私は元日経新聞記者の鈴置高史さんの朝鮮半島論が好きで、現在もデイリー新潮やフジテレビのプライム・ニュースなどで読んだり見たりしています。
最新の論考はここで読めます。
https://www.dailyshincho.jp/article/2021/11230600/?all=1
韓国の左派である文在寅政権の外交目標は、鈴置さんによれば彼の本のタイトルにあるように「離米従中」ということになります。
この言葉の意味は文字通りにアメリカと離れ、中国に従うということです。
現在、文在寅政権はアメリカに対して朝鮮戦争を終結させることを提案していますが、アメリカは嫌がっています。
なぜアメリカが嫌がるのかと言えば、もし朝鮮戦争が終結すれば、在韓米軍をどうするかが問題になってきて、さらには米韓同盟存続の意義に関わることにもなってくるからです。
文在寅政権はアメリカと離れるといっても、国内にはまだ多数の親米保守の国民が存在するのでいきなり自分から米韓同盟を破棄することはできません。そうすれば必ず保守派の反撃に合うでしょう。
そこで文在寅政権は朝鮮戦争の終結宣言のように間接的に米韓関係を弱めていき、アメリカが怒って米韓同盟を破棄させるようにすれば、現在の東アジアの政治情勢において韓国は中国の軍門に下るしかないのでそうなれば「離米従中」の完成です。
近代以前の朝鮮半島の歴史を考えれば、韓国および朝鮮半島が中国に従うことは自然なことではないのかというのが、私が考える鈴置理論の要諦です。
私も今まではこのような解釈が正しいのではないかと思ってきましたが、つい最近知った事実によってもしかしたら違うのかもしれないと思うようになりました。
その事実とは、文在寅政権も彼の先輩格にあたる盧武鉉政権も保守の政権に比べてかなり積極的に軍備の拡張をしていることでした。文在寅政権に至ってはほとんど軍事費が日本のそれと同等になったということです。
もし文在寅政権の外交目標が鈴置さんの指摘する「離米従中」であるならば、こんな軍拡は必要ないはずです。韓国の軍拡は決して中国や北朝鮮を満足させることにはならないからです。
韓国が日本やアメリカと組んで中国に対抗しようと考えていないのはこれまでの韓国の態度で明らかです。
だから韓国の左翼政権はアメリカから離れて中国に従属するのだろうと私もこれまで考えてきたのですが、どうもそれも見当違いで、実は中国にも属さず「自主独立」を目指している節があるのです。軍拡はその布石ではないでしょうか。
外交評論家の伊藤貫さんがYouTubeで指摘していたジェニファー・リンド教授が同僚とワシントン・ポストに書いた『韓国は核武装すべきか?』というコラムを読んでなるほどと思いました。
要約を載せておきます。
・中国の国力上昇が韓国とアメリカの間を不和にしている。
・中国の力が向上することでアメリカは同盟国にもっと働いてもらいたいと思っているが、韓国はその役割を担いたくないと考えている。
・韓国はアメリカとの同盟する理由は北朝鮮であって中国ではないと考えている。アメリカと一緒になって中国に対抗することは韓国の第一の貿易相手の中国と敵対することになる。
・さらに北朝鮮の核戦力の向上によって韓国の情勢は悪化している。北がアメリカに届くミサイルを開発したことで韓国を防衛するアメリカのコストは途方もないものとなった。
・果たしていざという時、アメリカは北朝鮮から韓国を守ってくれるかどうか韓国自身が疑問を持つようになったのである。
・本来なら米ソ冷戦時代のヨーロッパでそうしたように、アメリカは韓国と核兵器のシェアまで考えるべきなのだが、アメリカはそこまで考えていないし、実際的でもない。
・そこで考えられるのが、北の核の脅威に対して韓国が核武装することである。この核武装は中国に対して独立を保つのにも役に立つ。
・核拡散防止条約の観点からは、北の非合法な核に対して韓国が対抗することは許されることなのだ。
・実はソウルはもうこの方向に進んでいる。韓国の元外相は朝鮮半島で核のバランスを維持することは多くの研究者やリーダーが望んでいると語っているし、国民の70%もそれを支持している。韓国が新しい潜水艦を開発することは、有力な核のプラットフォームを提供することになる。
・もし韓国がそのような道にすすむのならば、アメリカは北朝鮮を非難して韓国をたすけるべきだ。
https://www.washingtonpost.com/outlook/should-south-korea-go-nuclear/2021/10/07/a40bb400-2628-11ec-8d53-67cfb452aa60_story.html
以上です。
以前、韓国が新しい潜水艦の開発を行なっていると報道されていた時、ネットなどの意見では「また日本に対抗することに熱中して不必要なことをやっている」という反応が多く、私もそう思っていましたが、今ではリンド教授が指摘するように戦略ミサイルの発射プラットフォームと考えた方が良さそうです。
というわけで、韓国の左翼政権である文在寅政権は割と雄大な構想を描いているのではないかというのが私の率直な思いです。
それが実現できるかは、まだ未知数です。