ONE LIFE  奇跡が繋いだ6000の命 | akaneの鑑賞記録

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名優アンソニー・ホプキンスが主演を務め、ナチスの脅威から669人の子どもたちを救ったイギリスの人道活動家ニコラス・ウィントンの半生を描いた伝記ドラマ。

第2次世界大戦直前の1938年。ナチスから逃れてきた多くのユダヤ人難民がプラハで悲惨な生活を強いられていることを知ったニコラス・ウィントンは、子どもたちをイギリスに避難させる活動を組織し、同志たちとともに里親探しや資金集めに奔走する。ナチスの侵攻が迫るなか、子どもたちを次々と列車に乗せていくが、ついに開戦の日が訪れてしまう。それから49年後、救出できなかった子どもたちのことが忘れられず自責の念にかられ続けていたニコラスのもとに、BBCの番組「ザッツ・ライフ!」の収録への参加依頼が届く。そこで彼を待っていたのは、胸を締め付けるような再会と、思いもよらない未来だった。
 

 

 




『シンドラーのリスト』で描かれたオスカー・シンドラーのように、また日本領事館領事代理・杉原千畝のように、イギリスにもナチスの手からいくつもの命を救った人物が存在しました。
彼の名はニコラス・ウィントン。

ごく普通の若者が、なぜ、どうやって、669人もの子供たちを救出したのでしょうか。
 

 

 



物語の“現在”である1988年。
アンソニー・ホプキンスが演じるのは老年となったニコラス・ウィントン。

 

 

あちこちで不用品をもらってきたり、長年携わってきたボランティア活動の資料などで、書斎は物置状態。
奥さんは「そろそろ…手放したらどう?(今までやってきたことを)」と言い残して、旅行に行きます。

 


一念発起して書斎の片づけを始めるニコラスですが、

 

 

 

どうしても手放すことができない書類カバンがありました。

 

 

 

 

 

 

ここで時代は1938年、若き日のニコラスのストーリーへと移ります。

彼はロンドンで株の仲買人として働き、充実した人生を送っていました。
友人から「ナチスの侵略によって多くのユダヤ人難民が悲惨な生活を強いられている」と聞いたニコラスは、プラハへ向かいます。といっても、当初は「1週間ほど、ちょっと手伝いに行くだけ」という軽い気持ちでした。

 

 

 

しかし、実際に難民キャンプにいる子供たちをみて事の深刻さを思い知り、現地で活動するイギリス難民委員会児童課のドリーン・ワリナー(ロモーラ・ガライ)や

 

 

トレヴァー・チャドウィック(アレックス・シャープ)

 

 

らと共に、子供たちを救出するプロジェクトを開始します。
この2人も凄く良かった!

 



ただ単に、子供たちをイギリスに連れて来るだけではありません。
まず子供たちの受け入れ先、里親を探し、そして最も重要な資金集め。やることは山積みです。
しかも刻一刻とドイツ軍の侵略が進み、猶予はありません。

 

 

 

 

そんな中、みんな命がけで、時には危ない橋も渡りつつ、1939年3月14日から8月2日までの間に、669名の子どもたちをチェコから脱出させることに成功しました。

 

 

 

 

9月3日にも最大規模となる250名の子どもたちの脱出が予定されていましたが、9月1日に第二次世界大戦が勃発。
この子どもたちは出国できず、これ以降チェコからの救出は不可能となりました。

 

 

 

そして「戦争が収まったら両親のもとに返す」という約束も果たされることはありませんでした。
このことはニコラスを非常に落胆させ、長きに亘る沈黙の原因となったのです。

 

 

 


しかし50年の月日が経ち、ようやく子供たちのリスト、当時の活動内容を保管した資料を世に出すことを決心。
そして思いもよらぬ感動の再会が訪れます。


 

 

 


アンソニー・ホプキンスの演技、本当に素晴らしかったです。
多少、足元はおぼつかない感じもありますが、セリフの明瞭さ、その表現力、表情、どれをとってもさすが!としか言いようがありません。
ウィットのある会話もできる、ごくごく普通の老人ですが、救えなかった子供たちへの申し訳なさをずっと抱えてきたそれまでの人生の重みなどがにじみ出ていて、全てのシーンに説得力があります。
かつて救った子供たちとの再会シーンは本当に感動しました!

 

 

 

 



そして若き日のニコラスを演じたジョニー・フリン。

 

 

純粋に目の前に苦しむ人がいたら手を差し伸べる、愛に満ちた真っすぐな青年を好演。
地位も権力もない若者の一途な想いが、知恵と強い意志で、多くの命を助けたのです。

こちらがご本人。

 

 

ポスターにも再現されていますね。

 

 

 

 


彼を助けた母親バベット・ウィントン役のボナムカーターさんもとても良かった。

 

 

わりと癖の強い役を演じることが多いのですが、今回は、凄くカッコいいお母さん。
こういうおばさんっぽい老け役メイクも様になっていて。

 

 

ロクに話も聞かず取り合ってくれない役人を一喝したり、資金集めや子供たちの資料作りにも尽力しました。
バベットの助けなしでは、イギリスでの受け入れ先を整えることはできなかったでしょう。
彼女はドイツから嫁いできた女性で、そのルーツはドイツ系ユダヤ人でした。

 

 

 



ニコラスの友人で難民支援仲間だった男性として、ジョナサン・プライスさんがちょっと出演してるんです!!
ミス・サイゴン」の初代エンジニアですよ!!

なんか嬉しかったなー

 



メインキャストがほとんどイギリス人俳優なので、そのイントネーションも美しくて好きでした。




感情を煽るような大げさな演出はありませんが、その慎ましやかさこそが、自分が成した事を誇る事もなく、むしろ助けられなかった命を悼み、静かに暮らすニコラスの心情を表していると思いました。





ニコラスの偉業については、過去3回、映像化されているようです。
最近では2016年封切の「ニコラス・ウィントンと669人の子どもたち」というドキュメンタリーなど。

 

 




こちらがご本人。

 

 

温かい人柄があふれ出ていますね。
彼は2015年まで、106歳までご存命だったとのこと。
まさに戦争の生き証人です。

 

 

 



ナチスドイツやアウシュビッツに関する映画は、毎年様々な視点から制作されています。


ナチスが行ったホロコーストは、決して許されることではありませんが、その背景は非常に複雑であり、一概にヒトラーの狂気として片づけられるものではありません。

 


エドガルド・モルターラ」でも描かれたように、まずカトリック教徒とユダヤ教徒の根深い対立があります。
「ヴェニスの商人」に登場する強欲な金貸し「シャイロック」が、欧米人のイメージするユダヤ人であり、根本的に良い感情を持っていません。
これこそ先日観た「関心領域」における、奥さんの無関心さ、無神経さで象徴されているのではないでしょうか。
ロスチャイルド家など成功を収めた大富豪や芸術家などが多いことも妬みの一因だったかもしれません。

 

 

第一次世界大戦で敗戦し、フランスなどから非常に厳しい措置を受けたドイツは経済的に困窮。ユダヤ人を一掃して純粋なアーリア人の国を!というスローガンを掲げ、弁舌鮮やかなヒトラーは国民の人気を得たため、指導者に祭り上げられました。
イギリスもフランスも、それを黙認。ロシアの脅威を防いでくれるのであれば御の字といったところ。
しかしドイツが破れたため、即座に手のひらを返してナチスドイツを糾弾、ヒトラーにホロコーストの罪を全て負わせたような部分もあります。



増えすぎた難民に対する憎悪

 

ロシア・中国との緊張状態

 

ウクライナを武器で支援する欧米

 

アメリカをバックに持つイスラエルと

アラブ諸国パレスチナの対立

 

 


現在のヨーロッパは、まさしく世界大戦前夜の不穏な空気を纏っています。
平和な日本で暮らしていると非現実的なこととしか思えませんが、いつ、何がきっかけで発火するかわかりませんね…