アトリエミジで
昼下がりの午後に 初めてたどりついた。
雨上がり。虹も無く。
紅茶とクッキーしかないカフェ。
絵がたくさん飾ってあった。
いつか。
いつの日にか。
僕の事を書いてくれないだろうか?
アトリエ Miji で
Miji
存在が強い。
生き方にトゲがある。
幸せのないのが大前提。
Miji は時々僕を端的に見る。
その時二人は背中合わせだったりするが、
結局、向かい合って、瞳を見つめ合い、触れ合うなんて出来ない。
剥きだしの好奇心。
素朴で純粋な表現力。
諦めようのないPositive。
だから Mij iなんだ。
だから、キミは Mij iなんだよ
生き方にトゲがある。
幸せのないのが大前提。
Miji は時々僕を端的に見る。
その時二人は背中合わせだったりするが、
結局、向かい合って、瞳を見つめ合い、触れ合うなんて出来ない。
剥きだしの好奇心。
素朴で純粋な表現力。
諦めようのないPositive。
だから Mij iなんだ。
だから、キミは Mij iなんだよ
最期まで大切な思い出であってほしい
隆一郎は不思議で仕方なかった。
何度もすれ違ってるように感じた。
結局はラリってる隆一郎だから招いた結末。
思いだせないけど、気がついたら、歌っていた。
大船駅のホームの端っこ。
「自分の世界なら自分の家でやれよな」
「おいおい、何イッちゃってるんだよ。こんなとこで」
たくさんの軽蔑の眼差し。
驚きながら可哀相なものだから目を背ける人々。
隆一郎は歌い続けた。
かすれた青は水色で、レザーのパッチワークがあるフレアパンツ。瑞穂が見立ててくれたヤツだ。
ベロアの上着には土埃がついてしまっている。
さっきからホームで転がってるからだ。
熱海行きに乗るうちに下田に行きたくなって由美にそれを伝えたくて、でも当然由美には由美の都合があって約束の時間までに池袋に行けるように朝から都内にいたのだから、いまさら大船に向かう隆一郎には呆れてしまうなんてのはひどく当たり前な事だ。
で、なぜか涙がにじんでた。
「あたしにもあたしの都合がある」って言葉が少し目を醒まさせる。
頭がすっと醒めて、今日はもう逢えないような気がした。
大船の1番線ホームの端。
俯いて囁くように歌う姿勢から、ふと見上げると由美が傍らにたっていてくれた。
ありがとう。
いつも暖かな目を。
こんなになってても温かいんだね。
僕は最期の日がやってきても、
ずっと大切にするよ。
この日の由美との時間を。
最期まで忘れないでいたい。
由美がこんなに温かにいてくれたことを
☆
由美に先週末会った。
ショッピングモールの外に
作られたテラス。
まだ寒くはなく見上げると
空の色は少しづつ冬になるって教えてくれた。
木の丸いテーブルは最近流行りの泡立ちコーヒーを買ったひとたちが座る為のものだ。
チャイナタウンにある二階建てのカフェも同じコーヒーをだす店だ。
あの時、話した隣のテーブルの女の人には二度と会う機会はなかった。
はじめてそこで出会った僕に答えてくれた。
キツネにつままれたように
驚きながらも僕と話してくれた。
その話をすると、呆れつつも、由美は「隆一郎が愛を携え持った表情だからね。あなたは否定される事をおそれずにいられればとても穏やかな優しい表情になるんだもの。だから戸惑いながらも話に付き合ってくれたんじゃない?」
隆一郎は思い出す。
僕はスケッチブックに絵を書いているんだ。
あなたはなんで英語の本を読んでいるの?
そんな事を聞いた会話だった。?
チャイナタウン以外にも、横浜公園のとこの店でも似たような事があった。
朝一番で列を作る日雇いのひとたちが黒い人だかりになるのを横目にやっぱりスケッチしていた日だった。
まあ、思い出せば、隆一郎はその土地との間にはまだ隔たりがあるような、それとも一生わかり逢えないような異質な存在だった。
☆
「次の土曜にプラネタリウムに行こう。
そこで隆一郎が最近ずっと言い続けている偽物の空を今度こそ見ましょうよ。
そしてその時に、壊されかけたあたしの一番大切なものを見せてあげるから」
実際にはこういう話ではなかったのかもしれない。
今はもう思い出せない話だ。
いつも結末は思いもよらないものだ
2年前、由美は沖縄を目指した旅をした。
借り物の逃避行。
だって由美には逃げる理由なんてなかったから。
由美があの時守り切った大切なもの。
白い綺麗な生地に包まれたあの女の子の赤ちゃん。
沖縄の果てを目指し、インチキホスト野郎と西へ向かう。
由美はその道中に幾つも幾つも取捨選択を迫られる。
「なんど同じ間違いをするのさ」その言葉が合図だ。
そいつは運転席のドアを幾度もけりつけた。
だからその車はボロボロ、まるでソイツの心そのもの。
大切なモノに愛着の気持ちなんて無い。
だから心もその車もボロボロの寂しい空間で、なにも大切なんかじゃなかったんだ。
結局、なによりも大切な愛娘を守るのに必死だった由美は自分の事はあとになる。奪われたものなんて数え切れない。
気がつけば消せない傷や火傷がいくつかと、数え切れない悲しい記憶が出来ていた。
なぜ、なんだろう?
由美はいくら約束だからといっても、京都から本州の果てまでもの長い旅路を連れ添ったのか?
プラネタリウムに行ったら聞いてみよう。
隆一郎は長い瞑想のように思いふける。
それは怒りが覚めやらぬからだ。
☆
隆一郎にホントの事を全て伝えるんだ。
あの時守りたかったもの、捨てる事が出来なかったもの、
変えられないと諦めていた事、全てを隆一郎に伝えよう。
反対言葉ごっこが終わりを告げていま彼は羽咋の日々を覚えてくれているはずだ。
真実によって彼がまた崩壊しても、あの日々は残ってくれるんじゃないだろうか。
だけど、こんな偽物の星空を仰ぎ見つつ、あたしはあの狂った旅路の思い出の、果たして核心に触れられるのだろうか?
私だってきちんと向き合えた試しが無い。
ただ、毎回出す結論はすべてはあれで良かったのだ。という事。
あの旅についてはそれでいい。
そしてそのままの思いを隆一郎に伝えるんだ。
☆
翌週、池袋サンシャインシティにあるプラネタリウムに行く約束をした。
だけど二人はそこには辿り着けなかった。
隆一郎は池袋に向かうはずが、大船から由美と一緒に列車に乗りたいと思って下りの列車に乗ったからだ。
大船駅前で待てば由美と一緒にいけるからと。
隆一郎は熱海行きの東海道線から由美に連絡してみた。
由美はすでにその時池袋にいた。
一番大切な、壊されないよう守りたかった彼女を抱いて。
☆
忘れないでいたい事。
由美はずっと覚えてくれていた。
ずっと見守ってくれていた。
愛してくれていた。
もちろん、その、愛っていうには定義しきれない思いは隆一郎には理解できないし理解したくないものであった。
あの時代を一緒に過ごしてくれた。
とても長いときを過ぎてしまった今でも瞳を閉じれば完全に思い描く事が出来る。
共に過ごした時間があるって
思い起こせる事ってなんて大切な事なんだろう。
あの、インチキホスト野郎にとって、由美との逃避行は、最期まで大切な時間だったのだろうか?
そうであって欲しい。
そうであればまだ彼を許す事が出来る。
もちろん、もう知りようがないけど。
何度もすれ違ってるように感じた。
結局はラリってる隆一郎だから招いた結末。
思いだせないけど、気がついたら、歌っていた。
大船駅のホームの端っこ。
「自分の世界なら自分の家でやれよな」
「おいおい、何イッちゃってるんだよ。こんなとこで」
たくさんの軽蔑の眼差し。
驚きながら可哀相なものだから目を背ける人々。
隆一郎は歌い続けた。
かすれた青は水色で、レザーのパッチワークがあるフレアパンツ。瑞穂が見立ててくれたヤツだ。
ベロアの上着には土埃がついてしまっている。
さっきからホームで転がってるからだ。
熱海行きに乗るうちに下田に行きたくなって由美にそれを伝えたくて、でも当然由美には由美の都合があって約束の時間までに池袋に行けるように朝から都内にいたのだから、いまさら大船に向かう隆一郎には呆れてしまうなんてのはひどく当たり前な事だ。
で、なぜか涙がにじんでた。
「あたしにもあたしの都合がある」って言葉が少し目を醒まさせる。
頭がすっと醒めて、今日はもう逢えないような気がした。
大船の1番線ホームの端。
俯いて囁くように歌う姿勢から、ふと見上げると由美が傍らにたっていてくれた。
ありがとう。
いつも暖かな目を。
こんなになってても温かいんだね。
僕は最期の日がやってきても、
ずっと大切にするよ。
この日の由美との時間を。
最期まで忘れないでいたい。
由美がこんなに温かにいてくれたことを
☆
由美に先週末会った。
ショッピングモールの外に
作られたテラス。
まだ寒くはなく見上げると
空の色は少しづつ冬になるって教えてくれた。
木の丸いテーブルは最近流行りの泡立ちコーヒーを買ったひとたちが座る為のものだ。
チャイナタウンにある二階建てのカフェも同じコーヒーをだす店だ。
あの時、話した隣のテーブルの女の人には二度と会う機会はなかった。
はじめてそこで出会った僕に答えてくれた。
キツネにつままれたように
驚きながらも僕と話してくれた。
その話をすると、呆れつつも、由美は「隆一郎が愛を携え持った表情だからね。あなたは否定される事をおそれずにいられればとても穏やかな優しい表情になるんだもの。だから戸惑いながらも話に付き合ってくれたんじゃない?」
隆一郎は思い出す。
僕はスケッチブックに絵を書いているんだ。
あなたはなんで英語の本を読んでいるの?
そんな事を聞いた会話だった。?
チャイナタウン以外にも、横浜公園のとこの店でも似たような事があった。
朝一番で列を作る日雇いのひとたちが黒い人だかりになるのを横目にやっぱりスケッチしていた日だった。
まあ、思い出せば、隆一郎はその土地との間にはまだ隔たりがあるような、それとも一生わかり逢えないような異質な存在だった。
☆
「次の土曜にプラネタリウムに行こう。
そこで隆一郎が最近ずっと言い続けている偽物の空を今度こそ見ましょうよ。
そしてその時に、壊されかけたあたしの一番大切なものを見せてあげるから」
実際にはこういう話ではなかったのかもしれない。
今はもう思い出せない話だ。
いつも結末は思いもよらないものだ
2年前、由美は沖縄を目指した旅をした。
借り物の逃避行。
だって由美には逃げる理由なんてなかったから。
由美があの時守り切った大切なもの。
白い綺麗な生地に包まれたあの女の子の赤ちゃん。
沖縄の果てを目指し、インチキホスト野郎と西へ向かう。
由美はその道中に幾つも幾つも取捨選択を迫られる。
「なんど同じ間違いをするのさ」その言葉が合図だ。
そいつは運転席のドアを幾度もけりつけた。
だからその車はボロボロ、まるでソイツの心そのもの。
大切なモノに愛着の気持ちなんて無い。
だから心もその車もボロボロの寂しい空間で、なにも大切なんかじゃなかったんだ。
結局、なによりも大切な愛娘を守るのに必死だった由美は自分の事はあとになる。奪われたものなんて数え切れない。
気がつけば消せない傷や火傷がいくつかと、数え切れない悲しい記憶が出来ていた。
なぜ、なんだろう?
由美はいくら約束だからといっても、京都から本州の果てまでもの長い旅路を連れ添ったのか?
プラネタリウムに行ったら聞いてみよう。
隆一郎は長い瞑想のように思いふける。
それは怒りが覚めやらぬからだ。
☆
隆一郎にホントの事を全て伝えるんだ。
あの時守りたかったもの、捨てる事が出来なかったもの、
変えられないと諦めていた事、全てを隆一郎に伝えよう。
反対言葉ごっこが終わりを告げていま彼は羽咋の日々を覚えてくれているはずだ。
真実によって彼がまた崩壊しても、あの日々は残ってくれるんじゃないだろうか。
だけど、こんな偽物の星空を仰ぎ見つつ、あたしはあの狂った旅路の思い出の、果たして核心に触れられるのだろうか?
私だってきちんと向き合えた試しが無い。
ただ、毎回出す結論はすべてはあれで良かったのだ。という事。
あの旅についてはそれでいい。
そしてそのままの思いを隆一郎に伝えるんだ。
☆
翌週、池袋サンシャインシティにあるプラネタリウムに行く約束をした。
だけど二人はそこには辿り着けなかった。
隆一郎は池袋に向かうはずが、大船から由美と一緒に列車に乗りたいと思って下りの列車に乗ったからだ。
大船駅前で待てば由美と一緒にいけるからと。
隆一郎は熱海行きの東海道線から由美に連絡してみた。
由美はすでにその時池袋にいた。
一番大切な、壊されないよう守りたかった彼女を抱いて。
☆
忘れないでいたい事。
由美はずっと覚えてくれていた。
ずっと見守ってくれていた。
愛してくれていた。
もちろん、その、愛っていうには定義しきれない思いは隆一郎には理解できないし理解したくないものであった。
あの時代を一緒に過ごしてくれた。
とても長いときを過ぎてしまった今でも瞳を閉じれば完全に思い描く事が出来る。
共に過ごした時間があるって
思い起こせる事ってなんて大切な事なんだろう。
あの、インチキホスト野郎にとって、由美との逃避行は、最期まで大切な時間だったのだろうか?
そうであって欲しい。
そうであればまだ彼を許す事が出来る。
もちろん、もう知りようがないけど。
由美へ
おはよう。
何年ぶりだろう。
こうしてメールすると負けてしまったような気がするけど、
負けでいいんだ。
だけど、伝える気持ちに嘘も迷いもなく、理由すら要らなくて
ただ、溢れたのはありがとうって言葉。
笑っちゃう位シンプルなこのフレーズは最強で正しくて正義なんだ。
あなたには、一番揺らいだ時期にゆらゆらと寄ったり離されたりされてさらに揺らいで根本すらも保てなくされてしまった。
傍観と客観をありがとう。
無関心な視線をありがとう。
よくも悪くもかわらない姿勢でいてくれてありがとう。
あなたは僕等を似た者だと言ったけどまるで違ってる。
あの頃、結局その違うとこが助けになったのは間違いない。
悔しいけど、言われた事は正しい事が多かったな
悔しいが、言われた事が蘇り、
なにか新しい衝動を覚える事なんて、いままで他にはなかった。あなたに言われた事の他には。
もちろん、大嫌いだ。
言葉遊びみたいなやり口も
ぎりぎりでかわすような
思わせぶりな態度も
うんざりしたし、悲しいんだよ。
もっとまっすぐな愛が好きなんだ。
あなたの理路整然とした乾いた響きの愛よりも。
愛と対応する行為はつねに同量だなんて。
それは愛じゃないよ
愛されたいだけ
だから、質量を気にしてるんじゃない?
だから悲しいんだよ
でも、互いの出した結論がこんなでも
二人の間におきた出来事に変わりはないし、流れた時間も
記憶にあるのも
変わる事なく、きれいな一枚の絵のようにそこには存在しているよね。
簡単には消せない。
もちろん、壊す事も出来るし、
朽ちて忘れ去ってしまう事も出来る。
悲しいけれども、この10年、
それをどうする事も出来なかった。
ただ、そこに立てかけておいたかのように
手付かずの綺麗なままにしてしまった。
最後まで手も繋いでくれないって?
キスもしないって?
いいじゃないか、見えなくなるまで、手を振ってた。
見えなくなるまで。ずっと。
朝になるまで、抱えた時間に過ぎる事やめてと命じるけど、どうする事にもならない
明け方の大船駅前と
キラキラメイクの大船午前零時
笑っちゃうよね
まるで違ってた。
何年ぶりだろう。
こうしてメールすると負けてしまったような気がするけど、
負けでいいんだ。
だけど、伝える気持ちに嘘も迷いもなく、理由すら要らなくて
ただ、溢れたのはありがとうって言葉。
笑っちゃう位シンプルなこのフレーズは最強で正しくて正義なんだ。
あなたには、一番揺らいだ時期にゆらゆらと寄ったり離されたりされてさらに揺らいで根本すらも保てなくされてしまった。
傍観と客観をありがとう。
無関心な視線をありがとう。
よくも悪くもかわらない姿勢でいてくれてありがとう。
あなたは僕等を似た者だと言ったけどまるで違ってる。
あの頃、結局その違うとこが助けになったのは間違いない。
悔しいけど、言われた事は正しい事が多かったな
悔しいが、言われた事が蘇り、
なにか新しい衝動を覚える事なんて、いままで他にはなかった。あなたに言われた事の他には。
もちろん、大嫌いだ。
言葉遊びみたいなやり口も
ぎりぎりでかわすような
思わせぶりな態度も
うんざりしたし、悲しいんだよ。
もっとまっすぐな愛が好きなんだ。
あなたの理路整然とした乾いた響きの愛よりも。
愛と対応する行為はつねに同量だなんて。
それは愛じゃないよ
愛されたいだけ
だから、質量を気にしてるんじゃない?
だから悲しいんだよ
でも、互いの出した結論がこんなでも
二人の間におきた出来事に変わりはないし、流れた時間も
記憶にあるのも
変わる事なく、きれいな一枚の絵のようにそこには存在しているよね。
簡単には消せない。
もちろん、壊す事も出来るし、
朽ちて忘れ去ってしまう事も出来る。
悲しいけれども、この10年、
それをどうする事も出来なかった。
ただ、そこに立てかけておいたかのように
手付かずの綺麗なままにしてしまった。
最後まで手も繋いでくれないって?
キスもしないって?
いいじゃないか、見えなくなるまで、手を振ってた。
見えなくなるまで。ずっと。
朝になるまで、抱えた時間に過ぎる事やめてと命じるけど、どうする事にもならない
明け方の大船駅前と
キラキラメイクの大船午前零時
笑っちゃうよね
まるで違ってた。
ラッキーなのかアンラッキーなのか
なぜだか、活気づいて
少し口数が増えた由美を眺め、少し愛おしく感じた。
相手にとって
必然の言葉はどれなのか
相手が求めるかどうかでなく、自分が必然の人になりうるか。
さて、由美は状況を口に出して、精一杯落ち着こうとする
「閉店後は閉まるんだね」
「飲食以外でのクルマの止めっ放しはこうやって出れなくなるんだね」
さらに、自分は冷静だからと
言い聞かせるよに隆一郎を慰めようとする
「あ~ぁ、
鎌倉に今夜は足止めかしらね。」
「ねぇ、あそこ。
チェーンの下を走れないかな?
無理よね、金属の鎖だもんね…」
「どうする?朝まで?
どこかいこうか?
あ、でも歩くしかないものね…」
頭に浮かぶ言葉を順番に
なんの躊躇もなくまくし立てる。
頬は少し色づいて
言葉は、矢継ぎ早になって
白い吐息と共にリズミカルに溢れてるよ
瞳は全てに驚いてばかりの 子供みたい。
くるくると、穏やかに丸まってて
見つめれば吸い込まれそうだ。
それはなぜか生き生きと楽しそうな姿。
そしてなんともならないことばっかり言い出しているけど
何とかしようともしている。
「朝までどうしようねぇ・・・
明日はお互い仕事があるし。
どうしたもんかねぇ。」
「どうもすることないよ。朝までこのままでいいよ。
由美が一緒にいてくれたらそれだけでかえってラッキーだよ」
「そっか、ラッキーだって事にして朝まで話をすればいいね。
それなら負けた気がしなくていいね」
そうか、負けたくなかったんだ。なにかに。
そして、冷静に考えれば1番現実的な結末だけど、
月極め契約駐車場も兼ねた場所だったから、
入庫する人がすぐに現れ、そのまま、その方にお願いし、
ゲート開けてもらって出庫させて頂いた。
何にも負けてはいないし、朝までがんばる事もなく、
それこそラッキーだって話してる間に終わってしまった。
「来週、今のクルマの人に御礼しに来なきゃね。隆一郎。」
由美は満足げでもあり、寂しそうでもある。
この時から、いや、最初からだけど、由美はわからない表情をする時があった。
それを深く考えることも無く、来週の会う約束は見事に隆一郎がすっぽかして、
でも、次に二人が会うのはずいぶんと先になるのだった。
少し口数が増えた由美を眺め、少し愛おしく感じた。
相手にとって
必然の言葉はどれなのか
相手が求めるかどうかでなく、自分が必然の人になりうるか。
さて、由美は状況を口に出して、精一杯落ち着こうとする
「閉店後は閉まるんだね」
「飲食以外でのクルマの止めっ放しはこうやって出れなくなるんだね」
さらに、自分は冷静だからと
言い聞かせるよに隆一郎を慰めようとする
「あ~ぁ、
鎌倉に今夜は足止めかしらね。」
「ねぇ、あそこ。
チェーンの下を走れないかな?
無理よね、金属の鎖だもんね…」
「どうする?朝まで?
どこかいこうか?
あ、でも歩くしかないものね…」
頭に浮かぶ言葉を順番に
なんの躊躇もなくまくし立てる。
頬は少し色づいて
言葉は、矢継ぎ早になって
白い吐息と共にリズミカルに溢れてるよ
瞳は全てに驚いてばかりの 子供みたい。
くるくると、穏やかに丸まってて
見つめれば吸い込まれそうだ。
それはなぜか生き生きと楽しそうな姿。
そしてなんともならないことばっかり言い出しているけど
何とかしようともしている。
「朝までどうしようねぇ・・・
明日はお互い仕事があるし。
どうしたもんかねぇ。」
「どうもすることないよ。朝までこのままでいいよ。
由美が一緒にいてくれたらそれだけでかえってラッキーだよ」
「そっか、ラッキーだって事にして朝まで話をすればいいね。
それなら負けた気がしなくていいね」
そうか、負けたくなかったんだ。なにかに。
そして、冷静に考えれば1番現実的な結末だけど、
月極め契約駐車場も兼ねた場所だったから、
入庫する人がすぐに現れ、そのまま、その方にお願いし、
ゲート開けてもらって出庫させて頂いた。
何にも負けてはいないし、朝までがんばる事もなく、
それこそラッキーだって話してる間に終わってしまった。
「来週、今のクルマの人に御礼しに来なきゃね。隆一郎。」
由美は満足げでもあり、寂しそうでもある。
この時から、いや、最初からだけど、由美はわからない表情をする時があった。
それを深く考えることも無く、来週の会う約束は見事に隆一郎がすっぽかして、
でも、次に二人が会うのはずいぶんと先になるのだった。
雨・霧・夜・鎌倉1
あの日、あそこでがんばらなきゃ良かった。
とにかく一日中格好悪い日だったんだから。
がんばらずに由美に頼って
あのまま朝まで一緒に過ごしてたらなにか変わったかもね
そう、思い起こす分には
そうやって綺麗な出来事になってて
まるで水の底にあるようだ。
でも、あの日の翌日、
もう会う事はしないと決めてしまったんだ。
どうしてなんだろう?
だけども結局、
幾度も幾度も二人は
互いの間を行き来するかのように寄り添ってく。
☆
食事を終えて、さあ。
隆一郎はどうしようもない。
金額と財布の中を気にしてて
とても格好悪いお勘定を迎える
それでもなんとかそれを終えて
店の外に出る。
少し霧になってた。
店の出窓越しに淡くオレンジの明かりが湿った霧の夜道を照らす。
雨ばかりの鎌倉も悪くない。
夜はこうして霧になれば美しいじゃないか
それから二人は、
まだ話がしたくていた。
そのまま散歩をしたんだったろうか?
どこかに並んで座ったんだろうか?
海の近くまで歩いて
腰掛けて話してた。
そういう事にしよう。
いくら考えても
今はあの最初の出会いをうまく思い出せなかった。
はじめて出会った二人は
一日をかなり無意味なドライブへ費やして最終的に由比ヶ浜にあるちっちゃなイタリアンを出す店へたどり着いた。
そこは由美の提案により初めて行った店だ。
そこに行くまで大黒埠頭のパーキングへ行ったし川崎辺りを延々と走行したような気もする。
そしてやはり霧に蒸したような雨が降り続けていた。
ワールドポーターズにも行った気がする。
でも由美がどうしても行きたいからと由比ヶ浜へむかったのだ。
まあ、由美は家の近くへ誘導したのかもしれない。
でも、由美は多分あの店には
独りや女友達とは行きたくなくて、不意に思い出して、行きたくなったんだと思う。
せっかくだからメンズと行こう。もう彼とは会わなかったとしても最後になんとなくデートらしい絵面にして終えておこう。
由美の発想はそんなとこだろう。
そうして僕らは夜の、いつの間にか晴れていた鎌倉をふらりとして戻ってくる。
大体2時間くらいだろうか?
そう、向かいにあるDenny'sにて温かいコーヒーを飲んだりしつつなのでけっこう時間は経過していたのだ。
ここで事態は面倒かつ、格好悪い事になっていた。
イタリアンレストランの駐車場の入口にロックチェーンが掛かり、営業終了後は朝まで車を出せないのだ。
隆一郎は身動きとれない。
帰宅出来ないのだ。
笑えないし、面倒だ。
由美はなぜかその日の中
一番活気づいて
テンションが上がってた。
不思議なもんだ。普通なら
逆なのに。
そんな由美だから今もこうして
思い起こしては愛おしく想うのだろう。
とにかく一日中格好悪い日だったんだから。
がんばらずに由美に頼って
あのまま朝まで一緒に過ごしてたらなにか変わったかもね
そう、思い起こす分には
そうやって綺麗な出来事になってて
まるで水の底にあるようだ。
でも、あの日の翌日、
もう会う事はしないと決めてしまったんだ。
どうしてなんだろう?
だけども結局、
幾度も幾度も二人は
互いの間を行き来するかのように寄り添ってく。
☆
食事を終えて、さあ。
隆一郎はどうしようもない。
金額と財布の中を気にしてて
とても格好悪いお勘定を迎える
それでもなんとかそれを終えて
店の外に出る。
少し霧になってた。
店の出窓越しに淡くオレンジの明かりが湿った霧の夜道を照らす。
雨ばかりの鎌倉も悪くない。
夜はこうして霧になれば美しいじゃないか
それから二人は、
まだ話がしたくていた。
そのまま散歩をしたんだったろうか?
どこかに並んで座ったんだろうか?
海の近くまで歩いて
腰掛けて話してた。
そういう事にしよう。
いくら考えても
今はあの最初の出会いをうまく思い出せなかった。
はじめて出会った二人は
一日をかなり無意味なドライブへ費やして最終的に由比ヶ浜にあるちっちゃなイタリアンを出す店へたどり着いた。
そこは由美の提案により初めて行った店だ。
そこに行くまで大黒埠頭のパーキングへ行ったし川崎辺りを延々と走行したような気もする。
そしてやはり霧に蒸したような雨が降り続けていた。
ワールドポーターズにも行った気がする。
でも由美がどうしても行きたいからと由比ヶ浜へむかったのだ。
まあ、由美は家の近くへ誘導したのかもしれない。
でも、由美は多分あの店には
独りや女友達とは行きたくなくて、不意に思い出して、行きたくなったんだと思う。
せっかくだからメンズと行こう。もう彼とは会わなかったとしても最後になんとなくデートらしい絵面にして終えておこう。
由美の発想はそんなとこだろう。
そうして僕らは夜の、いつの間にか晴れていた鎌倉をふらりとして戻ってくる。
大体2時間くらいだろうか?
そう、向かいにあるDenny'sにて温かいコーヒーを飲んだりしつつなのでけっこう時間は経過していたのだ。
ここで事態は面倒かつ、格好悪い事になっていた。
イタリアンレストランの駐車場の入口にロックチェーンが掛かり、営業終了後は朝まで車を出せないのだ。
隆一郎は身動きとれない。
帰宅出来ないのだ。
笑えないし、面倒だ。
由美はなぜかその日の中
一番活気づいて
テンションが上がってた。
不思議なもんだ。普通なら
逆なのに。
そんな由美だから今もこうして
思い起こしては愛おしく想うのだろう。
それだけをずっと覚えていられたら十分だ。
花が綺麗だった。
その一言に尽きた。
それ以上なにを言えるってんだ
その有料道路は半島へ
いつの間にか差し掛かる
まるで空中散歩みたいに
アップダウンして、
くるくると廻って
尾根の高い地点を滑ってく。
どうやって
たどり着いたかしらない
何処へ帰ったかしらない
春の桜
夜がもっといいね
海辺
海沿い
パーキングエリア
朝方
風
潮とともに
他は全て錆びはてた。
花が綺麗だったんだ。
それしか言いたくない。
それだけをずっと
覚えていられたら十分だ。
隆一郎とのただ一度の旅
すれ違う心の旅路はもうずっと歩み続けてるけれど
リアルな旅路はあの春の伊豆だけだよ。
☆
由美は隆一郎の足跡をたどり
ようやくその病院にいる事をしった。
結局、やっぱりなというべきだろうか
「周り廻って帰ったか。
ここに」
にんまりしたくなる由美。
だって東京でも横浜でなく、
故郷の羽咋だったから。
尋ねてくのは怖かったけれど
とことんまで向き合う約束に嘘はなかったつもりだから、
逃げずに迎えに行こうと思った。
最初の二回は面会出来なかった。
自傷他傷の恐れがあるとの事で通常病室でないらしかった。
三度目の時は彼は人じゃないもののように沈静されていた。
言葉も動きもなく
ロッキンチェアーだけ
ゆらゆら。
この頃に春になった。
四度目以降は
いたって正常に見えたが
毎回やり取りを忘れて
記憶もさらさらの小川のように
流れきゆるような隆一郎だった。
ただ、毎回必ず同じ歌を歌っていた
「僕たちはメンソールの煙りで結ばれてる…
それ以外、人々に何を誇れるのでしょう?」
またこれか。
桜木町でも大船駅でも歌ってた
あの曲だ。
今思えばそうだったはず。
大船の時なんて
愛らしいキラキラの
フルメイクだったんだから
この歌は許せる。
この歌くらいはいいかなって。
ラメだらけの顔で真剣そのもので歌う。
由美だけがすでに知っていて
世界すらまだそれを知らない。
だって隆一郎が横浜で歌うのは
一年後だから。
そして、この数週間後に、
隆一郎は退院する。
由美はもう訪れはしなかったけれど。
その一言に尽きた。
それ以上なにを言えるってんだ
その有料道路は半島へ
いつの間にか差し掛かる
まるで空中散歩みたいに
アップダウンして、
くるくると廻って
尾根の高い地点を滑ってく。
どうやって
たどり着いたかしらない
何処へ帰ったかしらない
春の桜
夜がもっといいね
海辺
海沿い
パーキングエリア
朝方
風
潮とともに
他は全て錆びはてた。
花が綺麗だったんだ。
それしか言いたくない。
それだけをずっと
覚えていられたら十分だ。
隆一郎とのただ一度の旅
すれ違う心の旅路はもうずっと歩み続けてるけれど
リアルな旅路はあの春の伊豆だけだよ。
☆
由美は隆一郎の足跡をたどり
ようやくその病院にいる事をしった。
結局、やっぱりなというべきだろうか
「周り廻って帰ったか。
ここに」
にんまりしたくなる由美。
だって東京でも横浜でなく、
故郷の羽咋だったから。
尋ねてくのは怖かったけれど
とことんまで向き合う約束に嘘はなかったつもりだから、
逃げずに迎えに行こうと思った。
最初の二回は面会出来なかった。
自傷他傷の恐れがあるとの事で通常病室でないらしかった。
三度目の時は彼は人じゃないもののように沈静されていた。
言葉も動きもなく
ロッキンチェアーだけ
ゆらゆら。
この頃に春になった。
四度目以降は
いたって正常に見えたが
毎回やり取りを忘れて
記憶もさらさらの小川のように
流れきゆるような隆一郎だった。
ただ、毎回必ず同じ歌を歌っていた
「僕たちはメンソールの煙りで結ばれてる…
それ以外、人々に何を誇れるのでしょう?」
またこれか。
桜木町でも大船駅でも歌ってた
あの曲だ。
今思えばそうだったはず。
大船の時なんて
愛らしいキラキラの
フルメイクだったんだから
この歌は許せる。
この歌くらいはいいかなって。
ラメだらけの顔で真剣そのもので歌う。
由美だけがすでに知っていて
世界すらまだそれを知らない。
だって隆一郎が横浜で歌うのは
一年後だから。
そして、この数週間後に、
隆一郎は退院する。
由美はもう訪れはしなかったけれど。
待つことが永遠に終わるとき
やっぱりまた雨なんだ。
幾度目かの北鎌倉駅。
必ず由美は遅刻する。
自分が待つのだけは徹底的に
避けている。
待つ気持ちは、由美の性格からすると、
きっと嫌じゃないはずだ。
多分待つ時間を楽しんでいたのに、
待つ理由を唐突に奪われ、
突然に突き付けられた
永遠の別れの出来事を思い出してしまうのだろう。
多分、待ち合わせ場所に向かって誰もいなくて、
もう、その瞬間に駄目なんだろうな。
だから、由美との約束はなにがあろうと30分前に行く。
由美が万が一、早く来て
悲しい気持ちにならないように
でも、そんな話いつ聞いたんだろう?
隆一郎には思い当たる節がない。
ずっと前に
幾度も散々に待たせたから
言われたんじゃないだろうか?
まだ、数回しか待ち合わせしてない事に不意に気がつく。
しかも、遅れてないし。
だって遅れてしまい、由美が先になったら悲しませるから。
隆一郎は記憶の矛盾に気がつく。
そして、ああ、そうか由美じゃない名前も忘れた誰かの事なんだろう?って。
投げやりでひどく思いやりにかける。
自分の事、守りすぎなんじゃないだろうか?
隆一郎の悪い部分であり、
彼の知らない部分での自己防衛機能だ。
なぜなら、本当の事に彼が気がついたら、
悲しみや後悔で何もかもが崩れてしまう程の出来事が
二人の間にはあったんだから。
幾度目かの北鎌倉駅。
必ず由美は遅刻する。
自分が待つのだけは徹底的に
避けている。
待つ気持ちは、由美の性格からすると、
きっと嫌じゃないはずだ。
多分待つ時間を楽しんでいたのに、
待つ理由を唐突に奪われ、
突然に突き付けられた
永遠の別れの出来事を思い出してしまうのだろう。
多分、待ち合わせ場所に向かって誰もいなくて、
もう、その瞬間に駄目なんだろうな。
だから、由美との約束はなにがあろうと30分前に行く。
由美が万が一、早く来て
悲しい気持ちにならないように
でも、そんな話いつ聞いたんだろう?
隆一郎には思い当たる節がない。
ずっと前に
幾度も散々に待たせたから
言われたんじゃないだろうか?
まだ、数回しか待ち合わせしてない事に不意に気がつく。
しかも、遅れてないし。
だって遅れてしまい、由美が先になったら悲しませるから。
隆一郎は記憶の矛盾に気がつく。
そして、ああ、そうか由美じゃない名前も忘れた誰かの事なんだろう?って。
投げやりでひどく思いやりにかける。
自分の事、守りすぎなんじゃないだろうか?
隆一郎の悪い部分であり、
彼の知らない部分での自己防衛機能だ。
なぜなら、本当の事に彼が気がついたら、
悲しみや後悔で何もかもが崩れてしまう程の出来事が
二人の間にはあったんだから。
明け方、嘘はまだ言い続ける
☆
いつからか、
頭の中から追いやって
無かったものとしようとしていた。
その時間も、
その時を
一緒に過ごした人達も、
初めから無かったんだと。
そうやって
大切にしてきたものと
幾度も訣別してきたような、
いや、
本当に別れをつげたものは
唯一ひとつなのかもしれないね。
☆
夢をみてた。
灰色の日に
カフェの屋外のテラス席
その日、
演者たちはJazz奏者で
サキソホンの彼と目があった。
奏者はみな、黒人であった。
その時、妊婦の彼女がきて、
僕の脇を通り過ぎて店の中へ。
十数年の空白の中で
僕の思い達は溢れて、
言葉に変換しようがなく、
彼女には何も言えなかった。
その瞬間、
無音になってた僕の耳元へ
急速に音達が通り過ぎていき、
何も
何一つも、
言い出せ無かった事に気がついた。
そこで夢はいつも醒めるんだ。
目が覚めても、まだ夢を見ているようだった。
由美が、由美がそこにいたからだった。
夏は夜が甘くもなく、
重苦しくもなく
闇が思うより軽く、
だからなのか、
人々はまだ通りを
行き交ってて
昼間のようだった。
ヘッドライトが交錯して
今さっき君の顔が、
見えたり見えなかったり。
先週、花火の帰りにみつけ、
とらえてしまった蛍は3時間で
消えてしまった。
やはり人の手で触れたら、
壊れてしまうものばかりなんだ
―――だから、
由美の昔の彼は
壊し続けたのだろうか?―――
壊れやすいモノを
無防備に守ろうとする彼女がまた見えた。
波の音がした。
少しひんやりしたろうか。
わずかに目をあけてみたら、
海に続く空の
ずっと上のほうが、
青く明るかった。
明け方の車中、
とうに忘れた感情でいま、
あれから7年も過ぎてまた
君の側に
こうして言葉探しても
なにか足りないまま
目を覚ました君に言えたのは
くだらない愛と憎しみの発言だ。
「あの時の赤ちゃん、
きっとかわいい男の子だよ。
ちゃんと生まれてたらの話だけど。」
冷ややかに、少し考えて答える由美。
「ブランキーは好きじゃないっつうの」
くだらないやり取りだった。
傷つけてやりたかった。
触れられないほど悲しいって、
何年も過ぎていくのはもういやだ。
「もうどっちでもいいんだ。
だって、いくら考えても答えはでないもの。
でも、
隆一郎のそういう
攻撃的過ぎる気遣いは嫌いでもない。
だから、ありがとう。
あれだけの時間が過ぎてしまって、
時々言葉にしてあげないと
もう消えて
無くなってしまいそうな程だもの」
そう言って後は、黙っていた。
「男の子で正解なんだよ。」
由美は心の中で言う。
隆一郎はいまだにあの話を曲解したまま。
あの嘘が堪らないほど。
いつからか、
頭の中から追いやって
無かったものとしようとしていた。
その時間も、
その時を
一緒に過ごした人達も、
初めから無かったんだと。
そうやって
大切にしてきたものと
幾度も訣別してきたような、
いや、
本当に別れをつげたものは
唯一ひとつなのかもしれないね。
☆
夢をみてた。
灰色の日に
カフェの屋外のテラス席
その日、
演者たちはJazz奏者で
サキソホンの彼と目があった。
奏者はみな、黒人であった。
その時、妊婦の彼女がきて、
僕の脇を通り過ぎて店の中へ。
十数年の空白の中で
僕の思い達は溢れて、
言葉に変換しようがなく、
彼女には何も言えなかった。
その瞬間、
無音になってた僕の耳元へ
急速に音達が通り過ぎていき、
何も
何一つも、
言い出せ無かった事に気がついた。
そこで夢はいつも醒めるんだ。
目が覚めても、まだ夢を見ているようだった。
由美が、由美がそこにいたからだった。
夏は夜が甘くもなく、
重苦しくもなく
闇が思うより軽く、
だからなのか、
人々はまだ通りを
行き交ってて
昼間のようだった。
ヘッドライトが交錯して
今さっき君の顔が、
見えたり見えなかったり。
先週、花火の帰りにみつけ、
とらえてしまった蛍は3時間で
消えてしまった。
やはり人の手で触れたら、
壊れてしまうものばかりなんだ
―――だから、
由美の昔の彼は
壊し続けたのだろうか?―――
壊れやすいモノを
無防備に守ろうとする彼女がまた見えた。
波の音がした。
少しひんやりしたろうか。
わずかに目をあけてみたら、
海に続く空の
ずっと上のほうが、
青く明るかった。
明け方の車中、
とうに忘れた感情でいま、
あれから7年も過ぎてまた
君の側に
こうして言葉探しても
なにか足りないまま
目を覚ました君に言えたのは
くだらない愛と憎しみの発言だ。
「あの時の赤ちゃん、
きっとかわいい男の子だよ。
ちゃんと生まれてたらの話だけど。」
冷ややかに、少し考えて答える由美。
「ブランキーは好きじゃないっつうの」
くだらないやり取りだった。
傷つけてやりたかった。
触れられないほど悲しいって、
何年も過ぎていくのはもういやだ。
「もうどっちでもいいんだ。
だって、いくら考えても答えはでないもの。
でも、
隆一郎のそういう
攻撃的過ぎる気遣いは嫌いでもない。
だから、ありがとう。
あれだけの時間が過ぎてしまって、
時々言葉にしてあげないと
もう消えて
無くなってしまいそうな程だもの」
そう言って後は、黙っていた。
「男の子で正解なんだよ。」
由美は心の中で言う。
隆一郎はいまだにあの話を曲解したまま。
あの嘘が堪らないほど。
D・M・Z
☆
無駄ばかり。
2行で終わりそうな雑念ばっか。
愛と憎しみは同量
疑念も信頼もまったく意味がない。
ようするに信仰が必要なんだ。
良い習慣であれ、
悪癖であれ、
習慣じゃ駄目なんだ。
一つ一つの行動に対して
“行う”という意識をもって
行動しなければ存在すら危うい。
☆
隆一郎は羽咋市の病院の記憶がない。
それは秋の始まりのことか
早く過ぎてほしいほどの暑い夏の終わりなのか
由美は度々来てくれたと言うが
覚えていないのだった。
なんて恩知らずな自分なのだろうか
由美との事をちゃんと思いにとめておきたくて
由美が話してくれた昨日の話を思い起こしていた。
由美は沖縄の果てに行く途中に
当時の彼に大切なものを
幾度も幾度も壊されてしまったそうだ。
だから、西日本を散々縦走し、たどり着いた波止場で、
彼と約束通り別れた。
だから、結局は沖縄へは渡ってはいないのだ。
大切なものを壊された。
それは大切な信念の事だから、
文字通りに傷つけられていた訳じゃないんだが、
その時の隆一郎には
壊された大切なモノ達をかがんで拾い集める由美の姿が見えた。
「唯一、それだけは壊さないで。」
残留思念のようなに
声じゃない声が、今にも届きそうな瞳で
ボロボロの姿の中でそれだけは
白い布に包まれた唯一の汚れのない場所を守らないければと。
由美の話はいつでも抽象的だった。
いや、隆一郎自身の解釈が抽象化しているのか
ただ、いつもひとつの絵画のように
言葉、ひとつひとつが過ぎていく中で
シルエットを象っているようだ。
無駄ばかり。
2行で終わりそうな雑念ばっか。
愛と憎しみは同量
疑念も信頼もまったく意味がない。
ようするに信仰が必要なんだ。
良い習慣であれ、
悪癖であれ、
習慣じゃ駄目なんだ。
一つ一つの行動に対して
“行う”という意識をもって
行動しなければ存在すら危うい。
☆
隆一郎は羽咋市の病院の記憶がない。
それは秋の始まりのことか
早く過ぎてほしいほどの暑い夏の終わりなのか
由美は度々来てくれたと言うが
覚えていないのだった。
なんて恩知らずな自分なのだろうか
由美との事をちゃんと思いにとめておきたくて
由美が話してくれた昨日の話を思い起こしていた。
由美は沖縄の果てに行く途中に
当時の彼に大切なものを
幾度も幾度も壊されてしまったそうだ。
だから、西日本を散々縦走し、たどり着いた波止場で、
彼と約束通り別れた。
だから、結局は沖縄へは渡ってはいないのだ。
大切なものを壊された。
それは大切な信念の事だから、
文字通りに傷つけられていた訳じゃないんだが、
その時の隆一郎には
壊された大切なモノ達をかがんで拾い集める由美の姿が見えた。
「唯一、それだけは壊さないで。」
残留思念のようなに
声じゃない声が、今にも届きそうな瞳で
ボロボロの姿の中でそれだけは
白い布に包まれた唯一の汚れのない場所を守らないければと。
由美の話はいつでも抽象的だった。
いや、隆一郎自身の解釈が抽象化しているのか
ただ、いつもひとつの絵画のように
言葉、ひとつひとつが過ぎていく中で
シルエットを象っているようだ。
