東京、有楽町にある国際フォーラムにてインターナショナルオーディオショウという展示会が開催された。かつて何度か行ったことはあったが、今回、日頃懇意にさせて頂いている方から出展に際してお誘いを頂き、久しぶりに行ってきた。
第一回目は1983年だったから今年で34回目となるこの展示会、コアというかディープというか、とにかく大人の趣味としては、金額的にも恐らく最高峰とも言えるオーディオ趣味の極致的祭典だろう。因みに価格1800万円のスピーカー展示などもあり、耳で聞くだけではなく「目で鑑賞」も出来る展示会となっていた。
このインターナショナルオーディオショウ、当初はオーディオ製品を輸入もしくは製造する会社法人による任意団体であるInternational Audio Society of Japan、IASJ」が主催する輸入オーディオ展示会だったものが、約10年前から国内のオーディオブランドにも参画させる様にしたオーディオ展示会であり、オーディオファンの客向けに、頑丈な防音壁でメーカー別に隔離された部屋で「選りすぐりの名器」にて各社自慢の音を聞かせるという展示会である。
ところで、そもそもこの展示会はオーディオ機器のみ出典の展示会であるため、ほぼ100パーセントの出展社は国内外のオーディオ専業メーカーであったが、今年そこに参画してきたメーカーがあった。
テクニクスブランドを背負ったパナソニックである。
テクニクスというブランドはオーディオブランドではあるが、パナソニックは住宅空間から車載など幅広く活動する言わずと知れた総合メーカーでもある。新参画は同社の戦略もあるだろうが、その背景には家電業界に於ける市場牽引に関する意図的なパラダイムシフトもある様だ。
パナソニックがオーディオブランドとして、かつての名声であったテクニクスブランドを復活させてからおよそ2年が経過、その間に家電市場も様相が変わってきた。因みに今年度のCEATEC(アジア最大級、エレクトロニクス総合展)は、その開催趣旨の軸足を従来のデジタル家電ショーからCPS/IoT関連へと変えるという。よく間違えられるが、CEATECの「CE」はConsumer Electronicsではなく、「Combined Exhibition of Advanced TEChnologies」。つまり最新技術の複合展示の意なので、その意味では展示趣旨が本来の展示へと回帰することにはなる。
その流れからパナソニックはCEATECでのオーディオ展示を「卒業」し、戦場をオーディオ専門展示会であるインターナショナルオーディオショウへと変更させていったのだろう。実際、来場者幅の広すぎるCEATECよりもオーディオ専門展示会の方が「売りたい、買いたい」のベクトルが合致するので、訴求コスパが高いことは推測できる。
パナソニックと展示他社との大きな違いは、先に述べた様に他社が総てオーディオの専門メーカーであることに対し、パナソニックは生活全般を提供する総合ライフスタイル提案会社であることだ。いきおい、他社とは異なる訴求、即ち同社が提供する住宅設備や生活空間の一部としてオーディオを提案出来るという点が大きな差となる。一方、老舗のオーディオメーカーとファンとの間の関係は、決して一朝一夕で培われたものではなく何十年もかけて熟成された有機的結合関係であり、莫大な資金と体力を持つパナソニックといえどもその牙城を切り崩すのは容易ではない。逆に言えば、そこをどの様にして切り崩していくかが同社の腕の見せどころと思えるが、今回参戦してきたということは臨戦に際して何か秘策があるのだろう。
競合他社にとってそれは単なる脅威なのか、或いは共に手を携えて市場活性化を図る「好敵手」と見るか、今後の動向は興味深い。
この手の展示会では、各メーカーの訴求方法は大きく二通りある。一つは「四の五の言わず、まずは音を聴いてくれ」という訴求、もう一つは「画期的な技術を見てくれ」だ。もちろん、どちらか一方だけの訴求ということはないのだが、概ねどちらかに分別が可能だろう。例えば、超高級アンプやスピーカーでは技術説明を割愛してしまって音だけで勝負、普及機の場合は、低価格であるにも拘らず何故高級オーディオと比べて遜色のない性能が出せるのかという技術訴求を中心として参戦する。今回の展示会などでは、来場者の嗜好を鑑みると、音の良し悪しはもちろんだが技術的な差別化の解説も来場者にとって印象深いものになるのではないかと考える。その点、今回のテクニクスでの展示は、その両者を使い分けて約1時間のデモとなっていたが、新参としての手探り状態であるとはいえ訴求内容は来場者へ伝わっていた様に思う。
さて、今回に限らないのであるが、オーディオ展示会というと圧倒的に男性の来場者数が多い。しかも年齢層が高い。平たく言えば、オーディオとは「オッサンの趣味」ということか。 よく、男の趣味は車やバイク、カメラなどと言われるが、そのジャンルには女性もたくさんいるはずだ。それ等に比べると、どうもオーディオ趣味人口は男度が圧倒的に高い様な気がする。実際、この展示会でも99%近くが男性だったし、女性は同伴として来場している人が殆どだった。しかし、音楽を聴くということであれば男も女も同等なはずだ。つまり、音楽を聴くということとそれを再現する手段は全く別と言う事なのだろうか。
例えば、旅行という趣味を考えると男も女も同じぐらいいるはずだが、手段としての鉄道、車やバイクを趣味として掲げる人の数は、男性の方が多い様な気はする。オーディオの場合もこれが当てはまるかもしれない。これらの趣味を整理してみると、次の様になるだろう。
精神静養的趣味 研究教養的趣味 -------------- -------------- 旅行 鉄道、車、バイク等 音楽鑑賞 オーディオ装置
精神静養的趣味である旅行や音楽鑑賞と、研究教養的趣味の鉄道、車、バイク、オーディオ装置は、まさにソフトウェアとハードウェアとの関係であって、両者揃って初めて機能するはずだ。鉄道や車、バイクに興味はあるが旅行には興味ないという人はまずいないだろうし、オーディオが趣味だが音楽は嫌いという人に至っては皆無だろう。 にも拘らず、オーディオが趣味という女性はどうも少ない様なのだ。旅行は好きだし車やバイクも好きという女性はたくさんいるが、こと音楽鑑賞というジャンルを座標平面で鑑みると、女性たちは「音楽は好きだがオーディオ装置には興味がない」という第二象限に集中するからか、オーディオ趣味というカテゴリーでフィルタリングすると男性ばかりになってしまうのだ。
ではどうやって女性層を拡大させることができるだろうか。
世にはガンプラ好きとか鉄子さんといった女性たちも多くいるわけだから、ハードウェアとしてのオーディオ機器のポテンシャルユーザーは女性の中にもいるはずだ。ただし、それらの層の構成者は押しなべて若年であり、年配層は少ないだろう。故に、オーディオ展示会で陳列されている様な高額機器を品定めする女子なんぞ、少なくて当たり前だ。
高額商品を自分予算で買える女性というのは、特別な事情がない限り高齢の女性なはず。彼女たちは若年層とは異なり購買力がある。ところが、たとえ音楽好きであったとしても、高齢女性たちがオーディオ機器を聞き比べたり仕様を確認すると言う姿は想像に無理がある。従って市場拡大を狙う場合には、そういう女性達をオーディオ展示会場へと誘う方法も考案する事が必要だろう。
一般的に女性はブランド志向が強い。安心感を求めているのだ。 従ってある一定の機能性能をクリアしていれば、高名なブランドであれば購入層になる可能性は十分ある。であれば、ブランド志向を持つ富裕層への訴求にはブランド戦略が有効だろう。オーディオブランドは数あるカテゴリーの中ではマイナーなブランドだが、前もってブランドに対する「洗練された高級商品」的なイメージを確立、自然に頭の中にそのイメージをインストールさせ、その後でオーディオに目を向けさせれば良いのだ。
キーワードは「安心感」。とはいえ、これが出来るメーカーは限られているだろう。
かつてカセットテープのメーカーが、音楽好きだがテープメーカーは問わないという女子高校生層をターゲットにするために、それまで重厚な色彩だったカセットケースをパステルカラーにした上、ケースの角に丸みを持たせたところ、狙った層へ爆発的に売れる様になったという。
これは一般消費財の話ではあるが、とにかく新しいユーザー層を開拓するためには、仕様や機能以外の何か仕掛けが必要だろう。若年層までオーディオ趣味を広げるためには、若年層が購入できる価格帯商品が必要だ。しかしその市場は既に激戦区となっている。従って、高機能、高性能が維持された高級ブランドイメージをまとった普及機帯の商品展開が有効と考えられる。
メーカーや小売店から聞いた話だが、夫婦でテレビなどのAV機器を購入する場合、機能仕様の確認は旦那が行い、決裁するのは奥様というケースが圧倒的に多いそうだ。拙宅でも覚えがある。こういう場合、女性はリビングに置いたときの見てくれとか、部屋の構造や彩色とのマッチング、更には友人を呼んで見せられるか、などといった様なライフスタイルを鑑みて購入を決定するそうだが、ここで言う生活とのマッチングというところが女性購入層を取り込む大きなキーとなりそうだ。そのためには、これまで男性社会だったオーディオという市場に女性市場を開拓するためにスタッフとして女性をどんどん起用し、音楽のある空間演出について女性的発想を取り入れることも市場拡大に有効だろう。
「女性は男性と異なる価値観を持つ」という理由もありそうだ。
実際、動物学的に見て、女性は本能的に子育てを最優先するために周囲との協調を尊しとするから、オーディオの様な自己満足な世界に対して抵抗があることは想像がつく。しかし、オーディオを「自己満足を超えた、おもてなしの世界」へと昇華させる提案があれば、潜在的な女性ファンへの吉報となるかもしれない。
自己満足に就いても、どうやら男性とは違いそうだ。女性の自己満足は、バランス感覚に裏づけされた「相対的」な差別から感じ取る自己満足だろう。 男性のそれが単純な自己満足である事に対し、極めて複雑である。
ある女性は言う。「音楽は好きだけど、オーディオに金をかけるよりも服に金かけたい」
なるほど、と思う。ここに現れている自己満足は、飽くまでも他人あっての満足なのだ。つまり、世界に一人しかいなくなったら、どんな服を着ようが見せる相手は存在しない。相対的なものだ。一方、オーディオで悦に入るのは、周りに人がいようがいまいが関係ない。
どちらに価値を見出すか、一見不可侵な価値観同士ではあるが、どうやって門戸を開くか、開かせるか、チャレンジする価値はある。
また、女性同士の間で自己紹介するときに「オーディオが趣味」と言うと、暗いとか理屈っぽいとか思われそうなので敬遠しているという事情もありそうな気もする。 従ってオーディオ女子を増やすためには、彼女たちをそこから救出する方策を講じる事も必要だろう。
オーディオ機器は飽くまでも音楽を聞くための「道具」であって、それ以上でもそれ以下でもない。しょせん、オーディオなんて音楽を聴く以外には使い道のない道具だ。いきおい、販売するためには「どうせ聴くなら良い音で」という謳い文句となる。しかし、良い音とはオーディオ装置の良し悪しだけで決定されるわけではなく、生活の一部であること、装置が置かれる空間とのマッチングが取れていること、他人をもてなす心地よい空間を演出出来ること、そういう感性的要素も不可欠だ。つまり音を聴くためのお膳立てや、音を出すまでの演出といった様なオーディオ機器以外の役者も必要であり、市場拡大には生活を取り巻く様々な業種とのコラボが有効だろう。 商品の差別化はそこで出来る。くどい様だが、それができるメーカーは限られている。
CEATECが軸足を変えた事に伴って、家電の一部であったオーディオは、新たな客層を開拓すべく大きなチャンスを迎えている。