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体格的に見ると勝てるはずのないケンカだ
私とトシのウエイト差は26キロ
狭い車内で争えば
流血沙汰だってあり得る
それは...
..ッはくろ!!!!
あの頃は、あまりに頻繁に襲われるため
盗聴器とGPSを付けられていた
俺の服にどうせまた勝手に
仕込んでいるであろう
その盗聴器に向かって
あらん限りに叫んだ
トシとは暫く争ったが
『俺のコレはどうすればいいんだ!!』
などとキレられても
如何ともし難いわけで..
程なくして、離れた車で
待機していたのであろう下僕が到着
手持ちのLEDライトを
全力でトシの顔面に照射
視界を封じている間に
助手席のドアから助け出してくれた
ドアロックは..
トシが私の唇を貪るのに必死になっている隙に
外しておいた
そこからは修羅場だった
泣くは叫ぶは暴れるは
文字通り“爆発”したトシが
言葉になっていない言葉を吐き散らし
自分の車を
半壊させる勢いで暴れまくった
落ち着けと言ったところで
もはや私の言葉など
耳に届くはずもなく..
反り勃った下半身が落ち着く頃には
振り返りもせず
車で走り去ってしまった
白侶がいなければ、私は
街灯も無い山の中に
置き去りにされていたところだ
再び連絡があったのは一週間後
『外にいるから出てきて』
と
夜、屋敷の門前にメールで
呼び出された
出て行くと白いクラウンが3台
停められていた
人を集めなければ私と話も出来ないと?
この時点でもう..
トシにはガッカリを通り越して
完全に失望していた
尊厳な屋敷の門前
着流しに威風堂々たる
人間が出てきたら
少しやんちゃが過ぎた程度の子供など
怖じ気づくもので
10人はいたかと思う
トシが呼び集めた愉快な後輩達は
ひとり、また一人と姿を消し
早くも5人は帰った
結局
私と口をきく度胸があったのは
残った5人の内
リーダー格の1人だけだった
..その勇敢な1人が、言った
『ひどいと思わないんですか?
先輩(トシ)の心を弄んで
何で別れるのに
付き合ったんですか』
なりのわりに乙女チックな台詞を
吐くものだから
思わずフッと、鼻で笑ってしまった
私はいったい、誰との別れ話を誰としてるんだ?
「弄んだ」いう言葉が出てくる
ということは
トシは事の全容を
最初からは話していなかったのだ
事のあらましを説明し、
証人の三森の存在を教えてやり、
トシが私にしたこと、
1人に対し多勢で来る“勇気”とやら、
恋人との別れ話を
赤の他人にさせる行為を、
「非道い」とはいわないのか..
などを淡々と問うと
遂には全員帰ってしまった