美味しい。だからこそ、そんな苦々しい内紛場面を見せつけられながらもお客としては通ってしまいます。
ワインも低価格なのにしっかりしたボディのものが充実し、庶民感覚でついつい仕事帰りに気軽に寄りたくなってしまうような、本場のパリのビストロのような使い方が出来る希少な店なのです。


私たちは一通り料理をいただいた後、デザートには‘例のもの’をオーダーします。
「ババ」という、スポンジケーキのシロップ漬けに、生クリームをたっぷり加えた、ほっぺた落ちる幸せいっぱいの一品です。
そしてこのババと共に、すかさず食後酒アルマニャックをいただくことにしました。

アルマニャック (Armagnac)。
フランス南西部、アルマニャック地方で醸造されるブランデー。コニャックと肩を並べる、フレンチブランデーの二大銘酒の一つです。


「コニャックよりアルマニャックのが個人的に好きなんだよな、昔修行した土地でもあるから。」

こう言うシェフがセレクトしているアルマニャックは、「Reflets de France」 (ルフレ・ドゥ・フランス)というメーカーから出ているものでした。
ガツンと濃厚なタイプではなく、適度なライト感、且つブランデーグラスからたちまち広がる華やかな風味。
ババのようにとてつもなく甘いデザートとともに味わうと、これくらいの方がなんとも上品で贅沢なハーモニーが生まれ、これはこのまま何時間でもくだを巻けそうなシチュエーション、まさに陽気な危険信号が点滅し始めるのです。


「そのアルマニャックね、安くて美味しいんだよ、ここら辺ではおいてないの、カルフールで買ってるから。カルフールって知ってる?フランスの直輸入品とかおいてるとこ。町田とか千葉とか大阪とかにしかなくて、、、」
決してこちらから聞いてはいないのですが、シェフは声をはって教えてくれます。

「実家がうちカルフールに近いから、正月に帰ったら買って来るんで、連絡先教えてもらえれば」

やはり買って来てとは一言も口にしていない私は、ちょっと戸惑いました。

あ、またここに来て飲むから、別にいいですよわざわざ、、、、そう言おうとして、ハッと気づきました。

あれ、もしかして、これって新手のナンパ?!

私はおもむろに出されたポストイットに、せかされるように携帯とメールアドレスを書きました。

シェフの純粋なサービス精神は、時に仇となります。
アルマニャック入荷のお知らせとプラスアルファの便りをかすかに期待しつつ、歪んだ心を持つ私は店を後にしたのです。



先日、とある店にて。

シェフのご自慢の自家製ローストビーフを注文しました。

そこのローストビーフは、とにかく、美味しいのです!
真っ赤な肉はとてつもなく柔らかくジューシーで、深夜にこんなにたらふく食べていいのかっていうほどの恐るべしボリューム。素晴らしいのです。


肉汁に思いを馳せながら、ビーフの到着を待つ間、ドリンクをオーダーすることにしました。
私は正直言うと何か、濃厚でインパクトのあるウイスキーの、ソーダ割りな感じがいいかな、と思ってはいたのですが、何となくこの目の前の女性スタッフの意図に任せてみようという変にやらしい遊び心が出てしまったのです。

「次、ローストビーフに合わせたいのですが、、、何か、ソーダ割りで、オススメのものをいただきたいのですが」

「オススメ、ですか、、、何かお好みはありますか?」

「ん、、お任せします、ローストビーフに合うやつで」


その女性スタッフは、少し悩んでおりました。
髪の毛を後ろで一つに結わいた、小柄で可愛らしい女の子です。
そして彼女は次の瞬間、おもむろに予想外のボトルに手をかけたのです。

EARL GRAY ティーリキュール。
紅茶のリキュールです。

“.................... そこいっちゃった?”


その女性スタッフは、着々と紅茶 リキュールをグラスに注ぎ、ソーダを入れ、レモンを絞っています。

"そうか、そう来たか、、、"

彼女が小さい体で健気にせっせと作っている姿を見てしまうと、もはや固唾をのんで見守る以外すべはありません。
私の目の前に出されたそのアイスレモンティーのソーダ割りは、言わずもがなとても爽やか風味。ティーは、ウーロン茶のように大抵のものに合わないといけない飲み物ですから、ローストビーフに合わないということは、ありますまい。

よもや、「ローストビーフと合うやつ」の意味は、「ローストビーフの旨味を存分に引き出せるやつ」という意味でのオーダーのつもりだったのに!などと問うのは、オカト違いなのです。
彼女はきっと優しくて素敵な女性で、彼女にとってはこのティーリキュールが、あの肉汁したたるワイルドなローストビーフにベストマッチだったのでしょうから。


私は何となく、オウンゴール的な惨敗感にうちひしがれました。
誰にもあたることのできない、後悔の念。

濃厚で、旨味がいっぱい詰まったシェフ特製のローストビーフ。
彼の持つ溢れんばかりの魅力を、予想もつかないステージへと昇華させてあげられるベストパートナーのドリンクを探しあてられるまで、私はまたあの店で挑戦し続けることになりそうです。