怒り | akaneの鑑賞記録

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八王子で起きた凄惨(せいさん)な殺人事件の現場には「怒」の血文字が残され、事件から1年が経過しても未解決のままだった。
洋平(渡辺謙)と娘の愛子(宮崎あおい)が暮らす千葉の漁港で田代(松山ケンイチ)と名乗る青年が働き始め、やがて彼は愛子と恋仲になる。
洋平は娘の幸せを願うも前歴不詳の田代の素性に不安を抱いていた折り、ニュースで報じられる八王子の殺人事件の続報に目が留まり……。

いや~、凄い映画でした。
演じるのではなく役として生きる。李監督の厳しい演出を受けて立つ百戦錬磨の俳優陣が、本当に皆素晴らしい。
ただ内容はかなり重いので、見終わった後はどんよりします。
泣いているお客様も多数。。。
ただ、犯人を匂わせる映像や情報が、あまりにもミスリードを誘うのが少しあざとかったかも。

男手ひとつで娘を育てた不器用な父親。
無精ひげとダルダルのお腹、くたびれた野球帽の健さん。
娘には引け目があってちゃんと向き合えていない。
宮崎あおいさん、少し精神的に発達障害な愛子を、ほぼすっぴんで。
傷んだ茶髪、「どこで売ってるの?!」と思うペラペラの洋服。安っぽい髪飾り。
自分の居場所を見つけられず、家出を繰り返して風俗嬢をしたりしているけど
どこまでもイノセントで透明感がある。
二人が暮らす千葉の漁村に現われた田代。
いかにも不穏な空気を醸し出す松山ケンイチ。
しかし彼もまた、どうすることもできない悲しい過去を背負っているのでした。

妻夫木君は、どちらかというと童顔で可愛い人のイメージなんですが
今回はガッツリ鍛えた体と、それを誇示するピッタリした細身の服。
日焼けして髭もはやし、いかにも都会のエグゼクティヴな優馬。
でも実態は上辺だけの軽薄な人間関係を取り繕う空虚な日々。
ある場所で彼が目を付けた直人。子犬のように拾って帰ります。
綾野剛君は、ぶっ飛んだ役も多いけれど、ゲイや繊細な役も多く演じているので
彼の優しさや抱えている不安が画面からも伝わってきます。
実際、妻夫木君と剛君は初めての共演、しかもホテルで同棲をしてみたそうで
出会いのぎこちなさ、信頼を深めていくプロセスなどもリアル。

沖縄では、いきなり怪しさ全開の森山未来。
途中「良い人」アピールを挟みつつ、徐々に吹き出すサイコパスの正体!!
彼の変幻自在ぶりはもはや気持ちが良いほどなんですが
その相手役として本作デビューの沖縄の少年、佐久本宝君がしっかりリアルに存在していたのが驚きです。
いかにも素人っぽい、沖縄なまりの高校生。
時々「演技している」風が出ちゃうときもありますが
よくあんなモンスターとタイマン勝負できたな~と感心です。
ラスト、傷を負いながらも、泉ちゃんを守るために壁に刻まれた文字を必死に消すシーンで涙。
そして泉を演じた広瀬すずちゃん。男にだらしない母親と島に逃げてきた高校生。
この役は志願してオーディションで勝ち取ったとか?
現役高校生には酷なシーンがありますが、ただのアイドルで終わらない気概がありますね。
本当に可愛らしいし色々な表情があって、楽しみな女優さんです。

人は誰しも秘密を抱えている。
大切な人にこそ知られたくない。
でもそこから生まれた一滴の不信は、やがて大きなシミになって人の心を蝕んで行く。
やっと巡り会えた、心から愛する人を裏切ってしまった時の愛子と優馬。
その慟哭のシーンは苦しくて胸がつぶれます。。
「怒り」というタイトルは、大切な人を信じられなかった
大切な人を守れなかった、そんな自分に対して向けられているのだと感じました。
他人に怒りを向けるのはたやすいこと。
でも自分が犯してしまったこと、もう取り返しのつかないことに対する自分への怒りは
決して収まることがない。自分は自分を絶対に許さない。

少しだけ強くなって、田代を迎えに行った愛子。
この先、平穏な日常が待っているとはとても思えないけれど…。

愛する人を永遠に失ってしまった優馬は、救われるのだろうか。
あのとき電話に出ていたら…。