2021年10月24日(日)、名古屋の某カフェで行った、Kazumaさん主催による「タイBLプレゼン会」。

リモート参加のるんさん、Kazumaさん、まふさん、りりこ、遠くからの参加のKelvinさん、じぶー。さんの順にそれぞれプレゼンを行いました。

改めてお題は。

るんさん「LovelyなのはWriterではなくKaoなのよ」

Kazumaさん「 千星物語 プーパー隊長とティアンは何処でゲイバレしているのか」

まふさん「 タイBLとOST 進化するドラマと音楽」

りりこ「タイBLが描く『両思いのそのあと』のこと」

Kelvinさん「 タイBLの英語でたどるゲイ・カルチャーの世界」

じぶー。さん「 恋が生まれる瞬間 ~タイBLドラマの音響効果と脳内変換」

でした。

では私のプレゼン内容をご紹介しますね。

 

というわけでどもども。美尾りりこです。

『2gether』でタイBLにハマり、その後何本かの作品を経たのちに観た『Tharntype』でタイBLに愛を誓いました。Tharnがしている親指リングを、私はタイBLへの愛情の証としてずっとはめている者です。

 

さて私の今回のプレゼン内容は大きくまとめるとこんな感じです。

両思いのそのあと。なにがあるでしょう。

キスしたい、と思う。相手に触れたい、と思う。そしてその先は・・・。

ところで日本のドラマって「両思いで終わり」が結構多くないですか?そのあとのことは皆さん脳内補完してくださいね、って作品が多くはないですか?

でも、実は性表現を描かないことで取りこぼしていることがいろいろあると思うのです。

描かれない様々な性の問題。日本のLGBTを扱った作品を例に出してプレゼン会では軽く説明しましたが、ここでは割愛します。

ではタイBLでは性に関してどのように表現しているのでしょう。

まず、2014年『Love Sick』~2016年『Make It Right』などタイBL黎明期を作った3人の監督を例にとって見てみましょう。

まずは、一番多くの方が視聴している『Love By Chance』『Until We Meet Again』を撮っているNew監督から考察してみます。

初監督作は共同監督ですが2016年『Make It Right』、25歳の頃です。監督の他、撮影、脚本、演技指導などなんでもこなすマルチな才能で自らの制作会社「Studio WabiーSabi」の経営者でもあります。

そんなNew監督の性表現に関する特徴は。ドーン!

New監督作品では、恋と同時に相手に対する性的な欲望が生まれることを描いています。そしてそこには、その想いや行為が相手を傷つけるのではないかという不安と、その後Sexに至るまでをきっちり描いています。

そこにはとてもリアリティがあり、コンドームの使用については『Until We Meet Again』などに見られるようにその意義を丁寧に説明するシーンもあり、セイフティ・セックスの啓蒙にも繋がっています。さらにSexシーンでは怖れと同時に快感をとても瑞々しく描いています。

さて、New監督、『Love By Chance』で新人のSaintくんを主役に起用しています。私は可愛い顔をしたSaintくんのことをとても野心的な俳優だと見ています。

New監督も公の場で語っていますが、New監督が必ず自分で演じて見せてシーンを作ることが多いそうですが、Saintは本番になると必ず少し変えてくるそうなのです。ドラマを観ていて思うのですが、言われたことを理解した上でそれ以上のものを演じようとする俳優としての意欲を私は強く感じます。

この作品では、BL用語で言うところの攻がPerth演じるエー。受がSaint演じるピートです。

優等生で可憐でおとなしいピートです。しかし「受」というのがただ可愛いだけではない、待ってるだけではない存在だということが脚本から窺えますし、それをSaintは演技の端々に表現しています。受と攻という概念のステレオタイプからの脱却が垣間見られるこの作品。それは2018年のタイBLとしては斬新なことだったのではないでしょうか。

 

『Love By Chance』から離れ、そのシーズン2の『A Chance to Love』の最終話を見てみましょう。最終話、監督、そしてMeanとPlanはある挑戦をしていると思われます。

左はPlan演じるキャン。キャンはここで腰周辺は隠れていますが、その前の「裸エプロン」という設定からすると、これはほぼ全身裸体、という構図です。ねえねえ、タイBLで全裸設定って、意外となくない?

さらにこのシーンの続き。Sexのあと、誕生日ケーキを持ってきたキャンにMean演じるティンが感動をしてベッドから起き上がるシーンですが、なんと腰の部分にモザイクが!

もしかしたら本当は何か穿いているのかもしれないですよ?でもモザイクがかかっていることでここはまったくの全裸なのでは、と思わせる表現になってるじゃないですか。

正直言うとですね、私はドラマの中でSexを終えたあと、またはその翌日、布団から出るとみんな必ずパンツ履いてて、ちょっとガッカリしちゃうんですよね(笑)いや別になにか見たいとかそういうわけではないけど、終わった後で穿いてるシーンがないのにいつも既に穿いてるってのがサ・・・。でもここでは全裸を表現してるじゃないですか! これはSexのあとの当たり前のリアルを表現してる上に、ちょっとした挑戦ではないかしら?

 

さて、次はCheewin監督です。

23歳で『Make It Right』共同監督としてデビューです。

2020年に『Why R U?』が大ヒット。その後、短期間で数多くの作品を制作している売れっ子監督です。

性表現に関するCheewin監督の特色は、はいドーン!

とにかく、まさにThe BLです。世界には男子しかいないの?そして目と目が合えば必ず恋に落ちてしまうのね!

演出にはどこか乙女な目線を感じます。

しかし!特筆すべきは美しくてエモーショナルな性描写。Sexシーンに関してはどの監督よりも表現に野心を感じます。2021年『Y-destiny』での性表現も良かったのですが、やはりここはCheewin監督と更に野心に磨きがかかったSaintくんによる2020年『Why R U?』を見てみましょう。

 

悪い顔!

 

目で誘う!!

 

乳揉む!!

相手が女性の場合、多くは性表現で胸は出せません。でも男性なら出してもいいらしいのです。さらに男性の乳首はOKらしいんです!男女では出来ない、BLならではの性表現。胸への愛撫です!乳首も大活躍です!!

 

手を入れる!!!

来ましたねえ~~。そうですよね、そこが大事ですよね。タイBLでも大抵の作品はキスどまりの性表現ですが、『Why R U?』では「問題はそこじゃない。股間にあるのだ」ということを表現しています。ていうか、これは監督の指示なのか。長くカメラを回している中で俳優が役としてどんどんと演じていったのか。SaintとZeeはSexシーンは結構自分たちでも話し合ってアイデアを出したというようなことを公式に言ってたと思いますが・・・。

 

『Why R U?』の性描写は、あくまでもわたし調べですが(笑)、タイBL史上最長じゃないでしょうか? もしかしたらライバルは『TharnType』かしら?

これまでの性表現の幅を塗り替える、すごく攻めたラブシーンを演出しています。

この作品ではZee演じるファイターが攻、Saint演じるターが受です。しかしターはスイッチが入ると猛然とエロまっしぐらです。え、さっきまであんなに可愛い顔してたのになんなの?!状態です。僅かな視線の動きや指の動き、そのすべてに意味があると感じる映像。さらにお互いが接近するにつれ熱くなっていく吐息や触れられたときに敏感に跳ね上がる皮膚の感覚も映像では表現されています。そしてSexに主従関係のような攻とか受とかなく、スイッチが入ればどちらも欲望の赴くまま、という状態を官能的に美しく描くのがCheewin監督の特色ではないでしょうか。

 

さて、黎明期の監督と言えば2014年『Love Sick』を監督したAndy監督です。この作品はNew監督やBackaof監督も言及していますが、多くの人に多大な影響をもたらしたそうです。

 

では、Andy監督の性表現に関する特色です。ドーーン!

 

高校生たちの物語が多いせいか、実際そこで描かれるのはほぼキスシーンだけ。それもそんなには多くないです。それなのに全編からエロティシズムが滲みだしていて、これは他監督の作品とは一線を画しています。

なによりAndy監督の作品には、10代の男子たちが集まるとまるで小学生のように騒いだりじゃれあったりする、そんな思春期の男子たちへの愛おしさが感じられます。

 

では作品から見ていきましょう。

現在、配信サイトで観ることができる2016年の『'Cause You're My Boy』から。

彼らは早い段階からお互いが両思いであることを知るのですが、そこから先、踏み込むべきかで迷っています。自身に性欲があることはわかっていてもSexはどうなのか。

「恋をする人にセックスは必要だと思う?」

「僕たちが付き合ったら関係を持たないといけないのかな」

そうやって悩み、答えを探していく10代の男子たち。

カメラは、まだ作られ過ぎてない10代の俳優たちの体、それは細すぎたりまたはむっちりしている四肢を捉えています。

 

そして2014年の『Love Sick』です。

当時美少女のようなWhiteくんと、New監督の従兄弟でもあるCaptainくんがメインカップルの群像劇です。

この作品も、早い段階でお互いへの気持ちが生まれ、お互いにそれを知るのですが、「女の子と付き合うことが正しいのではないか」という迷いも持っています。

作中にはトランスジェンダー男子たちも多く登場しますが、コメディ要素ではなく、彼らの権利を生徒会としてどう公式の場に持っていくのかという議論も興味深いポイントです。恋、そして性という局面から高校生の彼らが直面する様々な問題を描いた群像劇です。

 

さて、この3監督の他にあと少し、他の監督の作品も観ていきましょう。

2020年、大きな話題をさらった『I Told Sunset About You』のBoss監督です。

この監督も、好きになったあと、相手のカラダに触れたいという強い欲求とその先を恐れる気持ちを瑞々しく描いています。

 

そのBoss監督がプロデューサーになり、Mean監督がメガホンをとったシーズン2の『I Promised You The Moon』。こちらでは1作目のふたりが付き合いはじめた大学1年生からを描くのですが、2年を過ぎたころ、Billkin演じるテーは「あんなに愛し合ったのに最初の頃のSexがどうだったのかさえ思い出せない・・・」と言うのですよ。なんとセックスレスまで描くBLの登場です!12月のWOWOWでの放映が楽しみです!

 

そして最後にもうひとりだけ。Jojo監督を紹介します。『Friend Zone』や『3 Will Be Free』を撮った監督です。これまで紹介した監督とはかなり違った点があります。

多くのBL作品が、幼馴染から付き合って最期までとか、お互いの関係の唯一性を描くことが多い中、Jojo監督は好きだと思えばすぐにSex、です。付き合ってるとか付き合ってないとか関係ないし、1対1にもこだわりません。『3 Will Be Free』ではとても美しくて誰にとっても夢のような3Pシーンも描いています。男女をリベラルに描いているところも特徴です。

 

一旦、ここまで紹介した5人の監督の性描写をこんな風にまとめてみました。

 

さて、性描写があまりない日本のBL作品と、性描写のあるタイBL作品。

一体どこが違っているのでしょう。

どちらもその多くは、原作は女性作家が多いようです。

ところが制作チームは、日本の場合はインタビュー記事などを読む限り、ほぼシスヘテロ(身体の性別と性自認が一緒であり異性愛であること)の人たちで構成されているのではないでしょうか。想像ですがドラマを制作しているところがピラミッド型男性中心社会で構成されているのではないか、そしてその結果そういう構成ではないかと思うのです。

現在のタイBLの場合、監督が若いことに気が付きますし、俳優もほぼ新人です。そしてタイはLGBTに寛容と言われてますが現実には官公庁や大企業での就職は難しいらしく、エンタメ系の職種や美容関係、小売業やサービス業には開かれているそうです。そのためドラマのメイキングを観ているとLGBTらしき人たちが見受けられますし、カミングアウトしてる監督も結構います。つまり、制作の現場に当事者が多い、ということが作品の質やLGBTに関する意識が更新されているなどの圧倒的な違いを生んでいるのではないでしょうか。

 

最後にまとめたいと思います。

私は性表現にはこのような意義があると思っています。

第一に性表現は自由の象徴だと考えます。
性表現の規制は自由の規制に繋がると思っています。
性表現を行うことは様々な抑圧の解放になります。

私たちが知らず知らずに背負わされているジェンダーロールに気付くこともあります。

さらに、私はBL作品には多様性の認識というポテンシャルを持っていると思っています。

それ故、現在のタイBLは、(多分予算の関係などで)未成熟な部分を持ちながらも、とてもエネルギッシュだと感じていますし、まだまだポテンシャルを秘めていると思います。

そんなタイBL。

私は・・・。私は・・・・・。

おわりでーす。長くなりましたがお読みいただいてありがとうございますお願いお願い