第2次安倍政権ができる直前の2012年に書いたブログを読み直していたら、(https://ameblo.jp/mintelligence/entry-11365037988.html)憲法改正などはその当時から無理と思って期待していなかったがデフレから脱却することについては安倍政権に対して期待している文章を書いていました。

 

ところが、このような期待は2回に及ぶ消費税増税で吹っ飛んでしまい、結局、公約通りに積極財政を行なったのは最初の一年だけだった。

 

このように私は安倍政権の経済政策に絶望して途中から政権を支持することをやめてしまったのだが、私のような態度を取った人たちはそんなにいなかった模様である。

 

というのも長期にわたる安倍政権下においてモリカケのようなスキャンダルが起ころうとも支持率は必ず30%から40%はあったからだった。

 

この安倍政権を支えている「岩盤支持層」というのが、どのような人たちなのか新聞やネットなどを読んでいてもよくわからなかった。

 

そこで今回は仮説としてどのような人々が安倍政権を支えていたのかを提示してみたい。

 

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デビッド・グッドハートはイギリスのEUから離脱した「ブレグジット」が起こった背景を”The Road To Somewhere”という本に書いています。

 

一方、マイケル・リンドというアメリカの評論家は、”The New Class War”という本でなぜトランプ氏が大統領に当選することができたのかを説明しています。

 

この2冊の本が面白かった理由はグッドハートが書いていたこととリンドが書いていたことが全く同じことだったからです。

 

イギリスやアメリカにおいて大学を卒業するのはおよそ全体の30%を占めると著者たちは指摘しています。

 

この自分の住んでいた土地を離れて都市の大学を卒業した人たちが大企業、マスメディア、非営利企業などの世論を形成する団体に就職しています。

 

この大学を卒業した人たちの経済的な思想は1980年代のレーガン大統領やサッチャー首相が唱えたネオリベラル路線であり、それが発展して現在はグローバリゼーションを推進していく立場になっています。

 

グッドハートはこのような人たちをAnywhere族(どこでも族)と呼んでいます。

 

一方、グッドハートがSomewhere(どこかに)族と呼ぶ人々は次のような特徴を持っています。

 

「現在、イギリスで5人のうちの3人は14歳に住んでいた場所から20マイル(32キロ)以内に住んでいる」

 

リンドも同じことを指摘しています。

 

「平均的なアメリカ人は母親から18マイル(29キロ)以内の距離に住んでいると知ったら驚くだろう」

 

これはどういうことかというとグローバリゼーションの先頭をいくようなイギリスやアメリカにおいても大半の国民はローカルな存在であり続けるということです。

 

英米の半数以上の国民は地元で生まれ、地元で就職し、地元で結婚して、地元で生涯を終えるのです。

 

ところが、グローバリゼーションの進展がSomewhere族に甚大な影響を与えます。

 

まず製造業が中国などの賃金の安い国に出ていってしまったために、製造業で働いていた人たちは職を失い賃金の安いサービス業に勤めなくてはならなくなりました。

 

その上、移民の受け入れが進んだために、英米のSomewhere族は彼らとの賃金競争をも余儀なくされてしまった。

 

このような状態にとうとう我慢の限界が来て、英国のEUからの離脱やトランプ大統領の当選に繋がったというのが彼らの説明です。

 

「彼は選挙期間中に『私は無学のものを愛している』という台詞を好んで用いた。そして教育を受けていないものはその愛に対して応えた。大卒の資格を持たない白人の70%がトランプに投票したのである」とグッドハートは書いています。

 

ここまで長々とグッドハートとリンドの本を引用したのは、彼らが指摘した大学を卒業した30%の人々がグローバル化を先導しその他50%の国民の生活を悪化させているという状況は英米だけでなく先進国共通な現象と思うからです。

 

続く

 

太平洋戦争に至る過程で『朝日新聞』を代表とする日本のメディアは軍部の意向を忖度する形で戦争を煽っていたと言われています。

 

そして日本が戦争に負けた後で、彼らは戦争を煽ったことを心から反省したはずだった。

 

ところが現在でも『朝日新聞』などは財務省が主導する緊縮財政などの経済政策に対して、それに何ら疑問を抱くことなく財務省の意思を体現する記事を書き続けている。

 

一体、『朝日新聞』は戦前の何を反省したのだろう?

 

最近私が読んだ本に『パンデミック以後』というものがあります。

 

この本は朝日新聞の記者がフランスのエマニュエル・トッドにインタビューを行ったものをまとめたものです。

 

この本の中でトッドは現在のフランスの状況を「個人はバラバラになり、経済は困難に陥り、生活水準は下がり、製造業は崩壊し続けている。」と日本の経済状態と似たようなフランスの有様を語っています。

 

また「そうやって外の脅威から人々を保護するのが、国家の役割です。戦争だとか微生物だとか。でも、フランスでは国家は崩壊しつつある。権力を握っているのはマクロン大統領ですらない。」とも語っています。

 

トッドがこのようにフランスの大統領や国家のエリートを批判していることを読んで私はかなり共感したのだが、トッドに質問している朝日新聞の記者はほとんど反応を示していない。

 

日本の経済状態はフランスと比べてお世辞にも良いとは言えない(日本の平均的な実質賃金はイタリアよりも下になりG7で最低になってしまった。)にもかかわらず、朝日の記者が日本の現状をきちんと説明しないからトッドの日本経済に対する楽観的な評価は最後まで修正されなかった。

 

エマニュエル・トッドは家族の在り方がその国や社会に対して広範な影響を及ぼしていることを主張しています。

 

日本の場合はドイツや北欧と一緒で昔は長男が相続権を持つ直系家族で、そのような社会は「権威主義」に陥りやすいと指摘しています。

 

だからトッドの主張に一定の理解を示すならば、自分たちの言論が何らかの権威に従っているのではないかという批判的な精神が必要でしょう。

 

ところが、『朝日新聞』は戦前において軍部の権威に屈して軍部の望むような報道を続け、現在は財務省の主張する緊縮財政を無批判に繰り返しています。

 

何のためにトッドの意見を聞いているのか理由がよくわからない。ただ『朝日新聞』が戦前と同じく真の権力者の権威に弱いということだけは理解できた。

 

マスコミもほとんど戦前と何ら変わっていないのです。

 

 

 

 

 

 

現在の財務省や戦前の帝国陸軍が内部の反対者を追放して政策の転換ができなくなったことを書きました。

 

もちろん官僚組織の暴走を止めるのは組織の修正力に頼るだけでは不十分で、何よりも政治家の役割が問われるのですが、政治家はその役割にきちんと答えたのでしょうか?

 

安倍総理は2度目の総理の座に着くにあたり、日本経済をデフレから脱却させるためにアベノミクスを掲げたのでしたが、結局は2回も消費税を上げるという財務省の思惑通りのピエロを演じただけに終わりました。

 

現在の財務省の暴走を抑制できなかった安倍総理に対して、経済評論家の三橋貴明氏や文芸評論家の浜崎洋介氏などが戦前に軍部の暴走を止められなかった近衛文麿に似ているのではないかと指摘していましたが、それは正しい批判だったのでしょうか?

 

戦前の明治憲法では首相の権限は現在の憲法よりもはるかに弱いものでした

 

近衛首相が陸軍大臣である東條に向かって日中戦争がアメリカとの交渉の妨げとなっているから、中国から撤兵せよと命令し、東條が拒否したらどうにもならなかった。

 

一旦総辞職して内閣を組み直すという外相の松岡洋右を辞めさせたときに使った手段も陸軍大臣には現役武官制が存在したために使えなかった。

 

それでも歴史家の鳥居民さんによれば近衛は個人的に東條に3回も直接会って中国からの撤兵を説いたが、東條は受け入れず最後は閣議で中国からの撤兵に声をあげて反対し近衛内閣を潰してしまった。

 

果たして安倍総理は近衛が軍部に対して戦ったように財務省に対して戦ったのでしょうか?

 

安倍首相にとって不運だったことは同志だと思って財務大臣に任命した麻生太郎が、いつの間にかその立場を180度転換して、財務省の緊縮財政路線の擁護者になっていたことでした。

 

それでも安倍首相が本気になって財務省と戦う気があったなら、財務省の言いなりになる麻生大臣を罷免することもできたはずだが、麻生派の叛逆を恐れて何もしなかった。

 

総理任期の最初の方は消費税の増税の時期を遅らせようと選挙を実施したりしたが、モリカケのスキャンダルが出るといつの間にか財務省の言いなりとなって2回目の消費税増税を行ってしまった。

 

つい最近『産経ビズ』に次のような記事が載っていました。

 

「講演は非公開で、質疑を含めて約1時間行われた。安倍氏は新型コロナウイルス禍での経済対策について、『コロナ禍で間違っても増税はダメだ。政府・日銀連合軍で財政出動するしかない。今やらないと大変なことになる』と指摘。『東日本大震災の復興増税で、その後の日本経済に大きな負荷がかかった。そこからアベノミクス構想が始まった』とも説明した。

 

 安倍氏はまた、会合冒頭、約30人の出席議員に『保守政党の皆さんの役割は、日本を日本たらしめているものは何かということに常に思いをはせることだ。もし、その方向と違う方向に党や国が進むようであれば、自分たちが行動するという気概を持って取り組んでいただきたい』と呼びかけた。」

 

呆れて物も言えない。近衛の方がはるかに真剣に軍部と戦ったと私は思います。