スティーブン・スピルバーグ監督が、1961年にも映画化された名作ブロードウェイミュージカル「ウエスト・サイド物語」を再び映画化。
1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあう。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。
そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。ふたりの禁断の愛は、多くの人々の運命を変えていく。
「ベイビー・ドライバー」のアンセル・エルゴートがトニー、オーディションで約3万人の中から選ばれた新星レイチェル・ゼグラーがマリアを演じ、61年版でアニタ役を演じたリタ・モレノも出演。「リンカーン」のトニー・クシュナーが脚本、現代アメリカのダンス界を牽引するジャスティン・ペックが振付を担当。
2022年・第94回アカデミー賞では作品、監督賞ほか計7部門にノミネートされた。
言わずと知れた、ミュージカル名作映画のリメイク。
元々はレナード・バーンスタイン音楽、スティーヴン・ソンドハイム歌詞のブロードウェイ・ミュージカルで、原案は振付師・演出家のジェローム・ロビンズ。1957年に初演されました。
1961年に、ナタリー・ウッドやジョージ・チャキリスらの出演で映画化されたものが有名ですね。
シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』に着想し、当時のニューヨークの社会的背景を織り込みつつ、ポーランド系アメリカ人とプエルトリコ系アメリカ人との2つの異なる少年非行グループの抗争の犠牲となる若い男女の2日間の恋と死までを描くストーリーです。
バーンスタインの音楽は本当に素晴らしく、彼はミュージカル中の主要曲を集めて編曲し、オーケストラのための演奏会用組曲「シンフォニック・ダンス」を書き上げました。
なので私としては単独で演奏される音楽としての「シンフォニック・ダンス」の印象の方が強いです。
これはもう、いつ聴いてもあがる!!
大好きなプログラムなんです!!
パーカッションを多用した華やかなサウンド、変拍子やフーガなどクラシックの作曲法を使いながらも、ジャズなど多様なジャンルの音楽とも見事に融合していて、本当に金字塔といえる楽曲。
どのミュージカルやオペラでも、代表的な数曲は耳に残っても全曲記憶に残ることはほとんどありませんが、ウエストサイドストーリーは捨て曲がなく全部が完璧なんです!
その後のディズニー映画やミュージカル曲にも、多大な影響を与えたと思います。
昔、DVDを見た感想としては、それほど衝撃を受けたというほどでもなく、2017年には来日公演も見ましたが
いかにも手慣れた感じの演技で、サラッと終わってしまった印象でした。
大団円で終わらない、身分違いの悲恋ではなく人種間の問題を取り上げたミュージカル。
当時としては非常に前衛的なテーマだったと思いますが、あまりにも無益な男たちの闘い、意地の張り合いに共感できないのが今一つなんですよね。
で、今回のスピルバーグ版。
映画としてはとても素晴らしかったと思います!
ストーリーは変えようがありませんが、現代の感覚にも合うようなドラマ展開に工夫が見られたし、場面転換でブツッと切れるような演出もなく、流れがとても自然で良かったです。
特にカメラワーク!!
すっごく躍動感があって、ダンスシーンの迫力が凄い!
ダンサーのテクニックも格段に進歩したんでしょうね。
旧作のダンスシーンも、その当時にしてみれば驚異的だったかもしれませんが、やっぱりこの違い。
静止画でも勢いが伝わってきます。
そしてキャスティングが良かった!!
ある1人を除いて!!
まずNo.1はアニータ役のアリアナ・デボーズ!!
父親はプエルトリコ人なのだそうです。
2009年、アメリカンダンスアイドルでデビュー。その後ブロードウェイデビューし、映画やテレビドラマにも出演しています。
もうダンスの素晴らしさと言ったら!!
「マンボ」「アメリカ」での彼女の脚さばきを見るだけでも、この映画を見る価値があると思います。
歌も演技も文句なし。
私の印象では一番輝いていたかな。
今回の演技で第79回ゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞しています。
そして3万人のオーディションから選ばれた新星、マリア役のレイチェル・ゼグラー。
実年齢も20歳、若々しさ瑞々しさに溢れていました。
歌も凄く巧いし、恋に恋するネンネだった彼女が、たった2日間で様々な体験をして精神的に成長する様子がちゃんと演じられていました。
ベルナルドを殺したトニーを愛してしまったマリアとアニータのデュエット「A Boy Like That/I Have Love(あんな男に?私は愛している)」はとても心がゆすぶられました。
ナタリー・ウッドも可愛かったですけど、ちょっと演技がぶりっ子なんですよね。。
ジェッツのリフ役。マイク・ファイスト
彼もブロードウェイで活躍し、トニー賞やエミー賞にもノミネートされている実力派。
ちょっと線の細さを感じさせるところがエキセントリックでもあり、ピリピリした感じが凄く良かった。
ポーランド移民の設定なのに、旧作ではこの人がリフ
どっちかっていうとベルナルド系じゃない?って思ってしまいますよね。
シャークスのベルナルド役。デヴィッド・アルヴァレス
いかにも喧嘩っ早い、血の気が多いラテン系、ガテン系って感じ。
彼も「ビリー・エリオット」の主人公ビリー役でトニー賞を受賞するだけでなく、バレエダンサーとしてクラシックバレエの舞台にも立っています。
ジョージ・チャキリスさんもカッコよかったけど、んーー「ディーン・フジオカさん」ですか?って感じ。
どっちかっていうとインテリ系じゃない?
この主要4人。
世界的には無名ではありますが、舞台経験も豊富で、ミュージカル俳優としてのスキル、実力がしっかりある人ばかりです。
歌舞伎役者もそうなんですが、踊り・ダンスをしっかりやっている人は、立ち姿だけでも全然違うんですよね。
どこに重心を置けばいいか、手足の先まで、どの角度が美しいか自分の体を熟知していて、それが体にも意識にもしみついているんです。
体幹がしっかりしているから、動きの1つ1つが美しくキレがある。
素早く動いてピタっと止まれるんです。
歌にもしっかり感情が乗っているし、声の出し方、メリハリの付け方もしっかりできています。
まぁ、ミュージカルが嫌いな方は、このわざとらしい歌い方が嫌いという意見もあり、それも分かるんですが、でもミュージカルの場合、こういう歌い方、動き方をしないと決まらないんですよね。
なのに!!!
なんで
アンセル・エルゴートが
トニー?!
もうね、体の動きがノロノロ、ヌルヌルしていて、見ていられませんでした。
歌だって大して巧くない。
口先で歌ってるだけで、腹から声が出てないんだよ!!
気持ちが全然伝わってこないんだよ!!
このミュージカルは完全に音楽とダンスがメインですから、そういう体の使い方、歌い方ができないと目も当てられないんです。
一人だけ、ただの木偶の坊でしかなかったですね。
この画像見てもわかるでしょ?
彼の体のラインが全然決まっていないのが。
力が入っていなくて締まりがないんです。
ま、トニーってマリアと恋に落ちるのですからある意味主役っぽい立ち位置ではあるんですが、あんまり良い役ではないんですよね。
かつてはジェッツの頭で、傷害事件で少年院?から出てきたって設定の割には迫力がない。
元々優しい性格、改心して真面目に働こうと思ってるのかもしれないけど。
ジェッツだシャークスだと男どもがカッカしてるのに、マリアと恋に落ちて、頭の中がずーーーっとお花畑。
喧嘩を止められず、ベルナルドを殺してしまったのに、仲間のことや今後のことなど一切関与せずマリアと逃げようとし、お世話になったバレンティーナ(旧作ではドク)に逃亡資金をせびる。
ちょっと悪意を持って書きましたけど、結構なクズなんですわ。
ダンスナンバーでの見せ場もないし。
でもなんで彼がキャスティングされたんのか、本当に意味がわからない!!
「イン・ザ・ハイツ」みたいに、ほとんどが無名の俳優でも、演技が素晴らしければ全然問題ないのにね。
「スピルバーグ」「ウエスト・サイド・ストーリー」というだけで十分集客は見込めるんだから、ちゃんと実力のある俳優で固めてほしかったです。
それだけが本当に心残り・・・
今、このタイミングでどうしてこの映画がリメイクされたのか。
スピールバーグ監督としては、今の世界情勢なども鑑みて、色々と伝えたいことがあったのだと思います。
作曲者のバーンスタインが「こんな対立がなくなる時代がはやく来ればいいのに」と言ったそうですが、60年経っても、事態は一向に変わっていないんですよね。
1961年の映画は確かに素晴らしい名作ですけれど、やっぱりキャスティングの問題はあると思います。
濃いドーランを塗って、白人が演じていたのは非常に不自然ですし、歌も吹き替え。
そういうのが当たり前だった時代かもしれないけど、「そうじゃないんだ!今こそ、ちゃんとした形で残さなくてはならない」ってスピルバーグは思ったのかもしれません。
ジェッツのたまり場である「ドクの店」の店長を、白人男性と結婚したプレルトリカンという設定で女性のバレンティーナにしたこと、
そしてバレンティーナを旧作のアニータ役、リタ・モレノさんが演じたことも、とても大きな意味を持つと思います。
御年、90歳になられるそうですけど、とても若々しく素敵でしたね。
最後の「Somewhere」を歌っているのもグッときました。
リタ・モレノさんは、プエルトリコ出身の女優、歌手、ダンサーで舞台女優としても活躍。
史上16人しかいないアカデミー賞、トニー賞、グラミー賞、エミー賞の4賞受賞者なのだそうです。
その他は、細かいことですが、ジェッツの取り巻きである白人の女の子にも発言があったことかな。
旧作ではほとんど大したセリフがないんですけど、今回はダンスパーティの場でにらみ合う男たちに対して、「喧嘩なんかしないで楽しく踊りましょうよ」と言ったり、バレンティーナの店で、アニータがレイプされそうになる時にも、「やめなさいよ!」と止めたりしていました。
「Cool」は旧作だと決闘のあとで使われていてちょっと不自然に思ったのですが、今回は舞台版と同じく第1幕で、リフとトニーで歌われ、ここで銃を出してチノに繋げるのも自然な感じがしました。
でもなんといってもやっぱり音楽の素晴らしさ!
今回の映画の為に新たに編曲&録音していますが、ニューヨークフィルの鮮やかな演奏は本当にゴキゲンです。
オーケストラの音ってとてもお国柄が出るんですよ。
ウィーンフィルやベルリンフィルなどドイツ系は、弦楽器の深みが素晴らしく、重厚な感じ。
対してパリ管などフランスのオケは、金管が鮮やかでとても洒落た雰囲気。
そしてニューヨークフィル。
この「ノリ」とカッコよさは絶対、他国のオケでは出せないです!
レナード・バーンスタイン (1918-1990)は、ユダヤ系アメリカ人の指揮者、作曲家であり、ピアニストでした。
ハーバード大学、カーティス音楽院を経て、1958年、アメリカ生まれの指揮者として史上初めてニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団の音楽監督に就任します。
バーンスタインとニューヨーク・フィルのコンビは大成功を収め、同フィルの黄金時代をもたらしました。
彼の作り出す音楽の魅力、気さくでおおらかな性格、情熱的な指揮ぶりはファンを魅了し、ヘルベルト・フォン・カラヤンらと並んで、
20世紀後半のクラシック音楽界をリードしたスターだったのです。
(お二人ともとってもカッコいい!!)
「ウエスト・サイド・ストーリー」は、バーンスタインがニューヨークフィルの音楽監督に就任したころの作品。
まさに黄金期ですね!!
こちらは、バーンスタイン指揮による「シンフォニック・ダンス」の動画です。
この映画は、絶対に大スクリーンで、素晴らしい音響で見るべき作品ですよ!お見逃しなく!!