それだけをずっと覚えていられたら十分だ。
花が綺麗だった。
その一言に尽きた。
それ以上なにを言えるってんだ
その有料道路は半島へ
いつの間にか差し掛かる
まるで空中散歩みたいに
アップダウンして、
くるくると廻って
尾根の高い地点を滑ってく。
どうやって
たどり着いたかしらない
何処へ帰ったかしらない
春の桜
夜がもっといいね
海辺
海沿い
パーキングエリア
朝方
風
潮とともに
他は全て錆びはてた。
花が綺麗だったんだ。
それしか言いたくない。
それだけをずっと
覚えていられたら十分だ。
隆一郎とのただ一度の旅
すれ違う心の旅路はもうずっと歩み続けてるけれど
リアルな旅路はあの春の伊豆だけだよ。
☆
由美は隆一郎の足跡をたどり
ようやくその病院にいる事をしった。
結局、やっぱりなというべきだろうか
「周り廻って帰ったか。
ここに」
にんまりしたくなる由美。
だって東京でも横浜でなく、
故郷の羽咋だったから。
尋ねてくのは怖かったけれど
とことんまで向き合う約束に嘘はなかったつもりだから、
逃げずに迎えに行こうと思った。
最初の二回は面会出来なかった。
自傷他傷の恐れがあるとの事で通常病室でないらしかった。
三度目の時は彼は人じゃないもののように沈静されていた。
言葉も動きもなく
ロッキンチェアーだけ
ゆらゆら。
この頃に春になった。
四度目以降は
いたって正常に見えたが
毎回やり取りを忘れて
記憶もさらさらの小川のように
流れきゆるような隆一郎だった。
ただ、毎回必ず同じ歌を歌っていた
「僕たちはメンソールの煙りで結ばれてる…
それ以外、人々に何を誇れるのでしょう?」
またこれか。
桜木町でも大船駅でも歌ってた
あの曲だ。
今思えばそうだったはず。
大船の時なんて
愛らしいキラキラの
フルメイクだったんだから
この歌は許せる。
この歌くらいはいいかなって。
ラメだらけの顔で真剣そのもので歌う。
由美だけがすでに知っていて
世界すらまだそれを知らない。
だって隆一郎が横浜で歌うのは
一年後だから。
そして、この数週間後に、
隆一郎は退院する。
由美はもう訪れはしなかったけれど。
その一言に尽きた。
それ以上なにを言えるってんだ
その有料道路は半島へ
いつの間にか差し掛かる
まるで空中散歩みたいに
アップダウンして、
くるくると廻って
尾根の高い地点を滑ってく。
どうやって
たどり着いたかしらない
何処へ帰ったかしらない
春の桜
夜がもっといいね
海辺
海沿い
パーキングエリア
朝方
風
潮とともに
他は全て錆びはてた。
花が綺麗だったんだ。
それしか言いたくない。
それだけをずっと
覚えていられたら十分だ。
隆一郎とのただ一度の旅
すれ違う心の旅路はもうずっと歩み続けてるけれど
リアルな旅路はあの春の伊豆だけだよ。
☆
由美は隆一郎の足跡をたどり
ようやくその病院にいる事をしった。
結局、やっぱりなというべきだろうか
「周り廻って帰ったか。
ここに」
にんまりしたくなる由美。
だって東京でも横浜でなく、
故郷の羽咋だったから。
尋ねてくのは怖かったけれど
とことんまで向き合う約束に嘘はなかったつもりだから、
逃げずに迎えに行こうと思った。
最初の二回は面会出来なかった。
自傷他傷の恐れがあるとの事で通常病室でないらしかった。
三度目の時は彼は人じゃないもののように沈静されていた。
言葉も動きもなく
ロッキンチェアーだけ
ゆらゆら。
この頃に春になった。
四度目以降は
いたって正常に見えたが
毎回やり取りを忘れて
記憶もさらさらの小川のように
流れきゆるような隆一郎だった。
ただ、毎回必ず同じ歌を歌っていた
「僕たちはメンソールの煙りで結ばれてる…
それ以外、人々に何を誇れるのでしょう?」
またこれか。
桜木町でも大船駅でも歌ってた
あの曲だ。
今思えばそうだったはず。
大船の時なんて
愛らしいキラキラの
フルメイクだったんだから
この歌は許せる。
この歌くらいはいいかなって。
ラメだらけの顔で真剣そのもので歌う。
由美だけがすでに知っていて
世界すらまだそれを知らない。
だって隆一郎が横浜で歌うのは
一年後だから。
そして、この数週間後に、
隆一郎は退院する。
由美はもう訪れはしなかったけれど。