奥村三菜子先生(NPO法人YYJ・ゆるくてやさしい日本語のなかまたち(副理事)

日時:2024年1月23日(木)15:05〜17:15

場所:Zoom開催

演題:「CEFRとは一体どんな仕掛けなのか?」

 

2025年1月23日に、NPO法人YYJ・ゆるくてやさしい日本語のなかまたち(副理事)にご所属の奥村三菜子先生がZoomでご講演してくださいました。今回のご講演では、CEFR(ヨーロッパ共通参照枠)、欧州評議会(Council of Europe)、および複言語主義(Plurilingualism)、さらにCEFRに基づく新たな仕組みについて伺いました。

ご講演の前半では、CEFRの理念や性格、またCEFRが作られた経緯について伺いました。CEFRは2001年にEUで公開され、欧州評議会により作成されました。その目的は、人権・民主主義・法の支配を保護・維持することに加え、「欧州言語教育政策」を実現することを目指しています。また、欧州評議会が考えている言語教育は「平和教育」の重要な手段であることについて、「言葉の学びはあくまで、人々の幸せのために行うものである」との理念を奥村先生より示していただきました。

ご講演の後半では、CEFRの複言語主義(Plurilingualism)を中心にお話を伺いました。まず、CEFRの多言語主義と複言語主義の違いと、複言語主義が持つ特有の概念についても触れられました。奥村先生は、「わたし語」を複言語として捉え、個人の「わたし語」はそれぞれ異なり、その違いが面白さを生むとおっしゃいました。また、言語は単純にカテゴリーに収められるものではなく、複言語能力は部分的でアンバランスな要素が組み合わさって、個人のアイデンティティを形成するとご説明くださいました。最後に、学習者が複数の言語を状況に応じて使いこなす力を重要視し、言語教育において「正しくなさ」を教えることの重要性についてもご貴重な意見をくださいました。後半の質疑応答の時間では参加者の積極的な質問に対して、奥村先生が親切かつ詳細にお答えくださったことにより、参加者に大きな学びや新たな視点を与えてくださいました。

今回、講演のご要望に応じていただき、誠にありがとうございました。

 

≪主な御著書≫

【書籍】

・櫻井 直子,奥村 三菜子,鈴木 裕子(2016)『日本語教師のためのCEFR』くろしお出版

・奥村 三菜子(2023)「日本語教育と複言語教育の接続―日本語教育にもたらす課題とインパクト―」西山 教行,大山 万容 (編)『複言語教育の探究と実践』第3章,くろしお出版

・櫻井 直子,奥村 三菜子(2024)『CEFR-CVとことばの教育』くろしお出版

・奥村 三菜子,櫻井 直子(2024)「言語教育に『仲介』を加えることの意義―言語教育の実践から学習者と教師の仲介活動を考える―」大木 充,西山 教行(編)『CEFR-CVの「仲介」と複言語・複文化能力』第5章, 凡人社

 

添付:講演のポスター(コバ研より作成)、講演中の写真

 

尾辻 恵美先生(シドニー工科大学・准教授)

日時:2025年1月9日(木)17:00-18:30
場所:Zoom開催
演題:「個人から分散化された能力―セミオティック・アセンブリッジの視点から―」

 

2025年1月9日に、シドニー工科大学にご所属の尾辻恵美先生先生が、Zoomで「個人から分散化された能力―セミオティック・アセンブリッジの視点から―」についてご講演をしてくださいました。

ご講演の前半では、社会言語学でのパラダイムについて論じ、人間的と非人間的要素によりことばと能力が形成されることを紹介してくださいました。その中で、バグラデッシュのコンビニで撮られたビデオ(アフリカ人のお客様と現地のスタッフの相互行為)を通じて、場所に分散されたセミオティック資源を駆使しながら、社会的な相互実現が生まれたことが分かりました。また、分散化されたことばとセミオティック・アセンブリッジの視点から、より包括的で能力を提唱すべきであると尾辻先生より提起されました。

ご講演の後半では、質疑応答の時間が設けられ、基調講演に基づいたことばの教育における課題と示唆について話が続き、各国の国勢や政策への推察、教える現場と社会の現場といった現場への関心、社会言語学や応用言語学といった領域の対話などの重要性について言及されました。これからのことばの教育を考えていくには、批判的・倫理的姿勢が大切であり、従来の言語と言語教育のイデオロギーの変革が必要であることが分かりました。

この度、尾辻先生にご講演に応じていただき、誠にありがとうございました。今回の講演を通じて、ゼミ生一同は言語と言語の教育についてセミオティック・アセンブリッジという新たな視点で考えさせられました。

 

 

≪主な御著書≫

・尾辻 恵美(2016)「ことばの市民性形成の将来的展望―社会観,言語イデオロギー,言語教育イデオロギーの転換に向けて」細川 英雄・尾辻 恵美・マルチェッラ マリオッティ(編)『市民性形成とことばの教育―母語・第二言語・外国語を超えて』くろしお出版

・尾辻 恵美(2021)「第二言語イデオロギーの転回におけるメトロリンガルの強み」尾辻 恵美・熊谷 由理・佐藤 慎司 (編)『ともに生きるために―ウェルフェア・リングイスティクスと生態学の視点からみることばの教育』春風社

 

添付:講演のポスター(コバ研より作成)、講演中の写真

副田恵理子先生(藤女子大学 日本語・日本文学科 教授)

日時:2025年1月9日(木)15:05-16:45
場所:ZOOM開催
演題:「日本語学習者が必要としている書く(打つ)コミュニケーション・スキルとは」 

 

2025年1月9日に、藤女子大学日本語・日本文学科ご所属の副田恵理子先生がZoomでご講演をしてくださり、日本語学習者に必要としている書く(打つ)コミュニケーション・スキルについて拝聴させていただきました。

ご講演の前半では、教室における日本語学習者への「書く」指導の具体例をもとに、学習者のニーズに応じた「書く」指導の難しさと教師側の「書く」指導方法の養成の難しさとともに、「書く」プロセスで生じている時代に応じた「打つ」までの変化の流れについても紹介してくださいました。

ご講演の後半では、書く(打つ)コミュニケーションを「メールやSNSを介したコミュニケーション(CMC)」という視点から紹介してくださいました。推薦状依頼メール、LINEでの「待ち合わせ」場面やLINEでの絵文字やスタンプの使用状況といった例から、メール・SNSの種類、世代、場面による違いと言語行動の変化がわかりました。また、講演の参加者が各々日本語母語話者や非母語話者の視点から、提示された日本語学習者の言語使用の解釈について話が盛り上がりました。このような活動を通して、これからは「書く(打つ)」により具体的な状況に置かれたミュニケーションに求められるスキルに関する理解が深まり、学習者はなぜ・どのような状況で、どのように「書く(打つ)」のか・抱えている問題・打つコミュニケーションの学習者に与える影響などについて再考が促され、視野が広がりました。

今回、副田先生は講演のご要望に応じていただき、参加者に大きな学びを与えてくださり、誠にありがとうございました。

 

≪主な御著書≫

【書籍】

・副田恵理子(2022)『社会を築くことばの教育:日本語教員養成のこれまでの30年、これからの30年』ココ出版

・Yukiko A. Hatasa&Eriko Soeda (2000)"Writing Strategies Revisited: A Case of Non-Cognate L2 Writers",Social and cognitive factors in second language acquisition:selected proceedings of the 1999 Second Language Research Forum.Cascadilla Press

【論文】

・鎌田 美千子,副田 恵理子(2024)「日本語教員養成課程で扱われる書くことの指導の現状と課題―担当教員が感じる難しさに焦点を当てて―」『大学日本語教員養成課程研究協議会論集』(21),pp.17-36

 

添付:講演のポスター(コバ研より作成)、講演中の写真


クリア・マリィ先生(Asia Institute, Faculty of Arts, University of Melbourne)
日時:2022年7月21日(木)16:30-18:00
場所:ハイフレックス(早稲田大学19号館&Zoom開催)
演題:「性の多様性を踏まえた日本語教育実践を考える~変わりゆく社会·変わりゆく教育現場を中心に」

 7月21日に、メルボルン大学(The University of Melbourne、略称 UOM)にご所属のクリア・マリィ先生がハイフレックスの形(早稲田大学19号館とZoom)でご講演をしてくださいました。
 今回のご講演は、性の多様性の具体的な解釈と日本語教育における現状についてでした。
 ご講演の前半では、性の多様性の概念について伺いました。性別の具体的な分け方または見方、海外で性の多様性に対する配慮として学校側の取り組みなどの概略を紹介してくださいました。
 ご講演の後半では、日本語教育における性の多様性について、教科書のテキストやイラストなど、具体的な例を示しながらご説明くださいました。参加者からは普段使い慣れていた教科書、ステレオタイプが多く現れていることを知り、日本語教育において今でも性の多様性に関する対応が不十分なところが多いことに気づき、考えが深まる貴重な時間になりました。
 質疑応答の時間では参加者の積極的な質問に対して、クリア・マリィ先生が親切で詳細にお答えくださいました。講演内容に関する質問だけではなく、参加者が自らの経験に基づいた性や性別の考え方,向き合い方に対する疑問まで話し合うことができて、議論が長時間盛りあがり、講演も予定の時間を超過して続きました。
 今回、講演のご要望に応じていただき、参加者に大きな学びを与えてくださり、誠にありがとうございました。

≪主な御著書≫
·Claire Maree(2020)“Queerqueen:linguistic excess inJapanese media”, Oxford University Press
·クレア·マリィ(2013)『「おネエことば」論』青土社
·クレア·マリィ(2007)『発話者の言語ストラテジーとしてのネゴシエーション(切りぬける·交渉·談判·掛け合い)行為の研究』ひつじ書房

添付:当日のポスター、講演中の写真2枚

加藤重広先生(北海道大学大学院文学研究院・教授)
日時:2021年7月21日(木)14:45-16:15
場所:Zoom開催
演題:「語用論をどう使うか考える」 

 7月21日に、北海道大学大学院文学研究院にご所属の加藤重広先生がZoomでご講演をしてくださり,語用論の意味、歴史、発話に関する理論について拝聴させていただきました。
 ご講演の前半では、「統語語用論」という領域がどのように提案されたのか、文脈の分け方とそれぞれどのような特性があるか、発話の解釈から引き出された推意は何かなどについて伺いました。その中、加藤先生は一般会話推意(GCI)と特殊会話推意(PCI)を具体的な例と合わせて、二つの概念の違うところを詳細に説明してくださいました。
 ご講演の後半では、主に語用論の角度から日本語の分析方法を伺いました。例えば、Aさんの「この商品,明日からのセールで半額になるらしいよ」 に対して、Bの「知らなかった」という答えには、「私は当該情報を過去において(今まで)知らなかった」、「私はいま当該情報を初めて知った」という意味が含まれていることを推意から分析できる。日常生活での会話例を語用論の視点からどのような分析を行えるか伺うことができました。最後に、質疑応答の時間では、加藤先生にゼミ生が事前に提出していた、先生のご著書『はじめの語用論:基礎から応用まで』に関する質問をお答えいただきました。
 コロナ禍の今、オンライン講演のご要望に応じていただき、参加者に大きな学びを与えてくださり、誠にありがとうございました。

≪主な御著書≫
『日本語文字論の挑戦』勉誠出版、2021年
『新しい語用論の世界』研究社、2020年
『動的語用論の構築へ向けて 第2巻』開拓社、2020年
『はじめての語用論:基礎から応用まで』研究社、2020年

添付:当日のポスター、講演中の写真1枚