現在実写BLにおいて、量は勿論のこと、質やテーマ性などで群を抜いているのはタイBLだと思っています。

プロダクションの多さや製作に対する様々な本気度においても。

韓国BLはその点、BL市場への参加に対しては少し遅れたと思いますし、台湾やタイのようにBL作品から同性婚を含めたLGBTQ+の現状と未来について考えていく作品もまだまだ少ないように感じています。

しかし、元々ドラマ作りがうまい韓国ですから、この1~2年でBL作品数も増えてきて、更に時折良作を輩出しています。

今回観た『僕の指先に君の温度が触れるとき』は、なかなかの良作だと思いますし、そしてこれは韓国ならではの作品だととても感じました。

 

「韓国ならでは」。

「タイならでは」とか「韓国ならでは」という違いって、あると思いますか?

そんなものはないと思いますか?

私は、あると思っています。

何が違いを出すか。

宗教観やそれぞれの国のジェンダーに対する考え方、家族の在り方、国の政治や兵役の有無も関係するかもしれません。

しかし、もっとも大きいのは「気候」だと私は思っています。

四季のある国、寒さのある国、暑さばかりの国、曇天が多い国や白夜のある国、そういった気候環境がそこに住む人の性格に大きく影響するし、考え方や生き方を決定していくと思うのです。

だから、韓国で作られたBLには、「韓国ならでは」のものが含まれているのです。

 

暑い国に比べて寒さのある国の人々は「我慢」が得意です。

開放的であるよりも耐えることを得意とします。

水が豊富で植物が育ちやすい暑い国はそれほど食べることには困らない。しかし寒さのある国では過去には食物を得ることが難しく、計画を立て、蓄えておくことを学んだし、冬の時期その寒さに耐え忍ぶことを常としているからです。

そのような「寒さ」を知って生きている人たちは、触れたときの手のあたたかさ、着込んでいるにも関わらずハグをしたときに分厚いコートの下からでも感じられる相手の熱に敏感になることができるのです。

『僕の指先に君の温度が触れるとき』では、登場人物たちは殆ど気持ちを外に出しません。冬の曇天の中に薄日が射すように、かすかに表情に表すぐらいです。

しかし、その感情の表出は「かすか」であるけれど、「無い」とは大きく違う。

それをこの作品のカメラは、演出は、丁寧に映し出し、10代男子の複雑な気持ち(性欲も含めて)を切なく描写しています。

こういった表現は、南国の作品とは違うテイストを感じます。

言えずに飲み込んでばかりの想い。

目の中に熾火のように残り続ける感情。

少し暗くてさみしい場所でひとり溢す涙。

触れたときの自分と相手の手の大きさの違い。

相手の厚いコートにそっと頭を預けるだけで感じる暖かさ。

風にのって頬を打つ粉雪。

海の匂い。

『僕の指先に君の温度が触れるとき』はその時々の温度の違いにつれ、匂いや肌が感じる感覚の違いなど様々なものが丁寧に伝わってきて、観ているだけでいつしか涙してしまう佳作です。

 

この作品は『俺は恋愛なんて求めていない!』のスピンオフ作品です。

『俺は恋愛なんて求めていない!』のほうは、大企業に勤めるウォニョンが上司の不正に関与した疑惑で会社から解雇され、気分転換に海辺の町に旅に出たところ、そこで名を伏せて暮らす天才陶芸家テジュンに出会い・・・という物語です。

この作品の主人公テジュンが、スパダリではあるが割と一方的に感情を表出するという、私が苦手とする設定に感じられました。なんとか最後まで観たけれどそれほどいいとは思えない作品でした。(とはいえ、中盤から結構前のめりで視聴しましたが)

また、このタイトルはインパクトがあってキャッチーだと思いますが、観ていくほどにちょっと疑問が残るタイトルでした。

英題は「Unintentional Love Story」。直訳すると「予期せぬラブストーリー」です。これだとまさに主人公のセリフに通じるタイトルですが、『俺は・・・』の「俺」も、『求めていない!』という感情も、作品とはズレている気がするのですよねえ・・・。

 

しかし『僕の指先に君の温度が触れるとき』には最初からとてもハマってしまいました。この作品は『俺は恋愛なんか求めていない!』に登場するサブCP、ホテとドンヒの高校時代の物語です。

英題が「The Time of Fever」。10代の頃の感情の「熱」を表しています。『僕の指先に君の温度が触れるとき』という邦題の付け方もとても良いのではないかと思います。

 

ちなみにどちらも脚本は、シン・ジアン

ファン・ダスル監督『君の視線が止まる先に』を書き、その後にこの『俺は恋愛なんか求めていない!』『僕の指先に君の温度が触れるとき』と続いています。

監督は、『俺は・・・』は、他に『Peach of Time』を監督したチャン・ウィスン。

『僕の指先に君の温度が触れるとき』はヤン・ギョンヒ監督

『The Tasty Florida』『君の唇を噛みたい』『変人上司に振り回されてます』『ラブ・トラクター』などのBL作品をずっと監督していますが、今回の作品はこれまでの中では最高傑作ではないでしょうか。

そして高校生~20代前半までのホテを演じている俳優は現在31歳になるウォン・テミン。

彼は『You Make Me Dance~紅縁』で取り立て屋を演じています。でも今回ではハイティーンを演じきっています。

 

私のおススメとしては、まずは勿論、『俺は恋愛なんか求めていない!』を観ることですよね。

そして『僕の指先に君の温度が触れるとき』を観ます。

そうするとなんとなーくまた『俺は恋愛なんか求めていない!』を観たくなってしまうんですよねえ。今度はサブCPを中心に。

ぜひ、楽しんでくださいね。