休みの日に、新宿伊勢丹によく行きます。
一番のお気に入りは地下の食品フロア。
広くてキレイなので居心地がよく、ついつい総菜系からスウィーツまで食のウインドウショッピングをしてしまいます。

先日も、洋酒売り場でシングルモルトコーナーをチェックしていたところ。
『あれ、このアードベッグのラベル見たことない…』
おもむろに棚のボトルに手をかけたその時でした。

「どなたかへのプレゼントですか?」
即座に斜め後ろから男の店員さんの声が。
別に悪いことしてないのに反射的にボトルを元の位置に戻してしまうのは、小心者の性でしょうか。

「あいえ、ただ見てただけです」

「あそうですかー、いやてっきり刺激のある個性的なウイスキーを手にされてたんで、男性へのプレゼントを探されてらっしゃるのかなーと思いまして..」

ほほぅ・・・きっかけ作りときたか。
彼の柔らかな口調は、私にとってまんざらでもなかったようで。

「あ、これ見たことなかったからちょっと気になって。ウイスキーよく飲むんです、好きで」
思わずまんまと会話にのってしまいます。

よく見ると、その店員さんはバーテンダーの格好をしていました。脇に試飲コーナーもあるので、そこではドリンクサービスもこなすのでしょう。どうやら一人でそこのウイスキー売り場を任されている様子です。

私は彼のスムーズな会話のリードに完全にのまれ、気付くとまんまと試飲まですることに。

一杯五百円の、グレンロセス。
味がわかる女でいたいけど、何もわからない女というキャラも捨てがたい。
あ、軽くて飲みやすい、おいしいですね、、
そうですね、ウイスキーでも女性でも抵抗ないかと思うのですが、
うん、どんどんいけそうかも、でもなんだか特徴があんまりないのかな、
ええ、まあバランスがいいってことなんですよね、
そうかもー、、、
などなど、バーテンダーの彼と客の私の間は、徐々に縮まります。

ただし、哀しいかな、私は、知っているのです。
私と彼には、これ以上のドラマは発展しないであろうということを。

なぜならここは、デパ地下内。
あなたはここの、デパ地下GUY(ガイ)。
明るい照明、この上ナイ。
見なきゃいいもの、見ちゃいけナイ!

語らせてください。
こんなに眩しい光の下じゃ、隠しきれないのです。
彼の、職業柄、日焼けには縁遠い不健康そうな青白い肌、そしてそこに長年積み重なってきた茶グマ。セツナいパーツがこれでもかとさらけ出されています。
これが薄暗いバーカウンターだったとしたら?
きっとその茶グマも彼の色気と化するはずなのに。
けれどもこの場では、なんとも物悲しさを助長させる以外ないのです。

そして何よりもやるせないのが、私の顔面にも同様に、シミや小ジワなどの悲壮感が浮き彫りにされていて、それを彼に確実に発見されてしまっているであろうということ。
もはや恋愛峠への切符は買いません。不戦敗な気分です。


私はグレンロセスを出来る限り早く飲み干し、その場を後にしました。
ウイスキーの本質は変わらないにしても、やっぱり女としては、薄暗い照明のbarカウンターじゃないと、自信もやる気もいまいちなのです。

学生時代からの友人が、年明けに続々と結婚していく予定で、無駄に焦る今日この頃。

ですが先日、スピリチュアルスポットといわれる学大の駅近くにある紹介制の占いの先生にみてもらったところ、
「あなた元々、結婚観うすい人だねー。あなたね、男だから」
といわれ、なるほどと根拠のない安堵感を覚えた次第です。

友人の結婚式には大体のところ、お祝いのメッセージや余興を頼まれる私。
NOと言えない女。
昔ながらの日本人気質です。

同時に、一組のカップルのパーティーで、ウイスキーのドリンク演出を任されることになりました。
どこのタイミングで、どの銘柄のものを、どういう飲み方で出すか、などなど、提案することに。

私は心の中で、香田晋ばりに頭にねじり鉢巻を巻きます。
“私は氷。あなたはウイスキー”以上のキャッチフレーズを考えなければ!
どちらにしても無駄に焦る日々です。


友人が出張でスロヴァキアに立ち寄ったとのこと。
お土産に、ベヘロフカ(Becherovka)というチェコの薬草酒をいただきました。
ウォッカをベースとし、20種類の薬草、香辛料、天然水を原料とした地酒です。




始めの一口は、衝撃でした。

水飴のような瑞々しい甘さを感じた後、すぐに強烈に、龍角散か葛根湯かのような激しい苦みがやってきたのです。
あまりにも飴とムチの度合いが激しく、一瞬ひるみます。


『なんて強烈な個性、、、どう接していいのか、、、』

その後、東京で唯一というチェコ料理店に偵察に行ったのですが、本場の飲み方も、甘みのあるトニックウォーターで割って、あえてベヘロフカの本来の苦みを引き立たせるというのです。(あんこを甘くするのに一つまみの塩を入れる原理)


こんなに強烈な苦みなのに、みんな平気なの?!
こんなにニガいのに、、、
それにしてもなんだってこんなにニガいのか。
ううん、やっぱりニガい、ニガすぎるって。

一口、また一口と味を確かめては苦みを再確認していくうちに。
恐ろしいことに、一口、もう一口とその苦み成分を自分の体内に取り込みたくなっていることに気づいたのです。

...... ヤダッ。 私、もしかして 、ハマってる?!


そのチェコ料理店にて、急にこわばります。

はたまた、突然目の前に現れた素性の知れない危険な男を、恐れながらももっと知りたくなってしまうように。
そして、知れば知るほどそのワイルドな魅力に惹かれていってしまうように。

こうやって皆、個性的なベヘロフカの虜(とりこ)になっていくという図式。


秋の夜長、この際忙しくなる前に、こういうタイプに思う存分ハマってしまうのも悪くないかも...... 

抜け出せなかったらごめんなさい。
ほくそ笑みながら、もう一口。

ベヘロフカと共に、暫くチェコを散策してこようかと思います。