コロナ対策で四部制なのは、8月と変わらず。
今月の歌舞伎座は、第二部のみ観てきました。
四代目鶴屋南北作の『色彩間苅豆』
「四谷怪談」を書いた作者さんですよ。
「色彩間苅豆」読み方は「いろもよう ちょっと かりまめ」です。
「伊達競阿国戯場(だてくらべ おくにかぶき)」という長いお芝居の一場面、舞踊です。
タイトルがなんかちょっとエロくない?
と思いましたが、お芝居の設定だと、ヒロインが殺されるとき、刈り取った豆を背中に背負っていたという伝説をふまえているそうです。
登場人物は以下の二人。
●与右衛門(よえもん)
30代半ばの壮年の男。
かつては、久保田金五郎という名の侍だったが、菊という人妻と深い仲になり、その夫の助を殺害。
その後、与右衛門と名を変え、逃げ延びていた。
十数年後に累と出会い、菊と助の子と知らず、深い仲になる。
このように冷酷非道な男を「色悪(いろあく)」と言います。
次々と女をたらしこみ利用する。必要とあらば容赦なく人も殺す。といったサイコパス系の悪人。
ただしイケメンに限る
この人なら騙されても仕方ないわ~~って思わせる、色気のある男でなくてはなりません。
●累(かさね)
絹川家の養女で、結城家の奥女中。
年上の与右衛門と深い仲になり、心中しようと持ちかけるが、因果の果てに殺されてしまう。
与右衛門は、結城家に使える腰元の累と深い仲になりましたが、当時、いわゆる社内恋愛は不義密通とされ御家の御法度でした。
そのため、ふたりは心中を言い交わしたのですが、なぜか与右衛門ひとりが屋敷を出て行ってしまいます。
書き置きひとつで取り残された累は、与右衛門が恨めしく、あとを慕って木下川(きねがわ)堤までやってきました。
累は必死で追いつくと、私たち…あんなに愛し合ったじゃありませんか…一緒に死にましょうと、かきくどきます。
さらには、不義の子をみごもったのを恥じて生きながらえるわけにもいかないと。
でもまぁ、与右衛門は心中する気なんかないよね。
書き置きして逃げ出してきたんだし。
それに、累を養女として育てた絹川家では、お家の重宝が盗まれて大変!!な状況なんですが、それも実は与右衛門が盗んだのです。
どうすっかな~~めんどくせ~~と思っていると…
錆びついた鎌が突き刺さった髑髏が卒塔婆に乗ってドンブラコと流れてくるではありませんか!!
ハッ!と息をのむ与右衛門。
かつて久保田金五郎だったころ、彼は累の母親である「菊」とも不義密通をしていて、菊はまだ幼かった子供「累」を養女に出してしまいました。
そして与右衛門は、不倫の現場にふみ込んできた菊の夫の「助」を鎌でメッタ刺しにして殺し、川に捨てたのです。
その後、与右衛門と名前を変えて、今も逃げ続けているのです。
もしや累は菊の娘?!!
恐る恐る見れば、卒塔婆には「俗名 助」…やはり、そうか!
与右衛門は恐れおののいて卒塔婆を折り、髑髏を鎌で打ち割ると、どうしたことか、累が苦しみもがいて倒れてしまいます。
さらに捕手がやってきて与右衛門を取り囲みます。
助を殺したのがバレたのです。
一刻も早く逃げようとする与右衛門に、とりすがる累。
しかし、その顔は醜くただれ、足も引きずっている。
助の恨みのなせるワザか!
驚いた与右衛門は、累も鎌で斬りつけたうえに、残酷にも醜くなった顔を鏡で見せて、こうなった因果(母親と不義密通して父親を殺した)を語り聞かせてから、とどめを刺しました。
急いで立ち去ろうとする与右衛門ですが、累の怨念に引き戻され、一歩も前に進むことができない!!
この「怨念に引き戻され」の様子は、「連理引き」という特有の動きがあります。
怨霊となった女が、離れた所から操るように手を動かすと、逃げようとする男は、パントマイムのように引き寄せられて逃げられない。
このような動きを何度も繰り返します。
累を演じるのは、市川猿之助さん。
この写真だとちょっとキリっとしてますけれど、一途に与右衛門を思う、10代のうら若き乙女です。
どうしてこの気持ちをわかってくれないの…と恥じらいながらも恋心を切々と舞います。
でも裏切られ、殺されたあとは恨みMAX!
与右衛門は当代きっての色男、松本幸四郎さん。
花道でのポーズのなんと美しいこと!!!
この体幹!凄くない!?
本当は、鎌を咥えて花道で決まるのですが
累も同じ鎌を咥えるシーンがあり、この時期、その演出はよろしくないだろうということで、手に持つ形に変更したとのこと。
他にも、与右衛門とかさねが、まともに面と向かわないよう、顔の向きをお互いに少し変えたり工夫をしているようです。
「累」とは、江戸時代に茨城県の累ヶ淵に言い伝えられる「顔が醜く脚が不自由な娘が殺された」ことによる因果応報の物語で、歌舞伎や舞踊、落語の題材にもなっています。
少女 累は壮年の男との恋に溺れましたが、世慣れた男にとっては遊びでしかなく、しかもその男は母の密通相手で父を殺した犯人でした。その因果が巡り巡って何も知らない累の顔は崩れ、脚が不自由になってしまいます。醜い姿で男に取りすがるも無残に殺されますが、怨霊となって男を殺そうとする、という物語。
いずれも「累」という名前、醜さゆえに殺され、その怨念が後々まで因果となって人をとり殺すお話が多く作られています。
2018年、邦画でも制作されました。
累 -かさね-