春日太一「鬼の筆」読む 「映画は博打」「映画は娯楽」と脚本を書いた稀代の天才・橋本忍の生涯を描く
ランク Aの下~Bの上「羅生門」「七人の侍」「砂の器」 「私は貝になりたい」「張込み」など 数々の名作の脚本を書いた橋本忍の 人生と仕事を、インタビューを中心にして 描いたノンフィクションです。副題 戦後最大の脚本家・橋本忍の 栄光と挫折超売っ子の脚本家は、 恵まれた才能だけでなく 超人的な仕事をこなす能力が あることが分かります。父親が、兵庫県の芝居小屋の興行師を していたことから、芸能界が身近な存在に なります。父親の芝居が当たるかどうかの 勝負勘、博打的要素を学びます。 (後に、競輪狂いにもなりますが・・・)人生の大きな転換点は 結核になり、生死の境界を 知ることになります。 (軍隊を兵役免除となり、 陸軍病院で療養生活になります)2年間の療養生活で 伊丹万作の弟子となり 脚本家修行を始めます。伊丹万作の厳しい教えが その後の脚本家としての 道を歩む自信となります。会社で経理をしながら 「羅生門」で、脚本家として デビューします。映画の大ヒット、成功は、 多くが監督の手柄となります。「羅生門」では、黒澤明に スポットライトが大きく当たります。黒澤明が名監督になれた要素には 脚本家集団の存在があります。優秀な脚本家を集めて、頭をひねり アイデアを出し合って、シナリオを 集団作業で仕上げる方法でした。 (韓流映画ドラマ、ハリウッドが 採用している方法です。 超人的な個人の才能に頼る リスクを軽減できるからです。 黒澤明との確執なども この本の魅力の一つです)橋本忍は、絶頂期の黒澤作品のには 欠かせない脚本家として参加します。この後は、映画界で、大ヒットを連発する 八面六臂の大活躍をします。この本で初めて知ったのですが 橋本忍が次々と、大ヒットを 生み出すことができたのは 世間の動き、映画界の現状 観客の嗜好などを 徹底的に分析して、脚本作りに 生かしていたことです。なぜ、この脚本を書くのか? ヒットする脚本の条件とは何か?これらを徹底的に分析していたことに 驚かされました。父親譲り?の勝負勘とは、 この分析力の賜物でした。この本では、橋本忍の 人並み外れた分析力、計算高さを 思い知らされます。 (会社勤めの経験が 大きく影響しています)橋本忍が、単純に、素晴らしいシナリオを 書いていたと思っていたのが 大きな間違いだったことを この本で知りました。 「映画は博打」この現実を、しっかりと認識していたからこそ 大ヒット作を生み出していたのが 橋本忍でした。映画の思想性、芸術性より、 娯楽性、話題性に徹し、重視したのが 橋本忍でした。人生にも、仕事にも「旬」があります。日本の映画産業の衰退により 橋本忍は自ら、映画製作に載り出し ヒット作を生み出します。配給会社との駆け引きも この本の魅力の一つです。しかし、黒澤明同様、橋本忍も 年を重ねてると、世間との齟齬が生まれ 分析力が衰えて、ヒット作を 生み出せなくなります。老いとの戦いが始まります。著者は、複雑なキャラを持ち合わせている 橋本忍にインタビューして 悪戦苦闘してこの本を書きあげます。嘘?を書くのが仕事の脚本家ですので インタビューで真実が語られているのかを 丁寧に事実を検証し、調べます。橋本忍は、とても頭の計算が早く 結論、結果を導く人間のようです。ゆえに、インタビューも 橋本忍の頭の回転について行くのも 大変だったと思います。著者は、橋本忍存命中に、 よくぞインタビューして、 貴重な証言を 本にしてくれたものです。映画ファンは、必読の書です。監督、脚本など、映画界を目指す人は 必読の書です。映画が、多くの人間関係、利害関係の下で 製作される総合芸術であることを 教えてくれる本でした。是非、お読みください。この本で、改めて、 橋本忍が天才脚本家であることを 教えられました。最後に、伊丹万作 ↓ 橋本忍 ↓ 山田洋次という、師匠弟子関係が あったことは、日本映画界にとって 幸せなことだと思いました。でっ、山田洋次の弟子は いるのだろうか?最後の最後に、 橋本忍脚本映画を 何本か観ていないんだようなあ・・・死ぬまでに、何本観ることができるか・・・嗚呼、トホホ。