ハーバード大学のリアリスト学派の重鎮であるワルト教授の “ The Hell Of Good Intentions “を読み終わりましたので、少し感想を書いてみます。

 

この本は冷戦が終了した後の3人の大統領、すなわちクリントン、ブッシュ、オバマ大統領の外交はニュアンスの違いはあるものの、ほとんど同じだったとし、それをLiberal hegemony (自由主義的覇権)と呼んで批判しています。

 

15年以上戦っているのにもかかわらず終わりが見えないアフガニスタン戦争や、中東の秩序を破壊してしまったイラク戦争の例からもわかるように、リベラル・ヘゲモニー戦略は安定した世界を作ることができないでいます。

 

このような失敗が続く事態に対してアメリカの言論空間が本当に自由ならば、失敗した外交当局者は批判されて退場し、別のやり方を模索する動きが出てくるはずなのですが、アメリカのマスコミやシンクタンク、大学などがある種の言論カルテルを結び、そのような批判を受け付けない構造が存在するとワルト教授が言います。

 

その結果、アメリカの外交が失敗しても、また同じようなことが繰り返されるのです。

 

当然、そのような状態に対して一般のアメリカ国民は不満に思い、それがトランプ大統領が当選する助けとなったのではないかと書いています。

 

ところがトランプ政権においても、外交を展開する人々は基本的にリベラル・ヘゲモニーを追求する軍人などが多いので、トランプ以前の外交とそんなに変わるものではなく、単にリベラル・ヘゲモニーがイリベラル・ヘゲモニー(不自由主義的覇権)になっただけではないかと批判しています。

 

ワルト教授はリベラル・ヘゲモニーではなく、オフショア・バランシング (沖合での均衡)こそが冷戦後のアメリカ外交にふさわしいと言います。

 

アメリカの国益は、ヨーロッパ、中東、東北アジアという アメリカの利害が交錯する地域において一つの国家がその地域の覇権を握らせないことにあるといいます。

 

ヨーロッパにおいては冷戦後、ソビエトという共通の敵が存在しなくなったのだから、「アメリカは徐々に駐留米軍を撤退させてNATOをヨーロッパ諸国の手に渡すべきだ」と書いています。

 

中東においても湾岸戦争以前はアメリカはオフショア・バランシング政策を採っており、現在よりもはるかに犠牲が少なかったから、それに戻るべきだとしています。

 

アジアだけは中国という地域覇権を狙ってる存在があるという点で他の地域とは違って、未だに同盟関係は必要だと認識しているようです。

 

では現在のリベラル・ヘゲモニー路線がどのようにオフショア・バランシング路線に変わっていくのでしょうか?

 

理論的には「外の出来事によってアメリカの外交が再編される」きっかけとなるはずだが、これはアメリカが新たに戦争を行うことだからあまりにもリスクが大きくて望ましいものではないとしています。

 

故に、現在の外交路線に反対を示す政党やマスコミの登場を期待しているようです。

 

以上、この本の内容を私情を挟まずに簡潔に書いてみました。どうも結論は私には教授の願望が書かれているような気がしています。

 

 

 

 

 

このシリーズは、旧ソ連と現在の共産中国との比較にとどまらず、第一次世界大戦の東側における戦いと第2次世界大戦の極東での戦いが同じ意味を持つのではないかという趣旨で書いています。

 

この比較からは、もうそろそろ中国共産党も期限切れが近ずいていることが予想できるのですが、それ以上のかなりややこしい問題も提起できるのです。

 

ドイツが第一次世界大戦でロシアからウクライナを取り上げたブレスト・リトフスク条約のことを取り上げましたが、この条約についてアメリカの元国務長官であるヘンリー・キッシンジャーは『外交』で「ドイツとロシアのブレスト・リトフスク条約は、ドイツが敗者に対してどのような運命を考えているのか示している。」と批判しています。

 

ところが、冷戦が終了しソビエト連邦が崩壊した時に、なんとウクライナも独立を果たしてしまったのです。

 

ということはキッシンジャーが厳しく批判するブレスト・リトフスク条約ですが、ある種の先見性を含んでいたことになります。

 

もちろんウクライナの独立がロシアにとって嬉しいはずではなく、プーチンが現在ウクライナの東側にちょっかいを出しているのも不満の表れでしょう。

 

さて、ソビエト崩壊後にウクライナが独立してしまったことは、東アジアにどのような意味を持つのでしょうか?

 

私は、第一次世界大戦のドイツとロシアの戦いと第2次世界大戦の日本の中国の戦いの共通点は、ドイツがロシアの重要拠点であるウクライナと日本が中国の重要な意味を持つ満州を独立させたことにあると書きました。

 

共産中国が崩壊したら、チベット、ウイグル、台湾は独立するでしょうし、香港や内モンゴルも独立するかもしれません。

 

しかし、私がなによりも懸念するのは、ウクライナがロシアから独立したように、旧満州が中国より独立する可能性なのです。

 

終わり

第一次世界大戦中の革命で生まれたソ連邦は1991年に崩壊します。実質70年と少しの寿命でした。

 

共産中国が生まれたのは1949年ですから、これに70年をプラスすると2019年以後が彼の国の寿命ではないかと思われます。

 

本来ならソビエト連邦が崩壊してからアメリカがもっと早く同じ一党独裁の中国に厳しく接してくれたらよかったのですが、私がこのブログで指摘したようにアメリカの中国に対する過度の理想主義が発動されアメリカは中国に優しい政策をとり続けました。

 

「中国を援助して経済発展が続けば、いずれ中国は民主化し責任を持った大国になる」というアメリカの希望はもろくも崩れ去りました。

 

この中国に対するアメリカの理想主義が崩壊したところに現在のアメリカの厳しい対中政策が存在するのです。

 

ところで、今回のアメリカの中間選挙において共和党が下院で負けてしまいましたが、この選挙結果はアメリカの対中政策に影響を及ぼすのでしょうか?

 

選挙の直前に、アメリカの中国専門家であるデイヴィッド・シャンボー教授が「中国政策における超党派のコンセンサス」という記事を書いておられます。

 

https://www.chinausfocus.com/foreign-policy/the-new-american-bipartisan-consensus-on-china-policy

 

この中で教授は、いくら共和党が下院の選挙で負けたとしてもアメリカの議会では反中国のコンセンサスができており、現在の中国に対する強硬な政策が変わることはないだろうとし、次のように書いています。

 

「中国が国内的にもっとリベラルな方向に反転し、対外的に抑制的な方向に転換しない限り、アメリカの中国への強硬路線は永遠に続くと思われる。」

 

習近平中国主席が近い将来にこのような政策をとる可能性はほとんどないので、アメリカの強硬な政策はルトワックが言う通り「共産党が崩壊するまで続く」のでしょう。

 

続く。