「トランスフォーマー」「イーグルアイ」などで注目を集めたシャイア・ラブーフが、自らの経験をもとに初めて脚本を手がけ、父親役で出演もしている。
ハリウッドで人気子役として活躍する12歳のオーティスと、彼のマネージャーを務める父のジェームズ。
前科者で無職のジェームズに、オーティスは常に振り回されていた。
そんなオーティスを心配する保護観察官のトム、モーテルに住む隣人の少女、共演する俳優たち。彼らとの交流を経て、オーティスは新たな世界へと踏み出していくが……。
「クワイエット・プレイス」「フォード vs フェラーリ」などで注目のノア・ジュプが12歳のオーティス、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のルーカス・ヘッジズが10年後のオーティスをそれぞれ演じる。
ハリウッドの人気子役がトラブルメーカーの父親との複雑な関係に葛藤しながらも、さまざまな人々との出会いを経て成長していく人間ドラマです。
飲酒運転で事故を起こしたハリウッドの若きトップスター、オーティス。
物語は22歳のオーティスが、厚生施設でのプログラムでPTSDと向き合う中で、10年前、子役として家計を支えていた頃、感情の不安定な父ジェームズ(シャイア・ラブーフ)に振り回される日々に苦しんでいた過去を回想していきます。
端的に言うとシャイア・ラブーフ自身のセラピー映画です。
人気子役のオーティス。
両親は離婚し、場末の汚いモーテルで父親と二人暮らし。
父親は、ロデオ会場のクラウンとして働いていましたが、もちろん何の才能もなく、今はオーティスの稼ぎで生活しています。
ともかく口が立つので、言葉の嵐でオーティスを言いくるめ、押さえつけてしまうのが、見ていて辛かったですね。
12歳の子供に言い返せるわけもなく、それに従うしかない。
しかも思い通りにいかないと時に暴力も振るわれます。
更生施設でのオーティスは、なかなか心を開かず、セラピーにも積極的に参加しませんでしたが、
次第に自分の心を解放できるようになってきます。
そして、PTSDの原因となっているのが子供時代の父親との関係性だと気付き、それを文章に書き起こしていくことで自分自身を取り戻していきます。
毒親と子供。
私自身にはそのような体験がないので、あくまでも想像するしかないのですが。。。
自己肯定感が低く育ってしまうと、「自分が悪い子だから、親に愛されない」と思い込んでしまうのでしょうか。
場面は、場末のモーテル、撮影所、オーティスが入っている厚生施設。ほぼこれだけで、特にストーリーが大きく展開していくわけではありません。
トラウマの原因となった父親との日々をさらけ出した脚本。
しかしどこか、「お父さんだって、大変だったんだ。色々と苦悩していたんだ」とすがるような思い、父親を肯定しようとする思いが溢れているような気がしました。
父親はひょっとしたら、何も考えていなかったかもしれないし、本当は「子どもなんか疎ましい、単なる金ヅル」としか思っていなかったかもしれません。
でも「父親も虐待を受けて育って、そのトラウマがあった」「子供は大切に思っていたけどどう扱っていいのかわからなかった」という方向に持って行くんですね。
二人でセリフや演技の練習をしているところ
撮影所からオートバイ二人乗りで帰る道
ほんの何気ない、数少ないけれど楽しかった思い出のシーンが美しく描かれていることも。
子供というのは、そこまで親の愛を乞うものなのかと。
そこが一番つらかったです。
「ロケットマン」でもそれは感じました。
「あんたは、付き人。雇ってあげてるんだ。他に前科者を雇う人なんか居ないから。僕がボスだ」
「お金を渡さなかったら、お父さんは僕と一緒に居てくれない」
「子供に食わせてもらっている俺のみじめさがわかるか」
こういう会話。胸に刺さりますね。
ハレル監督が構想中に抱いていたイメージは、“オーティス=ピノキオ”なのだそうです。
ピノキオは他人に支配されている少年よ。
操り人形のワイヤーを外して本物の少年になることだけを望んでいるのに、嘘をつき続け、それで鼻がどんどん伸びていくのが、みんなにも見える。ピノキオは『勇敢で、誠実で、自分勝手ではない』と証明した場合だけ、本物の少年になることができる。最後には、進んで父親を助けて、勇敢で誠実で自分勝手ではない行動で、本物の少年になれるの。
シャイア・ラブーフ。1986年生まれ。
2007年 トランスフォーマー
2008年 イーグルアイ
2009年 トランスフォーマー・リベンジ
2010年 ウォールストリート
このあたりの映画はよく見ていましたし、カッコイイ俳優さんだなという認識がありました。
2008年7月、泥酔状態のまま共演女優を乗せた自動車で事故を起こし、指を2本失うほどの怪我をします。
トランスフォーマー・リベンジの撮影中だったそうですから大事件ですね。
そのあとはなんとなくお騒がせ俳優という印象もあり、メジャー作品であまり見かけなりましたが、コンスタントに映画出演はしていたようです。
この映画では、22歳の自動車事故の後、更生施設に入ったことで自分のトラウマに向き合い、12歳当時を振り返ったことになっていますが、実際は2014年あたりに泥酔ゆえの問題行動で逮捕され、アルコール依存症の治療を開始します。
しかし、2017年に再度警察沙汰に。このときは薬物乱用なども持ち上がり再度リハビリに突入。そしてPTSDが発覚し、セラピーを受けることで『ハニーボーイ』の脚本を書くに至ったようです。
なので事故から10年以上、子役の頃から考えると20年以上、苦しんでいたことになります。
「唯一この頃まだ自分と口を聞いてくれていた親友アルマ・ハレルにセラピーを受けている間に書いた脚本を送ったら、映画にしようと言葉をかけてくれた」
制作を始めた時、ラブーフはまだリハビリ中で、演じるなら成人した自分自身かなと思っていたそうですが、ハレル監督は「ラブーフが父親の役を演じるなら監督をやる」と条件を出しました。
ロールプレイングで様々な役を演じることによって自分自身を見つめていくリハビリ療法方法もあります。
まさに俳優ならではこそ、自分を苦しめた父親を敢えて演じるというのは、究極のセラピーと言えるのではないでしょうか。
ラブーフにとって、トラウマの原因となっている父親を演じることはとても恐ろしく、とてもハードルの高い試練だったと思います。
でも彼を信じて
「モーテルから出なきゃだめよ。
お父さんに会いに行ってらっしゃい」
とラブーフに言えるハレル監督の度量が凄いと思いました。
冷静に状況を捉え、彼を信じ、「自分のことなんだから、自分で這い上がってきなさい」と言える懐の深さ。
男前やわ~。
それだけラブーフと信頼関係が築けていたともいえるでしょうね。
そして、父親の心情へ深く分け入ったラブーフは、人生が思うようにいかない父親の寂しさや孤独を理解することができ、この映画製作後、7年間、遠ざけていた父親と親子関係を取り戻せたそうです。
それがラストシーンに繋がっているんですね。
「お父さんの映画を撮る」
「マシな話にしてくれよ」
エンドロールには、本当の父親とラブーフの画像がいくつも紹介されていました。
今の姿からは想像できませんが、子供の頃は、ノア・ジュプのように巻き毛の可愛い男の子でした。
元々とても実力のある俳優さんですから、これからまたバリバリ活躍してほしいです。
ロバート・ダウニーJr.だって、40歳から復活したんですもんね。
12才と22才のラブーフをそれぞれ演じたノア・ジュプとルーカス・ヘッジスは、二人とも素晴らしい演技でした。
ルーカスはちょっとマット・デイモンに見えてしまうのが残念だったかな。
なんといっても主役のノア・ジュプ。
子供のあどけなさと、大人の階段を登り始めるドキドキ感。
傷つきながらも父親を求める気持ち。
親なんだからもっとちゃんとして、ちゃんと話を聞いて、という苛立ち。
撮影所での大人びた演技。
様々な心情を完璧に演じ分けていて、ちょっと恐ろしいぐらい凄かったです。ティモシー・シャラメの再来とも言われていますが、将来楽しみですね。
彼には、こんな苦労をせず、真っ直ぐに育ってほしいなぁ。
ラブーフが紹介していた撮影前のエピソード(笑)
ルーカスはスキルを持つ役者で将来大きく成功する。彼の徹底した役作りは、他に見たことがない。毎日僕の家に来てクローゼットをあさり、朝起きると台所に居て観察。だんだんその凄さに怖くなり、そのうちノアまで住みついたから僕は他へ滞在し、2人が僕の家に住んでいた。
映画『怒り』において、初共演だった妻夫木聡さんと綾野剛さんが、撮影中、ホテルを借りて一緒に生活していたというエピソードを思い出しました。