バレエを踊り続けることで喪失を乗り越えようとする少女の姿を描いたオーストラリア発のヒューマンドラマ。
バレエの有名校に通う才能豊かな若きバレエダンサー、サムは自身がプリマの演目「赤い靴」の公演間際に、常に憧れの存在であった同じくバレエダンサーの姉の訃報を耳にし、ショックのあまり踊れなくなってしまう。
精神的に大きな傷を負ったサムは学校を辞め、自堕落な暮らしをしていた。万引きをして200時間の社会奉仕活動を課されたサムは、母親に半ばだまされる形でかつて通っていたバレエ学校で清掃員として奉仕活動をすることになる。
はじめは身近にバレエの存在があることにうんざりしていたサムだったが、当時のライバル、密かに恋心を抱いていたダンスパートナー、
そして今も変わらず少年少女を厳しく鍛え上げている師との再会を通じて、
その胸の奥に再びバレエへの深い情熱が湧き上がってくる。だが、またステージに立つには過去のトラウマが大きな壁となっていた。そんな時、今年も「赤い靴」の公演が決まり、サムの心は激しく揺れ動く。
世界有数のバレエコンクールで金賞を受賞した経験を持つ主演のジュリエット・ドハーティを始め、キャストには実績のあるダンサーたちを起用し、バレエシーンもすべて本人が演じた。オーストラリア・バレエ・カンパニーのプリンシパルであったダニエル・ガウディエッロが振付を担当。
ストーリーとしては、「才能ある若者が挫折し、道に迷ってしまうが、厳しくも的確な指導者と周りの協力によって立ち直り、再び賞賛を受ける」という良くあるパターン。
多くのスポ根モノにも共通するし、分かりやすいテーマで共感しやすいと思います。
そして出演者が皆さん、本格的なダンサーということで、ダンスシーンは大変美しい!
スラっと伸びた脚、指先まで神経が行き渡ったポージングなど、本当に綺麗。
台詞や演技などもたどたどしいところがなく、とても自然でした。
普通は、主役は著名な俳優が演じて、踊るシーンもアップだけ撮って、引きの撮影は吹き替えのダンサーという方式が多いので、全て、どのシーンもちゃんとダンサーが踊っているのは迫力が違いますし、それは見ごたえがあります。
主役のサムを演じたジュリエット・ドハーティさん
クラシックのバレリーナとしては、ちょっと体が大きくなりすぎちゃったのかな。
彼女をリフトするのは少々厳しそうです。
だからミュージカルとかコンテンポラリーに転身したのかもしれませんが、基礎的なバレエの動きはきちんと身についていますしさらにダイナミックさが加わった踊りが良かったです。
対してライバルのグレイシーを演じたプリムローズ・カーンさんは
完璧にバレリーナでしたね。少しカタコトっぽいのは、アメリカ人ではない、という設定なのかも。ロシアとか東欧系の雰囲気がありました。
とても厳しい先生ミス・ハーロウを演じたキャロリン・ボックさん。
ダンスや演劇の指導者としても活動しているということで、非常にリアルで迫力がありました。
厳しいけれど、本質をきちんと見ていて、本人が立ち上がってくるまで辛抱強く指導して待ってくれるんですよね。
ジェシー・エイハーン監督はドキュメンタリー出身で本作が長編初監督作品となるということで、起承転結の盛り上げ方というか、ラストに向かってのカタルシス、みたいなのは、ちょっと弱かったと思います。
グ―――っと感情を持っていかれる!というところまで行かないので。
ドラマ性ということでは、同じようにヒロインの復活を描いたこちらの方が、エモーショナルだったかな。
また「赤い靴」自体は、とても悲劇的な物語なので(赤い靴には呪いが掛けられていて、死ぬまで踊り続ける)
それとあまり関係性がないのも、しっくりこない要因かも。
赤いバレエシューズは印象的で綺麗ですけどね。
ただ、台詞も歌もない本格的なバレエ公演を見るのは、初心者には難しいと思いますので、そういったバレエの入門編としては、とても良くできていると思います。